04 イメージは無限大
「うわっ、早っ」
どこからか「イメージ!」という声とピアノの音が聞こえる気がする。
イメージ
そう、私は飛べ、とイメージするだけで飛べる体になったのだっ!
「勝ったな」
何に勝ったのかはわからないが、まあデバイスなしで飛べる私の方がかっこいいはず。
図に乗った私は、〇〇トラマンのように指先までピンと伸ばした両手を前に突き出して、
テテテテー、テテテテーっ
ズンズンチャッチャッ、ズンズンチャッチャッ
と心の中でテーマ曲も流しながらノリノリで飛んでいる。
ステッキはどこかに消えてしまった。
多分必要になれば、またどこかから飛び出してくるのだろう。
とにかく今はシルバーだ。
さっきの戦いでは、今までで一番派手に飛ばされていた気がする。
前のまでは怪我してる感じではなかったけど今度は・・・
あっ、シルバーみっけ。
シルバーは高い木の上で止まっていた。
そちらに進路を変えると、すぐに気づいたのかシルバーが手をブンブン振っている。
意外と元気そう?
「やっと来てくれたねーっ」
私が木のそばで止まると、シルバーが嬉しそうにニパッと笑った。
横にはかわいいヒヨコ?が小さな羽をパタパタさせ泣かせら浮いている。
「来たわね子ブタ」
と甲高い声が響く。
「誰が子ブタだ、ブー」
その語尾説得力皆無だから。
「あんたブーブー言ってるのに自覚ないの?」
「こ、これはミコさまの指示だ、ブー」
2人のやり合いを聞いているシルバーが、笑いを堪えてプルプル震えている。
お前のせいか!
てかゼンタくん、そんな指示守ってるの?
なんか弱みでも握られてる?
「ねえ、あなたは大丈夫なの?さっきから何度も飛ばされてたけど」
弱みの件は後回しにして、私はシルバーに視線を移す。
「あはは、なんとかねーっ」
と言った後、唐突に、何か理解を超えた威圧感がシルバーの周囲に広がった。
「えっ・・・」
と思った瞬間には、何事もなかったかのように威圧感は消えていた。
絶句する私。
微かに口角を上げるシルバー。
これ、時々おばあちゃんがやるのと同じだ。
それに魔法のことはよくわからないけど、あれだけ派手に戦っていたのに、疲れた様子が全くない。
相手のワイバーンでさえ少し覇気が落ちているというのに。
この人何者?
「ミルプリのシルバーでーす♡」
こいつも心読むんかい!
あの威圧感の後でわかったんだけど、この子やっぱり普通じゃない。
これでも私は、10数年欠かさず体も技も心も鍛えてきたつもり。
でも、この子が醸し出していものはその程度じゃ到底敵わないって、近くに並んだ今だからわかる。
いわゆる「持ってるモノが違う」というヤツだ。
「ねえシルバー。あなたひょっとして1人でも余裕で勝てるんじゃ・・・」
「ん、何かおっしゃって?」
こちらを向いたシルバミコの顔には、有無をいわさぬアルカイックスマイルが浮かんでいた。
「ななな、なんでもありませんっ!」
今まで見た中でも1番怖いと言える、聖女ならぬ魔法少女の微笑みに、私は姿勢を正して返事することしかできなかった。
でも、少女と称するにはあまりに違和感のある、見え隠れする実力。
あんた一体何歳なの?
「17歳でーす」
思わず、おいおいってツッコミそうになった。
一体何回目の17歳なんだろうってしょうもないことを考えていると、
「あはははぁ。それよりもさー」
笑いながらシルバミコは空を見上げた。
「あいつ、どうにかしたいんだよねー。手伝ってくれるんでしょ、マコちゃん」
いきなりマコちゃん呼びかい。
「私が手伝う必要なんて・・・」ビクッ
全部言わせてもらえなかった。
アルカイックスマイルの威力、半端ねーっ。
「それにぃ、私たち2人ならぁ、あれ、できるんだよぉ」
手を後ろに組んで、わざわざゆっくりにじりよって来ての上目遣い、この小悪魔め。
でも、私も『2人、あれ』にピンと来てしまった。
「えっ、あれって、まさか・・・」
ミルプリ1(シリーズ化されたので無印ミルプリにも番号がつくようになった)の第3期最終話後半(無作為に放ちまくったフラグ回収のために最終話は前後半2回に分かれたらしい。それでも全部は回収できなかった)に出てくる、みんなやられて動けなくなったのになぜかローズだけ立ち上がって、横にいた初めて会ったはずのシルバーとぶっつけなのに一発で成功させたというあの色んな意味で伝説のあれをやるんですか?(第2期の最終話前には、最終話で必要となるローズとブルーの合わせ技が完成するまで何週間かかかっていた、という下りがあったりする)
「そうだよ」
ニッと笑うシルバミコ。
ホントにできるんだ、あれ。
体の中から熱がモノが溢れてくる。
「うん、やろう!」
できるなら、やるしかないだろ、ホトトギス
・・・
私とシルバミコが空中に並び立つ。
2人の内側の手(私は右、ミコシルは左)にはステッキが握られていた。
「あれは大技でタメがかなり必要だから、まずは相手の力をそぐよ!」
「うん!」
飛べるようになったばかりの私だが、シルバーに遅れることなく、ワイバーンの元へと辿り着くことが出来た。
ギャーーーーーオゥ
私たちが視界に入った途端、威嚇してくるワイバーン。
「おーっやる気満々だねーっ」
なんだかシルバーが嬉しそうだ。
やっぱ余裕でしょ、あんた。
私は、改めてワイバーンを見た。
うわっ、おっきぃよこれ⁉︎
身長だけで2メートル以上あるんじゃない?
