初恋
俺こと小暮祐(こぐれゆう)は考えていた。恋ってなんだ。
周りはみんな高校に入って、彼女が出来始めた。
別にそれが羨ましいとかではなく、単純に恋ってなんだ?って思ってた。
「俺、今日デート入ったから、パスでお願いします!」
小学校からの親友の佐藤和希(さとうかずき)にさえ、そう言われて約束を断られた。
「和希、いつの間に…てか相手誰?」
「C組の林ゆきちゃん」
「あー。見たことある。あーゆうタイプが好きなん?」
「好きかどうかわかんなかったけど、告白されたし、別に他に相手もいないから付き合ってみることにしたー」
「あーそういう感じね。じゃあいっくん誘う」
「いや、いっくんも一緒にデートなのよ。デートってゆーか、ゆきちゃんの友達が、いっくんのこと気になってるらしくって、一緒に俺らとカラオケいくのさ」
「マジ…?」
「だからー!早く祐も彼女作って、みんなで遊びに行きましょうぜ。青春、謳歌するべや」
「うーん。でもそういうのよくわかんないや」
「まぁ、それならそれでいいのだけども」
俺は1人寂しく、高2の夏休みを過ごした。
2学期が始まるとすぐ、実力テストがある。
テスト中は出席番号順に並ぶ。
すると俺は和希と前後になる。それは嬉しいんだけど、1番前になってしまうから嫌なんだよなー。チャイムが鳴り、副担の青木先生が入ってきた。
「担任の小林先生だけど、出産に向けて少し早めにお休み取ることになりました。んで、早速だけど今日から代わりの先生に来てもらうことになったんで紹介します。先生どうぞ」
と声をかけられ扉から入ってきたのは、二十代後半くらいの若い男の先生だった。先生は自分の名前を黒板に書いて、
「伊藤公(いとうただし)です。担当は小林先生と同じ国語、主に古典です。歳は28です。よろしくお願いします」
と言った。
国語の先生らしく、縦に書いた自分の名前。ん?
「伊藤ハム?」
俺は思わず口に出して呟いていた。
教室には歓迎の拍手と同時に笑いが起こる。
「お前、それはあかんぞ」
と後ろから、ニヤニヤした和希につつかれた。
だよな。
「す、すみません!」
と俺は立ち上がり、思いっきり頭を下げた。
「大丈夫。そんな謝らなくても。昔から言われてたことだから。ね?青木先生?」
と言って青木先生の方を見ながら、伊藤先生は微笑んだ。
「俺も最初はハムハム言われてるの見て、いじめられてんのかと思ってたけどな!」
と青木先生は伊藤先生の頭をわしゃわしゃした。
仲良し。
後々、同じクラスの情報通、生徒会書記の田村美波、通称みなみんに後々聞いたら、青木先生は伊藤先生がこの学校の生徒だった時に、担任だったんだって。
「右手の小指にしてる指輪については、もう少し仲良くなってから聞くので、待ちたまえ!」
と言われた。そんなのしてた?ってかそこまでは聞いてないけど…と思ったけど、ちょっと気になる気もしたから、
「わかった」
と言っといた。
始業式は教室で、校長の話を放送で聞いて、明日の試験の話をして解散だった。
校舎を出る時、伊藤先生にもう一度ちゃんと謝っとこうと思って、職員室に向かう。
「先生いないな。まだ教室かな」
2-D
扉を開けようとすると、声がした。
「公が後任で来るとはな。びっくりした」
「僕もですよ。まさかまだこの学校に先生がいたなんて」
「とか言ってー。本当は俺に会いたかったんじゃないのかー?」
「え?」
「え?」
「え?じゃないですよ。んなわけないじゃないですか。なんなら会いたくなかったくらいですよ。先生のせいで、僕辛かったんですから」
「ごめん。冗談だよ」
「初恋だったんですよ。知ってました?」
「うん。知ってた。根に持ってるなー」
と2人は笑い合う。
な、なんだ。この会話。
伊藤先生は高校生の時、青木先生のことが好きだったのか。てか青木先生もまんざらではない感じ?そういや青木先生って35歳とかでまだ独身だっけ?
男同士とか、珍しい時代でもないけど…
なんか謝ろうと思って来たけど、そんな会話の中入っていける感じじゃないー!
慌てて引き返した。
僕の足音が廊下に響いていた。
次の日のテストは残念極まりなかった。
昨日のことが気になって、そればっか考えてしまった。
案の定、翌日テストが返され、俺は放課後呼び出しをくらった。
「小暮さん。今までの成績を見たけど、君の普段の実力はこんなんじゃないよね?昨日は…なんかありました?」
「いえ、ちょっと風邪気味で…それだけです」
「ほんと?なんか悩みとかあったら聞くよ?あ、でもなんかそういうのめんどくさいとか、よく知りもしないやつに言えないって感じならそう言ってください。そういう時は僕じゃなくても、家族や友達や親しい先生に相談してくれたらいいし」
「お気遣い、ありがとうございます」
「緊張してる?楽にしてくれていいですよ」
とペンを握っている右手に指輪があった。
ほんとだ。みなみんが言う通り子指に指輪してる。
それって青木先生に貰ったやつかな。昔付き合ってて、そん時貰った指輪を、今でも忘れられなくて付けてるとか…冗談ぽく笑っててもまだ付けてるの未練がまだあるとか?
だとしたらだいぶ重いな。
「まぁ、風邪気味でとかなら全然いいんだ。でもこれからの成績も大事だから、体調に気を付けて頑張ろうな」
と言って立ち上がった時、左手に持っていた手帳から何かが落ちた。
紙に何か書いてある。
初恋
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
ん?何だろう。素敵な和紙に、すごく綺麗な字。じっとその紙を読んでいると、伊藤先生はその紙を僕の手から取って聞いた。
「島崎藤村の初恋。知ってる?」
聞いたことあるような、無いような。
「聞いたことあるような気もしますけど、よくは知りません」
「僕の1番好きな詩なんだ」
「どうしてずっと持ってるんですか?」
「この紙はね。初恋の人がくれたんだ。ちょうど君たちと同じ歳の頃にね」
それって青木先生がくれたってこと?
