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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第一章 追放というか勘当された
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「俺、除籍されるから!」と言いに行く気まずさ

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 マジックソード学院で、邪神のように扱われる俺。


 不合格になった追試を担当した試験官のおかげで、聞こえよがしに嫌みを言う奴もいない。


 いたらいたで、5階ぐらいの差があっても駆け付け、そのまま男女関係なく全力のパンチを頭に打ち込むが……。


 俺の友達は、自分の拳だけ。


 殺気立ち、目が据わっている俺に、食堂のおばちゃんはいつもより大盛にしてくれて、向かった先のテーブルにいる奴らは謝りながら逃げていく。


 学院で札付きの不良も、俺と目が合ったら、泣きながら謝っていた。


 金がない騎士爵の息子とあって、学生寮にある私物は限られている。


 高位貴族や成金は、召使いを控えさせつつも、特注の家具やらを運び込んでいるが……。


 ともあれ、俺は1日も経たずに、ここを立ち去る準備を終えた。


 だが、それはいい。


 今は、どうでもいいんだ……。


 殺風景な自室で、備え付けの学習デスクに向かいつつ、独り言。


「親父に、何て言おう?」


 それよ!


 わざわざ手紙で最終勧告をしてきた、親父。


 間違いなく、勘当される。


「くそっ! 騎士爵になれなかったら……」


 口にしながらも、ふと思う。


「あれ? 田舎の騎士爵って、そんなにいい立場だっけ?」


 他国と戦争になっても攻められないであろう、辺鄙な土地にある小さな村。


 年功序列で気を遣い、上の貴族にも太鼓持ち。


 それでいて、役得と呼べるものはない。


「……ちょうど良かった?」


 どうせ、地元の村娘の誰かと政略結婚だ。


 ロリならいいほうで、下手をすれば、二回りは違う未亡人とかに。


 粗末な椅子で後ろにもたれつつ、天井を見た。


「除籍された後は、日銭を稼ぎながら旅するかな?」


 そう考えたら、せいせいする。


 とはいえ、最低限の義理を果たさなければいけない。


「親父に説明することが、最後の親孝行か!」


 学院に関する費用や生活費について、礼を言うべきだ。


 費やした分を返せ、と言われた場合は、親父の態度による。


「勘当はともかく、集金した後に放り出すのは都合が良すぎるからな……」


 あの脳筋に腹芸ができるとは、思えない。


 村で働きながら返すことは不可能で、どっちみち、出稼ぎだ。


 同調圧力なんぞ、あの村の中でしか通用しない。


「俺が納得した場合にのみ、できる範囲で返済しよう」


 家族と故郷がなくなれば、必然的に義務もなくなる。


 どうするのかは、俺の意志で決めること。


「実際に会う前に、相談しておくか!」



 いつも通りに会った、マリカ・フォン・ミシャール。


 こいつだけ、態度を変えない。


 追試の前日に訓練していた場所で、話し合う。


 俺の意見を黙って聞いたマリカは、頷いた。


「いいんじゃない? どうせ勘当されるし、あなたが決めればいい」


 村へ行って、親父と直接話すことで、肯定的だった。


 座り直したマリカが、思わぬ発言をする。


「1人だと言いにくいだろうから、私も同行する! 学院には、休暇を申請済み」

「はあっ!? 実家に報告されるぞ?」


 チッチッと指を振ったマリカが、笑顔で説明する。


「大丈夫よ! お父様は、私に甘いから!」


 それ、男と一緒に旅することを含めているよな?


 心の中でツッコミを入れるも、こいつは一度言い出したら引かない。


「別に、いいけどさ?」

「……ところで、旅費はあるの?」


 あっ!


 よく考えたら、故郷の村までの旅費がない。


 仕事がある大きな街へ戻ることを考えたら、往復分だ。


 冷や汗を流す俺に、笑顔のマリカが首をかしげる。


「心配しないで? 私が出してあげるから……」


「そ、そうか! あとで返すよ」


 俺の顔を見たままのマリカが、スーッと、頭を戻した。


「私、ずっと飼いたかったペットがいるの!」

「突然、何だ?」


 驚いている俺に、目を細めたマリカが話を続ける。


「もうすぐ、飼えそうだから……」


 お小遣いを溜めていたのか、入手が難しいのか。


 不思議に思っていると、俺をジーッと見ているマリカが呟く。


「うん、もうすぐ……」


 怖くなってきた俺に対して、普段の態度に戻ったマリカが尋ねる。


「そういえば、あなたのお父様には?」


「学院から早馬を出したって! 追試の面接官に聞かれたけど、先に知らせたほうがいいだろ?」


 マリカは自分の指で長い髪のはしを触りつつ、首肯した。


「そうね! となれば、村へ行ったら囲まれる?」


「ありそうだ……。行きたくねえ!」


 腕を組んだマリカが、忠告する。


「すぐに言わないと(こじ)れるし、あなたの中でもケジメをつけられないわよ? 変に美化したあとで罵倒されれば、ムダにダメージが大きいし」


「それな? 分かったよ!」



 マジックソード学院の会議で、俺の除籍が決まった。


 これにより、俺は名実ともに無関係。


 見送りに来てくれた、追試の試験官が言う。


「君が二番目に戦ったフィルス君ですが、もう会えないことで落ち込んでいます! ガイアルドーニ君も、何だかんだで君を認めていますから! 君が思っているほど、生徒たちに嫌われていなかったと思いますよ?」


「はい、お世話になりました……」


 頭を下げた俺は、旅装束のままで正門を通った。


 会釈したマリカと共に、故郷の村へ続く道を進んでいく。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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