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08 宴会にて

えっと、あのアプリの補足なんだけど・・・

あれ、実はめちゃくちゃ便利で、私が上の世界にいても村長さんをはじめとした下の世界の人と話せるんだって!


うちの母、一体何者なんだろう・・・

美魔女の魔窟の主の准教授にしてアプリ開発者。


そういえばマヤとかマッドなお姉様とかも聞いたことあるような・・・


「私は千草って言われてたねぇ」

母屋を出て一緒に歩くおばあちゃんがそんなことを言った。

だから人の心読むのやめてぇ。


私たちの後ろにはゼンタくんが歩いている。頭の上にホウちゃんを乗せて。


「早くしなさいよね、ブー太。ミコさまが行っちゃうじゃない」


「うるせー、俺はブー・・・じゃない!ゼンタだ!」

自分でも間違えてるよ。


母屋で話している間にすっかり日は暮れていたんだけど、私たちの進む先の方には、温かな光が見えてきた。


それにいい匂いも漂ってくる。


「今日は飛龍の串焼きがはあるからねぇ」


匂い対策なのか、外では珍しい洋装(というかこっちの服?和モダンな感じの服、意外にかわいい)に着替えたシワのないおばあちゃんが、ニコニコしながら歩いていく。

シワはないけど違和感もない。

なんか不思議。


なんでもあのシワは魔法によるメイクなんだとか。


上では魔法は使えないので、こっちでメイクしてから帰るんだって。

意外と苦労もしてるんだ。


まあ確かに、今のピチピチお肌で帰ろうものなら、世の高齢なお姉様たちが大変なこと

になるだろうし。対策は必須だよね。


お肌のことも聞いたよ、もちろん。

そしたら「巫女、年、取らない」とか言いやがった。


どこの都市伝説だぁっ!


そんなこんなで私たちは光の中心、いわゆるパーリィ、じゃくなて宴会場=村の中心の集会場へとやってきた。


おばあちゃんが、当然のようにその中心へと向かっていくと、


「ミコさま、お待ちしておりました」


とさっきのガハハ村長とは違う、和服っぽい服装のステキな紳士(執事?)が、おばあちゃんに大きになマグカップを渡した。


それに対し、大人な微笑みを返すおばあちゃん。


つづいて執事さんは


「真琴さまはこちらを」


と少し小さなマグを渡してくれた。


「ありがとう、ございます」


なんて、紳士を前に少し緊張しながら受け取ると


「今日は新しい巫女、真琴が来ました。私が引退するわけではありませんが、これからこのオヤシロ村の守護はこの真琴に任せます」


新しい巫女様、変な服の巫女様、妹巫女様なんてひそひそ声が聞こえてくる。へ、変な服って⁉︎

ここの人たちは、男性は甚兵衛のような服、女性は昔でいうモンペのようなズボンを履いてている人が多かった。さっきまでのおばあちゃんのように和服の人もいる。


「では、オヤシロ村の平和と、新たな巫女の就任を祝して、かんぱーい」


かんぱーい、という声があちこちから響き、みんな一斉にマグに口をつけた。


私もそれに倣うと、

「うわっ、にがっ、ええっ、これってビール⁉︎

私、まだ未成年なんだけど!」


「ここじゃ15で成人だからのー」


いつの間にかガハハ村長が隣に立っていた。


「でも、こんな苦いの、私飲めないし」


「そーかぁ、じゃあ、わしがもらっとくか」


ガハハと嬉しそうに私からマグを受け取った村長。

ってもう飲み切ったの?


「今日はミコさまたちのおかげでいい肉も手に入ったから、たくさん食いなぁ」


なんてガハハと笑いながら、村長は大きな輪の方に行ってしまった。そっちにはおばあちゃんもいて、みんな楽しそうだ。


私はといえば、執事さんが用意してくれた席に1人で座って、目の前の料理を見つめている。

だってこれ、あの空飛ぶトカゲのお肉なんでしょ!


そんなの食べれないって・・・


どんな味付けをしているのかわからないけど、食欲をそそるとおってもいい匂いなのはわかる。

私だってあいつが解体されるのをこの目で見ていなかったら、ただの美味しいお肉として食べられていたはず。


でも、その実態は・・・うっぷ

ほんのちょっとのビールで酔ったのか、胃がムカムカするのを我慢していると、


「いもうとみこしゃま、なの?」

激かわ幼女キター。


手足が短くてハムっててほっぺもお腹もぷっくりのつぶらな瞳の幼女が話しかけてきた。

ゴザの上に座っている私とちょうど目線が合う。


「えっと・・・そうみたいね」

まあ「妹」じゃなくて「孫」なんだけどね。それ言っても幼女を混乱させるだけだろうし。

なんて思っていたら、


「みこしゃまぁ」


満面の笑顔で幼女が抱きついてきた。

えっ、ええええっ!


