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02 祠の下はダンジョン・・・ではなかった

「我々探検隊は今、未知の洞窟を慎重に進んでいます」

その先に見えたものは!


小さい頃パパと一緒に見た大昔のビデオ(ラベルには「探検隊!」と殴り書きされていた)で聞いたような言い回しを交えつつ、スマホのライトだけを頼りに暗闇の中を進んでいる。


「つまんなーい」


入り口こそ暗い階段で、しかも結構深くまで降りてて「うちの裏庭にこんな秘密があったんだ」なんて盛り上がった。


下り切った目の前にはまったく光を通さない黒い壁があって、ドキドキしながら手を伸ばして見たら、なんの感触もなくすっと手が通り抜けたりして、心臓が止まるかと思った。


だけど、そこを抜けて綺麗に均された道が始まると、それからはわき道はおろか怖い虫が出てきそうな隙間もダンジョンっぽい「いかにも押せ」的なスイッチもない、ただただまっすぐに続く暗いだけの道だった。


「もういいよー、歩くのやだー、めんどーい」


あまりの何もなさに、おばあちゃんの尾行ミッションなどすっかり記憶の片隅に仕舞い込んでしまった私は、ギミックは?なにかイベントフラグとかないの?なんて少しだけ、ほんのちょっとだけ期待しながら、まっすぐに続く道を進んでいった。


片道1時間以上の通学で読んだ「なろう系」の数は伊達じゃありません。

くまさんとか、悪役令嬢とか面白かったな、あの頃は良かったな・・・


熱とか受験失敗とか不合格とかこの前駅に行ったら私と一緒に受験した同じ高校の子がすっかりオシャレな女子大生になっててなんとなく声かけられなかったりとか・・・グスン


うわっ、変なスイッチ入った!


ととととにかくですね!

ここ最近ぜんぜんいいことない訳なんですよ私。


だからさ、だからだからね。

いいじゃない少しくらいいいことや楽しそうなこと起こってくれたって。


なのになんで、なんでなのよこの何もない道は!!


などと、いつの間にかブツブツ呟き始めて1人の世界に入っていたことに気づいた瞬間


ドゥオーン


という重低音ではあるが小さい音が道の先から聞こえてきた、気がした。

いや、気のせいなんかじゃない。


確かに聞こえた!


ふふ、ふふふ、ふふふぅあはははははーっ


「ついに来たわね」


ニヤリと笑う私。


ここは武道家らしく気配を殺しかつ迅速に忍者のように。


初めて立ったイベントフラグにニヤニヤしながら、私は走り始めた。


しばらく進むと突然曲がり角があり、もちろん壁にぶつかるなんてベタはせずに(ちょっとあぶなかったけど)角を曲がると、急に光が差し込んで来て、


ドウォーーーン


今度はハッキリと爆発音が聞こえた。


自衛隊が訓練でもしてるの?


こんな爆発音、日本ではそれくらいしか考えられない。

夜だったら花火一択だけど。


でも、でもでも!

うちって都内でこそないけど、観光地まで怪しい名前の特急も走っている私鉄の駅近だよね。

そんなところで、砲弾使った訓練なんてやる?

いや、そもそも◯軍基地はあるけど演習場なんてないよね、富士山じゃあるまいし。


ないない、と思いっきり首を振る私。


だったらこれって一体・・・


なんにせよ、おばあちゃんはこの先にいるはず。

それしか考えられない、だってここは一本道。


えっ、てことはおばあちゃん危ないんじゃ?


うっかりしてたーっ!


いや、あの人ならきっと素手でもミサイル捌けるんじゃ・・・


そんなことできる人間なんている訳ないじゃん。


ドーーーン


そんなくだらない冗談言ってる場合じゃなかった。


とにかくおばあちゃん探さなきゃ!


もちろん自分の安全も考えつつ、私は慎重にかつ素早く出口と思しき明るくなっている方へと歩みを進めた。


出でみると、そこには!


何もなかった。


いや、地表には何もなくて・・・というか地下のはずなのになんで日が差してるみたいに明るいの?

なんて思いながら空(だよね、多分、青いし)を見上げると、


何か飛んでる?


もくもく雲が少し浮かんでいる昼間としか思えない青い空に、雲とは明らかに違う赤黒いのが一つと、雲に似た色合いだが明らかに人型と分かるものが一つ浮かんでいた。


色違いの方は大きな翼がついていて、手?足 ?は全部で4本と頭らしき突起が出ていて、全体的にずんぐりした印象があり、お腹に当たる位置は白っぽく見える。


翼は蝶や蛾というよりは、プテラノドンみたいな感じで・・・


っていうかあれワイバーンじゃね?

あらいけないわ。思わずギャルお言葉なんか、おほほほほ。


じゃなくて!


姉さん事件ですワイバーンです。


実在するだとぉっ!?


私、夢見てるんじゃないよね。


今朝だってちゃんと起きたしお稽古もしたし、「ちょっと」っておばあちゃんが出かけて祠の中に入って・・・


思わずパチパチと両手で頬を叩いていた。


いっ、痛い・・・


夢じゃなかったぁーっ。


なんてくだらないモノローグやってる間にも、ワイバーンと思しき物体は相手に攻撃を仕掛けていた。


その相手は雲色というよりは全体が銀色に見えて、そしてなぜかパニエで広げたミニスカートを着てステッキらしきものを持った、まるでミルプリのシルバーみたいな・・・ホンモノ!?


