満たされた光
アンデット達がひげじいさんを中心に集まり、ひげじいさんの手を握ったり、肩を叩いたり、抱き着いたり……事情を知らなかったら襲われてるようにしか見えない。
でも表情は見えなくても、アンデット達はきっと笑顔で喜んでいる
ひげじいさんも涙を流しながら周りのアンデット達の頭を撫でてやってる…
「…もっと早く会わせてあげたかったでしゅね」
そんな事は無理だとわかっている…ただ、そう思ってしまうのだ
「お前はドロシーじゃな」
ひげじいさんが自分に抱き着いてくるアンデットに向かって優しく微笑みながら頭を撫でてやってる。その時、頭を撫でられたアンデットがもう一度しっかりひげじいさんに抱き着き、確かに嬉しそうにカタタと顎を鳴らした。
そしてひげじいさんから離れると夜空を見上げ…もう一度ひげじいさんを見て一礼した後…満足したように手を振る。
その瞬間アンデットが光の粒子に包まれた…
「っ!?」
光の粒子は…夜空高く舞い上がり消えていく…
「お前はリトリアじゃ、…お前はピア」
ひげじいさんが涙を流しながら、一人一人名前を呼んで頭を撫でる…。名前を呼ばれたアンデットはみんな何かしらひげじいさんに喜びを表現して…それぞれの別れの挨拶をした後…光となっていく…。
その光景は神秘的で…綺麗だった。
…だけど、見ている僕も涙が止まらない。
ほとんどのアンデット達が光となり、残ったのはディレクさんと2体のアンデット。
2体のアンデットはすぐにひげじいさんの所に行かず、側で見ていた僕の方に近づいてきた。
僕の事を心配してくれたアンデットだとわかったのは…涙が止まらない僕の事を心配しているのか、頭を撫でたり、涙を拭ってくれたり……心配してくれてるのがわかる……
そんな彼らに…僕は……
「………」
何も言葉を返せなくて…
僕の元の世界の聖女が…あなたたちにしてしまった事……ほんとに申し訳なくて…
そんな事情は知らないアンデット達がカタカタと顎を鳴らして僕をぎゅっと抱きしめてくれる。
「……子供好きは変わらんな。下の子達の面倒をずっと見てくれてたのもお前達じゃったな」
ひげじいさんが2体のアンデットの側まできて肩の部分をポンっと叩く
「ここまでみんなを連れてきてくれたのもお前達じゃろ?」
2体のアンデットが少し照れたように頭をかいた。
そして僕の頭をそれぞれ撫でた後…ひげじいさんと向き合う。
「ヒュリオス」
ヒュリオスと呼ばれたアンデットは、横のアンデットの肩を叩き『お先に』といったようにひげじいさんの前に立つ。
「ヒュー、お前がいてくれたからみんな…自我を保てたんじゃろう。っぅ……すまん、かった」
今まで以上に涙を流すひげじいさんにヒューと呼ばれたアンデットは慰めるように抱きしめる。
「……ありがとう」
カタタとならした顎は「いいってことよ!」と聞こえた。そしてヒューはひげじいさんとしっかり握手をすると僕たちから少し離れた場所に立ち、「じゃあな!」と顎をカタカタと鳴らして光となった。
残されたもう一体のアンデットがひげじいさんの側に近寄り、ひげじいさんをそっと抱きしめる。それをひげじいさんもそっと抱き返し動かない。
最後に残ったアンデットはきっとひげじいさんに最も近しい人で、いつの間にか僕の側にディレクさんが立っていて…持っていた木の棒でこの光景を説明してくれる
『ヒューは僕の弟で……今父と抱き合っているのが……母です』
ディレクさんの母という事は、ひげじいさんの奥さん……アンデット達がみんな聖騎士というわけではなかったようだ…
つまり……民間の人まで聖女は犠牲にしたという事
『父が罷免された後も母と弟はローズガーデンに残って運営していたのですが……そこを父と連帯責任だと教会に連行されて…』
もう聖女を許すことは出来そうにないなぁ
…彼女は……責任をとらなくちゃいけない……
「シーリア……すまん。ありがとう」
ひげじいさんとシーリアさんがひとしきり抱き合った後、彼女が僕に礼をし、横のディレクさんの事をぎゅっと抱きしめた。そしてディレクさんの木の棒を借りると僕に向かって「主人と息子をお願いします」と地面に書き残し、光となった。
…今日の光景は、きっと忘れる事は無いと思う。