あの人、化学の先生なのに、狙ってる生徒にそんな詩まで渡したのか!なんてこと…そら期待していつまでも貰った指輪付けるよな。
「これ、どういう意味なんですか?」
「せっかくだから古文の授業で取り上げようか?授業の方も少し時間に余裕があるから」
「はい。是非」
「じゃあ今日は帰って、ゆっくり体休めてね」
「はい」
古文の授業は、昨日の詩についてだった。
「今日はちょっと予定の授業とは関係ないし、古文と言うには新しいけど、島崎藤村という人の初恋という詩についてお話しようかなと思います。知ってる人いますか?」
30人くらいいるクラスメイトの中で約半分くらいが手を挙げた。
「じゃあ読んでみるので、知ってる人も知らない人も、この主人公の気持ちを考えながら聞いてくださいね」
というと
「まだあげ初めし前髪の、林檎のもとに見えしとき、前にさしたる花櫛の、花ある君と思ひけり。これが始まりです」
伊藤先生の声、めっちゃ好きだな。昨日はあまり気付かなかったけど、かなりイケボじゃん。
教室を見渡すと、やはりみんな、特に女子がソワソワしていた。
「どんな気持ちだったと思う?」
先生の声に酔いしれて、全然詩の内容を考えてなかった。すると、さっき知ってると手を上げた学級委員の田辺君がもう一度手を上げた。
「田辺さん、じゃあお願いします」
「はい。まだあげたばかり前髪の君が、リンゴの木の下に見えた時、前髪にさした花櫛の花のように、美しい女性だと思った。という感じでしょうか?」
「うん。そうだね。じゃあもう少し深く考えてみようか。まだあげ初めし前髪っていうのは日本髪を結い始めたばかりの前髪という意味です。当時の少女は、12~13歳くらいで、髪を結う習慣がありました。簡単に言えば大人の仲間入りという感じでしょうか。その前髪を留めている櫛についた花のように、美しいと思ったということです。ではこの女性は主人公とどう関係でしょうか?」
「どういうって?」
とみなみんが聞いた。
「たとえば、たまたま林檎の樹の下で見かけて、一目惚れしたのか、元々知り合いだった女の子が、髪を結ってきたのを見て、今までとは違う大人びた彼女に心を奪われたのか、見方は色々ですよね」
「なるほど。ちなみに先生はどっち派ですか?」
と今度は和希が聞いた。
「僕は元々知り合いだったんだと思う。まだあげ初めしってことは、彼女が最近まで髪を結ってなかったってことを知ってる。だから元々知り合いだったと思います」
「なるほどー」
へー。古文あんまり好きじゃなかったけど、ちゃんと考えてみると結構楽しいな。
「じゃあ次のパートに行きましょう。やさしく白き手をのべて、林檎をわれにあたへしは、薄紅の秋の実に、人こひ初めしはじめなり。じゃあこの意味を考えてみよう」
はー。いい声。ってまた聴き惚れるとこだった。
「はい!」
とまた違う子が手をあげた。
「はい。どうぞ」
「優しく白い手をのばして、リンゴを僕にくれたこと、その薄紅の秋の実に、僕は初めて恋を覚えた」
「うん。そうだね。じゃあ考察してみよう。彼は初恋を自覚した。では林檎は彼女が家から持ってきたのかな?それとも2人が逢ったいた林檎の樹になっていた?どうして彼女は彼に林檎をあげたのか?それにその薄紅の秋の実、つまり林檎に恋心を向けたようにも感じる。そんな表現をしたのは何故でしょう」
「はい!そりゃー絶対2人が出逢った林檎の樹に決まってる!どうしてっていわれると…お腹空いてそうに見えたとか?」
と生田慎太郎…通称いっくんが言った。んなわけ。
「そうですね。お腹空いてそうに見えた、それも一つの解釈ですね。いろんな考えがあっていいと思います。では…」
と先生が言ったところでチャイムが鳴った。
「じゃあ次はこの続きからでいいですか?」
「はーい」
みんなそれぞれ休み時間に入った。
和希といっくんが俺の席に来た。
「古文、というか国語の授業、初めてちょっと楽しいと思ったわー」
と和希が言った。
「俺も」
「時々、国語って悩ましい時あるよな。この時の登場人物の気持ちを答えなさいって。まず、知らんがなって思っちゃう。古文や漢文もどうせこの先使う必要ないのになんで勉強するんだろ?って思ってた。でも、今日ちょっと楽しかった」
といっくんが言った。さっきお腹空いてそうだから林檎渡したって言ってたくせに。
「明日の続き、楽しみだな」
俺は本当にそう思っていた。
放課後、あの2人はデートだから俺は取り残されちゃって、自習でもしようかと教室に戻ると、伊藤先生がいた。
夕陽が差し込んで、先生の横顔が照らされる。
その絵画のような横顔に息を呑む。すると先生がふとこっちを向いた。
「あ、お、お疲れ様どす」
なんよ。どすって。
「ふ。お疲れ様」
俺のどすが面白かったのか、ずっとクスクス笑っている。
「どうしたの?」
と笑いすぎて涙目になった先生は、目頭を拭きながら聞いた。
「友達デートでいなくなっちゃったし、少し自習でもして帰ろうかと。先生はどうして?」
「ちょっと考え事。じゃあ邪魔しちゃ悪いから、職員室に戻るね」
「あ!いや、いてください。聞きたいこともあったし…」
「何?わかんないとこあった?」
「初恋の作者はなぜ林檎の樹にしたんでしょうか?蜜柑や葡萄や桃やさくらんぼじゃなくて。初恋なら、爽やかな春や初夏、果物なら林檎より桃やさくらんぼとかの方が可愛いイメージだと思うんですけど」
「そうか。疑問を持つことはいいことだね。色々考えられるけど、たとえば、島崎藤村の出身が信州の方だったから、林檎の樹が身近にあったのかも。あと彼はキリスト教の洗礼を受けたりしてるから、それもあるかもしれないね」
「あーアダムとイブ的なやつですか?」
「うん。諸説あるけど、林檎は知恵の実とされているし、愛、誘惑、後悔、美、生命を象徴するとも言われます。旧約聖書では神様に食べてはいけないと言われた禁断の果実。それが林檎だと解釈されることは多いよね。イブは蛇にそそのかされてその実を食べてしまう。そしてイブはそれをアダムにも分けたんだ。2人は掟を破ったことで園を追放されてしまう。明確にその禁断の果実が林檎だったとは記されていないんだけどね。無花果や杏だったと言う説もあるし」
「へー。でも実を一個食べたくらいで、追放ってヤバくないですか?」
「まーこれも諸説あるけど、知恵の実と呼ばれる実を食べたことで、2人は知恵をつけてしまったんだよ。神様に問い詰められたアダムは、林檎を分けたイブのせいにした。そしてそのイブは、自分を貶めたのは蛇だと言って、蛇のせいにした。蛇も事実、イブを貶めた。だから神様は園から2人を追放して、蛇にも罰を与えたと言われている。素直に謝れば許してもらえたのかはわからないけどね」
「へー面白いですね」
「あと、イブは林檎の身を食べて、中の芯の部分をアダムに分けたって説もある。それで硬い芯が喉に詰まって、男性には喉仏が出来たとかね」
「本当かよー。イブ、やばいヤツっすね」
「まあ諸説ありだけどね」
「禁断の果実かー」
「白雪姫の毒林檎とか。大手IT企業のロゴとか。林檎が特別な果実として、利用されることはよくあることだよね」
「先生、好きになりそうです」
「え?」
「あんまり今まで得意じゃなかったんですけど、古典、好きになりそうです」
「あぁ…そういうことね。それは嬉しいよ!」
「明日の授業も楽しみにしてます」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、さようなら」
「さようなら。気をつけて帰ってくださいね」
「はい」
次の日も古典の授業はあの詩の続きからだった。
「昨日の続きから。じゃあ詠みますね。わがこゝろなきためいきの、その髪の毛にかゝるとき、たのしき恋の盃を、君が情に酌みしかな、となっています。どういう意味でしょう」
「はい!」
とみなみんが手を挙げた。
「はい。田村さん」
「思わずもらしたため息が、君の髪の毛にかかったとき、恋に酔いしれる楽しさを、君のおかげで知ることができた。でどうですか?」
「素晴らしいですね。ではみなさんはこの節をどう思いますか?」
「はい!」
とみなみんの友達の村上圭子が手を挙げる。
「この2人はもう、付き合ってますよね?」
「どうしてです?」
「思わずもれたため息が前髪にかかるほど、近くにいるなんて、よほど近くないですか?それって付き合ってる距離じゃない?」
