「俺、除籍されるから!」と言いに行く気まずさ
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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マジックソード学院で、邪神のように扱われる俺。
不合格になった追試を担当した試験官のおかげで、聞こえよがしに嫌みを言う奴もいない。
いたらいたで、5階ぐらいの差があっても駆け付け、そのまま男女関係なく全力のパンチを頭に打ち込むが……。
俺の友達は、自分の拳だけ。
殺気立ち、目が据わっている俺に、食堂のおばちゃんはいつもより大盛にしてくれて、向かった先のテーブルにいる奴らは謝りながら逃げていく。
学院で札付きの不良も、俺と目が合ったら、泣きながら謝っていた。
金がない騎士爵の息子とあって、学生寮にある私物は限られている。
高位貴族や成金は、召使いを控えさせつつも、特注の家具やらを運び込んでいるが……。
ともあれ、俺は1日も経たずに、ここを立ち去る準備を終えた。
だが、それはいい。
今は、どうでもいいんだ……。
殺風景な自室で、備え付けの学習デスクに向かいつつ、独り言。
「親父に、何て言おう?」
それよ!
わざわざ手紙で最終勧告をしてきた、親父。
間違いなく、勘当される。
「くそっ! 騎士爵になれなかったら……」
口にしながらも、ふと思う。
「あれ? 田舎の騎士爵って、そんなにいい立場だっけ?」
他国と戦争になっても攻められないであろう、辺鄙な土地にある小さな村。
年功序列で気を遣い、上の貴族にも太鼓持ち。
それでいて、役得と呼べるものはない。
「……ちょうど良かった?」
どうせ、地元の村娘の誰かと政略結婚だ。
ロリならいいほうで、下手をすれば、二回りは違う未亡人とかに。
粗末な椅子で後ろにもたれつつ、天井を見た。
「除籍された後は、日銭を稼ぎながら旅するかな?」
そう考えたら、せいせいする。
とはいえ、最低限の義理を果たさなければいけない。
「親父に説明することが、最後の親孝行か!」
学院に関する費用や生活費について、礼を言うべきだ。
費やした分を返せ、と言われた場合は、親父の態度による。
「勘当はともかく、集金した後に放り出すのは都合が良すぎるからな……」
あの脳筋に腹芸ができるとは、思えない。
村で働きながら返すことは不可能で、どっちみち、出稼ぎだ。
同調圧力なんぞ、あの村の中でしか通用しない。
「俺が納得した場合にのみ、できる範囲で返済しよう」
家族と故郷がなくなれば、必然的に義務もなくなる。
どうするのかは、俺の意志で決めること。
「実際に会う前に、相談しておくか!」
いつも通りに会った、マリカ・フォン・ミシャール。
こいつだけ、態度を変えない。
追試の前日に訓練していた場所で、話し合う。
俺の意見を黙って聞いたマリカは、頷いた。
「いいんじゃない? どうせ勘当されるし、あなたが決めればいい」
村へ行って、親父と直接話すことで、肯定的だった。
座り直したマリカが、思わぬ発言をする。
「1人だと言いにくいだろうから、私も同行する! 学院には、休暇を申請済み」
「はあっ!? 実家に報告されるぞ?」
チッチッと指を振ったマリカが、笑顔で説明する。
「大丈夫よ! お父様は、私に甘いから!」
それ、男と一緒に旅することを含めているよな?
心の中でツッコミを入れるも、こいつは一度言い出したら引かない。
「別に、いいけどさ?」
「……ところで、旅費はあるの?」
あっ!
よく考えたら、故郷の村までの旅費がない。
仕事がある大きな街へ戻ることを考えたら、往復分だ。
冷や汗を流す俺に、笑顔のマリカが首をかしげる。
「心配しないで? 私が出してあげるから……」
「そ、そうか! あとで返すよ」
俺の顔を見たままのマリカが、スーッと、頭を戻した。
「私、ずっと飼いたかったペットがいるの!」
「突然、何だ?」
驚いている俺に、目を細めたマリカが話を続ける。
「もうすぐ、飼えそうだから……」
お小遣いを溜めていたのか、入手が難しいのか。
不思議に思っていると、俺をジーッと見ているマリカが呟く。
「うん、もうすぐ……」
怖くなってきた俺に対して、普段の態度に戻ったマリカが尋ねる。
「そういえば、あなたのお父様には?」
「学院から早馬を出したって! 追試の面接官に聞かれたけど、先に知らせたほうがいいだろ?」
マリカは自分の指で長い髪のはしを触りつつ、首肯した。
「そうね! となれば、村へ行ったら囲まれる?」
「ありそうだ……。行きたくねえ!」
腕を組んだマリカが、忠告する。
「すぐに言わないと拗れるし、あなたの中でもケジメをつけられないわよ? 変に美化したあとで罵倒されれば、ムダにダメージが大きいし」
「それな? 分かったよ!」
マジックソード学院の会議で、俺の除籍が決まった。
これにより、俺は名実ともに無関係。
見送りに来てくれた、追試の試験官が言う。
「君が二番目に戦ったフィルス君ですが、もう会えないことで落ち込んでいます! ガイアルドーニ君も、何だかんだで君を認めていますから! 君が思っているほど、生徒たちに嫌われていなかったと思いますよ?」
「はい、お世話になりました……」
頭を下げた俺は、旅装束のままで正門を通った。
会釈したマリカと共に、故郷の村へ続く道を進んでいく。
過去作は、こちらです!
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