03 変身!
「だからなんなのーっ!」
空飛ぶシルバーとワイバーン、消えた子ブタに天の声。
続け様に起こる理解を超えた出来事に、私はもうお腹いっぱいだった。
『ワタシはー、そんなつもりなかったんですけどー、なんかー、大変なことになっててぇー』
声色を変えてモザイクで顔隠して証言、そんな状態・・・って違う!
ちなみにシルバーはすでに復帰して、元気に笑顔で(遠いけどなんとなくわかる)ワイバーンとやり合っている。
遠目にだけど見た感じには火傷も怪我もないみたい、よかった。
それにしてもどんだけ戦闘狂なんだろ、あの子。
さて、とりあえず危険はなさそうなので、
「天の声!あんた一体なんなの!?」
まずはヤツから片付けよう。
「あれぇ、ミコさまから聞いてないですかー?、ブー」
ブーじゃないわよ、あんたブタか!それにミコさまって誰?
と思った瞬間、
ポンっ
と煙が立って何かが現れた。
「ああっ、さっきの子ブタ!」
「失礼な。ボクは子ブタじゃありません。名前はゼンタです、ブー。
魔法少女にはつきものの・・・」
いや、あんたブーブー言ってるから。
「マスコットキャラだとでもいうの?」
それに魔法少女って。
「キャラって・・・ぼくはミコさまのパートナーではなくて」
「ちょっと待って。そのミコさまってもしかして・・・」
言いながら私は空を見上げた。
「はい、プリンセスシルバーのミコさまです、ブー」
魔法少女が巫女って・・・
設定盛りすぎじゃない?
「まあいいや、で、あんたは誰のパートナーなの?」
「真琴さまのです、ブー」
「私!?」
「はい。あっ、ミコさまからの伝言があります、ブー」
「なに?」
「『早く変身してこっちにきなさい』とのことです、ブー」
パートナーに変身って・・・私、いつから魔法少女になったのよ。
「ついさっきからです、ブー」
心を読まれた!?
「心は読んでないです、ブー。さっきパスが繋がったので、念話ができるようになったです、ブー。その時変身もできるようになりました、ブー」
「さっきって・・・ああ、そういうこと?」
「はい、一度真琴さまの中に入りましたので、ブー」
なんか表現が怪しいけど、言っていることは間違ってない。
確かに入られた。
なんか悔しい。
「で、なんで私、変身しなきゃいけないの?
シルバーみたいに戦えとでもいうの?」
シルバーの衣装を見て変身なんて聞いて、私の中の少女心はだいぶ盛り上がってきていたのだが、それとこれとは話が別。
ようはなんで私なの?
ってことだ。
「ミコさまからの依頼です。それに適合しましたし、ブー」
適合?
「はい、異空袋開きましたよね。あれが適合サインとなります、ブー」
異空袋?
「ボクが消えたのは真琴さまの異空袋の中に入ったからです、ブー」
異空袋って言うんだ。アイテムボックス的なもの?
なんでそれが適合のサインなの?
それに異空袋とか、異世界冒険ものみたいじゃない。
「地球から見ればここも異世界じゃないでしょうか、ブー」
言われてみればそうだよね。うわっ、じゃあ私、ラノベ主人公なの!?
「えっと・・・そのあたりは触れない方向で、ブー」
そ、そうね。
あまりメタすぎるのも面倒よね、いろいろ。
「とにかくですね、古来から『異空袋』を持つものは精霊と協力し世界を守るものと決められているのです、ブー」
「決められているって、それが私が変身して戦わなきゃいけない理由なの?」
「はい、でないと」
なんて言い合っていると、シルバーが火球と一緒にまた飛ばされていた。
うわっ、なんかヤバそう。
「わ、わかったわ。とりあえずシルバー1人じゃ大変みたいだし」
「 」
えっ、いまなにか言った?
「いえ何も、ブー」
なんか微妙にディスられたきがしたのだけど、それよりも先にシルバーだ。
「で?変身ってどうやるの?」
「本当は決められたプロセスがあるのですが、今回は特別にボクがサポートします、ブー」
プロセス?思わず私はシルバーを見上げた。
決められたって、まさかあれなのゼンタくん?
