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3話 アルギデント・アルミダ・スミ


随分と順調そうだね、アルギデント・アルミダ・スミ


 日が落ち、多くの人が帰路についている。私もその一人であり、街中に溶け込んでいた。しかし、声をかけてきた彼は確実にこちらを付け狙い声をかけてきた。


本名で呼ぶな、アルギデント・ミルベヂ・クザ


 今思えば本名は長くとても難しいことがわかった。昔は長いとか難しいとかは思わなかったが、『地球住民』の名前を手に入れてからはその考えも変わってしまった。

 それ以前に前の名前がとても嫌いだった。もう、2度と聞きたくないほどに。


やり返したつもりだろうけど、俺はアルギデントの名を気に入っているから本名で呼ばれるのは光栄だよ?


 『アルギデント』という言葉は日本では存在していないらしい。いや、世界を探しても存在しないと思う。検索エンジンに『アルギデント』と入れても何も出てくることはなかった。


そう。私は嫌いだけど?


相変わらずだね、そんな事では異伝系兎を食べれないよ?


 目の前から姿を現した彼は手に草を持ち、口をゆっくりと動かしていた。


余計なお世話だ


 話すつもりも無い為、隣を通り過ぎると彼は人一人の感覚を開け付いてきた。


久しぶりに脳内で会話するよ


私は脳内で会話なんかしたく無いよ。ただでさえ毎日頭痛に襲われるんだから


 私たちは日本人とは違い会話をするのに口や耳を使わない。手振りや仕草など、非言語コミュニケーションを用いわず相手の喜怒哀楽などを感じることができた。


昔からそうだ。君はコミュニケーションをしなさすぎる。だから、思念伝達で頭痛がするんだよ。


思念伝達なんてまるで日本人になったみたいだね?


あぁ、昼にはおにぎりに草を巻いて食べ、夜の味噌汁には草をいっぱい入れているよ


 この男は一体自炊で何を作っているのだろうか。野菜が好きで無い私には彼の境遇は大変だ。


それよりも、よく私の居場所がわかったね?


教えてもらっただけ。君を感知することなんて、難しいことしないさ。


そう、それじゃあね。


「あれ、見失った」


 どこの世界でも夕焼けはとても綺麗なのだろうか。

 街中に埋もれていく太陽は初めて見た花火を綺麗に見え、私の安定している心拍数を上げた。花火の儚さや可憐さも大好きだが、夕焼けに覆われ、夜へと入れ替わるこの数時間を私は最近とても好きになっていた。


「お!宇宙ちゃん、コロッケ持ってきた」

「宇宙ちゃん、うちのキャベツサービスしちゃうよ」

「宇宙ちゃん宇宙ちゃん、クッキー焼いたの、食べて食べて」


 この街に来て1年が経ったかな。人は親切だし、手伝ったら毎回なんらかの食べ物をくれる。生活費に少し困っている時などはとてもありがたかった。しかも、とても食べ物が美味しかった。出来立てのコロッケは熱々で口の中で冷ましながら食べると、もう最高に幸せになった。今ではコロッケが一番大好きに貰わなくても沢山買っていた。


「皆さんありがとうございます。助かります」


「いいのいいの、毎回色々手伝ってもらってるんだから」

「前もうちの子のゲーム機治してくれてありがとね」


 何をしなくてもサービスなどをしてくれるのだが、この街の暖かさは循環している。何か助けたら助け返し、楽しければ笑い合う。前の世界では考えられない世界観だった。

 そんな生活をしていたからか、私も世間でいう柔らかさを手に入れたのだが、異伝系兎は私に食べられてはくれなかった。


 決して私は人間を食べたいとかは思っていない。私のために『異伝系兎』を食べたいのだ。


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