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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第二章 聖女リナは王都へ向かう
16/22

危険を避けるには、直感か幸運が必要だ

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 半包囲したデストロイヤー騎士団が立ち直る前に、決める必要がある。


 そう思ったティルは、リナを見た。


 彼女も見つめ返し、頷く。


 次に、倒れたままで上半身を起こしたシャーロットを見た。


 けれど、シャーロットが何かを言う前に、再びティルを見つめる。


(自分はいいから、彼女を助けてと……)


 別の意味だったらコントになるが、今は決断の時だ。


 ティルは、重武装の騎士が警戒しているのを良いことに、シャーロットを肩に乗せた。


 くるりと背を向けて、全力疾走。


 身体強化により、時速40kmを越えた。


 肩に載せられ、くの字に折れ曲がっているシャーロットは、激痛よりも自分たちだけ逃走することにびっくりする。


「ちょっ! ちょっと!? リナ……リナがまだ残っているわ? 止まって!」


 シャーロットは、ちょうど背中側に頭があった。


 自分で顔を上げて、遠ざかるリナを見るも、彼女は微笑んだまま。


 右手のスピアを構えた重装騎士が、その前に立ち塞がった。


「くっ!」


 理屈では、逃げるべきだと分かる。


 今にも激痛で意識を失いそうで、自分を担いでいるティルを振り払う気力すらない。


「あ、うっ……」


 考えている間に、シャーロットは意識を失った。


 腹を支えにして、ティルの背中に頭が接する。



 見る見るうちに遠ざかっていく、男女2人。


 デストロイヤー騎士団の隊長は、素直に感心した。


『思い切りのいい奴だ……』


 リナ・ディ・ケーム公爵令嬢を奪おうとすれば、いくらでも殺す手段はあった。


 手足の1、2本ぐらいは、壊しても良かったのだ。


 けれど、こちらが体勢を立て直す前に倒れたままの女子を担ぎ、最短ルートで走って逃げた。


 時間をかけるほど、残り4人は新たな連携を見せて、マジックソード学院の生徒や一般兵が駆け付ける。


 ここは、サクリフィ王国だ。


『逃がすわけにもいかんな? 2人、飛ばせ!』


『『ハッ!』』


 2人が答えると同時に、それぞれスピアの先端を遠ざかっていくティルに向けた。


 ホバー走行による加速をしながら迫る一方で、回転しているコーン状のスピアが凄まじい勢いで射出される。


 直線で逃げていたティルと、気を失ったままで肩にのっているシャーロットを串刺しに――


 横殴りの強風が通り過ぎて、必殺のスピアを邪魔する。


 狙いからズレたことで、関係ないほうへ突き進み、やがて地面に刺さった。


『なっ!?』

『……風魔法の上級であるウィンドストームに、指向性を持たせた?』


 槍の部分をなくしたことで、握るためのグリップとその後ろだけになったスピア。


 それを持ちながら、ホバー走行をしていた重装騎士がターンする。


 新たな敵の出現に緊張するも――


『学院の生徒?』

『……我々を援護か、逃げる奴らを狙ったか! 余計なことを』


 地面に両足を下ろした重装騎士2人は、マジックソード学院の制服を着た女子に興味をなくした。


 彼女も、右手に持っているスモールレイピアの切っ先を下げる。


 ティルが逃げ去ったほうを見つめていた。


 隊長が、叫ぶ。


『戻れ! 聖女リナを護衛しつつ、撤収する! あの女は重傷だ。長くはあるまい……』


 乱入したティルは、そもそも殺す対象にあらず。


 自己完結した隊長に従い、倒れた1人も運ばれていく。


 最後に、隊長は堂々と立ったままの女子を見る。


(我々を恐れんか……。怖い女だ)


 2つの丸いゴーグル越しに見た隊長は、その女子がわざと邪魔したことに気づいた。


 しかし、任務は聖女リナの奪還と、王子を殴り飛ばしたシャーロットの始末か連行。


 偶然を装った邪魔にまで、付き合っていられない。


 むしろ、上手いやり方だと褒めていた。


 射出したコーン2つを含めて、彼らは痕跡を残さずに立ち去る。



 左腰にスモールレイピアを吊るした、マリカ・フォン・ミシャール。


 彼女は、デストロイヤー騎士団の邪魔をして、ティルを守った。


「そっかー! オッパイに栄養が集まった女のほうがいいの?」


 ボソボソと、怖いことを呟いている。


 心配して近寄った女子は、おそるおそる、尋ねる。


「だ、大丈夫? さっきのデストロイヤー騎士団って、村1つを焼いたとか噂になっているけど」


 その殺戮者のトップは、マリカを油断ならぬ女と評価していたが……。


 笑顔のマリカが、答える。


「うん、大丈夫! たまには、放し飼いにしたほうがいいよね?」


「……へっ? ああ、うん! ペットは、広い場所のほうが喜ぶし」


 訳も分からず同意した女子に、マリカは何度も頷いた。


 胸元のペンダントを開けて、ジッと見ている。


「家族の写真?」


 パチッと閉じた後で、マリカが女子に向き直る。


「そんな感じ! 足が速いから……。仕込んでおいて、良かった!」


 何が良かったの?


 そう聞きたかった女子は、かろうじて口を閉じた。


 好奇心、ネコを殺す。


 彼女は、デストロイヤー騎士団よりも恐ろしい魔の手から逃れたのだ。


 本当の恐怖とは、気づいた時に終わるもの。


 ともあれ、ティルとマリカは別れた。


 今後は、それぞれに人生を歩むだろう。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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