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前編~はじまりはじまり~

 キセキが始まる前――。














 私は高校でkという友達が出来た。


 色々変わった友人。


 そんな友人の趣味の一つに、小説を書くというものがあった。


 今まで私の周りにそんな事をする友人はおらず、また彼の語る話やアイディアはどれもわくわくさせるものばかりで、私の楽しみの一つになっていた。


 実際にできるものより、そのほとんどが途中で断念してしまうものが多く、残念ではあったけれど。


 それでもいくつかの短編や、彼が初めて書き上げた中編は私を満足させるものだったので、それでも十分と言えば十分。


 ――まあ、その中編は、今の彼によると”黒歴史”にあたるらしく、話が出る度に悶絶する。


 それがとても面白くはあるのだけれど、あの作品の密かなファンである私は 、いつか作品をリニューアルさせて、ネットに投稿させようと画策中なのは――――彼には秘密。


 さて、そんな風に学園生活を過ごし、卒業間近になった頃、いつものように創作談義を繰り広げていると、彼と私で1人ずつ、キャラを練ってみることになった。


 私が女の子 。


 彼が男の子。


 この2人の関係性は、恋愛ではなく友情の絆で結ばれている。


 その条件で2人して、あーでもない。こーでもないと会話を繰り広げ、出来上がったキャラを使い、彼がワンシーンを書き上げる。


 この時、彼にはいわゆる”やる気スイッチ”がはいった状態で、その時の彼はまるで別人が入り込んだかのように、父親から譲り受けたノートパソコンのキーボードを物凄い勢いで打ち続けた。


 ――彼は自分の事を、よく才能がないと言っている。


 勉強も運動も何もできず、好きな創作でも”好き”以外ものは何も持っていないって。


 文章はヘタクソ。


 思いつくものはありきたり。


 ただ、読むのと書くのが好きなだけ。


 そうやって、何も持ってないと笑う。


 正直、彼のそういう所は今でも嫌い。


 嫌いだけど、それを抜きに言うなら。


 1つのことに、これだけのめりこめて、目に見える形にできるのは、十分才能といっていいのでは?


 私はそう常々思っている。


 きっと彼にそう言っても苦笑するだけだから、からかい半分、本気半分で、”kクオリティ”と名付け、会話に盛り込んでいるのは、余談。


 とにもかくにも、すぐに出来上がったものを見て、私は驚いた。


 彼の凄い所は、書いた物語の登場人物達を”生きた人間だと思わせる所”。


 いつもどんな魔法を使ったのか、そう思わせるくらいに、文字だけで、その感情や行動が直に響いて――そういう所がとても大好き。


 そうして今回、たったワンシーンだけだというのに、文章の先で、2人の男女が日常風景に心が踊って。


 ――もっと読みたい。


 この2人がどんな世界で。


 どんな物語を繰り広げて。


 どんな結末を迎えるのか。


 ――読みたくて、仕方ないっ!


 興奮を抑えきれない私は、鼻息を荒くして彼に詰め寄り、そんな私にしどろもどりにながらも、彼にしては本当に珍しく。


 ・・・・・・やってみるか。


 前向きな言葉で、肯定してくれた。













 ――これが。


 ――キセキのはじまり。


















 まず、kがするのは物語を書くことではなく、物語を練ること。


 2人を確実に出す、と決めた以外は何も決まっていないので、当然のことだった。


「舞台は現代?」


「そうだな、2人のやりとりが携帯を使っているから、そこから舞台を異世界に転換するイメージもわかない」


「じゃあ日本で~――――年齢的に学園もの?」


「そうだなー、……でもファンタジー要素も取り入れたいし、ちょっと考えるわ」


  そういって、1日かけて練ったものを携帯に打ち込んで私に見せてくれた。


  どれどれ――――。

















  舞台となる神央(かみおう)学園。


 ここは、寮生活であるということ以外に、もう1つ大きな特徴がある。


 それは、この学園には女神が存在し、夜になると学園の建物全てがダンジョンに変貌するというもの。


 そのダンジョンは天まで届くと言わんばかりに長く、そして様々な危険が満ち溢れていた。


 普通なら、近寄ることも、中に入ることも躊躇うだろう。


 だが、それでも1部の者はダンジョン攻略を目指す。


 何故なら、最上階に辿りついたものには、女神自ら願いを叶えるというからだ。


 だから、願いを持ち、いかなる苦難があっても乗り越えたいと思う者は、今日も今日とて、ダンジョンに挑む――――。

















「ほほう」


「どうだ?」


「悪くない、って感じかな? これからに期待って感じ」


「なら、これをベースにする」


「ちなみに、2人共ダンジョンに挑んでるのよね?」


「そうだな、学年は3年。 年数かけてダンジョンに挑んでる、という事にしないと、ダンジョンの難易度が低いことになるし」


「そうよね~」


「ただ、物語序盤叶えたい願いは2人になくて、記念受験みたいにしようと思ってる」


「記念受験?」


「そうそう。願いを叶える事が目的じゃなくて、あくまで面白そうだからと挑む――これはお前の考えた”恭子”の性格的にありだし、それに付き合わされる幼なじみの”康介”という図式にすればいける」


