後編~これにて終幕です~
エピソード・ゼロを書いた後、私がwishを書こうよと提案したら、あっけなく「やってみるか」と返事が返ってきた。
これで、続きが読めると期待した私。
とはいえ。
すぐに続きを書き出したわけじゃない。
kは長年wishに触れなかった弊害で。
「なんのイメージもわかん…………」
今まで作り上げたものを読んでも、それが自分の作品だという感覚がなくなってしまい、続きがさっぱり思いつかないのだという。
それは、学生時代によくあることだった。
閃いた! と書出したはいいものの、ある程度でパタリ途絶える事がよくあったのだ。
やりとり再開後は、ひとつひとつ完成させる事を、より意識したようで、エタルことはほとんどなかったけれど。
……………これは、厳しいかな?
私の知る限り、中断して完成した作品は一つもない。
「――しゃーない」
「…………」
その言葉を見たくない。
その続きを知りたくない。
書かないと言って欲しくない。
私がそう思った時、彼はなんと真逆の事を告げた。
「やるか、やれるだけ」
「えっ?」
「いつも通りに書こうとしても、何も浮かばないなら思いつく限りの事をやり尽くすそう」
「――どういうこと?」
「まず、イメージがわかないのは今の俺の中に、康介や恭子がいないからだ思う。だから――今出来上がってい所を何度でも読む。読んで読んで読んで、あの頃のように、頭の中であいつらが動きだすまで、ひたすら読む。ストーリーだけじゃなくプロット、キャラ構成、データは残してるから、その全てを全部読み直す」
「・・・・・・ほうほう」
呆気にとられながらも、相槌を打つ私。
「んで、今までの内容を読みながら、今までの内容を改めて書く」
「リニューアルって事?」
「違う、俺は誤字脱字修正を覗いて直すきはない。書くのはその時のキャラの心情だったり、シーンの解説や説明など、俺が゛理解してwishに没入する”ための文章だ。俺は書くことで理解深めるタイプみたいだから、読むだけじゃなくて書くことで、wishの世界やキャラを思い出し、尚且つ物語の続きが俺の中で出来る気がする」
「なるほどなるほど」
「んで、俺は一旦”小説”を書くのをやめる」
「んっ?」
それは一体どういうこと? と首を傾げる私にkは説明しはじめた。
「これは以前スランプになった事でわかった事なんだけど、俺小説を書く時って、ストーリーと、文章のクオリティを知らず知らずの内に2つの事を意識してて書いていたんだ。それでそのうち一つがダメになると、それに引きずられて、もう一つもダメになる――だからまずはストーリを最後まで書き上げて、文章はその後っ! 極論でいうなら、ストーリさえ出来れば箇条書きで構わない! ネットで見つけた俺が名言だと思うものに”文章は、後で直せる!”というものがあった。そう、文章は後で直せる! なら重要視するのはストーリー!」
「お、おぅ」
「再開して、いくつも短編完結させて、ゼロだって書けた。だからやる。俺はこの長編書ききってみせる!」
あんた誰よ、といいたくなるぐらいの熱意と前向きさ。
素直に驚いている。
こんな情熱に燃える姿は、今まで見た事がないし、聞いたこともない。
私の友人はとっても凄くて。
けど、自分に自信がなくて。
どんな事をしても自分を認めるなんて事を、一度もした事がなかったのに。
なのに、自分の積み上げたこと自信として、やりきると断言したのだ。
「あのさ」
「ん?」
「頑張ってねっ♪」
私は本音を隠さず告げた。
あの作品が好きなのは、もちろんある。
けれどそれと同じくらいに。
kが自分を認め事が、これでもかといくらいに嬉しかった。
ああ、そうか。
私は、思った以上に、kの事が好きだったらしい。
そんな事を今更に思い知って、それが可笑しくて笑う。
「おう、ありがとなっ」
きっと友人も画面越しで笑っているに違いない。
そう思ったら、とても満たされた気持ちになり、期待しているからと再度エールを送った――。
それから、2ヶ月。
wishは完成した。
――その出来は、最高だった。
語られていく中で、1人1人の願いが判明し、その願いがどうしようもないものばかりで、けどみんな本気でそれを願っていた。
だから、攻略するなかで死傷者がでてきた時は、え、マジで? とは思ったけど。
まさかあんなどんでん返しを起こすとは。
