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05 必殺技!

私が17番の構えをとったと同時に、ワイバーンがさっきより大きな火球を口から吐き出した。


「今よっ!」


シルバーの大きな声。


その声に反応した私は、バックステップからジャンプと17番の型を再現していく。


その動作で私が火球を躱しきると


「イメーーージ !」


シルバーの叫びでさっきの光景が頭をよぎる。


私は体に染みついた17番を続け、流れるように掌底打ちの体勢に入る。

だけどいつもとは違う。


今の私の17番には、シルバーのあの魔法のイメージが追加されている。


だからなのか、半身にしてタメの姿勢になった時、右手が光り始めた。


「いっけぇーーーっ!」


光った右手を打ち出すと同時に、右手から稲妻のような光が放たれる。

その光はスパークしつつワイバーンに届き、


ドゥオーーーン


シルバーの時より派手に爆発したワイバーンは、力なく地上に落ちていった。


「うおーっ、できたねーっ!

それにめちゃくちゃ勢いあったしー」


あれっ、やりすぎた?


まさか倒しちゃったとか?


確かに今の私は、空に浮かべてこそいるものの、はぁっ、はぁっと肩で息をする状態。


落ちていく相手の状態を確認する余裕はない。


「でもさすがに魔力使いすぎかなぁ」


いや、だって怖かったんですよ!

いきなり目の前にワイバーンとか普通の人だったらあんなでかいの見たら失神ですよね、食べられてましたよね私。


はぁっ、はぁっ・・・


でも、あのワイバーンやっつけられたんじゃない。


落ちていったし。


「うーん、まだ生きてるみたいだねー」


そういうのも分かるんだね、シルバー。


「だからぁ、がんばったマコちゃんにはぁ、ほいっ」


とシルバーが白いものを私の腕にぺたっと貼り付けた。

筆文字みたいなものが書かれている。


「これはね、魔力回復の護符だよ」


貼られた部分が暖かくなって、だんだん体が楽になってきた。


「この護符には私の魔素が溜め込んであってねー、今その魔素がマコちゃんに補充されてるって訳。

私の愛があなたの体にー。うふふ」


へ、変なこと言わないでっ!


私が動揺していると、地面では、体のあちこちからぷすぷす煙を出しながら、ワイバーンが立ち上がった。


まだ逃げる気はないみたいだけど、大分弱っている気がする。


ギャギャギャ、ギャーーーーーオゥ


これまでにないくらい怒りに震えてるけど。

そりゃそうだよね、私たち体のサイズから言っても格下にしか見えないだろうし。


「いい感じに、弱ってきたねー。

マコちゃんはもう魔力回復したでしょお?

じゃあとっておきのあれ、やっちゃおっかー!」


とっておきのあれって、さっき言ってたアレ?


「そーだよ。期待してたんでしょー?」

と私をのぞき込む、小悪魔シルバー。


「べ、別にそんなことないわよっ」

なぜだか恥ずかしくなって、ぷいっとそっぽを向く私。


「じゃーやめとこーかー。

多分あともう2、3回さっきくらいの出せば倒せるしぃ。

護符だって」


ごそごそ


「ほーら。まだこんなにあるしぃ」


数枚の護符をぴらぴらさせながら、余裕な顔で私を見つめてくる。


「うわぁーーっ、

嘘です嘘です、やりますやりたいですお願いしますっ!」


・・・当時の放送はいわゆる日朝。

先週の展開が気になりすぎてドキドキして、いつもより早起きしてお稽古もしっかり済ませてからテレビに齧り付いた。


そしたら冒頭で突然現れた最後の敵に、私の大好きなローズを含めてみんなやられちゃって。どうなるのって思ってハラハラしてたら、銀色の魔法少女が強い光を発しながらゆっくりと降りてきてローズの手を取って立ち上がらせてくれたの。


それから、それまでの戦闘で壊れちゃったステッキの代わりに前よりもキラキラ光る新しいのくれて、ステッキ受け取ったローズ見た時なんて思わず泣き出しそうだった。


そのあとすぐ笑顔で頷きあった2人が、新しい呪文唱えながらピカぁってなって・・・エンドロールの時には嬉しいのかほっとしたのかわからないけど、私は泣きじゃくっていた。


その時の最後の大技なんだよ!


やりたいに決まってるじゃん!!


