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09 お見送りの朝

宴会はかなり盛り上がっていたけど、それ見いてただけの私は執事さんに促されて、静かに母屋へと戻った。


一口、口につけただけのビールに酔っていたのか、ぼーっとしたままよく考えることもなく自宅にいるかにように行動したのだが、それが正解だったみたいで、私が寝るまでに必要としたあらゆるものが、いつもと同じ場所に置かれていた。


本棚こそ埋まっていなかったが、私の部屋も同じ位置にそれなりに再現されていて、お風呂上がりの私は、当たり前のようにドライヤーで髪を乾かし、スキンケアもして、新しいお布団を敷いて、いつものようにおやすみした。


で、翌朝。


そういえば、昨日はナナちゃん以外ほとんど誰とも挨拶もお話もしなかったな。


執事さん(仮)だって名前も知らないよね?


ゼンタくんたちだっていつの間にかいなくなってたし。

(後で聞いたんだけど、ゼンタくんたち精霊は食事の必要がないらしい。魔素以外に霊素っていうのがあって、それを常時外から取り込んだり、パスを通して契約者から分けてもらったりしてるんだって)


そんなことを考えながらいつものお稽古後のシャワーを終え、これもあって当然の如くあった着替え(服の好みどころか下着までちゃんと私のサイズ コワ)を済ませて茶の間へとやってきた。


この母屋、太陽光発電とかなんやら発電とかで、上の家とほとんど違わない生活ができるんだよ。すごいよね。


おかげてわたしゃすっかり自宅気分さ。


「おー真琴、朝の稽古は終わったのかえ?」


「うーん、外でやるの久しぶりだからなんか変な感じだったよー」


そう、下の家は、道場のあるべきところに神社の立派な御本殿があるので、道場がないんだ。

私は、いつもの場所に座って、急須から入れたお茶を一口飲んだ。

ふう、美味しい。

なんか落ち着くねぇ・・・


「ってえええっ!お、おじいちゃん!?」


去年の夏に亡くなったはずのおじいちゃんが、座卓のいつもの席に座って新聞、ならぬタブレットでニュース記事を見ていた。


どどどどういうこと!?


「お、おじいちゃん、あのさ・・・足、ついてるよね?」


びっくりして立ち上がっていた私は、勢いよく屈んで座卓の下を覗き込む。


「あるに決まってるじゃろ」


かっかっか、とどこかの黄門さまのように笑うところは、まさにうちのおじいちゃんだ。


「ふぅ・・・えっと・・・あっ、そうだ!夢なんだよね、うん、そうそう、これ私の夢なんだ。

そっかそっかぁ、昨日から変だと思ってたんだぁ。


うちの祠に地下道があってその先が別の世界でワイバーンまでいるとか。

おばあちゃんがシルバーだったのもそうだよね。


小さい頃の私がいつもローズやっておばあちゃんがシルバーやってくれてたもん。だから、あんなに簡単に必殺技だって出来てさぁ・・・」


納得できる答えを見つけた私は、わざとらしくうんうん頷いてみた。


「何言ってるんだい」


ポカっ


「い、痛いわね、おばあちゃん!」


「そんなくだらないこと言ってないで、朝ごはんできたから、早く座んなさい」


「そうじゃなくて!これ夢なんだから、いい加減起きるの、私」


ポカっ


「いてっ、そんな何度も頭叩かないでよ、ただでさえあんまりよくない頭なんだから」


「痛いんだろ。ならそれが現実さ」


「・・・あああっ!」


夢だったら痛みを感じないはずなんてベタなこと、何度も体験するとは思わなかった・・・


「わかったら早く座る。さもないと朝ごはん抜きだよ」


「あー、すいませんすいませんすいませんすいません」


とジャンピング土下座しつつ、私は自分の席に座った。


「じゃあ」とおばあちゃん。


「「「いただきます」」」


3人で手を合わせて挨拶をして、朝食が始まった。


「おー、やっぱりばあさんの飯はうまいのー」


「あなたが勝手に死んじゃうから、下手な料理をする羽目になるんですよ」


「かっかっかっ、それもそうじゃのぉ」


「ね、ねえ、なんかその会話・・・エグいね。

じゃなくて!なんで死んじゃったはずのおじいちゃんが生きてるの⁉︎」


そう、問題はそこでしょ!