「確かにそうともとれます。初恋の人と付き合うことになって気分が高まっているか、それとも、林檎を取ろうとして、たまたま溜息が髪にかかるほど顔が近くに来た時に、恋のドキドキを彼女のおかげで知ることができて嬉しいってことかもしれません。いずれにしても、彼の彼女への恋する気持ちが、高まっていることが読み取れますね」
確かに。息がかかるほど近くにいるってことは偶然とも意図的とも考えられるよなー。
「では最後の節です。僕が1番好きなところです。
林檎畑の樹の下に、おのづからなる細道は、誰が踏みそめしかたみぞと、問ひたまふこそこひしけれ。わかります?」
すると同じ中学に通ってた森明菜、通称アッキーが手を挙げた。
「はい。森さん」
「リンゴ畑の樹の下に、自然とできた細い道は、誰が通って出来たんでしょうと、尋ねる君も愛おしい。かな!」
「そうですね。皆さんはどう思いますか?」
「はい」
と俺は手を挙げた。
「小暮さん、どうぞ」
「2人はこの時点で付き合ってないとしたら、彼女はここで主人公へ、告白を促しているように思えるんですけど」
「なるほど、小暮さんは主人公の気持ちより先に、その女性の気持ちを考えたんですね。それもいいと思います!確かに、こんなに道ができるまで、私のところに通うなんて好きに決まってるって、思っていたかもしれませんね。それを彼に問うことで、はっきり告白してほしいと伝えたかったというふうにもとれます。主人公の気持ちとしてはどうですか?」
「はーい!」
「どうぞ」
「もうかなり好きだと思う!女性もここまで通ってきたわけだから、主人公1人の足で出来た道ではないのに、誰のせいでこんな道が出来たのでしょうと聞くなんてずるい、でもそんなとこも好きだ!って感じ?」
と和希が言った。
「いいですね。確かに考察する人の中には、あなたが私に会うために、通い詰めたから道が出来たんですよ。ととる人もいれば、2人で逢瀬のために通った足跡がとうとう道になってしまいましたね。ととる人もいます。それが国語や古典の面白いとこだと、僕は思っています」
それを聞いていたいっくんが
「先生」
と手を挙げた。
「生田さん。どうしました?」
「僕、国語とか古典苦手だったんです。登場人物の気持ちを答えなさいって言われて、そんなん知らないよって思うところあった。古文や漢文もどうせこの先使う必要ないのになんで勉強するんだろ?って思ってたけど、ちょっと面白いなって思ったっす」
「そうですか。僕の授業でそう思う人が増えたならそれは嬉しい。そしてそれを素直に伝えてくれること、教師としてやりがいも生まれますし、モチベーションも上がります。ありがとう」
「いえ、こちらこそ…」
と言いながら、いっくんが立ち上がって、ぺこっとお辞儀をしたところでチャイムが鳴った。
放課後、俺は和希といっくんと別で帰ることにした。今日は2人ともデートはないらしいけど、もしかしたら教室に行くと、先生に会えるかもと思ったからだ。
「やっぱり…」
また窓の外を見ながら、夕陽に照らされる先生の姿があった。先生は僕に気付き、
「あ、お疲れ様、どす」
とこっちを向いて、笑いながら言った。
「ちょ、先生。やめてください。恥ずかしいんで」
「ごめん、ごめん。どうしたの?」
「放課後、ここに来たら、先生に会えるかなって思ったから」
「…またわからないとこあった?」
「わからないというか、考えていたことがあって。それを聞いて欲しくて」
「どんなこと?」
「林檎には誘惑とかって意味もあるっておっしゃってましたよね?」
先生は無言で頷いた。
「もし、その意味を作者も知っていて、林檎の樹を詩に登場させたんだとしたらと思って」
「あの時言った林檎が表す意味というのは、大体旧約聖書や神話から来ているものが多いんですよ。島崎藤村が生きた時代にそれを知る術があったか、その時代に林檎がそれを表すという話があったかはわかりませんが、もし知っていたとしたら?」
「もし知っていたら、イブがアダムに林檎を渡したように、初恋の初々しさとは逆に、彼女には彼を誘惑するつもりがあったのかと。考えすぎですか?」
「面白いと思います。小暮さんは想像力が豊かですね。私もあの詩には初恋の初々しさだけではないのかなと、大人になって思ったことあります。その詩を習った中学生の時には全く考えもしませんでしたが」
「そういえばあの詩が書いてあった紙は、先生の初恋の人にもらったって言ってたけど、先生の初恋も林檎みたいに甘酸っぱい感じ?」
「どうでしょうか。12年前の秋に、ちょうどこの教室で、あの手紙をもらったんですよ。だけど結局想いは叶わなかったし、相手には別に好きな人がいることを知っていましたから」
「そうなんですか…初恋って言う詩の手紙を渡してきたのに、両想いにはなれなかったんですね」
「…そうですね。小暮さんは、恋、していますか?」
そう言いながら、先生に見つめられて、なぜだか俺は
「はい」
と答えてしまった。
「いいですね。青春って感じです」
と先生は微笑んだ。
次の古典の授業で先生は言った。
「この間、生田さんから、古文や漢文はこの先使わないのに、何で勉強するのかって思った、という話が出ましたね。実は私も君たちくらいの頃はそう思っていました。でも結局知識は使わなければ、どんなことも役には立たないんだと気付いたんです。それは古文だけじゃなくて、様々なことに対しても同じだと思います。楽しくないと思われてしまうのは、文化を学んだり、個人の想像力を膨らませたりするような授業が、なかなか出来ないからです。試験では明確に採点の基準になるものを必要とします。ですから人それぞれ感じ方に違いの出るような問題は出せません。授業の仕方も、ある程度決まってしまいます。でも国語や古典の授業から学べることは沢山あります。想像力や読解力、あとは応用力。古文は特に習得に時間がかかると言われる学問です。忍耐力も必要かもしれません。結果それらが皆さんがこれから生きていく上での、何かに役立つと僕は思っています。前置き、長かったですね。今日は普通に文法やりますよ!」
と言って、先生は授業を始めた。
それからは、文法や古語の意味についての授業が多かったけど、今までより楽しく勉強出来てる気がするな。
放課後、職員会議のない日は、先生はよく教室にいた。初恋の人を…青木先生のことを、思い出しているのかな…
「ねぇ、先生。先生はどうして古典の先生になったの?あの詩の手紙のせい?」
と俺は聞いた。
「それだけじゃないですけど、きっかけの1つではあります」
「青春って感じですね…」
「でも1番の理由は母です」
「お母さん?」
「母もあの手紙を僕が持っているのを見て、好きな人が出来たことに気付いたんです。そして僕に言ったんです。”昔の人は、今みたいに、好きだ、愛してる、あなたが全て、みたいな表現はしないよね。ちょっと回りくどい言い方で、しかも和歌や詩にしたりして。物思いに耽ってどうしたの?と人が聞いてくるほどに、秘めていた貴方への想いが顔に出てしまったのです、なんて今は誰も言わないでしょ?でも、いつもあなたのことを考えていますと、和歌で伝えるのって、少しロマンチックじゃない?”って言われたんですよ。そう言われて何故か納得してしまって」
「まあ、確かに想いの大きさというか、深さみたいなものあるかも。うまく言えないですけど」
「それから古典の勉強が好きになったんです。単純でしょ?初恋なんて詩をもらったから、母は私がその人と両思いだと思ったみたいで、それでそんな話をしたんだと思います」
先生は笑顔でそう言った。
その時気付いた。恋、していますか?と聞かれて、はいと言ってしまった自分の気持ちに。
俺は先生のことを好きになったんだな。
これが俺の初恋なんて…
俺は勉強会という建前を得て、時々放課後の教室で先生と話をした。和希やいっくんやみなみんが一緒の時もあった。
先生と話す時間が、俺には凄く大切なものになっていた。
林檎が旬になる季節。俺らは修学旅行で沖縄にいた。初日の夜、食堂でお茶を飲んでいた先生に、みなみんがついに切り出した。
「先生、ずっと気になっていたんですけど、聞いてもいい?右手の小指の指輪は誰からですか?」
みなみん。いよいよ聞くんだな。どうせ初恋の青木先生からもらったやつだろ?