「なんか無茶苦茶長いモノローグ流れてた気がするけど・・・」


「ななななんでもないですっ。さっ、やりましょう今すぐに!」

私は、慌ててシルバーの横に並び浮かんだ。


「そーだね。じゃあいくよ!」


「うん!」


2人は、ワイバーンのいる地上に並んで降り立った。

そしてしっかり見つめ合い、あの時のシーンと同じように笑顔で頷きあう。


落ちたワイバーンの動きはまだぎこちない。


それを確かめたあと、私は右手、ローズは左手にステッキを持って背中合わせに立ち、


ローズ「銀河に咲く花と」


シルバー「星たちの輝き」


その言葉と同時にジャンプして、ステッキを頭上に掲げる。


「「プリンセスミルキィローズフラーーーッシュ!!」」


2人同時にステッキを振り下ろすと、今までで1番強く大きくてキレイな光が、その先に立っていたワイバーンに向かって飛んで行き、


ドグォワァーーーーーーーン


当たると同時にこれも今日1番大きな爆発が起こった。


爆発と同時に起こった煙で何も見えなくなる。


少しすると、爆発音とは違うドーーーンという地響きが聞こえてきた。

しばらくして煙が消えると、そこには仰向けに倒れて動かなくなったワイバーンがいた。


ついにワイバーンを倒したのだ!


動かなくなったワイバーンを目の当たりにした私は、着地すると同時に、ワイバーンと同じように、力なく地面に頽れた。


「ははっ、できちゃった・・・」


今、私は仰向けに寝転んで青い空を見上げている。


プリンセスミルキィローズフラッシュ


小学生の頃、何よりも憧れていたプリンセスローズが、シルバーと力を合わせて出した必殺技。

録画や再放送を何度も見てその度に泣いたあのシーンを、今、自分がワイバーン相手に再現した。

ヒーローショーなんかじゃなく、本物の戦いで。


叶うはずのない夢が叶ってしまった。

頭では全然処理しきれない、でも間違いようのない現実の出来事を前にして、私は放心状態だった。


「ははっ、はははは・・・」


今は力なく笑うくらいしかできない。

それでもやっぱり嬉しい。


そんな私のところに、元気いっぱいのシルバーが歩いてきた。

やっぱり余裕だったんだ。

2度目の魔力切れで動けなくなった私は、寝転がったまま彼女を見上げた。


「マコちゃん魔力使いすぎー。でも頑張ったね」

シルバーが優しく見つめる。


隣には、戦っている時は見当たらなかったヒヨコちゃんが、また羽をパタパタさせながら飛んでいる。

「何やってんの、早く出てきなさいよブー太」


「俺はブー太じゃねーっ!」

ヒヨコちゃんの容赦ない言葉に、ポン、とどこからかゼンタくんが姿を現した。


「ホウ、てめーはこのゼンタ様より年下だろ!

ミコさまの側仕えだからって偉そーにしてんじゃねーよ」


「年下ってたった100歳くらいじゃない。そんなちっちゃいことでしか威張れないなんて、うふふぅ」


「な、なんだとーっ!」


「こらこら、ホウちゃんもブー太くんもいい加減にしなさい」

シルバーがヒートアップした2人を嗜める。

100歳くらいって、なんかスケールが違いすぎる・・・


「僕はブー太じゃないです!、ブー」

シルバーと話す時は「ブー」つくんだ。


シルバーには逆らえないらしいゼンタくんは、名前のことで話題を逸らしつつ、ぷうっと頬を膨らませておとなしくなった。


一方のヒョコちゃん(ホウちゃんっていうんだ)は、羽をパタパタさせながら、ゼンタくんを見下ろすように浮かんでいる。あんなに頑張ってパタパタさせていて疲れないのかな・・・


丸っこくてふわふわしてそうで愛らしくて、羽もどことなく光っていて神々しい感じなのに、ゼンタくんにだけはなぜか毒舌なヒヨコのホウちゃん。

あの柔らかそうな羽に顔を埋めたい・・・


い、いかん。


疲れすぎて欲望がダダ漏れになってる。


私がそんなもふもふ妄想に浸っていると、


「じゃあ、先行ってるから。

ブー太君あとはよろしくねー」

と、事もなげに言うシルバー。


「ミコさまもこうおっしやっているのだから頑張りなさい、ブー太」


いつの間にかシルバーの肩に乗って、ニヤッと笑うホウちゃん。


「俺はブー太じゃねーっ!」


「ばいばーい!」

ゼンタくんの反論も虚しく、元気に手を振りながらシルバーは飛び上がった。


「ちょ、ちょっと待って。

私はどうなるのよっ!」


またの魔力切れで動けなくなった私とお供のゼンタくんを残し、ホウちゃんを肩に載せたシルバーは、空の彼方へと消えていった。


取り残された私は、呆然と2人が飛んでいった青い空を見つめる。


・・・空、青いなー。


そういえばウチを出たのってまだ午前中だったんだっけぇ。


こっちの時間って地球と同じくらいなのかな。


だとしたら、今ってお昼過ぎたくらい?


そういえばリュックどこにいったっけ?

お腹すいたなー、あんぱんたべたいなー・・・


じゃなくて!


「せめて護符置いていってよーっ」


空に向かって力なく呟いたのだった。


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