35・騎士のおじ様
「仮面舞踏会なので仮面のまま失礼する。我が名はルーディン・ジェイ・カルカロフ。明日にはカルカロフ家の当主となる者だ」
男は両手を広げ堂々とした振る舞いで
恐ろしい言葉を繋げた
「この場で私に忠誠を誓うことが出来ぬ者には死を。この男のようになりたくなければ私に忠誠を誓う契約を!」
そう言うと男の後ろからフラッと倒れ込んできた人影がそのまま階段をゴロゴロと転がり落ちた
「ベディヴィア!」
レーンが飛び出し転がり落ちるベディヴィアさんに駆け寄る
悲鳴が上がり、混乱が会場を包む
私も飛び出そうとしてソルに手を掴まれ、階段の上の男性に見られないよう机の影へと引っ張られる
「デレクっベディヴィアさんが!」
「でも俺達は招待されてねぇっ今は目立っちゃダメだ!」
私の腕を掴むソルの手に力が入る
ソルも本当は駆け寄りたいんだ
倒れているベディヴィアさんの手が伸びて駆け寄ったばかりの
レーンさんの仮面をガシッと掴んだと思ったら
炎が上がった
再び悲鳴が上がる
「無意味だ、ベディヴィア。皆の仮面の毒も既に体内に入っている。今更外したって意味は無い、さあっ忠誠を誓う者には解毒剤をやる!前へ出て頭を垂れてその命を繋げたまえ」
毒?!
「なあユーリ、あれが本当にベディヴィアの兄さんなのか?あれを、付けられてるんぢゃねえのか?」
「ごめん、仮面のせいでわからないの」
どうしよう
腕輪と首輪が着いてるかどうかも分からない
私とソルの仮面はベディヴィアさんが用意してくれたものだから
毒は無い
そこは大丈夫…
それに、秘密兵器に触ってないならまだどうにもならない状況じゃないってことなの…かな?
ベディヴィアさんとレーンさんと一緒に瞬間移動して
この場を離れるべきか
離れたあとで、誰かに助けを求めるのが最適?
この場にいる人達に残されてる時間はどれぐらいなの?
周りを見渡す
パニックに包まれてる会場
窓を割ろうとする男性
泣き崩れる婦人
前に出ようかと悩むおじさん達
ふと、仮面を外し、冷静に仮面を見つめている男性に目が止まった
仮面を外してるけど、髪で顔が隠れて鑑定さんはまだ見えない
その男性の少し後ろへソルの手を掴み、瞬間移動する
このパニックなら、多少見られたって誤魔化せるだろう
「すみません、何を考えていらっしゃるのですか?」
慌てる様子のない男性に思い切って声を掛ける
男性がゆっくり振り返る
黒に近いような濃いバイオレットカラーのふわっとした髪、光の見えない瞳は冷たく私達を見下ろす
冷たい空気を纏ったガッチリとしたおじ様
_______________
ジョージニアス・ビィ・ノーフォーク
44 ♂12.9 Magenta(____)
ノーフォーク太公爵領当主
太公四家の1つ
《王家の剣・不死将軍》王国騎士団在籍・王国騎士特務団長
_______________
うげっ! とっとんでもない人なんじゃないのこれ??
色の横、空白なの初めてみたんだけど
「貴族であるならば、自ら名乗るべきだ」
私達を見下ろす目が刺すかのように冷たい
そして低く重い声
あまりに鋭い視線に思わず後ずさりしてしまう
でも、この人だけが冷静にこの場を見ているような気がした
「いきなり声をお掛けしてしまい申し訳ありません」
私は前にアレクがやってた貴族の挨拶を必死に思い出す
ソルの手を離して片膝を地面に付け、視線を落とし手を胸に当てた
王国騎士団在籍、それに特務騎士団長?