「いやー、わしも免許皆伝したくて、ついなー」


かっかっか


「免許皆伝って・・・ああっ、そうか!」


そうなのだ。


うちの清水流はなぜか代々女性しか、しかも清水の家の女性にしか秘伝を教えない。


今も秘伝を受け継いでいるのは私と私のお母さん、それから当主であるおばあちゃんの3人で、男性は、それがどれだけ高弟でも清水の人間であっても教えてはもらえないのだ。


そして、その秘伝を全て会得することが免許皆伝に必須とあって、位も今の私(去年の夏、おじいちゃんが亡くなる前に秘伝を全て会得した)が師範なのに対して、清水流で一番の高弟とも言えるおじいちゃんは、師範代なのだ。秘伝をしっているか知らないかだけのことで。


でも秘伝って・・・


「そういうことさ。こっちの魔法と合わせないと真の意味での会得にはならない。だからこっちに来れて巫女として魔法が使える私ら清水の女にしか、秘伝は受け継がれないのさ。なのにこの人ときたら・・・」


「いやー、大変じゃった、婆さんの目を盗んで蔵の秘伝書をかっぱらったまでは良かったんじゃが、なんせ古文書じゃろ。わしにゃまーったく読めんかった」

と豪快に笑う。


かっぱらったって・・・


「でな、玲花の伝手で古文書の専門家の教授と知り合って解読してもらって」


秘伝を独学で学んだんだって。

すごい熱意だよね。


「でもな、覚えてみてわかったんじゃが、全ての技がなんとも中途半端でな。思わずばあさんの前で口にしてしまったんじゃ。『あの中途半端な秘伝はなんじゃあ』って。

いやー、その後の婆さんの怖かったこと怖かったこと」


さんざん叱られた後に、秘伝の秘密をおばあちゃんから教わったおじいちゃん。


「こっちの世界があることはばあさんと結婚する時に教わっていてな、実は何度か来たこともあったんじゃ。だから、その話を聞いてようやく合点がいってな・・・」


その何度かこっちに来た時に、おじいちゃんにも弱いながらも魔法の適性があることがわかって、ならばということで、


「真琴への代替わりができたら、本格的にこっちで修行することになっとったんじゃ」


本当なら高校卒業まで待ってからということらしかったんだけど、皆伝を取った私を見て、どうにも我慢できなくなったおじいちゃんは、


「何か画策してるとは思ってたんだけど、私の知り合いの医者に死亡診断書無理矢理書かせたんだよ、この人は」


やれやれ、という表情のおばあちゃん。


いや、それとってもまずいことなんじゃ・・・


「でね、あっちに置いとくわけにもいかなくなったから、私がこっちに連れてきたってわけさ」


あの祠を通れるのは高い霊力を持った巫女だけで、今、清水の家で通ることができるのはさっきの3人、おばあちゃん、ママ、私だけなんだそうだ。でも、その3人と接触した状態なら(手を繋ぐってことね)一緒に通ってくることができるんだそうで、


「本当、勝手ったらありゃしない。葬式とかぜーんぶ私に丸投げさ」


それはそうよね。


死んだ人が自分のお葬式手配するわけにもいかないし・・・


それで、今はこっちでプチ一人暮らしをしていると。


だから、


「いやー、ばあさんの飯はやっぱり最高じゃなぁ」


なんてお世辞を言ってご機嫌取りをしているらしい。

おいしいのは本当だけど。


いつの間にかみんな朝食が終わっていたので、私とおじいちゃんで後片付けをして、また茶の間に3人が集まる。


と、今度は執事さんも入ってきた。


「あ、おはようございます」


私は座ったままぺこんと頭を下げた。


「真琴さま、おはようございます」

執事さんは、正座して丁寧に頭を下げた。その所作も美しい。


「えっと、ごめんなさい、昨日うっかりしていて、あなたのお名前伺ってなかったんですけど・・・」


ほんとだよ、あんまりにも目まぐるしすぎて、自分が何したらいいのかわからなくなってただけなんだよ!


