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見舞いに駆けつけた俺を迎えたのは、ベッドに寝かされた、痛々しいアマンダの姿だった。


 綺麗なブルネットの髪の毛は引きちぎられ、細く色白な体に、赤が滲んだ包帯が巻かれている。

 ガーゼに覆われた片目は、2度と元には戻らないのだそうだ。


 「あ、アマンダ………」


 震える声で名前を呼ぶと、空を眺めていた彼女が緩慢な動きで俺の方を見た。


 昨日まで、目まぐるしく動いていた彼女は、今や蝋人形のように無表情であった。

 暗く澱んだ瞳は、ただ俺を映しているだけで認識などしていない。


 「俺がわかるか……?お前の幼馴染のラウルだよ………」


 「………ら、うる………」


 淡々とした声にも、感情はなかった。

 おもちゃのように、聞いた言葉を繰り返しただけなのだ。

 壊れてしまわないように、俺は彼女の手を握る。

 しかし、彼女はいつものようには握り返してくれない。


 『昨日、帰り道で魔物の群れに襲われたらしい……。そのうちの一体は上級の魔物だったそうだ。

 ああ、結界があるから本来なら大量な数の魔物が町にやってくるなんてありえない。

 実際、結界が破壊された様子はないし、そんなことが魔物どもにできるわけがない。


 ………だが、魔物を討伐した騎士団の話によるとな、一時的に結界を維持するコアが停止されていた形跡があったそうだ。おそらく、上級の魔物の仕業だろうと………』

 

 ここにくる途中、父親が事の顛末を教えてくれた。

 昨日、俺と別れた後で魔物に襲われたのだろう。

 幸いだったのは、近辺を警護していた騎士団がいたので魔物がすぐに討伐されたことだ。

 被害規模は小さく、保護された複数の人達はかすり傷程度のものらしい。


 しかし、唯一アマンダだけは、全身傷だらけで痛々しい有様だった。

 おそらく彼女は、魔物が侵入してきた直後に遭遇してしまったのだろう。

 だがアマンダは身体以上に、心のダメージが大きいのだと言う。


 ショックのあまり、事件前後のことをアマンダは覚えていない。

 だが、医者が体を調べた際、彼女の身が穢されてしまったのだろう痕跡があったそうだ。


 恐ろしかったに違いない。

 複数の異形のものに囲まれて、組み伏せられてしまって。

 そうして彼女の心は砕けてしまったのだ。


 喉に何かがつっかえているように、苦しい。


 「俺が……俺が1人になんかしなければ……!」

 

 視界が滲んで、アマンダの顔を見ることができなかった。

 何が、チート能力だ。何が未来を見る力だ!

 もしファタリタが、この未来を予知していれば、知ることができていれば防げたのに‼︎


 己の無力さに、下唇を強く噛み締めた。

 重要な時に使えない能力なんて、何の価値があるというのか‼︎


 脳裏にいつかたどり着く世界が蘇る。


 ………いや、違う。

 ファタリタは、初めからこの可能性を示していた。

 だから、俺は予期された未来を拒絶したのに。


 〝いつかたどり着く世界〟。

 俺が勇者となる世界に、アマンダはいない。


 何故そんなことになったのか、何が彼女を殺してしまうのか、そこまではわからなかった。

 ただ1つ、俺が原因であるという強い確信だけはあった。


 だから魔王討伐に行かなければ、大丈夫だろうと思っていたのだ。

 俺が平凡な男でいれば、彼女を巻き込むことはないだろうと。

 しかし俺の浅はかな考えでは、世界は変わらない。

 何もしなくても、勝手に世界が彼女を連れて行ってしまう。

 

 「アマンダ………意気地なしで、ごめんっ‼︎

 俺だけが、お前を助けられたかもしれないのに。

 前世と変わらないって、平和ボケして、問題から目を背けてしまった‼︎

 でも、もう現実逃避はしない。

 あんな未来が来る前に、この戦争を終わらせてみせるから。


 お前を殺す運命を、俺が殺してやる」


 〝この力をどう使うかは君次第。せいぜい有効に使いたまえよ〟


 あの日の夕暮れを思い出す。

 最初は、よくある異世界転生ができてラッキーだとしか思っていなかった。

 そんな甘えた考えだから、折角の力を無駄に浪費し続けた。

 だけどもう俺は、ただの転生者なんかじゃない。



 3週間後、王都から数名の騎士が俺を迎えにやってきた。

 

 「手紙の送り主は君で間違い無いな?ラウル・ビンデバルド」


 「はい」


 「君について検査をさせてもらったところ、たしかに高い魔力を有する魔法使いであると判明した。

 国から徴兵令が出ている以上、君には戦場へと赴いてもらうことになる。

 これに異論はないか?」


 「………はい、行きます」


 「わかった。では正式に、君を魔法騎士団に入団させる。

 君の力で、我が国に勝利をもたらすのだ」


 俺は最上級の敬礼で、戦う意思を示す。

 その日、父親と母親、そして未だ虚なアマンダに別れを告げ、俺は王都へと旅立った。


 まだ小さな拳に誓う。

 魔王も、運命も、殺すまでは折れたりしない。

 いつかの世界と同じ手になった時、彼女が握り返してくれることを願って。

 





 「ようやく、マリーゴールドは花ひらいた。

 さあ本番はこれからだ‼︎存分に力を奮っておくれ」

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