中編その二~感想を教えてくれるって、照れるけど嬉しいものっ~
それからは、今まで途絶えていたのが嘘のように、空いた時間を使ってやりとりを再開。
日々のストレスや、楽しかった出来事を交えながら、お互いの書いたものを携帯を通して触れていく。
「いや、それ普通じゃね?」
「わかってる! わかってるけれども!」
彼に訴えたのは、「もっと具体的な感想が欲しい」について。
その事を伝えると「面白いならそう言うし、違ったなら、そういうか、言葉濁すだろ」と至極当たり前のもの、だけれども。
「あなたも書く側ならわかるでしょっ!? どこどこがいいよ、とか、ここが良くないからこうした方がいよ、とか具体的な意見が欲しい時があるって事を!」
「わかるけどさぁ、そこまで深く読みこむ必要性がそもそもないし、仮に読み込んだとして、どうしたらこのお話はもっとよくなるのか? そこまで考えるのはそれこそ極々少数だと思う」
は、反論の余地がない。
読書に限らず、娯楽は楽しむためにある。
その楽しみ方なんて人それぞれなのだから、友人のいう事は最もだ。
けれど、彼も書き手なのだから、もう少し寄り添ってくれてもいいのにっ。
「――まぁ、そうは言っても、書いたものに意見が欲しいのも当たり前の事か――――っで、今何か意見欲しい作品はあるのか?」
私が憤りを感じていると、それがわかっているのかいないのか、彼は尋ねた。
「――――」
「どした?」
「……そういうとこも、相変わらずだよね」
「なにが?」
「んーん、なーんでもありませーん」
ほんと、変わってないなぁ。
文句や否定的な意見を言いながらも、相手の意図をくむところ。
素直に最初からそうやってすれば、周りに誤解なんてされないのにね、もったいない。
そう思いつつ、彼に読んでもらう作品をピックアップし、選んだ作品のURLを彼に送った。
彼に送ったのは、短編の恋愛もの。
ちょっとした不思議要素を盛り込んだ、高校生の男女のお話。
「へ~主人公は右手で相手の左手に触れると、相手の心が読める病気にかかるのか、しかも異性限定なのなこれ」
「そうそう、思春期になると、ちょっとだけ不思議な能力が宿るんだけど、能力は個人によって違って。それがこの世界では病気扱い。そして病気だからある程度の期間を過ぎれば完治して能力は消滅」
「元々男嫌いで、周囲には潔癖症扱い。周りから浮いたところに、陽キャの男子高校生に触れて、彼の悩みに触れると――いいんじゃないか? 出会いのきっかけ作りになってるし、その不思議能力で、ハプニングや解決と、物語を盛り上げる要素に組み込まれてるし――相手の能力が、右目で映る対象者の感情による変化で自分の髪の毛の色が変わる――最初はギャクか思ったけど、最後で主人公を見て、髪の色が変化。窓に映り込む事で、彼も主人公の思いを知り、そこで互いの能力がとけ、能力ではなく自分の意思で本音をいうのも、綺麗な締め方だと思うぞ」
「そ、そう?」
「ああ、能力の使い方も上手いし、締め方も上出来、良い作品だと思う」
あうあうあうあう!
さっきまでと真逆に、これでもかと褒め殺してくる。
先程と一緒で深い意図はなく、ただ思っていることを告げているのがわかるのだけど、これはさすがに照れるってっ!
