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2話 草を食べる高校生


「未来、なんか怒ってる?」


「別に怒ってないけど、新学期早々美人な宇宙さんと、どのような関係で?」


 三人とも同じ教室であるため、一緒にクラスへと歩き始めた。


「私が、異伝系兎いでん けいとを食べようと思って」


「宇宙さんは何を言ってるの!」


 顔を赤らめ宇宙の腕を掴んだ。腕は小刻みに震え、目元は少し潤んでいた。未来が歩くのをやめると、窓から流れ出る風に綺麗な茶色い髪が靡いていた。

 未来も宇宙に負けないくらい美人であり、この状況を多くの人が見たら簡単に惚れてしまうだろう。心底、幼馴染で慣れていて良かったと思った。タイミングを間違えていたら自分も勘違い野郎になっていただろう。


「未来さんも異伝系兎と同じで、言語はわかるけど意味がわからない人?」


「言語も意味もわかるわよ。でも、なんでそうなるのよ。どっちの意味を取っても意味がわからないわ」


「どっちの意味? 食べるにふたつも意味があるの?」


 純粋な返答に未来の顔はさらに顔を赤くして、プルプルと震え始めた。


「もーわけわかんない」


 未来は宇宙の腕を話しスタスタと歩き教室に入っていた。

 珍しく感情を露わにした未来は昔の笑顔を思い出させてくれるようだった。


「意思疎通は難しいね」


「あぁ、だから話は後にしよう。とりあえず、今日の実力試験を終えてからに」


 逃げるように教室に入り窓側の一番後ろ、の一つ前に腰を下ろす。そして、思い出した。自分の後ろには『宇宙住民うゆ すみ』がいることに。


 実力試験は現状の学力を把握することにある。しかし、現状最大限の力はとてもじゃないが出そうになかった。今、頭にあるのは『あなたを食べたいです』という言葉だった。一問、問題を解くたびに湧き出てくる『あなたを食べたいです』。

 時間を確認するために前を見ると湧き出てくる『あなたを食べたいです』。もはや、呪いだ。

 

 宇宙さんはどうして「食べたいと」言ったんだろう。いや、本当に食べるつもりでいたんだ。まるでそれが当然のように。そもそも日本で日常的にカニバリズムは行われているのだろうか。いや、あったとしても食べられるわけにはいかない。そもそも、そんな偏食的なこと...


 いや...いた。

 系兎は隣の列の先頭をぎゅっと、凝視した。

 この教室は、世間とは少しずれているのかもしれない。

 人間を食べたい奴、そして、テスト中にも関わらず草を食う奴。たった数時間で世間とのギャップを強く持つものがいるのだ。


 いやいや、そんなことよりも実力テストを真剣に解かなければならない。奨学金を貰っている手前、下手な点数などは絶対に取ってはいけない。

 それでも、頭から抜けない。ネジが外れたものがいる教室で自分が1年間学生生活を送れる気がしない。既に、1人とは会話をし、認識されてしまっている…


「異伝系兎、答案用紙ちょうだい」


 不意に横から声をかけられ現実に引き戻された。チャイムの残響が残り静寂が教室内を巡っていた。


「え、まだテスト始まったばかりでは?」


「何言ってんの? 1時間経過した。回収」


 力の抜けた腕からするりと答案が抜き取られ呆然とするしかなかった。


「何やってんのよ系兎」


 テストが終わり、机にへたり込んでいると、上から声をかけられた。


「未来か...テスト、できなかった...」


「見えてたわよ、絶望した顔を」


「災難だ...」


 実力テストは上位100位が掲示板に張り出される。特別、何かが起こるわけではないのだが、高校生活の始めをいい気分だ過ごしたい。


「何があったのよ」


「この教室には偏食者が2人もいる」


「急にどうしたの? 偏食者って系兎と宇宙さん?」


「宇宙さんは確かに偏食者だろうけど、違うんだ。草を食う奴がいるんだよ!」


「それとテストに何の関係が?」


 未来はわかっていない。人間を食べるやつと、草を常飲する奴がいることを。


「テスト中、草を食う奴がいるんだ」


「テスト中、草を食うやつ? そんな人がいるの?」


「あぁ、2列目の1番前、確か名前は...」


野原(のはら)苅葉(かりば)くん?」


「そう! 野原苅葉、あいつが草食ってて、テスト集中できなかったんだよ」


「でも、今は席にいないみたいね?」


 野原はテストが終わってすぐに何処かへ行ってしまったのか、席にはおらず、机の上には雑草と思わしき青々とした草が置いてあった。


「そう言えば、宇宙さんもいないね」


「確かに、どこへ行ったんだろう」


 辺りを見回しても宇宙さんは存在せず、自然と喧騒だけが、五感を支配していった。


 高校生には楽しみが多く、期待を膨らませていたのだが2日目からとても混沌とした場所なのだと知ってしまった。


「取り敢えず、今日は帰らない?」


 未来に促されるまま教室を抜け、まだ固いローファーへと履き替え帰路に立った。



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