命懸けの戦いで、そよ風を君に……
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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マジックソード学院で、追試の日になった。
よく絡んでくるマリカとじゃれた翌日だ。
青空が見えるグラウンドに立てば、外周をかこんでいる防護壁と、その上に階段状にある観客席が目に入る。
制服を着た男女が、他人事として見学。
「どっち?」
「落ちるほう!」
「バーカ! 勝ったときに激アツな大穴に賭けるのが、通だよ!」
「とっとと、自主退学すればいいのに」
「ねえ? フフフ」
どいつも楽しそうで、良い見世物。
(学院中の奴らがいそうだ……)
制服で左腰にロングソードを下げている俺は、試験官となっている男の教師を見た。
頷いた試験官が、宣言する。
「今から、ティル・スターン君の追試を始めます! 対象となる単位は、『剣に魔法を付与する』という魔法付与! なお、生徒から志願者がいたことで、2名による模擬戦です! 対戦は一対一で行い、それぞれが魔法付与する時間を設けたのちに戦ってもらいます」
学院が公開リンチをするとは、たまげたなあ……。
そう思いつつ、さっきからニヤついている男子を見る。
前髪を立てた、いかにも弱いやつをイジメそうな陽キャだ。
ロイグ・ガイアルドーニ。
子爵家にいるが、攻撃的な魔法と剣術を得意としている。
立ったままで腕組みをしているロイグは、険しい顔だ。
試験官が、最終確認する。
「ガイアルドーニ君? 構いませんね?」
「お、おう! 付与する魔法に、制限はないんだよな?」
「はい……。ただし、魔法で直接攻撃した場合は処罰ですよ?」
武者震いをしているロイグは、ゆっくりと息を吐いたあとで、左腰の柄に手をかけた。
ゆっくりと剣を抜き、その鈍い光で辺りを照らす。
「ハ、ハハハハ! てめーが退学になる前に、全力で戦ってみたかったんだよ!」
「大人げないな、お前……」
こちらもロングソードを抜き、両手で握った。
それを見届けた試験官が、宣言する。
「どちらも、魔法付与を始めてください!」
ロイグは、左手を剣身にかざし、魔法を唱える。
「ボルケーノ!」
やつの剣がオレンジ色から赤色と、いかにも熱そうな感じ。
それらは、1人で持てるソードに吸い込まれていく。
まるで、新しく剣を打っているような光景。
ギャラリーの生徒たちが解説する。
「うぉおおおっ! 炎魔法の上位じゃねえか!」
「あいつ、炎は才能あるよね……」
「なるほど! 隙だらけになるが、魔法付与の時間があるのなら」
「考えたな?」
対する俺は、これだ。
「ウィンド、ウィンド、ウィンド、ウィンド――」
重ね掛けすれば、初級の風魔法でも効果があるかなって。
「ギャハハハ!」
「手動の送風機か、お前は!」
「わ、笑っちゃ悪いって……。フフフフ!」
「私、もうダメ! 笑いすぎて、お腹いたい」
ちくしょう。
お前ら、あとで一発殴るわ。
剣身の周りで、俺の熱気を冷ますような風が吹いた。
試験官が、魔法付与の時間の終わりを告げる。
「はい! 只今から、模擬戦に入ります!」
言うや否や、俺たちに背中を向けて全力疾走。
ちゃんと、試験を見ろや?
様々なレッドで輝くロングソードを両手で構えたロイグが、狂気を感じさせる笑いと共に叫ぶ。
「ヒ、ヒヒヒヒ! てめーでも、流石にこれは躱せねーだろ? 死ねや、おらぁあああああっ!」
両手で、自分の後ろに回したソード。
踏み出しながら、俺に対して半円を描いての横薙ぎだ。
その剣身から火山のマグマのような炎が噴き出し、俺が立っているエリアを扇状に満たした。
ロイグは、横に振り切ったまま。
やがて、片手でガッツポーズをとる。
「や、やった……。やったぞ、おらぁあああっ! 見たか、お前ら――」
俺は、逆手で持つロングソードを奴と向き合うように首筋へ押し当てた。
ダラダラと汗をかきつつ、ロイグが視線だけ向ける。
「な、何で――」
「バックステップで後ろの壁へ行き、そのまま蹴った。お前の正面を避け、壁を蹴りつつ外周を回りこんだ」
ロイグが見ると、俺が蹴った壁の部分が大きく壊れている様子が目に入った。
「ヒッ……」
押し当てている剣身からは、ウィンドによる小さな風がある。
(どうだ、涼しいか?)
逃げていた試験官が、宣言する。
「そこまで! ガイアルドーニ君は、ご苦労さまでした」
ロングソードを引いて、風魔法を解除する。
しなくても、ほぼ同じだけどな?
同じように剣を納めたロイグは、疲れたのか、ヨロヨロと退場した。
戻ってきた試験官が、2人目を紹介する。
「では、次の対戦! アルテム・フィルス君です!」
視線を感じて辿れば、マジックソード学院で一二を争うイケメンがいた。
観客席にいる女子が、すごくキャーキャー言っている。
ロイグとは正反対で、理知的だ。
こいつは独自の魔法を極めており、刀という武器を使う。
「卿は、確かに強い……。しかし、ここは魔法剣を学ぶ場だ。強ければ、何をしても許されるわけではない」
「あ、うん……」
軽く頷いたアルテムが、続きを述べる。
「私が、卿に教えよう! 魔法を使いこなすことでの強さを……」
ごめん。
このマイクパフォーマンス、毎回やらないとダメ?
過去作は、こちらです!
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