「これは…母の結婚指輪です。亡くなる時に僕がもらいました。小指にしか入らなくて…」
と先生は言った。
「形見なんですね?」
とみなみんが言うと
「そうです。あとはお守りですね。うちは母子家庭だったんです。父は私が小学生の頃、事故で亡くなったんで。ありがたいことに母が頑張って働いてくれて、自分でもバイトして、大学を卒業することもできました。青木先生には高校生の頃から、色々相談乗ってもらったりして、感謝してるんです」
だからあんなに仲がいいのか。
「僕が大学入ってしばらくすると、母の癌が見つかりました。膵臓癌で、見つかった時には手遅れだったんです。若かったせいで進行も早く、亡くなったのは告知から2ヶ月後くらいでした。でもなるべく負担になりたくないと、入院も拒んで、仕事も限界まで続けていました。そして亡くなる前にこの指輪を貰いました。いつも母と居られるように」
先生は一度だけ鼻をすすって続けて言った。
「右手の小指に指輪なんてしてると、色々聞かれるんですけど、それでも外さないようにしています。母が一緒に居てくれる気がするので」
「先生、余計なこと聞いてごめんなさい」
とみなみんが言った。
「謝らないでください。これもコミュニケーションだと思っています。僕は教師ですから、生徒であるあなた達に嘘は付きません。それに人にはそれぞれ違った事情や考えがあります。でもそれは言わなきゃわからないことの方が多いんですよ。詮索されたくないと思う人もいるだろうから、注意は必要ですけど、話すことは大事だと思います。そして聴くことはもっと大事です。皆さん、今日は僕の話を真剣に聴いてくれたでしょ?ありがとう」
と伊藤先生は言った。
「もう、こんな時間ですね。初日は疲れたでしょう?戻りましょうか」
と先生に言われて、俺たちはそれぞれの部屋に戻った。
次の日はグループに分かれてアクティビティを楽しんだ。俺達のグループの引率は青木先生だった。
先生を見ながら俺は思っていた。
俺は青木先生に対して、ずっとモヤモヤした気持ちを持っている。
初恋なんて詩を教え子に渡しておきながら、気持ちに応えてやらないなんてひどい先生だな。
青木先生はどっちかというと好きな先生だったのに。
「祐!いくよー!」
呼ばれて俺はハッとして、和希のいる方に走って行った。
夜、眠れなくて徘徊していると、ホテルの窓から浜辺に人影が2つ見えた。俺はそっと忍び寄る。
少し近寄ると青木先生だとわかった。隣にいるのは伊藤先生だ。
話声は聞こえないけど、2人のなんとも言えない雰囲気に心がざわついて、俺は視線を外せずにいた。
「どうだ?うちの学校には慣れたか?」
「うちのって…慣れたも何も、僕は卒業生なのに?」
「でも生徒として通うのと、教師として通うのではだいぶ違うだろ?」
「そうですね。楽しくやっていますよ」
「生徒とは上手くやれてるか?」
「うん。古典が楽しくなってきたと言ってくれた子達がいます」
「それは良かったな。誰?」
「小暮さん達です」
「そうか。何よりだな。ところで小暮といえば、俺最近めっちゃ睨まれてる気がしてるんだ。なんでだ?」
「知りませんよ。また何かしたんじゃないですか?」
「何かってなんだよ。しかもまたって何?」
「そんなこと言いました?おかしいなー。記憶にないなー」
「なんだよー。せっかく心配してやったのに。お、ちょっと待て。まつ毛抜けてる。取ってやるからじっとしてろよ」
話の内容はわからないけど、楽しそうに話してると思っていたら、青木先生は伊藤先生の顔を覗き込んでキスをした。
どうしよう。いや、どうにも出来ないけど、それがまた苦しいよ。胸になんかつっかえてるみたい。
俺はホテルに戻ると、トイレに駆け込んだ。
抑えようとしても涙が溢れる。
しばらくして、声が聞こえた。
「祐ー?いるのー?」
「トイレ行くなら言えよー!急にいなくなるとビビるじゃん!」
同じ部屋の和希といっくんだ。
俺は慌てて顔を洗った。泣いてるの見たら心配すると思ったから。
「ごめん。なんか携帯で動画見てたら眠れなくなって」
「…そっか。言ってよ!俺も行きたかったのにー」
と和希が言った。おれはそのあと2人と部屋に戻った。
次の日は水族館に行った。とりあえず昨日のことは思い出さないように、伊藤先生と青木先生から、距離を置いて動いていた。
「水族館楽しかったなー!お土産もいっぱい買っちゃった」
と部屋に戻ると和希が言った。
ちゃっかり彼女とお揃いのパスケースまで買っちゃって。
「林さんとおそろい?」
と俺がいうと、
「なんだよ。羨ましいのか?」
と聞いてきた。
「違うよ…上手くいってるみたいで良かった」
と言いながら、お茶のペットボトルの蓋を開けた。
「そうだ!恋バナしようぜ!修学旅行といえば、恋バナか怖い話だろ?」
と和希が言う。いっくんはずっと黙ってこっちを見ている。
「俺、2人みたいに話せることないもん」
「…じゃあさ。嫌なら話さなくていいから。聞いてもいいか?」
「何?」
「なんで昨日泣いてた?」
「え?」
「なんで昨日あんなに苦しそうに泣いてた?」
そう聞いてきた和樹の方が、今にも泣きそうな震えた声だった。
「…なんでもないよ。悲しい動画を見ただけ。ただそれだけ」
言えない。好きな人のキスシーン見たなんて。しかもそれが伊藤先生だなんて絶対言えない。言ったら全部無くなっちゃう。和希やいっくんまで失うのは耐えられない。
「本当に?」
「…ほんとだよ」
と昨日のことを思い出して、声が震えてしまった。
するとしばらく黙っていたいっくんが涙目で言った。
「なぁ、泣くほど好きな人がいるのに、親友にも話せないって何なの?俺達は大事な友達の恋すら応援できないの?」
あー訂正。涙目じゃなかった。もう泣いてた。
「いっくん。そんな言い方しちゃ…話せるようなら、ちゃんと聞いてあげようねって、話し合ったじゃん」
「でも…」
といっくんが何か言いかけたのを、遮るように和希が言った。
「祐。好きな人出来たんだろ?相手は…伊藤先生だよな?」
「なんで…」
「知ってるかって?俺達を誰だと思ってんの?お前の親友だぞ?勉強会とか言って、あんな嬉しそうに会いに行ってるのに、俺達がなんにも気付かないわけないだろ?」
それを聞きながら、もうガチ泣きのいっくんが言った。
「な…なん…で言ってくれなかったの?親友なのに。自分の…気持ちには、気付いて…たんだろ?」
子供みたいに泣いてんな…俺以上に泣くなよ。
「親友だから言えなかったんだよ。男が好きって知られて、気持ち悪いとか、友達で居たくないとか、お前らにそんなん言われたりしたら、もう生きていけない」
「言うわけないじゃん」
といっくんが言った。
「誰を好きでも自由だし、たまたま初恋の相手が男だったってだけだろ?」
と和希。
「でも相手が俺じゃないってのは幸いだな」
「え?」
和希のその言葉に、俺はフリーズした。やっぱ気持ち悪いって、どっかで思ってんのかな。