「面白いとは思うんだけど、危険なところに喜々として行く普通?」


「それはダンジョンの難易度を初級、中級、上級にわけて、初級は普通のアトラクション、中級はケガのリスクのあるアトラクション、上級から上は――死のリスクがある、ということにすれば、ダンジョンを体験するものと、最上階を目指すものの2つにわけられるだろ?」


「なるほどなるほど」


  あくまで、目指すもの以外にとっては、遊びの延長線上になる、という事か。


「まあ他にも細々した事は決めていくけど、ここまで決めたから、試しに書いてみるわ」


「OK――ねぇ、これってタイトルは決めてるの?」


「一応」


  そう言って、彼はタイトルを告げた。


  願いを叶えようとする者達が集う場所。


  主人公達が願いを叶えるために奮起する。


  そうして、最後にみんなの希望が叶う物語。



 だから。




 ――wish。




 願いと希望の名前がぴったりだと、そう言ったのだ――。













 書き始める、と言ってから、ワンシーンが出来上がると度に見せてくれて、生きた2人が学園でワイワイするシーンや、仲間になる同級生、ヒロインである下級生。


 更には物語を彩る脇役達が、主人公の学園生活を盛り上げていた。


 願いを叶えるために留年を続ける、万年留太郎には笑わせて貰ったし、女神の月詠が保健室の先生してるのは思わずふいた。


「ちょっ女神! 女神が保健室の先生してる! しかもかなりノリがいいんだけど!?」


「色々考えたんだけど、学園の割にデンジャラスな空間すぎるから、ある程度、命のリスク減らそうとしたすると、学園内で声をかけられる場所にいて貰った方が都合よくてさ」


「ふむ?」


「死ぬリスクは、願いを叶えるというとんでも要因があるから仕方ないとしても、やり続けてやっぱやめたいとかあるだろうし、後基本ダンジョンは夜に入口に立てば、攻略中の階層にワープする仕組みだけど、例えば何かの罠にかかって死にかけた時にタイムオーバーで、ダンジョンの外に出たとして、次回挑んだ時にそこからってなったら確実に死ぬじゃん」


「あー……」


  針山に落ちそうになって、次回そこに飛ばされたら、死ぬわね。串刺しにされて。


「だから、そういった諸々に対して、女神に打診でき位置にいて貰っほうがスムーズなんだよ。だから学校の先生にした」


「なるほど」


「あーちなみにそういった話に関しては、やめるなら今後ダンジョン攻略不可とか、その階層に飛ばさない代わりに、現在地より-5階からとか、条件はつけるようにする。命のリスクがあるから死なないようにできるよ、ってすると今度はリスクがなさすぎて話が面白くなくなるし」


「そうね――ねぇ1ついい?」


「んっ?」


「――――保健室の先生は、趣味なの?」


「――ノーコメント」


  ああ、好きなんだ。


 うん、別にkの趣味にとやかくいうつもりはない。


  性癖なんてひとそれぞれだし。


 ただ、からかう材料を1つえた、程度のもの。


 彼の趣味はともかく、内容はとても面白い。


 大まかな部分はテンプレートと呼ばれるありふれたものかもしれないけど、友人は話を作りこむ際に、自身の解釈を盛り込むし、登場キャラは生きているように書けるので、十分オリジナルティがあると思った。


 なので、この話を1番近くに読むことができて、私は幸運なんだろうなと思っていた。


 それは、高校を卒業しても変わらなかった。


 進路は別々で、遠く離れていても、現代はネットや携帯ですぐに連絡が取れる。


 文章だって簡単に送りあえるのだ。


 空いた時間使ってのやりとりで、wishの続きを読む事ができた。


 新しい環境で日々疲れても、wishが私を癒してくれる。


 完結したら、それが終わってしまうのが残念ではあったけれど、それでも今この時を楽しんでいようと前向きに捉えていたのだ。





 ――――話の続きが送られてこなくなるまでは。




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― 新着の感想 ―
私とkの関係が良いですね。ふたりでわいわいしながら書くのは楽しそうであり、大変そうです。ただ視点、フラグなどは漏れなく反映されそうです。 なにやら不穏な空気を漂わせながらの終わり方ですね。 先が気に…
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