どれぐらいすごい人かわかんないけど、きっと味方になってくれるに違いない
「私の名はユーリ。師であるベディヴィアとその家族を救いたいのです。貴方様はこの場を冷静に見ているように伺えました、どうかお力添え願えませんでしょうか」
「ベディヴィアが師…か」
視線をあげると光のない瞳が私に突き刺さる
背中を冷や汗が走る
「この毒は私には効かぬ」
そしてゆっくりと私のすぐ後ろに立つソルを指さした
「剣は預けなければ入れぬであろう。それに、その腰のマジックバックも、どのようにして持ち込んだ?この場でそのような物を持てるのは、あちら側の人間だけだ」
ソルの腰の剣、そして私へ視線を移し階段上の男を顎で刺す
そうか、私達は怪しいのか
「私にはユニーク魔法がございます」
「おいっユーリ!」
ソルがしゃがんでいる私の肩に手を置いた
ヒュッと顔に風が通った
少し離れて話していたおじ様は瞬きする間に目の前に居て
片手でソルの口元を掴み、ソルを持ち上げていた
見えなかったっ!!
ドッドッドッと心臓がうるさくなる
「言葉を続けよ」
多くは語らず、鬼のような冷たさで私を見下ろす
怖い
これが殺気を向けられるって事なのか
王国騎士特務団長
きっとこの人は魔法や剣が使えなくても
簡単に私達を殺せる
思考を止めたらダメだ!
マゼンタ……
この人はマゼンタの色だ
リアムさんと同じ
確かマゼンタは薬学、回復や治療などに特化していたはず
それにこの人は、この毒は効かないとも言っていた
「わ、私はこの場を自由に出入りできるユニーク魔法が使えます。ベディヴィアとレーンを解毒して頂きたいです」
ぱちり
とゆっくり瞬きをすると
おじ様はソルを離した
ゲホッゲホッと私の隣に崩れるとソルは私の手を掴む
それと同時におじ様は私の頭に手を置いた
「私をこのホールから連れ出せるのであれば協力しよう。そして、私にも協力してもらう。さあ、やって見せよ」
「ゴホッ なあ、本当にッ いいの、か?」
チラッと階段の下で倒れていたベディヴィアさんの方を見る
レーンさんが肩に担いで場所を移動している所だった
ベディヴィアさん顔が真っ青だ
2人とも、まだ私の渡した秘密兵器を使ってない
時間があると思っていいのだろうか
何人かが命を繋ぎ止めるために階段を登り始めていた
階段上の男もこちらの方は見ていない
ニヤニヤと階段を登る人を見下ろしてる
私の頭に手を乗せる彼の手首を掴む
飛ぶならどこ?
いきなりこの建物の外へ行ったら
私達を振り払い、そのままこの人は居なくなるかもしれない
この屋敷の中、最初に入った2階の部屋を必死にイメージする
「よろしくお願いします」
私はおじ様とソルと共にその部屋へ飛んだ
「なんと…」
景色が一瞬で変わり、薄暗い部屋の中に3人で飛んできた
おじ様は目を丸くして私の頭から手を離した
私とソルは立ち上がる
「コイツ何者なんだ?」
「特務騎士団長……あ、的な人だと思う」
「え?そうなのか?なんで分かんの?」
コソッと聞いてきたソルに思わず鑑定で見えた特務騎士団長と言ってしまって慌てて付け足す
やばば
「か、感!」
おじ様はスタスタと歩いて近くの机まで行き、触る
「幻覚では無いな」
クルっと勇ましくこちらへ振り返る
コソコソと話してた私とソルの肩がビクッと上がる
「面白い。噂になっておるユーリとデレクで間違いないな? ベディヴィアが手を掛ける理由が少し分かったように思う」
スタスタと私達の前に立って手を差し出した
「魔石をもっているか?3つだ、小さければ尚良い」
おじ様からさっきまでの殺気は無くなった
協力者になってくれたって事よね?
私はマジックバックを後ろから前に回して手を突っ込んで小さな魔石を3つ取り出し、差し出された手に乗せた
「あれは珍しい毒だ。色無しの血を使ったものだろう」
「えっ色無しの血には毒があるんですか?!」
なんですと?!私の血に毒?!