「だって、それでもし俺と祐が付き合ったりしちゃったら、いっくん仲間外れになっちゃうじゃん」
「それはやだ!じゃあ俺も付き合う!」
っていっくんが言うから
「そんなのおかしいじゃん!」
と俺が言って3人で笑った。
「で、なんで泣いてたの?」
と和希に聞かれて、初日に謝りに行った時に聞いたこと、昨日見たことを2人に話した。
「なるほどねー」
いっくんが腕組みしながら言った。
「修学旅行でキスするとか、ドラマ顔負けだな。しかも教師が。しかもそれを目撃するなんて、お前もすごいよな」
と言ったあと和希は
「もう早いとこ決着つけちゃえば?告白して振られたら、また次の恋に進めるよ」
と続けた。
「うん。そうだな」
次の日は、国際通りでお土産を買ってから、空港に向かった。
期末テストが終わり、明日は2学期の終業式だ。
今日は答案が返されて、少し授業をして終わりだった。
俺はこの数ヶ月で古典の成績だけが上がった。他はまあ普通ですけど。
相変わらず伊藤先生は、放課後の教室にいた。
あんなもの見てもまだ、俺は先生に会いに行くことをやめられなかった。
「先生?質問してもいいですか?」
「はい。なんでしょう」
「最初の頃、勉強した初恋の詩で、林檎に恋心を向けたような書き方をしたと言ってたでしょ?あれはどうしてですか?」
「そうですね。相手は林檎ですが、好きな人からもらったものだから、そう言う表現をしたのでしょうね」
「うーん」
「たとえば、消しゴムが無くて困っていたら、好きな人が自分の持ってた消しゴムをくれた。その消しゴムって特別になりませんか?」
「あー。なりますね」
「ですよね」
と先生は微笑んだ。
「じゃあ…先生も僕になんかください」
は?俺は何を言ってるんだ。それじゃあまるで…
まるで先生のことが好きって言ったようなもんじゃないか。
「え…そうですねぇ。じゃあこれを…」
先生は驚いて、少し悩んだ後、ポケットに入っていた林檎の飴を僕にくれた。
「こんなものしか持ってません。ごめんね」
「いや、ありがとうございます。なんかすみません。変なこと言って」
「いえ」
と先生は窓の外を見た。
明日も先生は、放課後の教室にいるだろうか。
終業式のあと、みんなが帰ったのを確認して、トイレで気持ちを落ち着かせると、教室に向かった。
扉を開けると、座っていた先生がこっちを向いた。
「お疲れ様。冬休み、体調に気を付けて、勉強はほどほどに、あとはクリスマスとお正月、楽しんで」
と先生は微笑んだ。限界だ。もうこの気持ちを抑えられない。
ただ話すだけ。自分の気持ち伝えるだけ。そう思ってたのに…
俺は先生のそばに駆け寄り、キスをした。
「小暮さん!?やめてください」
と先生が俺を突っぱねた。
「僕、先生が好きです!初恋なんです。先生に好きな人がいるのも知っています。でも僕じゃダメですか?その人の代わりでもいいから、僕を見てくれませんか?」
「…小暮さん。ごめんなさい」
そう言うと先生は足早に教室を出て行った。
俺はしばらく立ち尽くしていた。
クリスマスは和希達は2人ともデートだって言ってた。でも大晦日の夜は、3人でファミレスに集まって、夜になったら初詣に行くことになった。
「母さん。初詣に行くから、大晦日の夜から俺、居ないよ」
俺は母さんと、おやつのポップコーンを食べながら言った。
「そうなの?こうやって一緒に紅白見ようと思ってたのに」
「ねぇちゃん達と見てよ」
「あの子達も出かけちゃうんだってー。あんたはデート?」
「違うよ。和希といっくんと行ってくる」
「あーいつものね」
「あのさ。母さん、失恋したことある?」
「何?急に」
「どうかなーって」
「そんなもん母さんにだってあるわよー!失恋したの?」
「まぁ、そんな感じ。そんときどうした?」
「とりあえず、泣くだけ泣いて、スイーツ食べ放題に友達と行って、そこで得たカロリーを、カラオケで歌いまくって消費してって感じかな。若かりし頃の話よ。懐かしいー」
「それで気持ちの整理ついた?」
「そうねー。ついたり、つかなかったり。どうしたって消えない気持ちなら、持ってなきゃ仕方ないのよねー。時間が解決してくれたらラッキーよ」
「結構時間かかった?」
「それがね。かかると思ってたのよ。でもしばらくしてお父さんが現れたの!運命だったのよ。結局、失恋の傷を癒すのは新しい恋よ!」
「新しい恋ねー。母さん…もし俺の失恋の相手が男だったって言ったらびっくりする?」
「んー?別にー。ずっと男の人が好きだったの?」
「違うよ。初めてまともに人を好きになった。その初恋の相手がたまたま男の人だった」
「そーなの。ところで相手はどっち?和希?いっくん?」
「違うよ!…学校の先生」
「あらー。憧れるわね。漫画みたい。でもまー、相手が先生じゃ失恋も仕方ないか…」
「うん。あのさ、母さん。俺今結構なカミングアウトしたと思ってるんだけど、発狂したり、泣いたり、怒ったり、反対したり、そんなんしないのな?」
「そうねぇ…まぁビックリしなかったといえば嘘になるけどね。そういうのってやっぱり、まだ世間的には少数派だし、風当たりも強いでしょう?世間に公表するか否かは別として、他人がそのことで祐を非難することがあったとしても、あんたが幸せなら、家族である私達だけは、応援するべきだと思うのよー」
「母、強し」
「当たり前よ3人も子供産んで育ててんだから。強くないとやってけないよー。祐。人と人の出逢いってやっぱ奇跡なのよ。すごい美人やイケメンなら、誰でも好きになれるもんでもないでしょ?出逢うべくして出逢ったのなら、相手が男でも女でも、全力で好きになればいいのよ。先生のことは、無理に忘れようとしなくていいから、前向きにいきなさい!」
「うん。ありがとう。じゃあ前向きになるために、お年玉、はずんでね!」
「それなら逆に相談料もらうわー。それでチャラよ!」
と母さんは笑った。
大晦日、ファミレスで待ち合わせて、晩御飯を食べた俺たちは、近くの神社にお詣りしに向かった。この神社は、結構大きくて巷では有名で、夏祭りや初詣は多くの人で賑わう。大晦日にはカウントダウンしたりもする。
「もうすぐ年が明けるな」
と和希が言った。
「来年は受験勉強ばっかかなー?」
いっくんは不満そうだ。
「大学かー」
「そういや祐。先生とはどうなった?」
「あー、終わった。冬休み入る前に、キスして告ってごめんなさいって言われておしまい」
「え?何?ちょっとごめん。ついていけてない。何て?」
和希がテンパる。いっくんは…何故かずっと黙ったまま俺の頭をヨシヨシしている。
「もう、抑えきれなかったんだよ。和希もケリつけた方がいいって言ったろ?だから全部ぶちまけた。そんで玉砕したんだよ。」
「そんな急展開…」
と和希が言ったとき、
「あ!青木先生」
といっくんが言った。俺らもそっちを見ると、青木先生が知らない女の人と、楽しそうに歩いてる。
