最前線での交渉は、どれだけイカれてるか? の張り合い
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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パアンッ!
乾いた破裂音と同時に、外からの光が差し込むだけの暗い部屋の一部が弾ける。
動揺する兵士たちが、発砲した敵を探す。
その時に、可愛らしい声が響く。
「ウチらに銃口を向けて、タダで済むと思わんでなー!」
両手でリボルバーを構えている、ベティ・フォン・トロッケルだ。
やはり寝巻のまま、軍靴だけ履いている。
護身用で、ベッドの傍に銃を置いていたらしい。
けれど、兵士の分隊を指揮している士官は強気だ。
「親衛隊の威光を笠に着やがって……。どうせ、俺たちに後はない! 構えろ!」
「やめてください!」
この間にリボルバーを手にしたイヴリン・リュトヴィッツが、銃口を向けつつの制止。
けれど、追い詰められた兵士は、止まらない。
目の前にいる聖女リナとやらを殺せば、あの親衛隊ですら恐れる、水の精霊ウンディーネを無力化できるのだ。
短めのマスケット銃がいくつも向けられ、正面から向き合っている女2人のリボルバーによる返答。
外で続く、サイレンの音。
爆発、硬いものが壊れる音も響いており、この基地が襲撃されていることを示す。
今は膠着しているが、じきに兵士の1人がトリガーを引くか、士官が発砲を命じるだろう。
どちらにせよ、一斉射撃へ。
リボルバー二丁では、太刀打ちできず。
(そうなったら、助からない……)
シャーロットは、自分に抱きついているリナを庇うように、両手を背中に回した。
安心させようと、声をかける――
「ティル……。助けて、ティル……」
小さく震えながら、その名前を呼ぶリナ。
(あっ……)
シャーロットは、親友の本音を知って、呆然とした。
単に、前の圧倒的な強さにすがっているだけ?
しかし、そのティルに夜這いして断われたシャーロットは、ひょっとしたら自分よりもリナのほうが良かったのでは? と思えてならない。
後になれば、その感情が嫉妬だと分かるだろう。
生き延びられれば……。
外のサイレンと破壊音に促され、自身もリボルバーを抜いた士官が、いよいよ命令を下す。
「構わん! 撃て――」
前に向けられていたマスケット銃が、一斉に下がる。
「どうした!? ぐっ!」
士官も、リボルバーを持っているほうの腕が一気に下がる。
「なん……だぁ?」
ジャリ ジャリ ジャリ
軽い足音が、蹴り破られた入口から近づく。
可愛らしい声も。
「面倒だなー! ティルは、殺すなって……」
外からの明かりで、青紫の瞳と、ざっくりしたボブの茶髪が分かる。
敵の兵士だと思っていた士官は、気力を取り戻す。
「子供? 先にそちらを――」
「自己紹介をしておくね! 僕の名前は、フランソワーズ! 聞いたことがあるかもしれないけど、水の精霊ウンディーネだよぉ?」
今にも同士討ちが始まりそうな部屋は、まさに凍りついた。
童顔で低身長の可愛い女の子だが、その口元で描かれた半月は、命を刈り取る鎌のようだ。
何よりも、暗い部屋ですら、分かってしまう。
その瞳に、自分たちの命を何とも思っていないことを……。
むふーっと、悪戯っぽい笑顔になったフランソワーズが、説明する。
「そっちのマスケット銃を持っているほうだけど……。銃があるほうの腕をまとめて重くしたから!」
緊張している士官は、それでも強がる。
「ハ、ハッタリだ!」
「暗くて、見えない? 水のブロックで、重りにしているんだ!」
言われた士官と兵士が、重すぎる自分の腕を見る。
次に、恐怖に染まった顔で、フランソワーズのほうを向いた。
「せ、聖女を殺せば、貴様なんぞ……」
キョトンとしたフランソワーズは、彼らの視線の先にいるリナを見た。
「何を言っているの?」
「聖女リナを殺せば、貴様らは無力になる! 投降するなら、今のうちだぞ!?」
理解に苦しむ、という表情で、首を振るフランソワーズ。
「どこから、そんな話が? 本当に?」
「……親衛隊だ!」
士官の叫びに、フランソワーズは笑顔で首をかしげる。
「本当に? 信用できるの、その人たち?」
あまりに、無邪気。
駆け引きではない。
そう言われると、士官も戸惑う。
「う、嘘を言うはずが……」
「じゃ、試してみなよ?」
パンッと破裂音が響き、水の塊が霧散した。
士官の片腕だけ、自由に。
「その拳銃には水を入れていないから、まだ撃てるよ?」
フランソワーズに言われ、士官はワンハンドの構え。
銃口の先にいるのは、リナだ。
「ただし! それを撃ったら、もう降伏を認めない! この基地にいる全員を溺れさせるか、体内の水分を外側へ破裂させて殺すから」
ビクッ!
今の反射で暴発しなかったのは、さすが士官と言うべき。
「水の精霊だからね? それとも、僕を撃ってみる?」
あくびをしているフランソワーズを見た士官は、全身から冷や汗。
殺せる可能性がまだありそうなリナに、狙いを定めるも……。
どうしても、トリガーを引けない。
片腕を動かせないままの兵士で、誰かが呟く。
「た、隊長……」
ハッタリだろう。
しかし、本当に聖女リナを殺して、こいつを無力化できるのか?
葛藤している本人の時間は体感で長く、このまま夜明けになるかと思われた。
けれど、タイムリミットが訪れる。
大音量の放送が、基地中に流れたのだ。
『フィラブー守備隊の司令だ! 我々は降伏する!! 繰り返す、司令として抵抗をやめるように命じる!』
大義名分を得た士官は、内心でホッとしながら、銃口を下ろした。
「……投降する」
「賢明な判断だね!」
笑顔のフランソワーズが、その場を締めくくった。
過去作は、こちらです!
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