表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー

カーテンの下からはみ出ている足

作者: 鞠目

 想像してみてください。

 夜。自分の部屋で、前方には窓があります。左右のカーテンはしっかりと閉まっていて、窓ももちろん閉まっています。鍵を閉めた記憶もあり、家の中にはそもそも自分しかいない状況を。


 想像してみてください。

 窓の大きさは自分の背丈よりも大きなサイズです。ベランダに面する窓なので、開ければすぐ外に出ることが可能です。その窓に設置したカーテンの端が、トイレから戻ると何故か不自然に膨らんでいる状況を。


 想像してみてください。

 カーテンの膨らみ方は、明らかにたるみではなく、「そこに誰かが隠れている」膨らみ方をしています。まるで背丈が160cmほどの人が一人、背を丸めながら中に入っているような、不気味な凹凸がある状況を。


 想像してみてください。

 カーテンはよく見ると中の人が体を震わせているかのように、小刻みに揺れています。カーテンの裾を見ると、カーテンが揺れる度にちらちらと泥にまみれた裸足の足が見え隠れする状況を。


 想像してみてください。

 これは気のせいだと自分に言い聞かせようとした時、部屋中に獣のうなり声のような気味の悪い声が響くのです。その声は明らかに窓から、いえ、窓の端のカーテンの膨らみが発生源である状況を。


 想像してみてください。

 鼻をつく、生ごみが腐ったような異臭が部屋に漂い始め、その臭いが徐々にきつくなっていきます。そして臭いで吐き気をもよおし、喉元まで胃から酸っぱいものが迫り上がるのを感じます。何かがいることを否定したいのに、視覚、聴覚、嗅覚がその存在を認知してしまい、もう認めざるを得ない状況を。


 想像してみてください。

 恐怖に体が支配され、涙が両目から溢れて止まりません。今すぐこの場を逃げ出したいのに、足が震え、声も出せず、ねっとりとした嫌な汗が背中を流れます。思考は正常でなくなり始め、もうどうしたらいいのかわからず、その場から動くことができない状況を。


 想像してみてください。

 そんな時に玄関の鍵が開き、家族が帰宅を告げる声が聞こえるのです。振り返れば何も知らない旦那が、不思議そうな顔で私を見ながら「どうしたの?」と言って近づいてきます。理解できない状況に変化はありませんが、ひとりぼっちではなくことにより恐怖から解放される状況を。


 想像してみてください。

 旦那が「なんだか臭くない?」と言いながら窓辺を見て、カーテンの膨らみを認識します。しかし、頼りになる旦那は特に気にする様子もなく、「あれはおれが確認するから安心して」と言ってくれます。根拠はありませんが、これでもう私は大丈夫だ、助かったんだと安堵することができる状況を。


 想像できますか?

 旦那がカーテンを開くと、そこには青白く、髪の長い女のような何かがいます。旦那がちょうどその何かと私の間に立っているのでよく見えませんが、カーテンが開くのとほとんど同じタイミングでその何かがぐるりと振り返り、旦那に向かって部屋中の空気がびりびりと震えるほどの大きな叫び声を上げる状況を。


 想像できます?

 学生時代、私の旦那はずっと柔道をしていて国体にも出ていた。今でも毎日筋トレをしていて逞しい体格をしている、そんな旦那が女のような何かの叫び声が止むと同時に泡を吹きながら膝から崩れ落ちる。それもゆっくりではなく、がくりと糸が切れた操り人形のように、音を立てながら床へ倒れる状況を。


 想像できる?

 想定外の出来事の連続。私は慌てて旦那の元へ駆け寄り体を揺らすが意識はない。そこにいたはずの何かは姿を消しており、部屋の中には私が旦那を呼ぶ声だけが響く状況を。


 想像できるわけがないじゃない。

 旦那は救急車で搬送され、今も入院しているけど意識は戻らない。検査をしても原因は不明。あの時、こんなことになるなんて誰が想像できるっていうの?

 私はあの日からずっと後悔してる。カーテンの裏にいた何かを見て、真っ白な顔で泡を吹いて意識を失った旦那。旦那が帰る前に私が家を飛び出せばよかった? それとも私は彼を連れて逃げればよかったの? でも、逃げたら私たちは助かった? そもそもカーテンの裏には何がいたの?


 ねえ、誰か教えてよ。

 私はあの時、どうすればよかったの?




 想像してみてください。

 意識不明の旦那が眠る、病院の無機質な個室部屋。日が暮れて、病院の中が日中よりも少し落ち着きだすと、どこからともなく呻き声が聞こえるんです。そして窓側を見ると、きまっているんですよね。まるでカーテンの中に隠れるように立つ、泥にまみれた汚い足をした何かが……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 救いようがないくらい怖い! 想像しちゃいますね、思わず(^_^;) カーテンの中に何かいたら嫌だなぁって思いながら、あの膨らみを眺めてしまいそう(´;ω;`)
[良い点] この「想像してみてください」は、何とも鬼気迫る「イマジン」ですね。 いくら柔道の心得があって逞しい体格をしていても、見知らぬ不審人物が潜んでいるであろうカーテンに近寄るのは不用意でしたね。…
[良い点] ラストに向かって畳み掛ける感じがとても良かったです。語り手の主人公が冷静さを失って逆ギレっぽくなって、でも最後の落ち着いた語りにぞわぞわな感覚がじわっと来ました♪ ラストの部分、「きまって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