あーなるほど。伊藤先生に初恋の手紙なんか渡しといて、女の人と付き合って伊藤先生を捨てたのか。
「ちょっと待ってて。俺、先生に話ある」
俺は青木先生のところは走っていった。
「今晩は」
「おー小暮ー!今晩は」
「今晩は」
と先生と隣の女性が言った。
「先生。2人だけで話せますか?」
「お、おう。ちょっと待ってて」
と先生は隣の女性に言った。
俺は人気のないところに、青木先生を連れて行った。
「先生!酷いじゃないですか。伊藤先生は10年以上もずっと貴方を想い続けてるのに。あんなラブレターまで渡しておいて、他の人を選ぶなんて、最低ですよ…」
「ちょっと、なんの話だよ?」
「とぼけないでください。気持ちには応えないくせに…それなのに、キスなんかしたら、余計忘れられなくなるじゃないですか!伊藤先生が可哀想です」
「おう!?誰と誰がキスしたって?」
「青木先生と伊藤先生ですよ。修学旅行の2日目の夜、浜辺で青木先生が伊藤先生に、キスしてたじゃないですか!」
「おいおい。待て待て。それは勘違いだよ。顔にまつ毛が付いてて、取ってあげようとしただけだって」
「でもラブレター渡したんですよね?伊藤先生の初恋は青木先生なんでしょ!?」
「ちょっと何が何だか…お!公!ちょうどいいところに!」
振り返ると、そこに伊藤先生が立っていた。
「続きは僕が聞くんで、青木先生は先に小百合のとこへ戻っててください」
「お、おう。大丈夫か?」
「はい」
先生は怒ってるのかな?黙ったまま、しばらく俺を見ていた。
「先生?今日は青木先生と初詣に?」
「そうですよ。それよりさっきのはどういうことですか?」
「俺、伊藤先生の初恋の人が、青木先生だって知ってたんです。先生が来た初日の日、ハムって言っちゃったこと、改めて謝りに行ったら、聞こえてきちゃったんですよ。青木先生が、本当は俺に会いたかったんじゃないのかって言うと、先生は会いたくなかったって。先生のせいで、辛かったって。初恋だったんだって」
「あの時の足音は、小暮さんだったんですね」
「それで、そのあと初恋の人に、あの詩のラブレターをもらったって聞いて、青木先生が渡したんだって思いました。想いは叶わなかったって言ってたから、もう何でもないんだと思ってたのに、修学旅行で青木先生が伊藤先生にキスしたの見て、辛くて。俺自身も悲しかったけど、せっかく時間をかけて、忘れようとしてるのに、あんなことされたら、忘れられないじゃないですか!だから先生が辛いだろうと思って、我慢できなくて、青木先生に聞いたんです」
「それで?」
「そんないい加減なことする人のことは忘れて、俺だけを見て欲しかった!だから…」
「だから、キスしたんですか?」
「そうです!青木先生より、絶対俺の方が先生のこと想ってます」
「言いたいことはそれだけですか?」
「…はい」
「じゃあ次は僕の話を聞いてください」
「…はい」
「僕の初恋は青木先生ではありません」
「え?でも先生のせいで辛かったって。初恋だったって」
「高校生の頃、好きな人がいました。時々、放課後の教室で一緒に勉強するのが、ささやかな幸せでした」
「ほら!やっぱり…」
「話を最後まで聞いてください。初恋の人は幼馴染で同じ高校に通っていました。2人ともあまり理数系は得意ではなくて、わからないとこは俺に聞いてと、青木先生はよく様子を見に来てくれて、勉強を見てくれたりしてたんです。3人でたくさん話もしました。彼女は書道部だったんですが、ある時課題で自分の好きな文章を書いてくるように言われたんです。彼女は島崎藤村の初恋を選びました。何度も何度も納得がいくまで練習していました。そして彼女は最後に、心を込めて仕上げたんです。僕はその時告白しました。すると彼女は、好きな人がいるから、その気持ちには応えられないと言いました。その後、彼女の作品は優秀賞をとりました。そしてそれをある人に渡したんです」
先生は俺の目を見ながら続けて言った。まさか…
「彼女の好きな人は青木先生だったんですよ。でも先生はそれを受け取らなかった。当たり前ですよね。生徒に告白されて、付き合うわけにはいきません。僕はその行き場を無くした手紙を、ただもらっただけなんですよ。青木先生がその時、彼女を好きだったのか、僕は聞いてませんが、僕達は何事も無かったかのように卒業しました。そのうち僕は教師になり、彼女は出版社で働き始めました。彼女とは良き友達として、時々食事に行ったりもしてたんですよ。そして彼女は3年前に結婚したんです。初恋の人と」
「え?」
「社会人になって、しばらくしたある日、偶然再会したそうです」
「じゃあさっきの…」
「青木先生と一緒にいた女性、上原小百合、今は青木小百合ですが、彼女が僕の初恋の人です。だから青木先生ではないんですよ。初恋だったと言ったのは彼女のことで、先生はそのことを知っていたから、貴方のせいで辛かったと、冗談で言っただけです」
「お、俺…」
「何か質問は?」
「でも青木先生、結婚してるなんて…」
「でもしてないとも言ってないと思いますよ。付き合ったのは卒業してからですが、奥さんが元教え子ということが知られると、面倒臭いことを言う人もいますから。だからあまり自分のプライベートなことは話さないというだけです」
「俺、勘違いして責めちゃった…謝ってきます」
「そうですね。僕も一緒に行きますよ」
と言って振り返ると、みんなが立っていた。
「あまりに遅いから、殴り合いになってるか、2人でどっかでイチャついてるかと思ったわー」
と青木先生が冗談で言った。
「そんなわけないでしょう。聞いてたんですか?」
「うん。まあ誤解が解けたみたいで良かった!」
「青木先生。ごめんなさい!」
と俺は頭を下げて謝った。
「おう!ちょっとびっくりしたけどな!でも誤解は解けたし、小暮のアツイ想いも聞けたから、俺的には何の問題もないぞ!」
「アツイ想いって…」
「いい加減なことする人のことは忘れて、俺だけを見て欲しかった!青木先生より、絶対俺の方が先生のこと想ってますって、ドラマか!っつーくらいの告白してたじゃねーか」
そう言われて、恥ずかしくて、その場にしゃがみ込んだ。
そんな俺のことを、和希といっくんがニヤニヤしながら立たせてくれた。
「ほら。あと1分で年が明けますよ」
と伊藤先生が言った。
俺って馬鹿だな…
そう思いながら新年を迎えた。
なんちゅう正月だよ…
冬休みが明けて、今日は始業式だった。
俺は教室にいた。
ガラッと言う音がして、先生が入ってきた。
「青木先生。すみません。時間作ってもらっちゃって」
「いいよ!何?俺の公に手を出すな!って?」
「ち、違います!」
「じゃあ、あれ?」
「はい。初詣の後、別れ際に小百合さんが、頑張って!応援してるから。公を宜しく!って仰ってたんですけど、あれは…?」