おじ様は渡した魔石に濃い紫色の光を放ちながら魔力を込め始めた
「特殊な加工をすれば、だ。魔痕が濃く、大きな者であれば30分と持たぬだろう」
本当にこの世界で色無しって異質な存在なんだな
おじ様の手から光が消える
「私が作れるのは3つまでだ、魔力は残しておきたい。口にこの魔石を含ませなさい。身体から痺れが無くなるまでずっとだ」
そう言っておじ様はソルへその魔石を2つ差し出した
「珍しい毒っつってんのに、そんな簡単に作れるもんなのか?」
ソルは睨みながら、なぜ俺に?と表情に出しながら魔石を受け取る
「解毒薬を1度精製すれば、私は自分の魔力で再現できるのだ。まあ、魔力を多く消費するからあまりしたくはない事だがな。さて、ホールの入口へ行ってくれ。時間が無い、まずは預けたものを返してもらう」
「あっすみません。僕は1度行ったことがある場所にしか行けません。さっきは机の下へ飛んで、ホールに入ったので入口へは直接行けないのです」
おじ様は一瞬目を細めて私を見ると小さくため息を吐いた
「それならば仕方ない、行くぞ」
スタスタと大股で歩いて扉を出ていく
私とソルは走ってその後を追いかける
「あの!毒に精通した貴方様のような騎士を、カルカロフ侯爵が呼んだのですか?」
ひとつ疑問に思っていた事をおじ様へ投げかける
毒を盛る計画なのにわざわざこんな強そうで、しかも毒を自分で解毒出来るような人物を、私だったら絶対に招待なんかしない
すごい早歩きで歩いてたおじ様がいきなりピタっと止まりこちらに振り返る
勢いを殺すことが出来ず、ボブっとそのお腹に飛び込んでしまう
「あっすみませ「騎士?そう言ったな?」
ひっ
やばいっ
つい、鑑定さん情報を口に出してしまう
私の馬鹿馬鹿馬鹿!
考えてる事が口に出ちゃう私の馬鹿ぁ!
ガシッとおじ様の脇に抱えられた
それを見てソルが手を伸ばす
「遅い!着いてこい」
「クソッ」
ソルの手は私に届かず宙を掴む
タッ
おじ様は私を脇に抱えて走り出す
「私はこの場ではメンティス子爵、だ」
えっ? 笑って……る?
人とは思えないスピードで屋敷の中を駆け抜けあっという間に仮面を付けた武装した人が沢山いる大きな扉の前にたどり着く
ほんとに仮面が厄介
少しでも情報が欲しいのにな
ぱっと振り返るけどソルが見えない
身体能力の高い獣人のソルでも追いつけない程早いのってヤバくない?
「止まれ! この扉は封鎖されている! 何者も通す訳には行かぬ!」
私たちに近い2人が剣を抜いて構える
「カルカロフ侯爵殿は何処にいる?」
パチパチッ
何かが弾けるような音がする
右手で私を脇に抱えているおじ様の左手には禍々しさを放つ紫色の玉が出来ていた
少しずつ大きくなっていく玉
「なっ何をする気だ!? 貴様!!」
剣を構えていた2人が怯えた表情で斬りかかってきた
ひぃっ
おじ様は濃い紫色の玉を前へ突き出した
バチンッと玉が弾ける
私達へ振り下ろされた剣は勢いを無くし、斬りかかって来た2人が倒れた
後ろで見ていた他の人も倒れていく
「立っているのはたった1人か、質が落ちたものだな。そこの、この家に仕えている者か?」
腰の剣に手を添えている1人だけ立っている男は
ゆっくり腰に添えた手と反対の手を『待て』と言うかのように前へ出す
「ッ…… 侯爵様にお仕えしております、名をラルトと申す。このホールは封鎖されております。侯爵様に毒を盛った犯人がこの中にいるとの事、ルーディン様より扉を開けるなと、命を受けております。殺人未遂を犯した、犯人確保の為にもこの扉は開けられません」
「ユーリ!」
少し息を切らしたソルが角を曲がってこちらへ駆け込んでくる
ホールの扉からは何も音がしてこない
あんなパニックになってたのにここの人達は中で何が起きているのか知らないみたいだ
ホールの中は魔法が使えない上に、音も遮断されてるって事かな
