4話 草を食べる男
実力テストでは散々な目にあった。いきなり食べたいという少女に草を食う少年。物語に出てきても少し色が薄いキャラクター設定だが、現実ではとても狂っているのだ。そんな人たちに今日も会う。
「未来、これって」
「違うの! ちょっと、前日に寝れなくて」
土日を挟み実力テストの結果が学年掲示板に貼られていた。上位100名には勿論自分は入っておらず、見ても気落ちするだけなのだが教室に行く際に目に入ってしまうのだ。そして、未来が1位を取っていると思い「おめでとう」と祝福を述べる口が止まった。
「そ、そうなのか。珍しいこともあるものだ」
「誰かが食べられるとか言うから...」未来はなにかボソッと言い鏡室へと向かった。
俺はしばらく掲示板を見続けた。兎に角、気合を入れ直さないといけない。もう一度地に足をつけて...
「異伝系兎、食べさせろ」
「うぉぉ...」
声をかけられることを予想はしていたが、こんなにも早く、突然脅されるとは思わなかった。
「昨日も言ったけど、食べられないって」
「どうしたらー」
迫る宇宙さんの頭を手で止める食されるのに待ったをかける。すると、後ろから馴れ馴れしい声が聞こえてきた。
「やあやあ、お二人さん仲がよろしいことで」
テスト中草を食べていた、野原苅葉だった。どうして高校生活の初めから変人たちと関わりを持たなければならないのだろうか。いつかは関わるのだろうが、こんなにも早く...
「別に仲良くはしていない」
知り合いなのかぶっきらぼうに宇宙が答えるが苅葉に気にした様子はない。
「確かに仲良くはないな」
「ただ、異伝系兎を食べようとしているだけ」
「ブーーー」当たり前のように苅葉は飲んでいたお茶を吹き散らした。多くの人が同じ反応をするだろう。無言にならないだけありがたかった。
「おい、バカ」
「それは早すぎないか?」
「いやいや、違くない?」
そこじゃないんだ野原苅葉。君は知らないかもしれないが、昨日会ったばかりなんだ。しかも、堂々と学校で食べたいなんて言っていいことと悪いことがあるでしょうが。こいつも..感覚がずれているんだった。テスト中に草を食べる変人だった。
「なぁ、野原」
「苅葉でいいぞ。もしくは、アルギデント・ミルベヂ・グサでいいぞ」
「いや、なんだそれ、長いわ! なぁ、苅葉」
「おう、系兎」
「なんで、テスト中に草を食ってたんだ?」
この質問自体がおかしなことなのだが、聞かずにはいられない。あの時、確かに全ての生徒がテストをしていた。カンニング対策のために携帯などの電子機器は使用不可である。静寂の中、頭を働かせ問題に向き合っていたはずだ。だが、彼は草を食べていた。キャベツやレタス、大葉など見たらわかりそうなものではない。名称がわからない雑草と称される草を食べていたのだ。
「実はこれには訳があるんだ」神妙な顔つきになった苅葉はポケットに手を入れ草を取り出した。
苅葉の告白を前になぜか宇宙さんも緊張した表情を見せているが、状況がおかしいのだ。今、苅葉はテスト中に食べていた草と似たもの。いや、正確には違うのかもしれないが雑草を持っている。それを何故宇宙さんは緊張した面持ちで見ているのだろうか。
「実は、これを食べないと死んでしまうんだ」
予想にしないことを言ってきた苅葉に対しなんと言えばいいのかわからなかった。
「お、おう。何でテスト中だったんだ?」
「ちょうど、学校で新種の草を見つけたんだよ。それを新鮮なうちに食べるならあのタイミングしかなかったんだよ」
学校で新種の草を見つけた。おそらく植物図鑑には載っているだろう。てことは、苅葉は自分の中で食べたことない草を新種と言って毎回食べているのだろうか。研究者よりもストイックなのかもしれない。
「お、おう」
「引かないでもらっていいか?そこの口を開いて人間を食べよるとしている人もいるんだし」
隣にる宇宙さんを見ると俺の腕を口に持っていきかぶりつこうとしていた。
「バカやめろ」
俺の高校生活は食物連鎖の頂点を目指す宇宙人がいるのかもしれない。そんな危険性を孕んでいるかもしれないが、この二人がいると楽しい高校生活が送れるきもしてきた。