「あーやっぱりそれ?小百合ねー。出版社に勤め始めてから、作家さんの影響でBLに目覚めちゃって」
「え…」
「家帰ってからも、お前らの話しながらキャッキャしてた」
「あぁ…やっぱりそう言う意味なんですね。でも残念ながら、小百合さんの期待には応えられないですよ。振られちゃってますし」
「そうか。諦めちゃうの?俺らみたいな前例もあるのに?」
「それは…」
「まあ、今年は受験勉強ばっかりになるから、幸い、愛だの恋だの言ってる時間もないかもだしな」
「そうですね」
「まあ俺が言えるのは、後悔しないようにだけはしろよ」
「はい。ところで、聞いてみたかったんですけど、小百合さんに最初、初恋の詩のラブレターもらった時、先生も小百合さんのこと好きだったんですか?」
「なんだよ。それは秘密だよ」
「秘密ってことはー?」
「なんだよ。生意気だなー!」
と青木先生と話していると、教室の扉が開いた。
「…こんなとこで、2人で何してるんです?」
「なんでもないよー。なー!小暮ー」
「はい」
「青木先生。教頭が探していましたよ」
「そっか。サンキュー。じゃあな小暮!」
「はい。ありがとうございました」
青木先生は俺達を置いて行ってしまった。
後悔しないようにか。
「小暮さんも、もう帰るでしょ?」
と伊藤先生に言われた。
「先生」
「はい」
「あの時、無理矢理キスしてすみませんでした。もう1度チャンスをください」
先生は無言でこっちを見ている。
「僕、放課後に先生と話をするのが、本当に楽しくて嬉しくて、そしたらいつのまにか、先生のこと好きになってました。先生が僕を好きなわけないのは、わかってたんです。でも伝えずにはいられなかった。きっと先生は、昔の思い出を懐かしんで、教室にいたんですよね?でも、時々先生と会って、話して、思ったんです。もしその後も教室に居たのは、僕と会うためだったらいいのにって。だからこれが最後です。最後に確かめたくて。先生の本当の気持ちを聞かせてください」
俺がそう言うと、先生はふぅーと大きく深呼吸してから言った。
「君は本当に想像力が豊かですね…でも小暮さんが言った通りですよ。僕が教室にいたのは、昔の思い出が懐かしかったからです。ただその後も教室にいたのは…あなたと過ごす時間が楽しかったから。そしてキスをされて、自分の気持ちに気付いてしまったんです。僕も君が好きですよ」
「先生!」
抱きつこうとした俺を、止めて先生は言った。
「だからといって僕は教師です。君とどうこうなるつもりはありません。僕は生徒には嘘はつかないと言いましたね?だから君に気持ちを聞かせてくれと言われて、正直に自分の気持ちを話しました。でもそれだけです。もう帰りましょう」
「待って!先生。僕に時間をください。卒業して大学生になって、もうあなたの生徒じゃなくなったら…だからそれまで待っててください!」
と俺が言って教室を出ると、扉の外に青木先生がいた。先生は親指を立ててウインクした。
伊藤先生が
「まだいたんですか?」
と俺の後ろから青木先生に言うと、
「見張り的な?誰も来ないように見張ってた。良かったな」
といって歩いて行った。
良かったなっていうのは俺に言ったのかな。
学校帰り、和希といっくんに昨日あったことを話した。
「まあ、一応両思いなんだよな。良かったな!」
と和希とが言うと、
「良かったねー」
とまた俺の頭を撫でながらいっくんが言った。
「でも毎日顔合わすんだよ?俺、我慢できるかなー」
「しろよ。そこはしろ。お前のせいで、先生がクビになったらどうしようもないだろ?」
「まあね」
「そういえば、進路希望出した?」
「俺は○○大かな」
俺と同じだ。
「あ、俺も」
というと、いっくんが言った。
「え、俺△△大なんだけど。やっぱ俺だけ仲間外れじゃん…」
「あらー、残念」
「やだ、俺も○○大行く!」
「そんな理由で進路変えるの?」
「大丈夫。経済とか商学部があれば」
「いや、あるけど、問題は偏差値…」
「それはこれから君たちが、家庭教師をしてくれるだろうから、心配してないよ!」
「えー」
和希といっくんの会話を聞いて、俺は思わず笑ってしまった。
「何笑ってんの?」
と和希に聞かれて、俺は言った。
「お前らが友達で良かったなって思っただけ」
本当に、心の底からそう思ったんだよ。
桜が終わってしばらくした頃。
放課後、先生と会う日は、だいぶ減っていた。
5月9日。先生の誕生日。先生は放課後の教室に居た。
「どうしました?話ってなんです?」
先生は顔色ひとつ変えず、そう聞いてきた。
「先生、誕生日って聞いたんです。だからプレゼント」
俺は一通の手紙を先生に渡した。
「誕生日、誰に聞いたんです?」
「小百合さんです。時々LINEしてるんで」
「は?いつの間に…」
「まあそれはいいんです」
俺はその手紙に、一句の和歌を書いた。
“ 忍ぶれど色にいでにけりわが恋は ものや恩ふと人の問ふまで”
「これは…」
「先生が前に、お母さんの話をしてくれた時に、出てきたのはこの和歌ですよね」
「はい」
「考えたら、俺の気持ちそのまんまだった。隠してたつもりが、和希やいっくんにはバレバレだったし。ねぇ、先生。せめて受け取ってくれる?俺の初めてのラブレター」
「はい…ありがとうございます」
「良かった」
だからといって俺と先生の距離は何も変わらなかった。そらそうなんだけど。
とりあえず、大学受験が迫るにつれて、自分も周りもどんどんピリついていく。
あーしんどいな。和希は従兄弟のお兄ちゃんに勉強教えてもらってる。いっくんは3年になってから塾に通い始めた。夏休みは俺も夏期講習に行った。それ以外は学校から帰ったら、ねぇちゃんに勉強を教えてもらってる。学校でも勉強、家でも勉強。3人でゆっくり話す時間もなかなか無い。息が詰まる。
誰もいない教室で、俺は思い出していた。
もう秋だ。去年の今頃は修学旅行があったな。なんだかんだあったけど、今思えばいい思い出だった。
「はぁ…」
俺が一つため息をついたとき、教室の扉が開いた。
「お疲れ様。小暮さん、これどうぞ」
と入ってきた伊藤先生が、俺に折り紙で作った箱を渡してきた。
「え?なんで?」
「自分の誕生日も忘れるくらい、受験勉強に集中してたんですか?僕の誕生日には手紙をくれたでしょ?だからお返しです」
あー。俺今日誕生日だったわ。
「なんで誕生日知ってるんですか?」
「僕は担任ですよ。生徒の誕生日くらい、知る術はあります。それに佐藤さん達が、今日が君の誕生日だとしつこく言ってくるものですから」
と先生は笑った。
「和希達が…?開けていいですか?」
「うん」
「あ…」
林檎の飴が3つ。
「佐藤さんたちと一緒にどうぞ」
ん?この折り紙の箱、なんか書いてある。開いてみた。
” かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじなもゆる思ひを”
和歌?
