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剣を捨てて殴ったら人生が変わった!  作者: 初雪空
第一章 追放というか勘当された
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女に下手くそと言われるのは傷つく

追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!

(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)

https://hatuyuki-ku.com/?p=4566

 小さな村を治めている騎士爵の父親と、その村にいた娘の間に生まれた長男。

 そのティル・スターンが俺で、今は15歳。


 本当に何もない故郷で、物心ついた頃から村の仕事をしていた。


 は?


 騎士爵つっても、普段はメシを食っているだけの用心棒と同じ。

 そのくせ、税金の徴収まで。

 村人に嫌われたら、やっていけないんだよ……。


 一応は貴族の端くれで、坊ちゃんの扱いだったけどさ?


 野党やモンスターが攻めてきたら、先頭に立って戦う。

 ノブレス・オブリージュそのもの。


 上の貴族は、絶対にやらないけど……。


「ふーっ!」


 心の中で誰に説明しているのか不明な独白をした俺は、大きく息を吐いた。


 両手で握っているロングソードを下ろす。


 素振りや型稽古をやっていたから、全身の汗で体が冷えていく。


 その時に、同い年ぐらいの女子の声。


「頑張っているわね!」


 マリカ・フォン・ミシャールだった。


 ミルクティー色のロングに、明るい茶色の瞳。


 可愛い美人系だが、本人の活発な雰囲気もあって、俺がいるマジックソード学院で大人気!


 同じ制服を着ていても、気品があるし、優秀な成績。

 おまけに、ミシャール伯爵家のご令嬢だ。


 彼女に向き直ると、しげしげ見つめた後で訊ねてくる。


「で、どう? 明日の追試は?」


 ワクワクしたままで覗き込むマリカに、俺はげんなりする。


「無理!」


「ちょっ! 諦めるの、早すぎ!?」


 慌てるマリカに対し、説明する。


「剣に魔法を付与するのは苦手で、そもそも魔法が下手! 詰んでる!!」


「スターン騎士爵家の跡取りだったら――」

「親父にさ? 『学費や根回しにいくら使ったと思ってる? 学院を叩き出されたら、感動する』って」


 首をかしげたマリカが、指摘する。


「勘当じゃない?」


「それ! 騎士爵は一代限りで、そもそも俺に関係ないんだ」


「よっぽどでなければ、管理している上の貴族がその騎士爵の息子に継がせるんでしょ? ……あ!」


 ギクリとしたマリカは、そーっと俺の顔色を窺う。


 もちろん、最悪だがなっ!


「あ、あのー? 怒ってる?」

「……怒ってないよ? 騎士爵の長男であるのに、魔法剣どころか、剣の扱いも下から数えたほうが早いけどな」


 やっぱり、怒っているじゃない。


 ボソッと呟いたマリカは、左腰に下げているスモールレイピアを落としつつ抜いた。


 リーチよりも手数を重視した、剣身を短めで、軽くしたレイピアだ。


 片手でヒュッと振ったマリカは、得意な風魔法を唱える。


「ウィンド!」


 とたんに、スモールレイピアの細長い剣身に風が張りつき、それは彼女自身もフォローする。


 俺が近くにある木を蹴ったら、葉っぱがランダムに落ちてくる。


「フッ!」


 片手で地面と水平に構えているマリカは、まさに風のようなスピードで切っ先を動かす。


 1枚の葉っぱを貫き、そのまま次の葉っぱを狙う。


 しなる剣身が葉っぱを切り裂き、分割された残骸がハラハラと散る間に、どんどん犠牲者が増えていく。


「……10枚か」


 息を止めていたマリカは、スモールレイピアの切っ先を下ろした。


「ふーっ! どう? 初級の風魔法なら、あなたでも……え゛?」


 俺のハイライトをなくした目に、絶句するマリカ。


 それを無視して、準備する。


「はいはい……。お手本を真似すれば、いいんだろ? ウィンド!」


 両手でロングソードを握り直し、先ほどの呪文を唱えた。


 スモールレイピアを左腰に吊るしたマリカが、両手を自分の腰に当てた。


「……早く、しなさいよ?」


 顔だけ向けた俺は、真顔で答える。


「もう、やってる」


 実は、ロングソードの剣身にそよ風みたいな動きがあるのだ。


 やっちゃった! と顔に書いてあるマリカは、慌ててフォローする。


「ご、ごめん! あまりに影響が小さくて……。じゃあ、いくわよ!?」


 同じように、木を蹴るマリカ。


 降ってくる葉っぱに、足を動かしつつ、ロングソードを振るう。


 振るう。


「当たらねぇえええええっ!」


 撃墜数、ゼロ。


 それを見ていたマリカが、片手を自分のひたいに当てる。


「下手くそ……。あっ! へ、下手でも、ほら! 気合があるとか、今後の成長が期待できるなあって――」

「もう、やめてくれ……。何だか、男のプライドまで砕かれた気がする」


「ごめんなさい――」

「だからさあ? お前が謝るほどに惨めな気分と……」


 ロングソードを投げ捨てた俺は、怒りのままに一回転して、片足を木に叩きつけた。


 辺りを揺るがす音と、振動。


 ゆっくりと片足を下ろせば、今度は感心したように腕を組むマリカ。


「そっちは上手いわね! 私じゃ、そのレベルは無理だわ……」


「何の意味もないけどな? ハアッ」


 落としたロングソードを拾い、鞘に納めた。


 マリカが、下から俺を覗き込む。


「もう、いいの?」

「……疲れ切っても、明日に差し障る」


 寮へ向かう俺に、横並びのマリカが話しかけてくる。


「ところで、今から食堂へ行っても遅いわよ?」

「……あ!」


 ごそごそしたマリカが、包みを差し出した。


「はい、これ! 冷めても美味しいから、今日中に食べておきなさい」

「ありがとう」


「少しでも精をつけて……」


 言葉を切ったマリカ。


 そちらを見ると、少し顔が赤くなった彼女が言う。


「あ、あのさ? さっきの会話、何となく意味深じゃない?」


 今更になって恥ずかしがるマリカに、突っ込みを入れる。


「俺はずっと、そう言っているぞ?」

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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