悲しみの龍...
龍は深い眠りの中にいた。
もうどれほどの時を生きてきたのかわからない・・・人と関わりを持った時もあった。幸せな時もあった・・・だが全てがすぐに過ぎ去り過去となって記憶となる。
自分が人の記憶となる事は無く・・・何度も裏切られ・・・全てが虚しく思えてきた
新しい記憶が増えれば以前の記憶は薄れていく・・・ならばもう今持ちうる記憶だけで充分だと自分は思い、それだけを抱えてただ眠りについた。・・・もう新しい記憶は必要無い。
「・・・本当に?」
何だ・・・もう私は人と関わりたくないのだ
「人は貴方を上手く利用してきただけなのに?」
利用などされていない・・・私達は共に生きたのだ・・・
「勝手に裏切ってみーんな貴方を残して死んじゃったのに?」
寿命だ・・・世界の理だ・・・
「世界の理は・・・貴方には優しくないのね?」
・・・何?
「だって貴方の中にだけ悲しみがずっと積み重なって・・・消えない。人は貴方と過ごした幸せな記憶と恩恵を受けて輪廻の輪へ戻り、全てを忘れてまた生を受けるのよ」
悲しみだけでは・・・ない。
「でも人間はすぐ忘れるわ・・・悲しみも痛みも・・・感謝も・・・恩恵も・・・だから簡単に裏切るのよ」
貴様は・・・誰だ
「私は世界に理不尽に招かれた者・・・だからこの世界が大嫌い・・・」
異世界の・・・娘。
「だから私はこの手に全てを取り戻すの・・・貴方もこの世界の理に縛られる事は無いじゃない。裏切らないよう悲しみをうまないように支配してしまえばいいのよ・・・」
『・・・』
支配・・・だと?
「そうよ。管理してしまえば人は弱い・・・私達の思うままよ」
そのような事は望んでいない!!!!!
「・・・もう遅いわ。心の隙間が一瞬生まれた」
『グアァァァァァァァァ!!!!!!』
「心が傷ついた龍・・・貴方は今まで通り眠ってるといいわ。だけどその身体は私が使ってア・ゲ・ル」
貴様!!!何をした!!!
「・・・おやすみなさい。悲しき龍」
き・・・さ・・・・・ま・・・
ドサリと力を失った龍の側に舞い降りる一人の娘。
「古龍って言うからどんな物かと思ったら・・・大した事ないわね・・・。聖獣は取られちゃったし、あの男を殺すのに・・・こんなので役に立つかしら?・・・あっ!早くリクト君を迎えに行かなきゃ!」
娘はそう言うと煙の様に姿を消した。
娘が消えた後、残された龍はゆっくりと起き上がる・・・そしてあげる咆哮と火柱。
『グオォォォォォォォォォ!!!!!!』
ただしその瞳に輝きは無く。全てが赤く染まっていた・・・・。




