風の精霊、シルフィード
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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何とも言えない雰囲気だが、2人で見つめ合っている時間はない。
俺は、部屋にあった王子の私服を見繕い、エレメンタル騎士団の平服を捨てた。
シャーロットを待たせつつ、聖女リナを探しに行こうと出たら――
「ティル! 時間がないの、黙って聞いて」
女用の騎士服で帯剣しているマリカ・フォン・ミシャールがいた。
傍には、動きやすいドレスを着たリナもいる。
そちらは、無言で頭を下げたのみ。
視線を戻せば、マリカが耳元に口を寄せる。
「アーデンティア帝国が、こちらの防衛ラインを突破した! 数は少ないけど、異常に速く、味方は混乱している……。一旗と三旗が部隊の統制を失って総崩れだから、このままでは中央の二旗が包囲殲滅される」
離れて正面から向かい合うマリカに、問いかける。
「俺に、何をしろと?」
「この戦争は、サクリフィ王国の負けよ……。となれば、いかに撤退するか? 私は王都に行くから、あなたには二旗をお願いしたいの」
ツッコミどころは、山ほどある。
しかし――
「リナは、どうするんだ!? この中には、シャロもいる」
「……残念だけど、2人の面倒まで見切れない。リナと話したけど、『帝国軍の捕虜になったほうがマシ』という結論よ」
こくりと頷いたリナは、端的に答える。
「今の私は、公爵令嬢です……。家名を出せば、無下にされないはず。シャロは私の侍女としますから、安心してください」
「ああ……。何があった!?」
息を吐いたマリカは、首を振る。
「帝国軍が自動で走る馬車に乗って、少数の兵士が前線を突破したの! こちらの混乱と、中枢で重要人物を捕まえることが狙いでしょう」
「すぐに来ると?」
「……もう来たわ! リナは、中でシャーロットに話しなさい」
「はい! 色々と、ありがとうございました……」
慌ててコテージに入っていく少女を見ながら、俺は肝心なことを訊ねる。
「お前は王都で何を――」
傍で立つマリカを中心に、風が吹き始める。
それは彼女を空へ飛び立たせる竜巻のようで、背中には輝くような翼が一対。
(白昼夢で見たのと……同じ?)
雰囲気を変えたマリカが、俺のほうを向く。
「ティル……。今のあなたは負けないわ! 風はいつでも、あなたの味方だから……。私は王都を襲撃している飛空艇とやらを叩き落としてくる。あなたも、しばらく王国から離れたほうがいいわ」
言うが早いか、ふわりと浮かんだマリカは、一瞬で上空へ消えていった。
――大地、水、火、風の四元素
――精霊信仰の一種
――私が世界を滅ぼす存在だとしたら、どう思う?
「そうか……」
これまでの断片的な情報が線として繋がり、俺の違和感が消えた。
(マリカは、風を司っているのか……)
汗のせいで、妙に冷たく感じる。
同時に、疑問も解けた。
(俺は、魔法を剣に付与できない……。まさか、あいつが!?)
もしも四元素の1つが人になった、もしくは、途中で目覚めたのであれば、不可能とは言い切れない。
(そうだとしたら、なぜ?)
意味が分からない。
(俺が苦しむ姿を楽しんでいた? いや、違う……)
Sっ気は強いものの、マリカはそうではない。
(二重人格の可能性もあるが……。その線は捨てよう!)
俺はどうして、元同窓生の性格診断を?
そう思いつつ、推理をやめない。
真実を突き止めなければ、落ち着かず、怖いからだ。
(マリカの本音は、あとで本人に聞けばいい! それより、現状をどうにかしないと……)
風が吹いた。
すると、マリカの手で優しく撫でられたように感じる。
俺は、彼女から逃げる術はなく、どこにいても監視されることを知った。
(風ということから、恐らくは会話も聞こえるのだろう……)
もはや戦場のような緊張感と、人の騒ぎも気にならず、全身で汗をかく。
小さく震えて、地面がグニャリと歪んだように錯覚する。
ゆっくりと、息を吐いた。
「フーッ!」
我に返って、周りを見る。
殺気立った王国軍がソードを抜き、槍を構え、あるいは、武器や防具などを運んでいた。
しかし、乾いた破裂音が続き、怒声と金属同士がぶつかる音。
「帝国軍だー! グフッ」
誰かが叫び、絶命したような語尾で終わった。
同時に、ブーツで走る音が重なる。
「我々は、シュトゥルム・コマンドだ! 命を恐れぬ者だけ、かかってこい!」
戦っているような音が、だんだんと近づいてきた。
と思ったら、壁に勢いよく衝突したような衝撃が、3つほど。
そちらを見れば、明らかに王国軍とは違う兵士たちの姿。
いかにも強そうな鎧だが、王国のプレートアーマーとは異なり、動きやすそうだ。
彼らの使っている銃という武器の先端が、こちらを向いている。
「だ、弾丸が止まった!?」
「……怯むな! 王家の紋章から、ここに王族がいるのは間違いない!」
大きな両刃があるバトルアックスを両手で持った男が、それを振り上げつつ、絶叫しながら突進。
けれど、俺のハイキックにより、長柄の途中から2つに分かれる。
くるくると宙を舞った両刃は、地面に刺さった。
唖然とした男は、切断面を見たまま、立ち止まる。
上げていた片足を戻しつつ、両手を上げ、構え直す。
「悪い……。あいつと比べたら、ぜんぜん怖くない!」
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