「はい、まさかのあれです。やってみますか?
ミコさまは『真琴ならできる、昔散々やってたし』とおっしゃっていましたが、ブー」
ななななんでそんなこと知ってるのよシルバミコ!
確かにできるんだけどさ。
「まさかのあれ」が私の知ってるあれなら。
でも今すぐここで?
18歳(無職、うっ・・・)の私が?
ヒーローショーじゃないんだよ。
昼間だよ、野外だよ、誰が見てるかわかんないんだよ!
恥ずかしすぎだよ! !
「きょ、今日はいいわ、あなた・・・ゼンタくんに任せる」
だから私は、平静を装ってそう告げた。
心の中ではあの有名シーンが自分の顔で再生されていて、動揺しまくってたけど。
「かしこまりんぐでございます、ブー」
なんかいろいろ混ざってるよゼンタくん。
「では行きます。とりゃ~、ブー」
ゼンタくんが、後方にジャンプして私から距離を取った。
そこは『行きます、ブー』じゃないの?
と念話で突っ込んでみたが反応はなかった。
ゼンタくんは私を睨んで(見つめて)集中する。
凛々しい子ブタの顔を見て吹き出しそうになったが、ゼンタくんの目がピカッと光るのと同時に私の体も光り始めた。
「うわっ、光り始めたっ!」
と思ったのも束の間、どんどん光が強くなっていく。
「ねねねねえねえ、大丈夫なの、これ!?」
光源もないのに光ってるんだよ私の体。
熱くはないんだけどさ。
「だいじょうぶです!
ではジャンプしてください、ブー」
「なんでジャンプ!?」
「プロセスの一番最後なんです、ブー。
それくらいやってください。そのほうがかっこいいじゃないですか、ブー」
「かっこいいって・・・(確かに)
わ、わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」
強い光にジャンプって、やっぱりまるっきりミルプリの変身じゃない。
その時アニメのワンシーンが私の脳裏に浮かんだ。
「えっ、まさかこのジャンプっ『飛んでくださいね、ブー。せーのっ!』
被せられてきた一言に流されて、私は思わずジャンプしてしまった。
知ってたのに・・・
ミルプリの変身ジャンプといえば、大きなお友達が大絶賛したあのシーンが来るのだ。
そう、ほんの一瞬、フレームにしてたったの2コマ。時間にして1/15秒。
サブリミナル効果かって言いたくなるが、でも厳然としてそこにある。
それは、
「うわあっ、全身がスースーするぅっ!!」
アニメでは光っていてシルエットしかわからないのだが、実体験して初めてわかる。
私、今、お外で裸・・・
露出趣味なんてないのにぃっ!
実際にも1/15秒くらいの短い時間だったみたいだし、強い光で多分誰にも見えなかったはず。スースーはすぐに収まったし。多分今は何か(予想通りならあれを)着ているはず。
でもこの光は、私に生涯忘れることのできないトラウマを残してくれた。
や、野外でハダカ、私ヘンタイ・・・
何か大切なものを永遠に失った私の体は、小刻みな震えが止まらなかった。
すぅーーーーっ、はあーーーーっ。
大きく深呼吸して、トラウマからの脱却を試みる。
すぅーーーーっ、はぁーーーーっ・・・
何度か繰り返しているうちに、震えも、恥ずかしさのあまり火照りまくっていた顔もある程度落ち着きを取り戻すことができた。
そして改めて今の自分を確かめてみると・・・
私の服はさっきまでのパーカーではなく、シルバーと同系だけど全体にピンクを基調としていて、プリマのドレスみたいにパニエでミニスカートをこれでもかと広げた衣装になっている。
右手には、鮮やかなピンク色の星型宝石がついたステッキまで握られていた。
つまり、私はさっきのフィギュアの
「プリンセスローズになったんだ・・・」
さっきの裸変身程じゃないけど、お外で肩見せピンクミニスカドレスはとても恥ずかしい。タイツだって幼稚園以来の真っ白だし、パンプスにもピンクラメのリボンつているし。
でもその恥ずかしさと同じくらい、憧れだったミルプリになった自分にワクワクする気持ちもあるのだ。
「そうです。ミルキーウェイプリンセスのプリンセスローズ。
そしてさっきのデク人形は変身に必要なアイテムなのです、ブー」
「デク人形って・・・」
そこはフィギュアでしょ、せめて。
でもこの衣装、本当にすごい!
