第3話 伯爵夫人とメイド、最もプリンに合う飲み物は何かお探しになる
穏やかな気候の昼下がり、シンディとメイドのクレアはリビングのテーブルで向かい合っていた。両者ともいつになく真剣な顔つきである。
「いよいよね……クレア、準備はよくて?」
「はい、奥様。家事は全てバッチリ終わり、予定通りです」
「じゃあ始めるわよ。プリンに最も合う飲み物は一体なんなのか、決めましょう!」
「はいっ!」
クレアが事前に購入した、大きめのプリンを二つ用意する。
一口ずつゆっくり食べれば、完食までにかなりの時間を要するだろう。
「まず紅茶からいくわよ」
ポットから紅茶がティーカップに注がれる。むろん、ブランド物の一級品。
シンディはプリンを一口食べて、飲み込んでから、紅茶を飲む。
「ん~、紅茶の優雅な味がプリンを引き立てるわ。やはり王道はいいわねえ」
クレアも同じことをする。
「ホントですね! プリンの甘さを紅茶がより長く楽しませてくれる、という感じです!」
「これは早くも決まりかもしれないわね」
いきなりの大当たりにシンディがニヤリとする。
クレアが熱いコーヒーを注ぐ。
「いつものお店で、いい豆が手に入ったんですよ」
「次はコーヒーね。これも期待大だわ」
プリンとコーヒーを交互に味わい、シンディがゆっくり息を吐く。
「う~ん、いい……。コーヒーの苦みとプリンの甘みがよく合うわぁ」
「ええ、これは紅茶といい勝負といえますね」
次の飲み物はオレンジジュース。
「甘いものに甘いものを組み合わせても、あまり効果は期待できなさそうだけど……」
プリンを食べ、オレンジジュースを飲む。
「あああっ、甘みと甘みの相乗効果がたまらないわ!」
「プリンにオレンジの爽やかさが混じり、まるで天国のようです!」
「本当ね、天使になった気分よ! 私たちは天使になったんだわ!」
つい翼が生えたような心持ちになってしまう。
だが、まだまだ飲み物は終わらない。
今度の飲み物は白いミルク。ミルクをお供にプリンを楽しむ。
「まろやかなミルクとプリンのコラボレーション……!」
「牛さんに“ありがとう”と言いたくなりますね!」
「まったくだわクレア。そうだ、せっかくだし二人で言いましょう!」
シンディとクレアは遠く牧場にいる牛に「ありがとう」とお礼を述べた。
「今度は水をいってみませんか?」
「そうね、一度小休止がてら水を飲みましょう」
コップに入った水とともにプリンを食べてみる。
全く期待していなかったのだが、水もプリンによく合うのである。
「水もいいわね! プリンをかげながら引き立ててくれる感じで!」
「そうですね。喉越しがさわやかで、水無しでプリンを食べるよりいい感じです!」
水の次は変わり種。シュルク王国で栽培される柑橘類の一種であるビータの実から抽出した、健康にはいいが、極めて苦いと評判の“ビータジュース”を飲む。
「くおおっ! にがぁい! だけどプリンが清涼剤になるわ……」
「これも、プリンの相方としてはピッタリですね……!」
シンディとクレアはプリンとさまざまな飲み物の組み合わせを試していく。
すると、クレアが――
「奥様、ワインをお持ちしました。ちょっとだけですけど」
ワイングラスに赤ワインを入れ、運んできた。
シンディはこれを見て目つきを鋭くする。
「クレア!」
「あっ、すみません! お酒はさすがに駄目ですよね……」
「いいえ……ちょうどワインを飲みたかったの!」
シンディはニッコリと笑った。
シンディはもちろん、クレアもすでに法律上飲酒できる年齢なので一緒に飲む。
「やっぱり合うわねぇ~」
「ワインの芳醇さがプリンと絶妙にマッチしてますね!」
もはや、“どの飲み物が一番プリンと合うか”を決めるなど不可能になっていた。
プリンをチビチビ食べつつ、飲み物を飲み、気ままに感想を言い合う。
シンディにとってクレアは信頼のおける従者であるが、それ以上にかけがいのない親友といえる存在だった。
夜になり、ランゼルが帰ってくる。
リビングに入ったランゼルは仰天した。
「二人とも、どうしたの!? 確か今日は二人でプリンに合う飲み物を探すって聞いてたけど……」
あまりにもさまざまな飲み物を飲みすぎて、椅子に座って動けなくなった二人がいた。
「ごめんなさい、飲みすぎちゃったわ……」
「すみません、旦那様……」
「いいよ、いいよ。よほど楽しかったんだろう」
「うん……楽しかった……」
二人の仲の良さに、ランゼルはクスリと笑う。
「それにしてもシンディ。今君のお腹を指で押したら、口からピューっと飲んだものが出てきそうだね」
「ホントに出てきそうだから突っつかないでね……」
シンディは苦しそうな顔でお腹をさすった。