強いからではなく、それを当然としていることが怖いんだ
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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サクリフィ王国軍の正面に展開していた、ギフテッド騎士団の二旗隊。
隊長のララ・リーメルトが、自身を隠せるほどの大剣による魔法を振るい、何とか陣形を維持している有様だった。
離れた場所にいたアーデンティア帝国の部隊は吹き飛ぶも、全体が押していることから士気旺盛。
犠牲に構わず、正面から迫りくる。
左右にいる一旗、三旗が崩れたことは、伝令と偵察で分かっていた。
包囲されつつあるのだ。
隊長というには小柄なララは、肩を上下させつつ、副隊長のナスターシャ・フィルスを見た。
「ナーちゃん……。こりゃ、ダメだね! せめて、後ろにいる部隊は逃がそうか?」
同じく疲れ切っているナスターシャが、頷く。
「ええ! 正面から来ているのは、何でしょう? 馬車……にしては、頑丈すぎる」
それは、蒸気で動く戦車だった。
正面装甲が固く、歩兵を蹴散らし、障害物を吹き飛ばすための武装も。
マスケット銃が主力だけあって、原始的だ。
しかし、時間のかかる魔法剣や、剣や槍で攻撃する部隊には十分すぎる。
何しろ、数と機動力が違う。
「ザッと見ただけで、50?」
「……そーだね!」
ナスターシャの問いかけに、ララは投げやりに答えた。
もはや、横に並んでいる戦車は手が届くほど。
背中を見せれば、文字通りに轢き殺される。
それに、自分たちの後ろは王国軍の司令部。
責任を果たそうと、次の魔法を準備しつつ、全体の指揮を――
「風が……やんだ?」
最初に気づいたのは、ナスターシャだった。
ヒュウオオォッと、いずこかへ吸い込まれるような引き。
タイヤと思しき駆動で迫りくる戦車は、その感傷を気にすることなく、ただ距離を詰める。
ダアアアンッ!
すさまじい音が、突破されている戦場に響いた。
迫りくる戦車の正面が大きく凹み、続けて重力が横になったように後ろへ吹き飛ぶ。
遅れて、周りを全て吸い込むような強風が吹き荒れ、戦車部隊もたまらずに状況を確認する。
上から顔を出した車長らしき男が、原因を探った。
「何が――」
その顔が後ろへのけぞり、気絶したまま、逆方向へ叩きつける。
装甲に覆われた戦車に乗っている帝国軍すら、異常すぎる光景に停止。
いっぽう、全体を見ていたララは、一連の行動をした青少年のほうを向いたまま。
「……ティル君?」
戦場に行く前の、最後の息抜き。
マリカ・フォン・ミシャールのお気に入りとして紹介された男子だ。
そこには、素手のままで立つティル。
けれど、その雰囲気が違う。
帝国軍の指揮官らしき声が、増幅されて響く。
『撃て――っ!』
歩兵では持ち運べない武装が、ティルのほうを向き、一斉に砲弾を飛ばした。
蒸気カタパルトによる、投石と似た、原始的だが十分な破壊力がある攻撃。
けれど、魔法剣を極めた1人であるララは、肌で感じていた。
(通用しない!)
耳がおかしくなるほどの轟音が響き、その破片による衝撃波と土煙が辺りを覆うも、ヒュウオオォッと呼吸する音。
『見たか、我が軍の新兵器を! いくら強くても、たった1人で――』
次の瞬間に、戦車の群れが外側へ吹き飛び、あるいは、側面から大きく潰れた。
土煙が収まったあとには、片手を横に振り切ったティルの姿。
呼吸をしながら、その片手でゆっくりと拳へ握りこむ。
「帝国に戻れ! さもないと、死ぬぞ? お前ら……」
ここは戦場だ。
1人の発言など、気にする人間もいない。
そのはずだった……。
なのに、武器を持っていない青少年の呟きが、主戦場に響き渡る。
ララは、直感的に悟った。
(違う! 立場があるとか、強いとかじゃない……。この子は)
仮にも、王国軍の精鋭だ。
その隊長を務めているため、色々な人間を見てきて、評価した。
生まれながらの立場を自慢する奴がいた。
鍛え上げた体やスキルを誇る奴もいた。
しかし、この青少年は次元が違う。
(これだけの力を振るえば、普通は気分が高揚するはず……)
ボクですら、魔法剣を面白がり、しばらく調子に乗っていた。
だが、どうだ?
戦局を変えるほどの力を示しながらも、退屈そう。
生まれながらの気質、メンタリティは、どれだけ訓練しようと変わらない。
だとすれば、この青少年は――
(器が違う……。いや、もう人間を辞めているのか!?)
すると、ティルは帝国軍の司令部がある方角を見た。
「分かっているんだぜ? その馬車は、まだ未完成……。これから、お前らの司令部だか動力の中心部を叩くから、今のうちに撤退しな!」
言うが早いか、ティルの姿が消えた。
何もない空間でパアンッと破裂音が響き、その左右でやはり戦車部隊が吹っ飛んでいく。
副隊長のナスターシャが、進言する。
「ララ! いまのうちに!」
「……分かってる! 各隊は負傷者を救護しつつ、撤退しろ! それぞれの指揮官、騎士は、その責任を果たせ!」
機動力と装甲で迫っていた戦車部隊は、壊滅した。
まだ無事な車両も、混乱している。
「深追いするな! それより、後ろへ下がるぞ! こんなところでムダ死にをするな!」
ララは、取り残された敵兵を殺しながら追撃している味方に叫んだ。
必死に自軍へ逃げ帰っている敵兵、戦車。
ナスターシャが、指示を出している間に話しかける。
「あの少年……強いですね? どこが落第生なんだか!」
しかし、力なく首を振ったララは、指摘する。
「違うよ、ナーちゃん……。強いだけなら、ちっとも怖くない! あんな強さを示しながら、それを当たり前にしていることが異常なんだよ」
過去作は、こちらです!
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