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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第二章 聖女リナは王都へ向かう
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別れた女を思い出すと正気度が下がる

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 気絶した巨乳娘を肩にのせた俺は、ひたすらに走り抜いた。


 未整備らしき森林地帯に入り、後ろの視界を切ってから、ようやく遮蔽を取りつつ、立ち止まる。


「よっと!」


 気配と音から、追手はない。


 どうやら、デストロイヤー騎士団のお目当ては、もう1人のリナのようだ。


 地面に横たえたシャーロットを見ると、意識を失ったままで小さく唸っている。


 脇腹は回転するスピア、形状的にランスを食らい、半円でくりぬくように失われていた。


 傷口は焼かれていて、出血はないが――


(呼吸をするだけで、激痛か?)


 医者ではない俺が考えても、意味はない。


 やるか、やらないか? それだけだ。


 携帯しているアイテムのうち、小さな瓶を取り出す。


(これ、飲ませるのか? ふりかけるのか?)


 まともに飲めるとは思えない。


 とりあえず、傷口にかけてみた。


 見る見るうちに、戻っていく……。


(原理を考えたら、ちょっと怖いな? ともあれ、出し惜しみしない!)


 脇腹が戻るまで、様子を見ながら傷口に垂らした。


 マリカ・フォン・ミシャールにもらった回復薬で、シャーロットは助かったようだ。


(あいつに言ったら怒りそう……。俺がもらった回復薬なら、どう使うのかも自由だろ?)


 その瞬間に、俺は白昼夢を見る。


 見知った顔。


 それは、マリカだった。


 1つ違うことがあれば、それは彼女の背中に2つの翼が形成されていて、どちらも煌めく閃光を放っていること。


 地面がはるか下にある、上空だ。


 その体を避けていく強風は、彼女を墜落させることなく、むしろ揚力となっているかのよう……。


 ミルクティー色の長髪は風になびき、その目は遠くを見据える。


 剣を魔法に付与している次元ではなく、空を支配する存在。


 いや、風そのもの……。


 その顔が俺のほうを向き――


「ねえ……。大丈夫? 顔色が悪いわよ? 私は回復したから……。とりあえず、礼を言うわ! ありがとう」


 シャーロットの声だ。


 見下ろせば、上体を起こした彼女がこちらを見ていた。


 いつのまにか、ぐっしょりと汗をかいている。


 自分の鼓動を強く感じる。


 さっきまで白昼夢にあった高空で、暴風に晒されていたように……。


(何で、あいつ? たまに怖いのは、いつものことだが)


 マジックソード学院でいつも一緒にいた女子が、実は人知の及ばない存在かもしれない。


 そのイメージを持った俺は、冷水の中に落ちた錯覚に陥る。


(あいつの身の上話は、聞いたことがない……)


 伯爵令嬢だと知っているし、学院でもその扱い。


 貧乏な騎士爵の息子だった俺とは違い、金に困った描写もない。


 だが、それはいいんだ。


 今は、重要なことじゃない。


「立てるか? じきに追手が来るだろう」

「……ええ、もう体が動く! それ、高いんでしょ? あとで返すから」


 俺ですら、今使った回復薬が、一生かかっても返せない金額だと分かる。


「どこかで休まないと詰む……。移動するぞ?」



 ――近くの大都市


 こういった場面では、人の繋がりが強い村は危険。


 誰も関心を持たない大都市に限る。


 何とか潜り込んだ俺たちは、カップル用の宿に泊まった。

 まともな宿屋ではチェックが厳しく、逢引に使われるほうが安全だ。


 連泊は怪しすぎるため、一泊したら移動する日々。


 実は、フルゴルで宿にマリカが押しかけてきた時に、またお金をもらっていたのだ!


(別れた女の金で、他の女とプレイ用の宿に泊まり続ける……)


 とんでもない状況。


 それはさておき、シャーロットは本調子になったようだ。


 この大都市にも指名手配が回っているだろうし、こっそりと逃げるべき。


 しかし、ここでシャーロットが主張する。


 一通り聞いたあとで、確認する。


「リナを助けたい……。どこにいるかも、分からんぞ?」


「たぶん、王都だと思う! お願い!」


 シャーロットは懇願するも、サクリフィ王国の中心だ。


「あそこ、精鋭のギフテッド騎士団が駐留しているだろ? 10隊ぐらいなかったか? 魔法剣を極めた奴らばかりで……。それに、エレメンタル騎士団も」


 げんなりした俺に、シャーロットはショボンとする。


「そう……」



 いつものように寝る時間で、横になったまま、ウトウトしたら――


「起きて?」


 朝には早いと思いつつ、目を開けると、真上にユサユサと揺れる物体が2つ。


 垂れ幕のように長い黒髪があり、2つの赤目も俺を見下ろしている。


 俺の上でシャーロットが、四つん這い。


 片手を上げ、サイドの黒髪を耳の後ろに動かしつつ、恥ずかしそうに告げる。


「ティル? 私は、あなたに命を助けられた……。今返せるのは、これだけ! 遠慮なく、どうぞ」


 言いながらも、俺に覆いかぶさったままで動かない。


 寝ぼけていたこともあり、本能的にぶら下がっている果実を絞ろうと――


 閉じられた個室であるのに、風が吹いた。


 それは俺が上に伸ばした片手を軽く抱きしめるように通りすぎ、頬をなぞっていく。


 理屈ではなく、マリカだと感じる……。


 上げかけていた手が、思わず止まった。


 恥ずかしそうに待っていたシャーロットが、たまりかねて言う。


「私、魅力ない?」

「……そうじゃないが」


 上体を起こしたシャーロットは、巨大な物体がプルンと戻った。


 その視線を追っていた彼女が、呆れたように確認する。


「あのマリカって、女? 付き合っていたの?」

「学院では、一緒にいたな……」


 興ざめになったのか、肌色のシャーロットは立ち上がった。


 何も隠さないままで背中を見せつつ、振り向く。


 探るような横顔。


「まだ、忘れられない?」


 返事に困っていたら、シャーロットは色っぽく息を吐いた後で、おやすみと言い捨てた。


 どちらかと言えば、俺は正気度が下がっているのだが……。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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