怪しくないよ!竜騎士団だよ!
ザイルーク・カイン・ディバルドは途方に暮れていた。
しっかりと閉ざされた玄関はいくら叫ぼうとも再び開く事はなく、柵の結界が解除される事も無かった。
愛竜のエルドラが横からこちらを伺ってくるが、いかんせんどうしたものか途方に暮れていた。
そんなザークの背後に忍び寄る影が…
「俺は昔会った事あるから任せとけって仰ったのは誰でしたっけ?」
グレンドリア竜騎士団副団長のメディシア・ロン・バーデンローグ。
実のところフィースからの勅命を遂行すべく、ヴァルヴェナの森に派遣されたのはザークだけでなく、竜騎士団の中から選ばれた上位騎士達で構成された部隊だった。
少数精鋭で組まれたその部隊はグレンドリアの中でもトップクラスの火力を持つ部隊と言っても過言ではない。
過剰戦力のようだが、実はヴァルヴェナの森はそれほど危険度が高い魔物が出現し、侵入者の行手を阻むのである。
そんな危険な森のほぼど真ん中にあるフィースの家。
そこへ行こうというのは結構命懸けであり、単独でそんな事が出来るのはこの世界でもリクト・アシカガとフィース・ヘイワーズが含む10人程しかいない。
森から出たことのないナナは知らないが、世界中で彼の両親の名前は知れ渡っており、手を出すな危険という劇物夫婦として扱われているのである。
話が逸れたが、そんな竜騎士団の優れた竜騎士達でさえこの森を進むのに無傷では厳しく、フィースの家に到着するまでにすでに7レイ経過しているのである。余裕などもちろんなく、見た目が毛むくじゃらになっても仕方ない事だったのだが、そんな世間一般の知識はナナには無いのである
「いや…あのだな…久しぶりすぎてナナ、俺の事忘れてたみたいだなぁ〜」
「ちなみにナナ様の年齢をお伺いしても?」
「あー確か5歳だったか?」
「お会いしたのはいつですか?」
「4年前…いや5年前か?生まれたばっかだったからなあいつ」
「……へぇ、隊長は0歳の時に家に訪ねてきた相手を覚えてるんですね」
さすが隊長とメディシアがにっこり微笑む
「んなわけあるかよっ!」
「………」
「あ……」
メディシアは脳筋隊長を信じた自分を殴り飛ばしたくなり、そんな絶対零度のメディシアの笑顔を見ながらザークは必死に脳筋をフル活動させるのである。
「ほらっリクトが居ると思ってたんだよっ!あ、とにかくリクトが帰ってくるのを待とうぜ」
ザークはリクトなら自分の事をよく知っており、こうして自分が訪ねたのに表に出てこないという事は今現在何かしらの外出をしてるのだろうと予想していた
「…すぐ戻られるんですかね?ここにこの状況で留まるのであれば夜営の準備もしなくてはなりませんし、他の者を休ませたいのですが?」
メディシアはこの件に関して団長への信頼は皆無と判断した。
本来団長からはフィース様の自宅に着けば、そこへ宿泊させて頂く予定だったのだ…だがあの硬く締められた玄関を見るとそうはいかない確率が高い。
「おぉ、そうだな!任せた!」
やはり脳筋に交渉ごとをさせると碌な事にならないとメディシアは他の隊員の元に向かいながら深いため息を吐くのである。