下から見た通りで、赤い体に白いお腹。
大きな翼の途中には、軽く引っかかれただけで私の体を真っ二つにできちゃいそうな鋭くて硬そうな爪。
足の鉤爪なんてもっと大きい動物でも・・・
やばいよやばいよやばいよぉ。
そんなワイバーンなんだけど、私たちが2人になったからか、さっきまでみたいにすぐに火球で攻撃なんてことはしてこない。
警戒してるみたいに、目をキョロキョロさせている。
「あはは、迷ってるねー」
それを見たシルバーは、くいくいっと空いている右手で手招きする。
「さっきの続きやろーよー」
私の尻込みをよそに、明らかに余裕のシルバーは戦闘姿勢をとって挑発する。
あれって・・・ええっ、秘伝の型!?
「ほらほらおいでーっ。あんたの敵は私だよーっ」
あれは間違いなく、朝のお稽古で私が毎日さらっている17番の型。
あんたなんで知ってるの!?
うちの秘伝だよ!
ギャオーーーーッ
ワイバーンが怒りに満ちた声をあげ、挑発していたシルバーに火球を放った。
「キタキタぁっ!」
シルバーなぜそんなに嬉しそうなの?
あんたさっきそれにやられてたんだよね!?
私が心の中でツッコミを入れている間にも、火球はシルバーに迫る。
逃げてーっ!
私は力の限り叫んだ。
その時シルバーは立体的に火球を躱しつつ、ステッキからさっきまでとは違う光線みたいなものを放った。
バリバリバリバリっ ドォーーーン
稲妻みたいな光線がワイバーンに当たり、爆発する。
ヴギャーーーーッ
悲鳴をあげるワイバーン。
「これが17番の使い方だよーっ」
「なななななんであんがそれ知ってるのよーっ!」
「どうしてだろーねー」
うふふと笑うだけで答えないシルバー。
17番の型は、バックステップから後ろ斜め上にジャンプして相手の足払いを躱しつつ着地と同時に掌底打ちをする。
後ろ向きの回避技なので、攻撃には力が入りにくい中途半端な型だったんだけど・・・
「出すのが魔法ならOKでしょ」
ワイバーンの攻撃を躱しながらニパッと笑うシルバー。
「今度はマコちゃんやってみてねーっ」
しばらく動けなかったワイバーンが、今度は私には目もくれず、シルバーを追いかけ始めた。
でもそのシルバーは、今度は敢えて自分からは攻撃せずワイバーンの攻撃を躱しながら、ヤツを巧みに私の前に誘導してきた。
えっ、いきなりっすか!?
「魔法は『イメージ』だよ」
私の横を通り過ぎる時に一瞬止まったシルバーが、耳元でそんな言葉を囁いて後ろに逃げていく。
シルバーが通り過ぎると、ワイバーンが迫ってくる。
止まっている私に気づいたワイバーンは、少し距離を取った状態で動きを止め、口を大きく開いた。ちょうど一直線に並んだ私とシルバーを一発で仕留めようというつもりらしい。
つまり私も敵認定されたってことだ。
敵ならば倒すののみ!
武道家の私は心を決めた。
いいわよ、やったろうじゃない!
いきなりこんな状況に巻き込まれて、変身までしちゃって、納得いかないことはあり余るほどあるけど、今は目の前の敵!
心を決めた私は、体に染み込んだ動きで17番の型を取った。
さあ来いっ!