細部までちゃんと再現されてて私のイメージしてた理想のローズコスより完成度高いかも。めちゃ恥ずかしいけど、これでイベントとか行ったらすごく注目されるんじゃ・・・
私は前に一度だけ見に行ったコスプレイベントの会場を思い出しながら、この衣装を着た自分がそこにいることを想像してみた。
私の前には撮影したい人たちの行列ができていて、次々にキメポーズを依頼される。
私のほうも迷うことなくそのポーズをとって、ローズの中の人である桃ちゃんにも負けない笑顔を振りまいて、フラッシュもすごくって・・・
キャーッ
あまりのうれしはずかしさにほっぺどころか耳まで熱くなった。
「あのー、もういいですかぁ、ブー」
「えっ、なに?」
ゼンタくんの言葉にニヤケ顔のまま我に返った私。
すっかり忘れてたーっ。
私、コスプレしにきたわけじゃなかったんだよね。
「ご、ごめん・・・」
「いえー、べつにいいんすけどねー、ブー」
ゼンタくんの目が心なしか冷たい。
「だからごめんって。ね、もうちゃんとするから」
と手を合わせてゼンタくんを拝んでみた。
「じゃあ行きますよー、ブー」
冷たいゼンタくんが、ふよふよと上空に向けて動き始めた。
そういえば、ずっと浮いてるよねゼンタくん。
それ、どうやってるの?
「さっきから真琴さまも飛んでますけど、ブー」
「ええっ⁉︎」
言われてから改めて自分の足元を見ると、あるはずの地面がそこにはなかった。
「うわっ、おおおおおちるぅーっ!」
気づいた瞬間に背筋に寒気が走り、思わずギュッと縮こまる。
「落ちませんけど、プー」
「だってだってだってだって、空だよ空中だよ下には何もないんだよ!」
「あのー、もし本当に落ちてるなら、今のセリフの間に地面に激突してると思うのですが、ブー」
焦る私に、ゼンタくんはまたも冷めたコメントを返してきた。
「えっ!?あっ、そういえば」
慌ててもう一度自分の周りを見てみると、自分がふわふわと浮かんでいるのがわかった。
「落ちてない、ね」
「初めから言ってるじゃないですか、ブー。
じゃあ行きますよ」
「あーっ、待って待ってゼンタくん!」
「今度はなんですかぁ?」
「と・び・か・たっ。私、飛び方わからない」
「 」
えっ、なんか言った?
「いや、べつに、ブー」
コホンと咳払いしてからゼンタくんが続けた。
「今、真琴さまは魔法の力で浮かんでいます。
これは、巫女の羽衣の力によるもので・・・」
「えっ、巫女?ハゴロモ?どゆこと??」
「質問は後にしてください、ブー」
「は、はい、すいません」
「・・・その羽衣の能力が、その魔法少女スーツにも付与されています。ブー」
「うんうん。そうなんだ」
とりあえず素直に頷いて、次を促す。
「なので、羽衣と同じように術者である巫女、この場合は真琴さまが、心の中で念じれば飛ぶのです!」
やり切った感を醸し出すゼンタくん。
その時、シルバーがまた火球に飛ばされるのが目に入ってきた。
いや、あれホントにまずいんじゃ!?
「そっかわかったじゃあ行くよ!」
いうが早いか私は『飛べ』と念じ、意識を上空のワイバーンとシルバーに向けた。
思った通り、というかそれ以上に早く、私の体が動き出した。
うわわっ、すごっ!
「あっ、待ってください、ブー」
ゼンタくんも慌てて追いかけてくるみたいだ。
「待ってて、シルバー!」
第3期とは逆に私が助けてあげるから!
なんの根拠もなく、自信満々にそう考える私だった。