最初に反撃を許さない強襲、次に必要なのは……
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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灰色のアーマーで全身を包んだ騎士は、右手に長いスピアを持ったまま、2つの丸いゴーグルでリナを見た。
『聖女リナ……。リナ・ディ・ケーム公爵令嬢だな? 我々は、サクリフィ王国のデストロイヤー騎士団! ただちに、ティエリー様のところへ戻っていただく』
後ずさるリナだが、気づけば、死神のような騎士たちが周りを囲んでいた。
「あっ……」
顔が見えない騎士たちが動き、重なっているアーマーが擦れることでガシャリという音の重なり。
怯えたリナは、倒れたままのシャーロットを見る。
脇腹が、コーン状にえぐられたまま。
傷口を焼いて止血にもなったようだが、意識を失っていないだけ奇跡。
顔を向けた彼女は、リナに視線を送った。
(逃げて!)
その意図を受け止めたリナが、重装騎士たちの隙間を抜けようと――
突風のように移動した騎士の1人が、リナの前に立ちふさがりつつ、右手のスピアを向ける。
『やめろ……。貴様は聖女だが、命があればいいとのお達しだ! 手足を失いたくないだろう?』
先ほどのシャーロットを殺しかけた動きと、正面からのプレッシャー。
ガタガタと震える、リナ。
「あ、う……」
2つの丸眼鏡のようなゴーグルがあるマスクの騎士たち。
たった5人だが、先ほどの動きは見えなかった。
(とても、逃げられない……)
正面の騎士は、スピアの穂先を空へ向け、そのまま右胸のアタッチメントにつけた。
両手がフリーに。
『大人しく、我々と来い!』
正面から腕を伸ばされる一方で、離れている騎士が右腕に持つスピアを倒れているシャーロットに向けた。
隊長らしい騎士が、命じる。
『殺せ! ティエリー王子殿下を殴った大罪人だ!』
リナは、すぐに叫ぶ。
「やめてっ! 私は、あなた達に従います!」
『構わん、やれ!』
『ハッ!』
隊長のほうを見ていた騎士は、改めてスピアを下へ向けた。
片手で握っているグリップにより、キュイィイインとコーン状の槍が回転し始める。
『……悪く思うなよ?』
もはや、顔を向けて睨むだけのシャーロット。
倒れ伏している彼女に避ける気力はないし、避けても意味はない。
けれど、何かに気づいた隊長が叫ぶ。
『避けろ、ベルト!』
『……え?』
横殴りの強風が吹いたと思ったら、重装甲の騎士が横に吹っ飛ばされる。
『ぐおっ!?』
回転していたスピアも宙を舞い、何もない地面に突き刺さった。
ベルトも地面に叩きつけられ、数回のバウンド。
『ガッ……。ぐうっ!』
けれど、腐っても精鋭部隊。
残りの2名が、連携による反撃へ……。
いかなる理屈か、立ったままでホバーのように滑り出す。
『舐めるな!』
『……出てこなければ、死ななかったものを!』
それぞれにスピアを前に構えて、馬上で突撃するような重装騎士たち。
ベルトがいた場所に立つのは、1人の男子。
家名をなくしたティルだ。
素手で剣も帯びていないことから、騎士2人は勝利を確信する。
(多少、スピードがあろうと!)
(装甲と火力が違うんだよ!)
先頭の1人が、馬上突撃のようにスピアを前に突き出したままで迫る。
両肩には武器になりそうなスパイクがいくつもあり、見るからに強そう。
けれど、ティルは前へ飛び込み、両手で跳ねたことによるジャンプ。
その攻撃を避けた。
(甘いな?)
先頭の騎士は、速度を落とさないままで指摘。
上空に大きく飛んだティルに、後続の2人目が地面を蹴る。
SFのロボットがスラスターを吹かしたように、一気に飛ぶ騎士。
『もらった!』
やはり、右腕にスピアを持つ。
回転しつつ、高温による赤のコーンは、ティルを串刺しに――
「なんとぉおおおおっ!」
空中で叫んだティルは、手足の振りで姿勢を変え、器用に迎え撃つ。
『そんな、付け焼刃で!』
「女を串刺しで脅すのが、お前らのやり口か!?」
それぞれの意地と武器が正面から激突と思いきや、槍を避けたティルは騎士の胸の部分のアーマーを足場にして跳躍。
『何っ!?』
空中で止まりつつ、さらに体勢を整えたティルを見上げる騎士。
「高さがあれば!」
叫んだ、ティル。
縦回転をしつつの浴びせ蹴りを食らった騎士は、地面へ落下しつつ、叫ぶ。
『こ、こいつ……。なぜ、空中で自在に動ける!? 俺より上へ飛んでおいて』
あり得ない事態に混乱する騎士は、次の行動に出る前に、地面へ叩きつけられた。
断末魔のような叫びで地面にめり込んだ重装騎士は、動かず。
地面に立ったティルは、残っている騎士4人を見る。
デストロイヤー騎士団の隊長は、その光景に驚く。
『馬鹿な……。素手の男子に、1人がやられただと?』
重傷のシャーロットは、痛む傷口を気にしないようにしつつ、上体を起こした。
(これなら、大丈夫!)
けれど、楽観的なシャーロットに対して、人外のような強さを発揮した奴らを一蹴したティルは正反対の考えを抱く。
奇襲の勢いで、1人は倒せた。
逆に言えば、残り4人はもう油断しない。
連携する。
そして、増援を呼ぶだろう。
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