「中ではパニックが起きています! ベディヴィアも毒で倒れ、招待客も皆、毒に犯されています!」
私はおじ様に抱えられたまま、必死に声を張る
ラルトと名乗った男性は目を見開き、困惑の表情を浮かべた
「ルーディンと名乗る仮面を付けた者が忠誠を誓わなければ、解毒剤をやらぬと言っている。カルカロフ侯爵殿が毒で倒れているのであれば、恐らく同じ毒だろう」
カツ、カツ、とゆっくりおじ様は前へ進む
ラルトという男の瞳が戸惑い、揺れる
「私の預けたものを返してもらう。何、その扉から中を覗けば、我々が言っている事が事実かどうか確かめられるのだ、勝手にすればいい」
おじ様は両開きの大きな扉を塞ぐように立つラルトへでは無く、扉を支える大きな石がはめ込んである柱の方へ行くと
その石に触れた
すると冒険者ギルドの魔法ATMの時のような黒い穴が下に現れた
私を下ろすとその穴に迷いなく手を突っ込みソードベルトを取り出し腰へ素早く付けた
ソードベルトに着いている小さな箱の様なもののボタンをパチンと外して手をかざすと魔法陣が浮かび上がった
そこから豪華な装飾が施された少し太めの剣が現れた
ソルの剣と同じ様に大きな紫の石がはめてあり、綺麗な模様が彫ってある
ソルも私達のすぐ隣へ並び、腰の剣に手を添えている
「オッサン! クソ早えーんだよ」
「ちょっ! デレク!」
「その剣は!!」
魔法陣から現れた剣を見るなりラルトは顔色を変え、サッと跪いた
ぐぇっ
その反応に、その顔色……
やっぱりこの人すごい人なんだろうな
「ほぅ、見ただけで分かるか……ユーリ、お前はこれを見ても跪かなぬのだな?」
言葉の意味がわからずキョトンとしている私を見ておじ様がクスッと笑う
何がおかしかったんだろ?
さっとソードベルトへ剣を収める
ソルと同じく、石の部分はソードベルトの留め具で隠れた
「私はこの場ではメンティス子爵だ。そのような態度を取る事は今後するな、よいなラルト」
「かっかしこまりましたッ」
ラルトは狼狽えながら、目線を下げたまま立ち上がる
おじ様はまたソードベルトに着いてる小さな箱のようなものに手をかざすと、魔法陣が現れ、魔法陣に手を突っ込む
魔石を掴んで出てきた手
掴んだ魔石5つを宙へ投げると、魔石がピタッと空中で止まる
透明な石はみるみるおじ様と同じ髪色に染まり、濃い紫色の光の玉となってそのまま様々な方向へ飛んで行った
何だろう?
魔石を使った魔法?
どこへ飛んでるんだろう?
おじ様が魔石を出したのを見てハッとしたのか
慌ててラルトも魔石を取りだし、飛ばした
「その扉をまだ開かぬという事は、ここにホールの魔石は無いのか」
「ええ、ホールを見渡せる上の扉です。ルーディン様が管理したいと、数日前に移動したのです」
「珍しい毒に解毒剤、ホールの魔石の移動……随分計画的だな。あの愚弟のルーディンらしからぬ」
愚弟?弟?あっそうか、ベディヴィアさん確か三男だ
って事は真ん中のお兄さんがルーディン……?
愚弟ってこのおじ様にも言われてるぐらいダメダメな人だったんだろうか?
「デレクとやら扉に手を着きなさい。ここからこじ開けるぞ」
「なんで俺がっ」
「上へ移動する時間が惜しいのだ。お主は魔力量が多い、魔力を貸しなさい。それとユーリ、君の魔法は見た所へ、例えば視線の先などに移動出来るか?」
「はい! 行けます!」
「君等の行動を見るに、君に触れている事が条件かな?」
う、鋭いな
「そうでっわっ」
さっきは脇に抱えられたけど、今度はきちんと抱き上げられ、右腕に収まった
咄嗟にソルがわたしの足を掴む
「扉が開いたらラルトは客を屋敷の玄関ホールへ誘導させろ。5分もあれば我が隊が来るであろう、解毒薬を準備するよう伝えた。あとこの魔石をカルカロフ侯爵殿の口に含ませなさい、大至急だ。同じ毒であれば効くはずだ」
「はっ」
伝えた?