「村長の娘です」


こんな時でも冷静な執事さん。


「新しいミコさまがいらっしゃるのを心待ちにしておいででした」


「そう、なんだ・・・」


それにしても初対面でこんなに懐いてくれるなんて。


「やはり、佳代子さまそっくりなお顔のなせる技でしょうか」


まるで仔猫のように私の膝の上でごろごろし始めたので、


「私は真琴、あなたのお名前教えてくれる?」


と優しく尋ねてみた。


「まこと?ナナ」


まことで私を指差し、続いて自分を指差しながらにっこりした。


かわいい♡


「よろしくね、ナナちゃん」


私もニッコリ答えた。

それからしばらくすると、ナナちゃんは私の膝の上に座ったまま、私テーブルに乗っているトカゲ料理を美味しそうに食べ始めた。


だ、大丈夫?


「まこ・・・さま、おいしいよ」


くるっと振り向いたナナちゃんのちいさな手には、トカゲ(タレ)がしっかり握られていた。


「じゃ、じゃあ、食べよっかなぁ」


あはははぁ、と苦笑いしつつ、かわいいナナちゃんから勧められた串に口を近づけ、ふぅ~っと大きく息を吐いた後、


ぱくっ


1番上の一つだけ、無心で口の中に入れた。


これはトカゲじゃない、断じて。そう、ブタだブー太だ豚肉だぁ!


と自分自身を納得させながら、舌の上で転がす。いや、舌だと味わかっちゃうから、口の中で歯で軽く挟んで味すらも感じなくして・・・


か、噛めねー。


「よく噛んで食べるんでしゅよ~」にこっ


追い討ちかあっ!


「ら、らよめ~」


ナナちゃんの言葉に覚悟を決めた私は、まだ口の中に入ったままの(トカゲ)お肉を、ぎゅっと目を閉じたままゆっくりと噛み締めた。


「あえ?おひひ~」

タレの味付けが良かっただけかもしれない。


でも、しっかりと焼けた中から噛むたびに染み出してくる肉汁。

噛むと噛んだだけそのおいしさが増す。アタリだ・・・


これおいしいでっせ、奥さん。


しっかりと味わってお肉を飲み下すことができた。


「ふわぁ~、おいしかったぁ」

蛇の肉って鶏肉に近いってよく言うじゃない。


まさにそんな感じで、あの赤い奴のお肉も鶏肉と言われれば鳥っぽくて、でももう少しジューシーにした感じだった。串に刺してくれてたから、余計に焼き鳥っぽかったというのもあるのかも。


「まだまだありまちゅよ~」


はいっ、もう怖くありません。


「いただきまぁす♡」


一度大丈夫になってしまえばもうこちらのもの。


さっきまでのはなんだったの、というくらい、私は焼き鳥を美味しくいただきました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



今、私は、柔らかいナナちゃんを膝の上にのせ、ぼおっと宴会を眺めている。


たった一口のビールが効いたのか、朝以来のご飯に満足したのかそれとも戦いの疲れか、いや、多分全部重なったからだろう。

ナナちゃんの温かい背中を感じながら、ふわふわした気分になりつつあった。


ナナちゃんも散々食べて満足したのか、私の膝の上で首をゆらゆらさせている。


そんなふわふわした気分で眺める宴会の光景は、とても幻想的だ。以前何度か行ったキャンプで使った電気ランタンとは違う、心に馴染むオレンジ色の松明や焚き火の光は、不思議と懐かしく温かく感じられた。


流れる時間さえゆっくりになっていくような・・・


「そろそろお休みになってはいかがですか?」

そんな心地よさに身を任せていると、心地よいテノールの声が耳元で囁かれた。


「・・・そうですね」

「ナナさんは私がお預かりします」

「お願いします」


執事さん(仮)にナナちゃんを任せた私は、ゆっくりと立ち上がり、静かに宴会場を後にした。

本当にいろんなことがあった1日だったな。


今日あったいろいろなことはとりあえず忘れて、ゆったりとした気分で神社へと向かう私だった。

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