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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第三章 サーヴァス会戦
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強いからではなく、それを当然としていることが怖いんだ

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 サクリフィ王国軍の正面に展開していた、ギフテッド騎士団の二旗(にき)隊。


 隊長のララ・リーメルトが、自身を隠せるほどの大剣による魔法を振るい、何とか陣形を維持している有様だった。


 離れた場所にいたアーデンティア帝国の部隊は吹き飛ぶも、全体が押していることから士気旺盛。


 犠牲に構わず、正面から迫りくる。


 左右にいる一旗(いっき)三旗(さんき)が崩れたことは、伝令と偵察で分かっていた。


 包囲されつつあるのだ。


 隊長というには小柄なララは、肩を上下させつつ、副隊長のナスターシャ・フィルスを見た。


「ナーちゃん……。こりゃ、ダメだね! せめて、後ろにいる部隊は逃がそうか?」


 同じく疲れ切っているナスターシャが、頷く。


「ええ! 正面から来ているのは、何でしょう? 馬車……にしては、頑丈すぎる」


 それは、蒸気で動く戦車だった。


 正面装甲が固く、歩兵を蹴散らし、障害物を吹き飛ばすための武装も。


 マスケット銃が主力だけあって、原始的だ。


 しかし、時間のかかる魔法剣や、剣や槍で攻撃する部隊には十分すぎる。


 何しろ、数と機動力が違う。


「ザッと見ただけで、50?」

「……そーだね!」


 ナスターシャの問いかけに、ララは投げやりに答えた。


 もはや、横に並んでいる戦車は手が届くほど。


 背中を見せれば、文字通りに轢き殺される。


 それに、自分たちの後ろは王国軍の司令部。


 責任を果たそうと、次の魔法を準備しつつ、全体の指揮を――


「風が……やんだ?」


 最初に気づいたのは、ナスターシャだった。


 ヒュウオオォッと、いずこかへ吸い込まれるような引き。


 タイヤと思しき駆動で迫りくる戦車は、その感傷を気にすることなく、ただ距離を詰める。


 ダアアアンッ!


 すさまじい音が、突破されている戦場に響いた。


 迫りくる戦車の正面が大きく凹み、続けて重力が横になったように後ろへ吹き飛ぶ。


 遅れて、周りを全て吸い込むような強風が吹き荒れ、戦車部隊もたまらずに状況を確認する。


 上から顔を出した車長らしき男が、原因を探った。


「何が――」


 その顔が後ろへのけぞり、気絶したまま、逆方向へ叩きつける。


 装甲に覆われた戦車に乗っている帝国軍すら、異常すぎる光景に停止。


 いっぽう、全体を見ていたララは、一連の行動をした青少年のほうを向いたまま。


「……ティル君?」


 戦場に行く前の、最後の息抜き。


 マリカ・フォン・ミシャールのお気に入りとして紹介された男子だ。


 そこには、素手のままで立つティル。


 けれど、その雰囲気が違う。


 帝国軍の指揮官らしき声が、増幅されて響く。


『撃て――っ!』


 歩兵では持ち運べない武装が、ティルのほうを向き、一斉に砲弾を飛ばした。


 蒸気カタパルトによる、投石と似た、原始的だが十分な破壊力がある攻撃。


 けれど、魔法剣を極めた1人であるララは、肌で感じていた。


(通用しない!)


 耳がおかしくなるほどの轟音が響き、その破片による衝撃波と土煙が辺りを覆うも、ヒュウオオォッと呼吸する音。


『見たか、我が軍の新兵器を! いくら強くても、たった1人で――』


 次の瞬間に、戦車の群れが外側へ吹き飛び、あるいは、側面から大きく潰れた。


 土煙が収まったあとには、片手を横に振り切ったティルの姿。


 呼吸をしながら、その片手でゆっくりと拳へ握りこむ。


「帝国に戻れ! さもないと、死ぬぞ? お前ら……」


 ここは戦場だ。


 1人の発言など、気にする人間もいない。


 そのはずだった……。


 なのに、武器を持っていない青少年の呟きが、主戦場に響き渡る。


 ララは、直感的に悟った。


(違う! 立場があるとか、強いとかじゃない……。この子は)


 仮にも、王国軍の精鋭だ。


 その隊長を務めているため、色々な人間を見てきて、評価した。


 生まれながらの立場を自慢する奴がいた。


 鍛え上げた体やスキルを誇る奴もいた。


 しかし、この青少年は次元が違う。


(これだけの力を振るえば、普通は気分が高揚するはず……)


 ボクですら、魔法剣を面白がり、しばらく調子に乗っていた。


 だが、どうだ?


 戦局を変えるほどの力を示しながらも、退屈そう。


 生まれながらの気質、メンタリティは、どれだけ訓練しようと変わらない。

 だとすれば、この青少年は――


(器が違う……。いや、もう人間を辞めているのか!?)


 すると、ティルは帝国軍の司令部がある方角を見た。


「分かっているんだぜ? その馬車は、まだ未完成……。これから、お前らの司令部だか動力の中心部を叩くから、今のうちに撤退しな!」


 言うが早いか、ティルの姿が消えた。


 何もない空間でパアンッと破裂音が響き、その左右でやはり戦車部隊が吹っ飛んでいく。


 副隊長のナスターシャが、進言する。


「ララ! いまのうちに!」

「……分かってる! 各隊は負傷者を救護しつつ、撤退しろ! それぞれの指揮官、騎士は、その責任を果たせ!」


 機動力と装甲で迫っていた戦車部隊は、壊滅した。


 まだ無事な車両も、混乱している。


「深追いするな! それより、後ろへ下がるぞ! こんなところでムダ死にをするな!」


 ララは、取り残された敵兵を殺しながら追撃している味方に叫んだ。


 必死に自軍へ逃げ帰っている敵兵、戦車。


 ナスターシャが、指示を出している間に話しかける。


「あの少年……強いですね? どこが落第生なんだか!」


 しかし、力なく首を振ったララは、指摘する。


「違うよ、ナーちゃん……。強いだけなら、ちっとも怖くない! あんな強さを示しながら、それを当たり前にしていることが異常なんだよ」

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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