それは言ってみれば、物語的にやりすぎなのかもしれないけど、でもそれまで彼らが歩んできた道のりを読んだ私は、あれでいいと思えた。
みんなが悩んで苦労して、報われるのは見ていてとても気持ちがいいものだから。
締めは、ヒロインの女の子視点で、願いが叶えられた後の日常生活。
困難を乗り越えた後は、みんな笑って締められるのは余韻として、上出来。
そんな最高の作品が2ヶ月で完成した。
一言で言ってしまえば、簡単に出来上がってしまったように感じるだろうけど、そんな事はなかった、と思う。
kは壁に何度もぶつかっていた、どうすればいいか、何度も迷っていた。
けれど、それでも諦めなかった。
諦めずに、件のやり方や、絶対に完成させるという意志を持って望んだ。
――俺、今まで自分の登場人物が勝手に動くって事なかったんだけど、初めてそれを感じたよ。
物語を書き上げる中での彼の言葉。
――すげぇよ。イメージ以上のものが書けた、なんて、俺初めてだ。
完結させたあと、興奮が収まらないと彼は言った。
――この長編が、傍から見て、どれだけ駄作でも、そんな事は関係ない。自分の全力を全て込める事ができた俺の――最高傑作だ。
そう断言して。
――ありがとうな、この作品と生み出すきっかけと、そして俺がもう一度書くきっかけをくれて。そのおかげで、こうして書き上げることが出来た。
私に向かってお礼をいった。
――本当に・・・・・・ありがとう。
バカね――感極まったように言わないで。
この作品生み出して。
一度書くのをやめても。
再度書き出して。
最後は大好きな作品を最高の結末にしてくれた。
今まで、最高の軌跡と
最高の奇跡をみせてくれた。
1番近くで。
こんなキセキ早々ない。
だから、だからね。
お礼を言いたいのはこっちのほうよ、バカ。
さすがに、そんな事恥ずかしくて言えないけどね。
でも、それでも。
これだけは、伝えよう。
私の全ての想いを込めて。
――すっごく、おもしろかった!
それから。
半年以上の時間が経って、私はwishを投稿サイトに載せることをすすめる――は少し違うな。
何度も推した、プッシュした、載・せ・て☆と懇願し続けた。
あの頃の熱意や前向きさはどこへ行ってしまったのか「あれ、俺とお前が楽しむために書いただけだし」「俺達が満足していればそれでよくね?」「他の誰かが面白いと感じるかどうかわからん」などなど、kは相変わらず、kだった。
それでもめげずに私はプッシュし、彼は私の言葉に頷き、ようやくネットに掲載される事に。
wishの掲載にあたって。
私はひとつのサブタイトルを提案する。
それは――。
~キセキを描き、キセキが集う物語~
友人は、まあお前がいうなら、と。特に疑問に思わずサブタイトルを付け加え掲載。
きっとこの意味を知るのは私だけ。
願いが集う場所で、それぞれが描いた軌跡が重なり。
いくつもの奇跡を生み出して、最高のハッピーエンドを迎える。
――それだけじゃない。
kいう書き手と私という読み手が出会い。
二人でwishを生み出すきっかけを作った。
そこから様々な出来事を得て、この最高傑作を生み出し、完結させた。
そんな道筋と幸運を刻み込んだ。
私の想いを詰め込んだものだ。
これは、誰も知らなくて良い。
ただそんな最高の物語が、少しでも多くの人に届けばいいと、そう願っている――。
こうして――。
私の見たキセキは幕を閉じた――――。
――――最後に。
この物語を近くで体験する事ができた私には一つの野望がある。
それは今度は読むことでなく、書くこと。
自身が最高傑作と言えるような物語を、自身の手で書き上げること。
それはとても難しい事なのかもしれない。
私は書き手として、とんでもなく未熟なのだから。
けれど、できないとは思っていない。
それは知っているから。
才能がないと決めて、諦めて、苦しんでも。
それでも書き上げた人間を、出来上った作品を誰よりも知っているから。
だから、書こう。
軌跡と奇跡。
この二つが、今度は自分に起せると信じて――――。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
多くの書き手の方が、満足した物語がかける事を。
又多くの読者の方々が、自身にとって「読んでよかった」と思える作品に出会えるよう。
心から願っています。