「先生、これどういう意味?」
「知りませんか?まあ、意味は自分で調べてください」
「あ、はい」
俺はスマホで検索した。
意味は…
こんなに恋い慕っているということだけでもあなたに伝えたいのですが、伝えられない。あなたは知らないでしょう。伊吹山のさしも草のように燃え上がる私の思いを。
「先生?」
「あまり思い詰めないように。貴方達は十分頑張っていますよ。あともう少しですから。さあ今日はもう帰りましょう」
と先生がいつもより少し早口で言った。
やばい、死ぬ。嬉しすぎて、死ぬ。
「俺これがあれば頑張れるよ」
「そうですか。それは良かった」
ちょっと伊吹山がわからんけど。さしも草もわからんけど。俺のことを思ってくれているのはわかる。
「先生、そんなに俺のこと好きだったの?」
「さあ、どうでしょう」
顔を赤くした先生が言った。
もう少しで受験だ。
元旦にはいつもの神社に願掛けに行った。
母さんとねぇちゃんも付いてきてくれた。
去年はみんなでここで、わちゃわちゃしてたな。
「俺と和希といっくんが、同じ大学に受かりますように」
母さん達はお守りを見に行くっていってた。
俺が祈ったあと、顔を上げて振り向くと、伊藤先生がいた。
「明けましておめでとうございます」
と先生は言った。
正月早々、いい声してんな。
「おめでとうございます」
「体調大丈夫ですか?風邪とか…」
「大丈夫です。精神的なプレッシャー以外は何の問題もないです」
「そうですか。今日は一人ですか?」
と先生が聞いた瞬間、
「先生!明けましておめでとうございますぅ」
と母さんがこっちに走ってきた。
「母と姉が一緒です」
と言うと、
「おめでとうございます。お久しぶりです」
先生は母さんにそう、挨拶をした。
三者面談で顔を合わせていたから、母さんとは面識がある。
「先生は?」
「僕は青木先生と一緒です。生徒皆さんのこれからが上手くいくように参拝したところです」
先生がそう言うと、
「伊藤先生!うちの子、ちょっと思い込み激しいとこありますが、真面目で素直な子なんです。祐のこと宜しくお願いしますね」
と母さんが言った。そんな嫁にやるみたいな挨拶…
「え?あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。…じゃあ僕はこれで失礼しますね」
と言って先生は消えて行った。
「お母さん、誰?」
とねぇちゃんが聞いた。
「祐の担任の先生。なかなかイケメンで、しかもすごくいい声してるでしょー!」
「確かに。じゃああの人が祐の…」
とねぇちゃんがこっちを見た。
「何!?」
「なんでもなーい」
と言って2人は両側から、俺と腕を組んで歩き出した。なんでもないの顔じゃないじゃん。俺は2人の顔を見て思った。気温は一桁だけど、なんかあったかかった。
まだ少し肌寒いけど、春の匂いがしてきた頃。
卒業式があった。
3人とも出来る限りのことはしたと思う。
結果は…春から同じ大学の学生になれる。嬉しすぎて、合格発表の日は俺んちでお祝いして、朝まで話した。
「先生には?言った?」
和希が言った。
「うん。母さんが学校に電話してた」
「逢いには行ってないの?」
といっくんが俺の顔を覗き込んだ。
「うん。まだ。大学の入学式の日に逢いに行こうと思って」
「あー!なるほどねー」
と2人が声を揃えて言った。
入学式の日、俺は2人と別れたあと、先生の家に行った。部屋番号を押して、インターホンを鳴らす。
「はい」
「先生。小暮です」
「うん…どうぞ」
と言ったあと、扉が開いた。
部屋の前に行くと、先生が扉を開けてくれた。
「もっと早く来るかと思ってました」
と言って、俺を部屋の中に引き寄せた。
「卒業式のあと、押しかけても良かったんですけど、先生は忙しいと思ったから。それに今日入学式でスーツ着たんです。かっこいいでしょ?どうせならそれを見せたくて」
「家は?また小百合に聞いたんですか?」
「はい。逢いに行くと言ったら、喜んで教えてくれました」
と俺は笑った。
「だと思いました。スーツ似合ってますよ」
と言って先生は俺を抱きしめた。
「あ、シワになりますね。ごめんなさい」
と離れようとしたから、
「いいです。大丈夫です」
と言って先生を引き寄せてキスをした。
「俺がどんなにこの日を待っていたか、先生は知らないでしょ?」
と言いながら上着を脱いだ。先生はそれを取ってハンガーにかけてくれた。
「そうですね。だから教えてください」
と言いながら先生は俺の手を握った。
俺はその手を掴んだまま、先生をバスルームに連れてった。小さな磨りガラスの窓から、差し込む月明かりが先生の横顔を照らしていた。シャワーで濡れた先生の髪がキラキラ光る。
「祐…」
と抱きしめながら、先生が呟いた。俺の心拍がだんだん上がっていく。先生の声、やっぱり好きだな。その声で名前呼ばれるだけで、俺…おかしくなりそう。
「公さん…でいいのかな。あんまりしっくりこないけど…」
俺は先生の目を見ながら言った。
「それなら…しばらくは先生でいいよ」
「もう先生じゃないのに?」
「その方がちょっとエロい気がするから…」
「変態…」
こうして俺達はやっと一つになれた。