ってことはさっきの魔石が飛んでいってたのは
何かを伝える連絡系の魔法だったのかも
ラルトはおじ様から、さっき作っていた残り1つの魔石を受け取り、
新たに魔石を取り出し、何個か飛ばす
「ユーリ、扉が開いたらベディヴィアを探し、側へ移動だ。デレクはそこで手を離し、ベディヴィアとレーンを解毒。ユーリは階段上のルーディンの元へ私を連れて行きなさい」
「ダメだ! 俺はユーリのそばを離れるつもりはねえ」
「あの男に逃げられる前に、確保せねばならぬのだ。本来ならベディヴィアの元へ寄るのも惜しい。手を離さぬと言うならば切り落とすまでだ、私はお前の価値を見いだせておらぬからな」
ゾッとした
ソルを見下ろす目があまりにも冷たい
「きっ切り落とすのはダメです! デレク! この人は約束通り解毒薬を作ってくれた、だから次は私が協力する番なんだよ」
ソルは私を見つめ、一瞬瞳が揺れる
「ッ…… クソッ!!」
ばんっとソルは扉に手を着いた
左手はしっかり私の足を掴んだまま
おじ様は私を右肩の上へ座らせる
ベディヴィアさん達を見つけやすくする為だろう
「行くぞ」
おじ様は左手を扉へ当てた
「我、マゼンタの子は望み願う。混沌を沈めし神々の大いなる知恵を以て、我が道を阻む愚かな壁を打ち砕きたまえ」
ソルから真っ赤な炎のような魔力とおじ様の禍々しい黒に近い紫の魔力が扉へ流れ込む
扉が眩しい黒い光を放ったかと思うと、黒い膜が現れた
そしてガラスが割れるようにヒビが入って砕け散った
おじ様は勢いよく扉を蹴った
バンッ
ホールの中の時が一瞬止まったみたいだった
“赤い”
「扉があいたぞーーーー!!!!」
扉の前に立っていたであろう兵士2人が剣を抜いてこちらへ振り下ろす
おじ様は軽く躱して、2人を一撃で無力化する
扉を開いて私の目に飛び込んできた色は“赤”だった
着飾ってる招待客達は赤い血で汚れていた
赤く充血した目から血の涙を流し
吐き出した血で胸元を汚していた
酷い
なんて惨いことをっ
扉へ向かって流れ込んでくる人々
必死に2人を探す
ベディヴィアは? レーンは? どこ?
もしかして私の秘密兵器を使ったんじゃ……?
それとも2人とも倒れてるの?
「ユーリ!」
呼ばれた方へ顔を向ける
真っ赤に染った瞳のレーンを視界に捉えた瞬間、私はおじ様とソルと共に側へ飛ぶ
ソルが私の足を掴む手にぐっと力を入れた
「気を付けろよ!俺もすぐ行くから!」
ぱっと手を離した
ベディヴィアさんとレーンも心配だけど
2人から顔を階段の上へと向けて直ぐに飛んだ
あれ?レーンは血の涙を流してたけど、横になってたベディヴィアさんは血を流してなかったような…?
レーンが拭いた・・のかな
そんなことを考えながら、視線では2階に立っていたあの男、ルーディンを探す
「やはりおらぬな、扉が開いたのを見て逃げたか」
私を肩から下ろし、左腕に抱き上げた形に変えると
剣を抜いた
刀身は黒く、光が当たると少し紫っぽく光る
たたっと駆けると、奥の扉の前で軽く剣を振った
「わっ」
扉がパラパラと崩れ落ちる
軽く振ったように見えたのに切れ味はんぱない
扉の残骸を軽くとびこえ奥へと掛けていく
「奴を視界に入れたら、迷わず側へ行ってくれ。合わせる」
「分かりました」
ぎゅっとおじ様を掴む手に力を入れる
扉をバターのように軽く切って、部屋の中を確認しながら
奥へ、奥へと走る
「動かないで」
後ろから知っている声が冷たく響いた
おじ様は振り返らずピタッと足を止めた
「ユーリちゃんも、どこへも飛ばないで」
抱き上げられているので私にはおじ様の後ろが見える
真っ直ぐとこちらへ短剣を向けているルティーナさんの姿
「なん……で?」
腕輪と首輪は取った
取ったのに!
