トンネルの天井-2
助手席のマイに睨まれながら、僕は覚悟を決めてアクセルを踏みました。
車がトンネルに入ると、天井にへばりついた人は僕らの少し前の天井を這うようにして、一定の距離を保って動いていました。
その間も、目だけはずっとこちらに向けられたままでした。
狭い山道のトンネルなのに、意外と距離は長く車のスピードを出さなかった事もあり、なかなか出口にたどり着きません。
「あのおばさん、ずっと居るんやけど…」
「霊感ないジェンに見えてるくらいだし、あれは相当ヤバいよ…」
「そんなん言わんでよ…天井にへばりついてるおばさんなんか、僕に見えんでもヤバいに決まってるやん。てか、あのおばさん何であんなコ◯ンの犯人みたいなのに、おばさんって解るんやろ?おばさん感半端ないんやけど…。」
「ふざけて茶化さないでよ!」
「あんなん見て、ふざけなやってられんよ…」
2人で震えながら、トンネルの中を走らせました。
やっと、トンネルの出口にたどり着いた時、トンネルを抜けた先は、バケツをひっくり返した様な豪雨でした。
トンネルに入る前までは、星が見えていたのに…。
一刻も早く、トンネルから離れたい気持ちとは裏腹に、豪雨の中でガードレールもない道では、大したスピードは出せません。
追い討ちを掛けるように、バックミラー越しに後から来る車のライトが反射し、後にぴったりとくっついてパッシングをしてきます。
「何なん後の車!こんなんスピード出せるわけないやんか!」
後の車の行為に、イライラはしていましたが、妊娠中の嫁を乗せて、事故をするわけにはいきません。
慎重に車を走らせました。
「ねぇ、とりあえず家までの時間だけでも知りたいし、ナビのセットするよ?」
助手席のマイが、ナビを操作し目的地を自宅に設定して、ルート案内を押します。
「ルート案内を開始します。」
ナビの音声が鳴りました。
「左です。左です。左です。」
ナビはずっと同じ言葉を繰り返します。
しかし、ナビの通りに左にハンドルを切れば、車は崖に落ちるのみです。
慌ててナビのルート案内を解除しました。
「急にこんな雨が降るのもおかしいし、ナビもおかしいやん…これ絶対あのおばさんが怒ってるやつやん…」
「意味ないかもしれないけど、一回あのトンネルの人に謝ろ?」
後の車には、申し訳ないと思いながらも、車を停車させて、2人共手を合わせて泣きながら謝りました。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
何度も何度も繰り返し謝ると、車に打ち付けていた雨の音が止まったので、目を開けると雨は止んでいました。
2人で抱き合いながら、
「良かったー!」と安心し喜んだのですが、ふと後の車の人に申し訳ないと、車を発進させました。
雨が止んでも、道が狭いのは変わらないので、そこまでスピードは出せませんが。
「あのさ…」
マイが震える声で話しかけてきました。
「ん?どうしたん?」
「後の車ってどこ行ったの…?」
マイに言われて、バックミラーを確認して気づいたのですが、後でパッシングしていた車も居なくなっていました。
「横に逸れる道なんか、あったっけ?」
「そんなん雨も酷かったし暗いし、気づかんかっただけやって…」
「そうだよね…?」
お互い言い聞かせるように無理矢理笑って話しました。
「もうナビも大丈夫やろうし、しばらく一本道やろうけど、家までの時間ナビで確認しよ?」
「OK。ちょっと待って。」
マイが再びナビのルート案内を開始にしました。
「ルート案内を開始します。ブツン!左です。左です。左です。」
ナビは再び左折の案内ばかりを繰り返しました。
慌ててマイが操作しますが、ナビはルートは止めてくれませんでした。