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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第一章 追放というか勘当された
3/18

うん、知ってた!

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 俺の追試は、2人目との模擬戦へ……。


 お互いに制服を着たまま、俺の正面に立っているアルテム・フィルスは、両手でゆっくりと刀を抜いた。


 切りつけやすいよう、浅い弧を描ているブレードだ。


 試験官の男が、宣言する。


「では、それぞれに魔法付与を!」


 両手で柄を握ったアルテムが、集中する。


(ん?)


 何らかの魔法を込めているというか、発動する準備をしているのは分かるが――


「スターンくん? 君も、魔法付与をしなさい!」


 試験官に注意され、慌てて魔法を唱える。


「ウィンド……ストーム」


 上級の風魔法を唱えてみたが、何も起きない。


 ギャラリーが笑う。


 ため息をつきながら、初級のウィンドを連呼する作業に戻った。


 やがて、試験官に時間切れを宣言される。


 また、そよ風が巻き付いたロングソード……。


「では、始めっ!」


 大声で叫んだ試験官は、やはり全力で退避していく。


 アルテムは両手で柄を握り、俺のひたいに切っ先を突きつける、中段の構え。


 対する俺も、鏡映しのように中段。


 すると、魔法付与の時間で何もしなかったアルテムが話しかけてくる。


(けい)は、やはり向いていないな……」


「大きなお世話だ」


 俺が言い返すと、息を吐いたアルテムがいきなり仕掛けてくる。


「卿の敗因は……相手を理解しないことだ」


 頭上に振りかぶらず、そのまましゃがみ込むような袈裟斬り。


(届くはずはないが……。こいつの手口が分からん!)


 ただの素振りと立っていたら、初見殺しもあり得る。


 相手の刀は俺の肩から斜め下に切っ先が進むも、かなり離れた俺はロングソードで防ぎつつ半身で回避。


 即座に、踏み込んで反撃しようと――


 両足がグラウンドに張りついて、動かない。


「ぐっ?」


 斜め下に切っ先を下ろし、勢い余って地面に刺さっている刀。


 アルテムはそれをゆっくり戻しつつ、説明する。


「上級の氷魔法、アイスウォールだ……。卿は知らないのか? 私は無詠唱ができる。先ほどの準備で、これを用意した」


 ギャラリーが騒ぐ。


「嘘っ!?」

「フィルス君なら、できそう……」

「すげーな、あいつ!」

「威力は下がるものの、不意打ちに最適ですな!」

「あのフィジカル馬鹿を止めるとは……」


 最後のやつ、完全に喧嘩を売っているだろ?


 視線をアルテムに戻せば、中段の構えですり足。


 じりじりと迫ってくるプレッシャーと、知的なイケメンの顔。


 自分のロングソードが発生しているそよ風で頭を冷やしつつ、グラウンドの一帯にある氷で体が冷える。


 これまでちょうど良かった風が、一面の氷のせいで冷風になった。


(グラウンドごと、俺の両足を凍らせたか……)


 膝ぐらいまで表面に氷の塊があって、絶体絶命。


「終わりだ……。せめて、私の斬撃で引導を渡そう」


 中段から頭上に刀を持ち上げたアルテムは、器用に氷のグラウンドの上を滑りつつ、振り下ろしてくる。


 けれど、内部から氷が割れた俺は飛び上がり、そのままロングソードを叩きつける。


 持ち上げた刀で受け流しつつ、その勢いで氷上を滑るアルテム。


 俺も両足で立ったまま滑り、お互いに剣を構え直し――


「はい、終了! これ以上は、戦う意味がありません!」


 試験官の大声で、どちらも切っ先を下ろした。


「ふうっ……」


 左腰の鞘にロングソードを納めれば、こちらを向いているアルテムも手元を見ないままで左腰に差している鞘に納刀。


(あんな小さな鞘に見ないままとは、器用だな?)


 感心していたら、柄から手を離したアルテムは悲しそうに言う。


「卿は……いや、もういい。本当に残念だ」


 やつは今生の別れのように告げたあとで、背を向けた。


 相変わらず、観客席の女子はキャーキャー言っている。


 戻ってきた試験官が、全員に聞こえるように宣言する。


「追試は、以上です! 今の結果も踏まえて、見届けていた教師一同で協議しましたが……。全員、ティル・スターンくんの不合格!」


 手元の紙を見たあとで、その理由を述べる。


「えー! まず、スターンくんの強さに文句はありません! ガイアルドーニ君とフィルス君は、どちらもマジックソード学院で上位にいる生徒ですから……。ただし、これは剣に魔法を付与する追試です! 2回とも初級の風魔法だけで、しかも実戦で使えない威力! これまで体術がスバ抜けていたから大目に見ましたが、もう限界です。『魔法剣士になる見込みゼロ』と判断して、学院から除籍します! 事務手続きなどで正式な通達は後日となりますが、スターン君は今から私物を整理しておくように」


 うん、知ってた!


 あの2人に勝てば合格とは、誰も言っていないしな?


「あ、はい……」


 とたんに、ギャラリーが騒ぎ出す。


「ざまあああっ!」

「早く、お家に帰れよ!」


 笑顔の試験官が、付け加える。


「言っておきますが、もう除籍となるスターン君は無敵の人です! あの2人に勝てる力で痛い目を見たくなかったら、言動に注意してくださいね? ちなみに、スターン君を侮辱したことで半殺しになろうが、当学院はいっさい関知しません! 当事者同士で話し合ってください。まだ生きていれば、の話ですが……」


 グラウンドにある観客席は、静かになった。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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