副隊長、ナスターシャ・フィルス
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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ダガーを抜いた兵士2人は、駄々っ子のように振り回している。
(躱すのは、難しくないが……)
握っているダガーを弾き飛ばせば、誰に刺さるやら!
その時に、風切り音が響いて、俺と兵士たちの間を通り抜けた。
ドカッという音と共に、細長い棒が突き刺さる。
ビイインッと揺れたことで、兵士2人が固まった。
「ふ、副隊長……」
誰かが呟いたかと思えば、1人の若い女がテーブルの間をぬって、近づいてくる。
暗めの紫色の瞳で、長い黒髪をポニーテールに。
キツ目の美人だが、雰囲気と体の動きは戦士のそれ。
立ち止まった彼女は、俺たちを見回した。
「何の騒ぎですか、これは?」
鋭い視線を受けた兵士どもが、慌てて言い訳をする。
「い、いえ……」
「こいつが、俺たちの女に粉をかけやがって――」
「今ならば! 王都へ戻ってから、誰もやりたがらない場所の掃除か、武具の手入れをしばらくやることで許しましょう!」
静まり返った酒場で、美女が告げる。
「ですが、上官への虚偽報告となれば、話は別! それを踏まえて、説明しなさい」
「あのですね?」
「……うちを馬鹿にしやがったので」
パンッ
美女が両手を叩いたことで、兵士2人はビクッとする。
直立不動になり、敬礼した。
「そこの女を口説こうとして、邪魔だったので……」
「俺たちをいきなり投げたから」
その時に、女の声。
「あんたらが突き飛ばそうとしたから、反撃されただけでしょ?」
俺たちのところへ給仕した女の声だ。
怒った兵士たちが見回すも、上手く隠れている。
息を吐いた美女は、最後に確認する。
「彼は……先に刃物を抜きましたか? ここで誤魔化せば、上官への反逆とします」
護身用の短剣に手をかけつつの宣告に、兵士2人は観念した。
「いえ……。俺たちが抜いただけです」
「投げられた後でダガーを抜いて、こいつはずっと避けていました」
訂正する声はない。
雰囲気からも、事実のようだ。
ため息をついた美女は、両手を腰に当てたまま、処罰を与える。
「分かりました……。分隊長! 王都へ帰還した後で、彼らに清掃または武具の手入れをさせろ! 打ち上げは、このまま参加させて構わない」
「了解! お前ら、後で覚えていろよ? たっぷり、掃除をさせてやる」
立ち上がった男の発言で、酔っている兵士2人はガックリした。
俺は、急いで食事を済ませようと――
ポンと、肩に手を置かれた。
「こちらの兵が、申し訳ない! とはいえ、酔った彼らを転がしたぐらいで、『ギフテッド騎士団の二旗隊を倒した』などと自慢されたり、噂をされたりしても困る」
美女の顔を見上げて、問う。
「どうしろと?」
「私と戦って欲しい! こちらの過失であり、そちらは剣を抜かなかったので、素手による格闘戦とする!」
あくまで提案だが、断れば、二旗を丸ごと敵に回す。
「選択の余地はないと……。いつ、どこで?」
「ここで、今から! 酒場の外で、どちらかが戦闘不能になったら終了します! 安心してください。なるべく急所は避けますし、後遺症が残る怪我は負わせません」
立ち上がった俺は、返事をする。
「いいだろう! そちらも、無名の誰かに負けたでは退けないよな? その代わりに俺の名前は言わない」
即断即決に、周りがどよめいた。
続いて、二旗の奴らが歓声を上げる。
傍観者として座っているシャーロットは、口をはさめないまま。
俺が外に出て行けば、その美女が続く。
ギャラリーとして酒場から出てくる奴もいれば、周りの建物からも見物人が群がった。
通りは暗いものの、二旗の連中が壁となり、部外者はシャットアウト。
短剣を預けた美女が、俺と向き合ったままで自己紹介。
「二旗の副隊長、ナスターシャ・フィルス……。そちらは名乗らずとも、構いません」
「よろしく」
シャーロットに荷物を預けて、身軽になる。
お互いに正面から向き合いつつ、摺り足で距離を詰めていく――
地面がえぐれて、ナスターシャの姿が大きくなった。
片足を滑らせ、地面で円を描きつつ、伸びてきた拳を避ける。
同時に、相手の背中への裏拳。
振り返りつつ、その腕をとらえての投げ。
このままでは背中から叩きつけられるが、逆に相手がつかんでいる腕にしがみついて回転する。
それを察したナスターシャが、体を入れつつの手刀で、俺を離した。
四つん這いで地面におりた流れで、足を払うキック。
自分から飛んだナスターシャが、浴びせ蹴り。
俺は転がって避けつつ、起き上がる。
改めて向き合うも、ナスターシャの動きが速くなった。
「フッ!」
正面からの中段突きは、弾丸のよう。
(ここら辺だな……)
あえて受けずに、体に食らった。
けれど、自分から後ろへ飛ぶことで、ノックバックに変える。
勢いを引き受けた体は、後ろにあった建物の壁に叩きつけられた。
「うぐっ!」
背中からのダメージで、そのまま倒れ込む。
見ていたギャラリーが、ようやく話し出す。
「はっ! うちの副隊長に勝てるわけねーだろ!」
「飲み直そうぜ?」
酒場に戻っていく、二旗の奴ら。
他の連中も、窓を閉じるなど、自分の用事に戻っていく。
駆け寄ったシャーロットが、俺の傍でかがむ。
「だ、大丈夫?」
「……ああ、問題ない! これで逆恨みされることもないだろ」
あっさりと起き上がった俺に、シャーロットは目を丸くした。
「え?」
「しかし、まいったな! メシは?」
同じく立ち上がったシャーロットは、記憶をたどる。
「まだ、あるけど……」
「片づけられていなかったら、とっとと食って、宿に戻ろう」
これ以上のトラブルは、ご免だ。
それにしても、ナスターシャと名乗った女、どっかで見たような顔だったな?
過去作は、こちらです!
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