グレンドリアの苦労人
長めです
グレンドリアの首都バルドラは一時騒然となっていた。フィースから勅命を受け旅立ったはずのワイバーンのうち3頭が騎乗者を乗せずに帰ってきたのである。
竜騎士団きっての戦力である団長と副団長を含めたその部隊は少数とはいえ、グレンドリアでも上位に入る戦闘力を持つ者達で構成された部隊であったのにまさかワイバーンのみが帰ってくる事態になるとは…とざわついたのだが、ワイバーンに括られた手紙によってすぐに落ち着いた
ワイバーンに括られた手紙は2通あり、1通はフィース、そしてもう1通は現在首都で竜騎士団を任されているターナ・ギー・ナワヤ宛であった。
「隊長!戻ってきたワイバーンに括られていた手紙であります!」
ワイバーンが戻った時点ですぐに竜舎へと向かっていたターナは着くと同時に手紙を受け取った。
「こちらはフィース様への手紙だ。ハンナ!手紙をお持ちしろ!必ず直接渡せ!」
今グレンドリアは王位継承権一位だったフィースの兄カイルが聖女と聖獣を使って隣国に戦争を仕掛けるとういう暴挙を行った事で国内が混乱していた。もちろん当人は戦犯としてすぐに捕縛され現在は離塔で幽閉されている。
それに伴い貴族院の半数以上であった王太子派が一掃され、そういった意味でも混乱状況であった。
フィースがこの後に王太子になる弟パラドの為に、国の膿を出し切ろうと国政を動かしているのだが、その為いつ間者に襲われてもおかしくない状態、状況なのである。
もちろんフィース自身は国内外問わず圧倒的な強者なので、間者に襲われても返り討ち…どころか相手が無傷で捕縛されるという屈辱を味あわせているのだが、機密文書などが奪われるという事は多々起こっているので大事な文書は手渡しが必至という事なのだ。
「了解いたしました!」
ターナの副官であるハンナ・ドラが手紙を受け取り、そのままかけていった
そしてターナは自分へ宛てられた手紙を開く
『ターナへ
思ったより遠征が伸び、そちらへ迷惑をかけている事と思います。我らの部隊は無事目的地へ到着し保護対象と合流する事が出来ましたが、現地でジャイアントムカデに襲われ隊員に怪我人が出ており、すぐに帰還が難しい状況です』
「ジャイアントムカデだとっ!?」
ターナ自身も戦闘経験のあるジャイアントムカデ…あの時は竜騎士団100人クラスの大規模遠征で、その内ターナを含む30人ほどがワイバーンの騎乗者だったのだが、硬い甲殻と素早い攻撃、毒での負傷など随分と凄惨な戦闘で、死者数もかなり出た。思い出したくない戦闘5選に入るであろう戦いだった。
「まさか…全滅を免れたのか…」
皆ワイバーン騎乗者とはいえ30人程度の部隊でジャイアントムカデと戦うなどありえない事なのだが…死者の名前が記載されていないところを見ると、怪我人はいるが全員生きているのだろう。
運よく逃げ切れたのかもしれない…
「どういった状況かわからんが…ご無事でよかった…」
あまりにインパクトのある始まりで、これが本題で後は補充品の事だろうと予想したのだが…
続きの方が圧倒的破壊力がある内容だった。
『ところで、サラの愛竜のリオナが出産しました。卵が2個です。もちろん番はターナのドランドです。』
「…は?」
自分の愛竜の番なので、サラの竜の事はもちろんよく知っている。
しかし…え?卵?出産?遠征中に?
一瞬ドランド以外の卵かと思ったが、ワイバーンは番が変わる事はありえないのですぐその考えは消えた。
『ひどい魔力欠乏でリオナと卵が死にかけています。早急にドランドをこちらに寄越しなさい」
え?ドランドだけ?俺は?
『なお、グラッズ・ゴロル・ピーナには戻る際に補充の食料、備品を余裕をもって持たせてください。まだしばらく団の事お任せしますのでよろしく』
おーい、帰ってくる気ないじゃん…これ。
着いて行きたかった遠征にも連れてってもらえず、首都でひたすら事務仕事。
人手不足でまともに家に帰れてもいない…帰宅時の妻の顔を想像したら恐ろしすぎて吐きそうになる。
しかも愛竜だけ連れていかれるとは…グレるぞまじで…
「戻ってきたら長期休暇もぎ取ってやる…」
愛竜のところへリオナの説明に向かうターナの背中が哀愁に満ちているのを何人もの人間が目撃するのであった。
ついったーしてます
@poko_taneda