「これはこれは大変失礼いたしました。私、覡として巫女さまの補佐をしております、八代 風雅と申します。

以後お見知り置きを」


改めてお辞儀をする風雅さん、何度見ても美しい。


「やしろ ふうがさんですね。改めまして、私は清水真琴と言います。こちらこそ、よろしくお願いします」


と風雅さんのように流麗というわけにはいかず、少しぎこちない感じでお辞儀した。


「さて、改めて自己紹介もできたことだし、そろそろ本題に入ろうかね」


おばあちゃんが居住まいを正す。

私たちも、それにつられるようにきちんと座り直した。


風雅さんは私の斜め後ろ、畳の上に直接正座した。


「真琴」


「はい」


「私とじいさんはこれから修行の旅に出る。だから、向こうとこっちの管理はお前に任せる」


「・・・ええっ!?」


「まあこっちには風雅がいるし、あっちの運営も弟子たちに任せておけば構わないから。だが、今日から当主は真琴、あんたがやるんだ」


「は、はい・・・」


「及ばずながら、真琴さまの補佐をさせていただきます。今後ともよろしくお願いします」


と、初めからわかっていたのだろう。


風雅さんは驚くこともなく私のサポートをすると言ってくれた。


「あっ、お、お願いします!」


背後からの声に、私は慌てて振り向いて頭を下げた。


「じゃあばあさん、行こうかの」


「ええ、でもいい加減ばあさんはよしてください。見た目はあなたの孫みたいなものなんだから」


「かっかっかっ、それもそうじゃのー。じゃあ行こうか、佳代子」


「うん、おじいちゃん!」


ここぞとばかりに子供のような甲高い声を出す佳代子おばあちゃん。

まったくなにがなにやら・・・


「えっ、行くって今から!?」


「そりゃそうだろ。もう代替わりは済ませたんだから」


「代替わりって、たったの一言で・・・」


「困ったら、周りの大人たちに聞きな。お前ももう子供じゃないんだからできるだろ、それくらい」


「できるけどさぁ・・・」


せっかく会えたのにおじいちゃんだけじゃなく、おばあちゃんまでいなくなっちゃうなんて・・・

うわっ、なんか涙出てきた。


「あらあら、やっぱりまだ子供だったかねぇ」


とねおばあちゃんが優しく私を抱きしめてくれた。


「だ、だって急にいなくなっちゃうって。

おじいちゃんだって、生きてるって知ったばかりなのに・・・」

また会えた嬉しさと、すぐにいなくなっちゃう寂しさがごっちゃになって、どうにも涙が止まらない。


「もう会えないってわけじゃないんだから、2人とも生きてるんだし。

それに本当に困ったら、あのアプリで電話しなさい」


「うん・・・ぐすっ」


「ほら、しっかりおし。今日からあんたは当主なんだよ」


「・・・うん、わかった」


頑張って涙を堪えながら笑顔を作る。


「でも、旅にでるのに随分身軽なんだね」

頬に残った涙を拭きながらそんなことを尋ねた。


「ほら、私らにはあるだろ。あれが」

おばあちゃんが、ぽんと右腕を叩く。異空袋を使う時に伸ばす腕だ。


「そっか、そうだね」


「済まんな真琴。だがわしはどうしても強くなりたいんじゃ」


ずっと言ってたよねおじいちゃん、『世界最強になる!』って。


それに、やっと秘伝をちゃんと習得できるチャンス得たんだもんね。

ずっと叶わないと思ってたことが現実になる日が来たんだから、待ちきれないよね。


そんな話をしながら、みんなで外に出てきた。


「がんばってね、おじいちゃん」


「ああ、目指すは世界最強じゃ!」


かっかっかっ、といつものように笑って、


「じゃあ行ってくる」


「稽古サボるんじゃないよ」


なんて憎まれ口を叩きながら、2人は手を繋いで空へと舞い上がる。


「ブー太、真琴さまの面倒ちゃんとみなさいよ」


続いてパタパタしながら、ホウちゃんがおばあちゃんの肩に乗った。


「俺はブー太じゃねーっ!

でも気をつけてな、ブー」


「おじいちゃん、おばあちゃん、ホウちゃん、行ってらっしゃい!」

「お気をつけて、いってらっしゃいませ」

そして、おじいちゃんたちは空の彼方へと飛んでいってしまった。


・・・


ああっ、羽衣のこと聞くの忘れたぁ!

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