「こんなとこでいいのか?」
「あ、ああそうねっ――もし改善案なんかもあれば、是非お願いしたいかな!」
「改善案、ねぇ。そういうのって好みもあって、押し付けになりそうな気がするから、本人が納得しているなら、あんまり言うのもどうかと思うんだけど・・・・・・改善案というのは、基本的な構成はこのままで、今のまま、よりよく見せるには? ってことでいいのか?」
「あー・・・・・・うん、そうね」
問われた質問を頭の中で整理し、私は頷いた。
確かに、この話の土台と呼べる構成に関しては、私は満足しているし、変えようとは思っていない。
なので、kの言うように、その部分の指摘を受けるよりは、そのほうがありがたいなと思った。
「まあ、そうはいっても、見せ方っていうのは文章の長さや、言葉選びも関係してきて、そこも言ってしまえば好みや相性なんだけど――なあ、一個聞きたい事があるんだけど」
「何?」
「この最後・・・・・・主人公がお互いの想いを口にした後で、間が開いて、そこから人物の描写やセリフ一切ないよな、この締め方は見せ場の一種だと思っているのか?」
「そうだけど・・・・・・何か可笑しかった?」
「いや、゛魅せよう゛としているのかが知りたかった、ていうのと、言葉や表情を載せないのも、場面の視点を人物から離して、場面全体を映すように感じるから、それはいいんだけど――」
「ふむ?」
「もったいねーなと思って」
「もったいない?」
「ああ、だってさ、お互い本音を伝えたわけじゃん? それってさ、互いの素を出した瞬間で、その表情って凄い貴重だと思うんだよ」
「・・・・・・それって、もう少し人物の描写を入れた方が良いって事?」
「ちょっと違う、別にどんな表情を浮かべたか、っていうのは、俺的にはどちらでも構わない。たださ、その表情を見た時の心情は入れてもいいかなって」
書いた方が早いかと、彼は少しの時間メッセのやりとりを中断させて、打ち込み始めたらしい。
少し間、返信は途切れた。
そして五分経ったぐらいに、文章が送られてくる――。
零れた本音を、今度は病気抜きで伝えるために、私は口を開き。
それを聞き終えた後で、彼も応えた――。
初夏を迎えた今日は、蝉が鳴き、日差しはとてもキツい。
そんな中でやりとりをしたせいだろう。
晴天の中、私達の顔は真っ赤に染まっていた。
今日は本当にアツイ一日になりそうだ――――。
ここまでが元々あったもので、この下に「俺だったらどこかにこれを入れる」と書かれた文章が――。
私の想いを聞き終えた後、彼の表情は今まで見た事がなくて。
きっとほとんどの人は知らなくて。
私はそれを知る事ができたんだ。
緊張とは別の感情で、胸や顔が熱くなる。
「・・・・・・」
どうしようもないくらいに、私は彼を想っている――。
「おぅ」
文章を読み終えて、感嘆のため息が漏れる。
「どうだ? 速効で考えたから、文章可笑しいかもしれないけど・・・・・・」
「いいよ、凄くいいっ! あえて言葉を足さない方がいいと思ったけど、そっかぁ、相手の表情をどう感じたか、だけでも見せる事ができるんだ、なるほどぉ」
書き上げた時はこれ以上のない力作! って思ったけど、ちょっと付け加えるだけでも、同じシーンの感じ方、受け取り方ががらりと変わる。
言葉や表情の描写はいれていない、それは変わらないのに、何となく浮かべている表情が想像できるようになり、ぐっと引き立てているように感じた。
「俺の言いたいことはこんな感じ、だけど、あくまで”一意見゛な? これが一番だとか、他が間違っていると言いたいわけじゃなくて、一読者の意見だ。これをどう思うのか、使うのか使わないのかはそっちの判断で決めてくれ」
「いや十分十分、やっぱり゛書き手゛だけはあるわね」
「変に持ち上げんな、俺は別に才能も無くて、ただ好きでやってるだけの人間なんだから」
・・・・・・そこも変わらずと。
そこは、できれば変わっていて欲しかったなぁ。
とはいえ、意見はありがたく参考にさせてもらおうっと。
また、何かあればよろしく~と言って、その日のやりとりは終わった。
このように、創作の話題を盛り込んで、日々は続いていった。
その中で、彼も一つ、二つと短編を書き上げる。
どれも、やっぱり面白い。
そう思っているときに、私は彼にある提案をした。
提案の内容は――――。
「――プロローグを書いてくれ?」
「そうそう」
「どういうことだそれ?」
私の提案に、意味がわからないとばかりにそう返したので、私は説明を始めた。
