下水道には色々な生き物が住みつく
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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家名のスターンをなくした俺は、ただのティルとしての旅。
マリカ・フォン・ミシャールにお金を払ってもらいつつ……。
当たり前だが、彼女はマジックソード学院に帰る。
俺としても、すぐに稼げる仕事がある街が目的地だ。
それで、学院生が下宿したり、遊びに来たりするフルゴルに滞在しつつ、冒険者ギルドの掲示板で日雇いの仕事をこなしている。
マリカは、マジックソード学院に行ったまま。
これまで世話になったし、彼女が戻ってから、俺の予定を決めるつもりだ。
旅費を払う必要があるし……。
俺がこのまま踏み倒すと思っていた人は、怒らないから、手を上げなさい!
今日も今日とて、小銭を稼ぎに行く。
――フルゴルの冒険者ギルド
開放された出入口は広く、武装したままの連中が目立つ。
俺は登録したものの、最低のGランク。
(パーティーに所属していないし、装備もないからな……)
水路の掃除といった、誰でも行えるが弱いモンスターが生息しているかもしれない場所へ出向く。
街の外にある施設か、森林の外周だから、犯罪者と出くわす恐れもある。
運が悪いと、盗賊団や犯罪シンジケートの支部があったり……。
掲示板に依頼の張り紙が張られ、その紙の奪い合いだ。
俺がやっている汚れ仕事は人気がなく、1日で済むとは限らないため、受付に申告して管理される流れ。
1日でテキトーにやられて日銭だけ奪われ、また次のやつも無責任だったら、困るからな?
今は、下水道の調査を兼ねた掃除をやっている。
ようやく慣れてきて、指定された範囲の掃除も半ば。
朝の混雑が終わったぐらいに受付へ話しかけたら、返事。
「おはようございます! ティルさんは、あと少しですね? 頑張ってください」
「ありがと……。これって、期日内に終わったらどうなるの?」
「確認して、報酬の支払いですよ? ティルさんは信用できるから、終わったら申告してください」
受付嬢の言い方から、金だけ騙しとる奴らも多そう。
(最底辺の汚れ仕事だし、受けるやつはお察しか……)
街の下水道は、汚水を流している。
洞窟を利用した通路があり、油断すればトイレで流される羽目になるっていう……。
――下水道の入口
いつもの場所へ行き、道具一式を借りて、護身用のショートソードや小さな盾を身に着けたままで、中へ。
中はぼんやりと光っており、俺みたいな人間が歩くための小さな道もある。
タッタッタッ
走っていく足音だ。
洞窟の壁で反響。
(……女?)
掃除道具をその場に置いて、左腰からショートソードを抜いた。
小ぶりだが、こういう閉所で使いやすい武器だ。
棍棒をそのまま剣にしたような、無骨なソード。
安いから、下水道で汚れたり壁にぶつけたりしても惜しくない。
両手で柄を握り、切っ先を前に向けたまま、ゆっくりと進んでいく。
下水が流れる音が続く中で、足音が途切れたところへ。
(……いない?)
すると、上から降ってくる気配。
背負い投げのようにしゃがみつつ、ショートソードを投げつける。
回転しながら飛んでいく剣に、上から奇襲してきた人物が動揺する気配。
『くっ!』
空中で姿勢を変えて、俺のショートソードを避けた。
しかし、体勢が崩れたままで着地する。
両足から降りたものの、身体強化した俺の拳が迫った。
『フッ!』
息を吐いた人物は、俺の拳をあっさりと外へそらしつつ、カウンターで前へ踏み込みつつの肘打ち。
姿勢を低くした俺も、相手の腹にタックルしつつ、地面を蹴りこんだ。
『キャッ!?』
不意を突かれたようで、その人物は宙に浮かび、洞窟の壁に叩きつけられた。
『カハッ! このっ!!』
けれど、体の前で両手を組み、上から振り下ろしてくる。
それに合わせ、俺も下から両手を突き上げ――
俺の両手は、それぞれに柔らかい物体にぶつかり、埋まった。
手が埋まるほどの物体は、スライムのように動く。
『ひゃんっ!』
その瞬間に、可愛らしい声を上げる襲撃者。
『ちょっと! あ――』
相手の動きが止まったから、足の位置を変え、相手に背中を向けつつ片腕をとっての投げ。
棒立ちだった人物は、あっさりと宙を舞い、洞窟の床に背中から叩きつけられた。
『ゴホッ!』
俺も倒れつつ、腕を巻き付けるように首を絞めた。
『がっ! ふうぅっ!』
『動くな! 一撃を当てても、お前の首も折れるぞ?』
倒れたまま両手で俺の締め技を外そうとしつつ、起き上がろうと両足を動かしている人物に警告した。
見る見るうちに顔が赤くなっていき、動きが鈍くなる。
何度もブリッジをしていた動きも、止まった。
弱々しい声が、限界を告げる。
『あっ……。ダ、ダメ……。にげ――』
抵抗していた手足が、ばたりと落ちる。
ぐったりとした襲撃者は、下水道の歩く場所で気絶したようだ。
不意打ちに注意しつつ、改めて観察する。
(さっきは赤い目……。長い黒髪を上で束ねている。さっきの感触から推測するに)
女のようだ。
それも、巨乳の。
(街の警備兵に突き出すか!)
俺が結論を出したら、コホコホと咳をする音が響く。
どうやら、もう1人がいるようだ。
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