マリカさんからは逃げられない!
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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サクリフィ王国の王都は、にわかに騒がしくなった。
多くの馬車が入ってきては、大量の物資や人を置いていき、あるいは、乗せていく。
戦争が始まるのだ……。
同じ制服で整列して、号令を受ける兵士たち。
あるいは、騎士たち。
行商人のように身軽な者たちは、戦乱を恐れて、王国が戦うアーデンティア帝国が侵攻しないエリアへ逃げていく。
王都ウルティマナから逃げられない面々は、保存できる食料を買い漁り、足元を見た商人はどんどん値を吊り上げる。
最前線へ向かう兵士、騎士たちは、もはや生きて帰れぬ覚悟で、最後のどんちゃん騒ぎを楽しむ。
俺とシャーロットは、スラムと言っていい地区で、宿を転々としている。
ごった返す王都は活気があり、これから散る花を思わせた。
広場にある屋台の1つで買いながら、用意する店員に話す。
「王国は、勝ったらどんな要求をするんだろうな?」
「……金じゃね? 俺たちにも分けてくれると、ありがたい!」
肉を焼いて、味をつけただけの串。
それを受け取りつつ、金を払った。
「俺がもらったら、田舎に家を買いたい」
「……ハッハッハッ! 叶うと、いいな? また、来いよ!」
離れて待っていたシャーロットに、その半分を渡す。
壁を背にして、立ったままで食いながらの会話。
「日が暮れたら、何が起きてもおかしくねーな」
「出征する兵士や騎士が、酔っているから……。でも、今夜はどこかでディナーにしない? こんな食事だけで過ごすのは、ちょっと」
うんざりした様子のシャーロットに、俺も考える。
「シャロ? そのディナーを済ませたら、明日は帝国が侵攻しない方向へ退避するぞ? 治安が悪すぎるし、ここじゃ日雇いの仕事も見つからん」
ため息をついたシャーロットが、首肯する。
「仕方ないわ……。リナを奪い返すにしても、今はマズい」
言いながら、食べ終わった串をバキッと折る。
ご機嫌ナナメのようだ。
――飲食店が並んでいる通り
服は、そいつのランクを知るために役立つ。
俺たちは、その日暮らし。
低ランクの飲食店に入れるだけ。
それでも、シャーロットはご機嫌だ。
スキップしそうな歩みで、俺の横にいる。
(ま、今日は王都にいる最後の夜だし――)
視線を感じる。
そちらを見ると、マジックソード学院で見覚えのある顔。
ジーッと、俺を見つめている。
(ひえっ……)
衝撃的な光景を見た俺は、正気度が下がった。
にっこり微笑んだマリカ・フォン・ミシャールが、次の瞬間に俺の目の前。
俺と一緒に立ち止まったシャーロットが、驚く。
「えっ! な、何……あっ!」
ニコニコしている美少女を見て、俺の片腕にしがみつくシャーロット。
対するマリカは、俺を下から覗き込むように話しかける。
「私たち、これから食事なの! 奢るから、一緒にどうかしら?」
マズい。
これ、怒っている……。
マリカさん、ものすごく怒っているよ?
さっきから、俺の片腕は巨乳で挟まれているからね?
マリカでは、絶対に無理なプレイだ!
獲物に襲いかかる寸前のネコのように、ゆらゆらと頭を揺らすマリカ。
俺は、すぐに離脱するべく、シャーロットに話しかける。
「シャロ? とにかく、店へ――」
「リナ!」
俺の片腕を解放したシャーロットは、どこかへ走り出す。
人混みの中でも、その目的が、立派な紋章がある馬車の前に立っているリナだと分かる。
俺の肩に手を置いたマリカが、耳元で囁く。
「私から逃げられると、思っていたの?」
そちらを見た俺は、言い訳をする。
「あの女には、手を出していないぞ――」
「学院で面倒を見ていたうえ、あなたの故郷までの往復の旅費としばらくの生活費を渡し、宿屋の部屋に隠れていた間女2人を見逃した私を捨てて、オッパイがでかいだけの女子を持ち去ったのは事実でしょ?」
人差し指で、ほおをツーッと滑らせたマリカに、反論する。
「だから、俺はシャロとやっていない――」
「私のために? 明らかに重傷を負っていた女を助けたのだから、やらせてもらえば良かったじゃない! お金を持っているとは思えないし、権力とも無縁……。どうせ、罪悪感であちらが夜這いしただろうに! もったいない」
クスクスと笑ったマリカに、尋ねる。
「俺がシャロを抱いても、怒らなかった?」
苦笑したマリカは、首を横に振る。
「怒るわよ? 当たり前じゃない……。この期に及んで、私がただのクラスメイトだから親切にしていたと?」
「いや……」
マリカの好意は、分かっていた。
ここで惚ければ、本気で怒るだろうと察し、黙り込む。
息を吐いた、マリカ。
リナと感動の再会をしたシャーロットが、こちらに叫ぶ。
「今から食事だって! 一緒に、行きましょう!」
あ、はい。
マリカさんと別れる選択肢はないんですね?
夜空を見上げれば、地上にあふれる光とは対照的に、星々の輝き。
すると、傍にいるマリカの声。
「ねえ、ティル? もし私が……」
――世界を滅ぼす存在だとしたら、どう思う?
驚いた俺が見れば、マリカは普段通りだった。
駆け寄ってきたシャーロットとリナに、さっきの発言はうやむやに。
後にサーヴァス会戦と言われる、王国と帝国の衝突。
人々は、そこで本当の恐怖を知る。
俺がどうするか? という決断も……。
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