戦いは、始まるまでに勝敗が決まる
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
https://hatuyuki-ku.com/?p=4566
立っているシャーロットの拳を避けつつ、その体捌きのまま、崩すように投げた。
彼女も逆らわずに飛ぶも、こちらの片腕をとろうとする。
取られれば、彼女が地上へ落ちる勢いのままにへし折られる、または肩関節などを外されるだろう。
当然ながら、俺は回避する。
手刀で振り払うような動きで弾きつつ、まだ空中にいるシャーロットへ追撃した。
空中で受け流しつつ、ドスンと背中から落ちたシャーロット。
俺が伸ばした片腕につかまりつつ、受け身をとっていた。
「ふうっ……。今回は、この辺にしましょう?」
俺の片腕を引っ張りつつ立ち上がったシャーロットは、長い黒髪を指で整える。
「私と似たような戦闘スタイルがあったとは……。あの女と同じで、マジックソード学院の生徒だったんでしょ? 魔法剣は?」
「剣なら、置いてきた! これからの戦いに、ついてこられないからな?」
引き気味のシャーロットは、突っ込みを入れる。
「そ、そう……。でも、私たちが向かっている王都ウルティマナは、あなたが言った通りにサクリフィ王国の中心! 抱かれないってのは、不安よ……。そこは理解して」
「金で雇われたわけじゃないし……。言われてみれば、そうだな?」
俺の返答に、シャーロットは息を吐いた。
無意識だろうが、腕を組むことで、下から巨乳を持ち上げる。
「あの女……。マリカが敵になったら、どうするの?」
「俺は、聖女となったリナを奪還する……。それだけだ」
答えになっていないことで、シャーロットはまた息を吐く。
ムダに色っぽい。
そして、俺のほうを見た。
「分かった……。なら、私が戦う!」
「あいつは、強いぞ? 落第生だった俺とは違い、学院の首席クラスだ」
こくりと頷いたシャーロットは、意味ありげに笑う。
「私も、手の内を全てさらしたわけじゃない! あとは、そのマリカ次第……。王都にいる主力だけど」
「エレメンタル騎士団が、よく分からん! ギフテッド騎士団は、学院の優秀者がスカウトされての就職先と知っているが」
首を横に振ったシャーロットは、指摘する。
「エレメンタル騎士団は、大地、水、火、風の四元素よ? 精霊信仰の一種で、それぞれに象徴的な団長がいるだけ! 今は超常的な力がない人間による名誉職だから、気にする必要はない」
「……詳しいな?」
肩をすくめたシャーロットは、端的に答える。
「リナと関係しているから……。私たちの一族は、そっち系でね? 今となっては、スラムと同じよ! それより、ギフテッド騎士団のことを教えて?」
「魔法剣が得意な奴らで、王国の主力……。一旗、二旗と、隊ごとに呼ばれている。正確には『一旗隊』だが、呼びにくいから『隊』を省く」
血筋もあるが、基本的に実力主義。
隊長、副隊長は強く、隊員も100人単位。
眉をひそめたシャーロットが、思わず呟く。
「厄介ね? その、10隊が全て?」
「王国の巡回や反乱鎮圧もあるから……。常備軍は、せいぜい3隊じゃないか? ちなみに、俺も又聞きだし、ギフテッド騎士団の幹部に面識がありそうなのはマリカさんだぞ?」
派手に溜息をついたシャーロットが、俺にジト目。
「奴らに、勝てそう?」
「……分からん」
何はともあれ、王都ウルティマナへ向かうのみ。
◇
マリカ・フォン・ミシャールは、マジックソード学院で募集された聖女の付き人へ立候補。
伯爵令嬢という保証に、優秀な魔法剣士だったことで、あっさり採用。
ティエリー・レ・サクリフィ王子の帰還に伴い、マリカは聖女リナと同じ馬車に乗る。
護衛を兼ねているため、武装したまま……。
馬上の騎士に囲まれているが、その警備はおざなりだ。
小窓のカーテンの陰から窺えば、リナの声。
「あの……。ミシャールさん?」
向き直ったマリカが、応じる。
「何でしょう、聖女さま」
「……あなたは、ティルの彼女ですか?」
思わぬ質問に、マリカは息を吐く。
「付き合ってはいませんでした……。なぜ?」
「学院で聞いた限りでは、男女の関係にしか思えなくて」
「……逆に、聞かせてください。あなたは、どうして聖女に?」
息を吐いたリナは、首を横に振った。
「そういう定めだったのでしょう! 王都に着いても、観光はできなさそう」
「……私、ギフテッド騎士団の二旗隊の隊長を知っているの! 良かったら、どうかしら?」
精鋭の騎士団の幹部と会うのなら、許可が下りる可能性は高い。
気を遣われたと悟ったリナは、向かいに座ったままで会釈。
「ありがとうございます……」
「もう1人の女子……。残念だったわね?」
マリカの指摘に、顔を上げたリナはウェーブがかった栗色ロングを指ですく。
「まだ、決まったわけではありません」
「……そうね」
全体の警備は厳重で、順調に王都へ近づく一行。
ほぼ同い年の女子とあって、2人はそれなりに仲が良くなった。
(王子は……思っていた以上に顔を出さない)
貴族の機微をよく知っているマリカは、ティエリーは聖女リナをレディとして扱うものの、婚約者への態度ではないと感じていた。
(貞操も怪しくなって、見限った? あのデカパイ女は、リナを奪い返しに来るだろうし。ティルはあいつに手を出しても出さなくても、たぶん道連れ!)
口では言ったが、シャーロットが死んだとは思っていないマリカ。
(二旗隊の隊長……。いてくれると、いいんだけど)
過去作は、こちらです!
https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31