私が小さい頃毎週欠かさずに見ていた魔法少女アニメ「ミルキーウェイプリンセス」の第3期最終話でレギュラーの3人が過去最大のピンチになった時に突然現れて、ローズ1人連れて行っていきなりなのになぜか複合技を一発で決めて過去最大の敵をあっさり倒すという、結局美味しいところ全部持って行ったあのプリンセスシルバーなの??


はぁ、はぁ、はぁ・・・


説明語り疲れる。


目を凝らしてよくみると、ツインテやコスチュームの所々に綺麗な青藤色のリボンがあしらわれていて、そのつけられている位置も完全にプリンセスシルバー仕様。


キラキラシルバーのステッキの先には星形のサファイアがあしらわれていて、これもシルバーと青を基調としたプリンセスシルバーのものに間違いない。


まさか実在するとは・・・


そして空に浮かんでいるなんて。


どんなギミック使ってるの!?


なんてありえないことの連続に唖然としている間にも戦闘は続いていて、さっきのワイバーンのブレス(火球だよねあれ)をステッキで巧みに弾いたシルバーが、そのステッキからなんやら魔法を繰り出して


ドーーン


とワイバーンに当てる。


さっきの大きな音、あれだったんだ。


そういえばシルバーの攻撃って、あの複合技以外に何があるんだろう・・・


なんて惚けたことを考えていると、今度はワイバーンがさっきより大きな火球を口から飛ばした。


うわっ、さすがにあれってやばいんじゃ。


焦りながら見ていると、またも受け流そうとして流しきれなかったのか、シルバーは火球と一緒に飛んでいった。


うわーっ、大丈夫!?


と思いつつも、目の前で展開される出来事のあまりのぶっ飛びぶりに、いつのまにか「アニメの中に入ってるんだぁ」なんて不思議な感覚を抱きつつ、完全に観客と化している私。


あまりの現実感のなさに


「次の展開どうなるのかな?」


なんてワクワクしたりして。


少女の頃に戻ったかのようにワクワクしながら目の前の出来事を見つめていると、シルバーが落ちていった方向から、何かが私に向かって駆けて来るのが見えた。


土煙上がってるね。


ということは結構な勢いがあるんだー、と観客な私は3D映画を見る観客モードで警戒することなく次の展開を期待していたりした。


そういえばここ、映画館じゃないんだよねー。


足元を見ると、まさに若草色の背の低い草たちが茂っている。所々に白い花(シロツメグサ?)なんかもあったりしてのんびりした感じだ。


気温もポカポカ陽気と言った感じて、映画モードの私にはとても心地よい。


あははぁ、何かが私の方にきてるなー。


ドスドスという足音もリアルだなぁ、3Dすごいなぁ・・・


じゃないっ!


あれホンモノ!?


やっと気づいた時には、ピンクのブタっぽい生き物が私の足に向かって突っ込んできていた。


しかぁし!私とて武道家の端くれ。


一瞬のジャンプでブタを躱し・・・ブタも飛ぶだとぉ!


私のジャンプにタイミングを合わせるかのように飛び上がったブタ、というより子ブタはよく見ると、口に何かを加えている。


えっ、あれってプリンセスローズのフィギュア?


にわかに混乱する私。


このタイミングなら、ジャンプした子ブタに対しても私の右足は十分対応可能だった。


具体的には、防御から迎撃に切り替え、飛んできた子ブタを蹴り飛ばせばいいはずだったのだが、


ローズのフィギュアって、プレミアついてたよね?


ミルプリはシリーズ化されるほど好評を博したアニメだったんだけど、私たちはその第一世代。つまり、ローズ(実際の色はピンク)は一番最初の主人公たちで、その頃は私だって小学生。


1/6フィギュアなんてお年玉数回分の高額品を子供の私が買えるわけもなく、もちろん大きなお友達もまだ少なかったから、出荷数自体がかなり少ない今では本当に貴重なレアアイテムなのだ。


そんな大切なものを、よりにもよって口に加えて私に向かって走ってくるとはっ!


結果、私の右足が上がることはなく、なんとかあの子ブタ捕獲してあの口から奪い取ろうとフィギュアを目にした刹那に決めたのだった。


さぁこいや!


全身に気を巡らせ衝突に備えつつ、両手を広げ捕獲の体制をとる。


この瞬間ほど、真面目にお稽古を続けてきた自分を誇らしく思ったことはなかった。


ゾーンにでも入ったのか、私の周りの時間の流れが遅くなる。


完全に衝突させてしまっては、フィギュアも無事ではいられない。


だから私のやるるべきことは、半身の姿勢になりつつ両手で子ブタを抱え込み勢いをコロし、動きが止まったところで拳を一発入れて子ブタの意識を奪う。


お稽古を真面目にやってきた皆伝持ちの私なら、不可能ではない。


引き伸ばされた時間の中でそんなことを考えながら、私はジャンプしたままの体勢で左半身を後ろにひねりはじめた。


ちょうどいいタイミングで子ブタが私の懐に入ってくる。


あとは受け止めて突きを入れれば・・・


と思った瞬間、ありえないことが起きてしまった。


捕まえたはずの子ブタが消えたのだ。


えっ?


私は混乱したまま両足で着地した。


本当なら子ブタを抱えたまま転がりながら受け身していたはずなのに。


一体何が起こったの!?


「聞こえますかー?」


呆然と立ち尽くしていると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「えっ、なになになになに?」


慌てて周りを見るも、羽虫1匹飛んでいない。


「聞こえてるみたいですねー。よかったぁ。あっ、ブー」


だからなんなのーっ!

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