私に、死んだ魚を愛でる趣味はありません……
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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「二旗に請求してくれ」
「……畏まりました」
ララ・リーメルトの宣言で、俺とシャーロットは夜会に出られそうな正装になった。
貴族が出入りするような店を出て、馬車で乗り付けたのは、同じく高級店。
広い個室に案内され、丸テーブルを囲む。
お互いに自己紹介を済ませれば、ナスターシャ・フィルスが頭を下げた。
「知らぬ事とはいえ、大変失礼いたしました……」
「あなたの対応は、当然でした」
「私は、気にしていません」
俺とシャーロットが許したことで、柔らかい雰囲気になった。
ロリロリしたララが、興味深そうに俺を眺める。
「君が、マリカちゃんの想い人……。で、そちらが恋人?」
笑っているが、目は真剣だ。
そのプレッシャーを受けたシャーロットは、身を固くした。
「いえ、その……」
「瀕死だったので、やむなく助けました。そのような威圧は、止めてくれませんか?」
俺の指摘に、ララは表情を変えた。
「へえ~? そのオッパイ、ずいぶん気に入ったようだね? マリカちゃんの好意を知らないと? 伯爵令嬢と並び立つには、そんな好き勝手に――」
「やめてください」
当の本人からのストップで、ララは黙った。
マリカ・フォン・ミシャールは、ララを見据えたまま、言い切る。
「私に、死んだ魚を愛でる趣味はありません……」
息を呑んだララは、マリカを見た。
「君は……いや、止そう! すまなかったね、2人とも?」
「いえ」
「…………」
雰囲気が悪くなったが、マリカは問いかける。
「じきに、アーデンティア帝国との戦争です! ティルは、どうするつもり?」
全員の視線が、集まった。
「俺か……」
彼女たちの視線から逃れるように、天井を見る。
「どうしたものかね? 少し、席を外す」
立ち上がり、トイレに行くことを宣言した。
そのまま、夜風に当たる。
「……何の用だ?」
俺が呼ぶと、ガシャリと金属のすれる音。
『お前たちに、良い話を持ってきた……。聖女リナを連れ出すための』
くぐもった、男の声。
そちらを見れば、暗がりから重装甲の騎士が出てきた。
丸いヘルメットに、顔を覆うだけのマスクに丸い眼鏡のような目。
グポンッと、光った。
『驚かないのだな?』
俺が戦った、デストロイヤー騎士団だ。
今は武器を持たず、敵意も感じられない。
「いずれ、相対するとは思っていた」
肩を震わせた死神は、話を続ける。
『ククク……。今は、やらんよ! まさか、今連れ出すとは考えていないな?』
「二旗の隊長、副隊長とも、殺し合いになるだろう! 王都に集まっている戦力の全てから逃げ切る自信はない。あんたを含めてだ」
愉快そうに笑った男は、思わぬ提案。
『それは、そうだ! 物は相談だが、俺たちの仲間にならないか?』
眉をひそめた俺に、顔を見せない男が説明する。
席に戻れば、女たちが不安そうな顔だった。
気を遣われたから、笑顔で応じる。
別れ際に、全てを察したようなマリカが俺を見た。
「ティル? あなたの好きにして……」
「俺は、お前が何であろうと、態度を変える気はない」
目を見張ったマリカは、やがて呟く。
「ありがとう……」
背を向けたマリカは、馬車に乗り、立ち去った。
近寄ったシャーロットに、話しかける。
「よく、我慢した」
「……ここからリナと逃げ出すのは、無理だもの」
頷いた俺は、歩きながら説明する。
「策がある! リスクもある……。俺は乗るが、お前はどうする?」
全てを聞いたシャーロットは、悩み出す。
◇
俺とシャーロットは、デストロイヤー騎士団の重装甲を身につけていた。
ガシャリと音を鳴らしつつ、前へ歩く。
周りの騎士、兵士たちは、恐れをなして退いた。
顔を見せていないことから、俺たちの正体はバレない。
先導する隊長は、前を見たままで言う。
『聖女リナに手が届くところまでは、案内しよう……。あとは、お前たち次第だ』
『どうして、こんな真似を?』
その質問に、立ち止まった隊長が振り向く。
『俺は、ティエリー王子を好かぬ……』
前を向いた隊長は、再び歩き出す。
俺たちも、その後に続く。
(ティエリー王子と、何かあった? もしくは、敵対する派閥か)
やつに大恥をかかせるか、失脚させたいのだろう。
いずれにせよ、このチャンスを活かすだけ。
(とはいえ、ここはサクリフィ王国軍の中心……。リナを連れて脱出するのは、不可能に近い)
マリカたちと会った夜、この隊長から提案された。
聖女リナがいる場所まで案内してやろう、と……。
罠?
そうだろう。
罠でなくても、これは破滅する可能性が高い。
しかし、隊長から言われずとも、これが最初で最後のチャンスだ。
(でなければ、リナに近づくことすら無理)
そして、他にも懸念がある。
『帝国は、どうして寡兵で戦を?』
再び立ち止まった隊長は、顔が見えなくても困惑した様子で答える。
『それだ……。俺も、それが気掛かりでな? 奴ら、何か企んでいるぞ?』
前を向きかけた隊長は、俺に向き直る。
『貴様らが助かるとすれば、それだろう……。お前には、指揮官か参謀の素質があるな?』
『まだ命があれば、考えてみます』
俺のジョークに、隊長は肩をすくめた。
今度こそ、聖女リナがいる場所へ向かう。
いよいよ、サーヴァス会戦が始まるのだ。
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