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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第二章 聖女リナは王都へ向かう
12/21

打算と恋心と陰謀が一緒になって、ティルを襲う!

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 下水道となっている洞窟で反響する、咳の音。


 俺は、歩く部分に正体不明の少女が寝ていることを見たあとで、腰のベルトから2本のダガーを抜いた。


 シャッという鞘走りの音を聞きながら、家畜の解体ぐらいにしか使えない刃渡りの柄を逆に握る。


 短いブレードは、それぞれの拳に隠された。


 せまい洞窟で、俺のスタイルは手足による打撃。

 ダガーの双剣による逆手持ちは、パンチと非常に相性がいいうえ、コンパクト。


 向き合っている敵にしてみれば、相手の拳を避けても、ブレードに切り裂かれる。


 ダガーは投げやすく、牽制にも便利だ。

 上手く顔面に刺されば、一撃で相手を殺せる!


 ジャリジャリとすり足で移動しつつ、両脇を締めて拳を上げた構え。


 気絶している少女との激闘で、咳をした奴も状況を理解しているだろうが――


 身体強化による蹴りこみで風のように動き、見当をつけていた場所へ踏み込んでのダガーの突きつけ。


「あっ……」


 寝ているところから上体を起こした姿勢で、自分の正面から喉に突きつけられたダガーに、息を呑む人物。


 小さく震えており、文句を言いたそうな、あるいは、助けを乞うような視線が向けられた。


「ごめんなさい……。私は戻ります……。せめて、シャロの命だけは……」


 栗色のロングだが、全体的にウェーブがかっている。


 けれど、オシャレではなく、不衛生によるものだ。


 藤色の瞳は、媚びるように向けられている。


「誰だ? ここは街の下水道で、立入禁止……。こんな場所にいれば、病気になって当たり前だぞ?」


 俺の発言に、目の前の少女は初めてキョトンとした。


「あの? 私を連れ戻しに来たのでは?」


「俺は、冒険者ギルドで下水道の掃除を請け負っているだけ……。何の話だ?」


 言いすぎたことに気づいた少女は、顔をゆがめる。


「私は……」


 ダガーを遠ざけた俺は、質問する。


「俺に奇襲をしてきた女は、お前の仲間か?」

「……はい」


「面倒事は、ご免だ! お前たちは、何をしたい?」

「……逃がしてくれるのですか?」


 目に光が戻った少女に、俺は首を横に振る。


「お前たちが、勝手に逃げてくれ! 名前は教えろ」

「……シャロは?」


「お前が起こして、事情を説明しろ……。また襲われたら、かなわん」

「……はい、分かりました」


 ヨロヨロと立ち上がった少女に、肩を貸す。


 倒れている襲撃犯に声をかけた少女は、事情を説明する。


「シャロ、冷静に聞いて? この人は――」



 ――15分後


 襲ってきたシャーロットは、恨めしそうな視線を向けたままで体育座り。


 調子が悪く、ずっと咳をしている薄幸そうな少女が、リナ。


 俺もティルという名前を教えて、三者面談。


「繰り返すぞ? 俺は下水道の掃除があるから、仕事に戻る! その間に2人で逃げるなら、好きにしろ! この仕事は、昼にメシが出る。夜まで待つのなら、2人分を調達しよう」


 その言葉で、少女2人はゴクリと唾を呑み込んだ。


 俺は、さらに踏み込む。


「下水道では、死体があることもザラだ……。俺に任せるのなら、その手でいったん街の宿まで運ぼう」

「それで、私たちを楽しむってわけ!?」


「シャロ!」


 リナが、咎めた。


 掃除に戻りつつ、改めて告げる。


「お前らが捕まれば、俺も共犯にされるだけ……。担当した区域にいれば、匿っていたと決めつけられる! それから、臭いをどうにかしないと、街に逃げ込んでもすぐにバレるぞ? 昼にメシを持ってくるから、それまでに決めろ! 逃げても、構わない」


 俺の指摘で、顔を真っ赤にした少女2人。


 付き合っていられず、下水道の掃除へ戻った。



 ◇



 地面に横たわるような座り方のリナは、ぽつりと言う。


「あの方に……。ティルに任せましょう?」

「リナ! あいつ、スケベなのよ!? 私のオッパイだって、いやらしーい掴み方だったし!」


 首を横に振ったリナは、説明する。


「弱っているとはいえ、あなたを圧倒したのでは? 驚くべき身体能力です……。今の私たちを罠に嵌める必要はないし、騎士や兵士を連れてくるか、食事に睡眠薬を盛ってくるようなら諦めましょう。私たちを楽しめると期待していれば、官憲に教える可能性も低いですし」


 悪い顔になったリナが、試すように提案する。


「安心してください! ティルの相手は、私がしますから――」

「い、いやいや! リナじゃ、壊されちゃうよ!? 私が搾っちゃうから! ほら、ちょうど大好物のオッパイだって」


 耐えきれなくなったのか、クスクスと笑うリナ。


「えっ? ど、どうしたの?」


 呆気にとられたシャーロットに、教える。


「シャロ、必死すぎ! フフフフ!」


「もうっ!」


 からかわれたと悟ったシャーロットは、むくれた。


 いっぽう、真面目な顔になったリナが、宣言する。


「あの男を取り込まないと、2人そろっての脱出は無理でしょう? こんな状況で助けてくれるのなら、体を差し出すぐらいは構いません。……ヤレないほうは見捨てよう、と思われても嫌です! 私が動けなくなったことで、あなたを巻き込んだわけですし」


「そっか……。うん、分かった! なら、あいつがそれで頭一杯になるぐらい、楽しませないとね?」



 ――マジックソード学院


「クシュン!」


「風邪?」


 女子の友人に気遣われたマリカ・フォン・ミシャールは、首をかしげた。


「ちょっと嫌な予感がして……。聖女のリナ・ディ・ケーム公爵令嬢は、まだ見つからないの?」


「うん! 攫ったシャーロットとかいう女子はもちろん、聖女も無傷で捕えろって!」


「無茶言ってくれる……。ティルみたいな打撃バカがいて、他にも仲間がいるかもしれないのに」


 息を吐いたマリカに、友人が揶揄う。


「そのスターン君……ああ、もう家名はないんだっけ? ティルが聖女と一緒に自分の女にしていたり?」


「やめてよ! あいつ、一緒の部屋に泊まっても手を出してこないのに……」


「ご愁傷様……。聖女を破瓜させたら、婚約させたい王族が八つ裂きにするだろうからねえ?」


 彼女たちにとっては、まだ笑い話だ。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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