ルティーナさんの隣に水の玉が浮かび、
目を閉じて浮かぶプティとデュードさんがその水の玉の中にいた
「今、私の手が触れている間はこの水中は息が出来るようになってる、抵抗するなら手を離して溺死させるわ。それに、もし私の意識が無くなっても、この水は消えない。私の意思に関係なく溺死することになるわ、だから抵抗しないで」
「ルティーナ・カルカロフか。厄介だな」
おじ様は剣を鞘に収め、手を挙げた
「なんでルティーナさんが?…… なにを、してるんですか?」
声が震える
「貴方を連れていかなければいけないの。ユーリちゃん、抵抗しないでもらえるかしら」
笑顔の消えたルティーナさんの顔は初めてで
泣きたくなる
怖かったけど、私、ルティーナさんを助けたくて頑張ったよ?
腕輪も首輪も無いのに?
なんでなの?
そっち側の人間だったの??
ねえ、ベディヴィアさんを愛してるんじゃないの?
鑑定を見ても、何も変わってない
操られてはいない
_______________
ルティーナ・カルカロフ
27 ♀6.30 magenta×cyan
カルカロフ侯爵家三男 ベディヴィアの妻
シルバーシティギルド所属:A級冒険者
S級パーティ シルバーウインド・メンバー
_______________
子供たちを捉えてたあの男の人の鑑定にあった
組織のような物に所属してるとも書かれてないのに
「私が行けば、プティとデュードさんを解放して貰えますか?」
「ええ。約束するわ」
「おじ様、降ろしてください」
「おっおじ?…」
おじ様はまん丸と目を見開き、私を見た
ご、ごめん。つい心の中で呼んでた呼び方しちゃった
おじ様は息を吐き出し、私を抱き上げたままゆっくりルティーナさんの方へ向いた
「シルバーウインドのデュードと…… なんだそれは? まあ、その2つなんかよりもこの子の方がよっぽど命の価値が高いな。ルティーナよ、その2つでは私が手を放す理由にはなり得ぬ」
「なっ!プティは私の家族です! 離してください!」
肩や胸を力いっぱい押そうが叩こうが、おじ様はビクともしない
離してくれない
ああっプティ!
「どなたか存じませんが、その子を離してください!」
「ルティーナよ。この子を得た事で、お前が得るものはなんだ? この子供の命よりも価値のあるものか?」
ルティーナさんの顔が苦しそうに歪んだ
「私には選択肢が無いのです。お願いします、彼を…… 救うにはその子が必要なんです!」
彼……?
ベディヴィアさん?
さっき血を流していなかったベディヴィアさんの姿を思い出す
「ベディヴィアさんだけ、違う毒?」
ビクッとルティーナさんの肩が揺れた
ルティーナさんへ向けていた顔をぐるんっとおじ様へ向ける
「ベディヴィアさんとその家族を救う為に貴方に協力をお願いしました。この手を離して下さい」
ベディヴィアさんもルティーナさんも
私とソルに寄り添って手を差し伸べてくれた
助けたい
「はぁ」
仕方ない、と言うように深く息を吐き出すとゆっくり私を下におろした
手が離れた瞬間に私はルティーナさんの前へ瞬間移動する
「先にプティとデュードさんを解放してください」
「ダメよ。私が貴方に触れてからじゃなきゃ」
「ベディヴィアさんの命が掛かってるんでしょ?逃げません」
ルティーナさんは少し迷って手を降ろした
プティとデュードさんは地面へゆっくり寝かされ包んでいた水が消えた
それを確認して私は手をルティーナさんへ伸ばした
「ごめんっユーリちゃん」
泣きそうな顔でルティーナさんが私の手を取った
私とルティーナさんの足元に水と魔法陣が現れる
「絶対に見つけてみせよう」
おじ様の声が聞こえた直後
足元の床がいきなり消え、水の中に落ちた
私はビックリしながら掴んでたルティーナさんの手を両手でしっかり握り込む
「ユーリ!」
遠くからソルが吠えるように私の名を呼んだ声が聞こえた気がした
真っ暗で上も下も分からない
握った手の感覚しか分からない
薄れていく意識の中
「このまま少し眠ってて」
ルティーナさんの声が頭の中に響いた
ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!
って思ってもらえるようがんばりまっす!
評価などしてもらえたら
飛び跳ねて喜びます!!
よろしくお願いします!