「私今後描きたい長編があるんだけど、本編に行く前に「数年前に起こった出来事」を盛り込みたいの、ほら映画とかでもあるでしょ「とある事件の生き残り」みたいなモノ。本編では時間が流れているから全く無関係に見えるけど、話が進んでいく内に「事件の内容」や「生き残り」が作品の重要な要素であることが判明、みたいな」
「あ~」
「本編はある程度設定が固まっているんだけど、その盛り込みたい内容は概要だけで、詳しいイメージが浮かばない、一度書いて貰って、それを参考にしたいなーと」
「・・・・・・ちなみに、概要ってどんな感じなんだ?」
「廃ビル大爆発☆」
「・・・・・・はっ?」
「だから廃ビル大爆発っ――じゃあさすがにあれか。ええとね、私超能力が使える現代ファンタジーを考えてるんだけど、その世界でとある研究施設があって、子供を実験材料にしてるの。それに見かねた研究者が生き残りの子供を二人連れて逃げだすんだけど、その実験施設から追っ手がきて、廃ビルに逃げ込む。逃げ込んだ時に、研究者は姉に助けを求めて、姉や知り合いが駆けつけ、激しいバトルが繰り広げられる。最後は姉と子供以外みんな死んで、廃ビルから救助されるのはその三人だけ。そして子供が高校生になって、本編開始っ! って感じ」
「あ~、いきなりとんでもワードが飛び出すから、どんな突拍子のない話かと思ったわ」
「ごめんごめん」
「そこまで浮かんでるなら、自分で書いたらいいんじゃないか?」
「いや~自慢じゃ無いけど、戦闘描写は苦手でして、あと大まかなイメージだけだとどう書いていいからさっぱりで、困ってたのよ」
「はぁ」
「お願いっ! どうか私に慈悲を!」
「そんな必死にならなくても・・・・・・」
「お願いします、神様、友人様、k様!!」
「・・・・・」
私の狙いは二つ。
一つはkに頼んだ事がそのまま。
もう一つは、kがリハビリとしてこの作品のプロローグを書き、その後「そろそろ例の長編に挑んでもいいんじゃない?」と提案する事だ。
やりとり再開後、彼は短編は書いてもwishの続きを書こうとはしなかった。
それとな~く、提案しても「書けないから」の一点張りで、wishに取り組もうとしない。
最初は再び書き始めたのだから、と待っていたのだが、彼の口からwishのwの字も出る気配がない。
それは困る。
非常~に困る。
私の生きがいだった作品。
出来上れば傑作になる事間違いなし。
そんな作品が完結する事無く、埋もれていいわけがない!
作者がそれを望んでも、決して埋もれなどさせてなどなるものか!
そのためには、私が何度も促し、そして彼に書いてもいいかと思わせる経験を積ませる事が必須っ!
なので、そのための一環としてこうして頼みこんでいるというわけだ。
「はぁ――まぁいっか、ちょいやってみるわ。生き残る子供の性別は?」
「男の子と女の子の一人ずつ」
「OK、ちょい待ってろ。ああその概要というやつ、書いてるんだったら、送ってくれ」
「ありがとう、じゃあ今から送るね。出来たら――」
「ああ、多分すぐできるから、出来たら送る」
――マジで?
ちょ、嬉しいんだけど、そんなに早く出来上るのも、それはそれで困るというか、えぇ?・・・・・・。
友人の言葉に困惑して、かといってそれを伝える事もできず、一時間後――。
「できた」
「早っ!?」
「内容確認してみてくれ」
「う、うん」
私は彼の送られた内容を確認する。
――うん。
これはいい。
子供視点でドンパチが繰り広げられて、実際は生々しい出来事を、幼い言動で盛り込まれている。
このギャップはいいな、と思う。
本編にも、色々活かせるだろう。
朧気な記憶は、実は――的な。
いい、んだけど。
「あの、非常に心苦しいんだけど」
「まずかったか?」
「うーんと、ね」
出来上がりがいいだけに、突っ込むのはどうかと思うんだけど。
「子供視点じゃなくて、出来れば、誰がみても、わかるようにしてくれると助かる、かな?」
「あ~…………なるほどな、わかった。じゃあ書き直すわ――誰が見てもわかるようになら、ちょっと時間を貰うけど、いいか?」
「も、もちろん」
彼は怒ることなく、再度プロローグとなるものを書き出してくれた。
・・・・・・ちょっと、さすがに申し訳ないなぁ。
何かお礼を考えてたけど、ちょっと奮発しようかな?
出来上がった時のお礼を考える私。
何がいいかな・・・・・・。
――この時は、そんな風に思っていた。
そう、この後に訪れる、とてつもない結末を。
この時の私は知る由もない。
思えば、これがキセキに拍車をかける要因だと、今なら思える。
けれど、それを知るのはもう少し後の話だ――。




