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32・side ベディヴィア…歪な子供達




「ベディヴィア終わった」




ドサッと私の前に指定したアーディを置く血を被ったデレク



「その血は?」



「俺のじゃねえ、コレの」



ぶっきらぼうに言い放つと全身から魔力を放ち、まだ乾いてない身体にかかった血を飛ばす


「はぁ・・・何度も言ってるだろう、そんな風に魔力を使うな」



夢に現れた2人を森で見つけてかれこれ7日

修行という名を借りた森学習を始めて5日



森での過ごし方、魔獣や魔物の探し方、水源の探し方、風の読み方、どんな事も教えればスライムのように吸収し、すぐ自分のものとするこの少年は異様、または天才とも言える



そして、魔力を込めた攻撃でしか傷付けることすら出来ないCランク以上の魔獣をいとも簡単に狩り出来てしまう身体能力の高さ

鋭い野生の本能

底の見えない魔力量




この少年は危うい




その力を間違った方向で伸ばし、汚い大人に利用されれば

彼は1人で小国を落とす程の兵器にもなりうる

ユーリが彼を救っていなければ、未来は恐ろしい事が起きていただろうと断言できる程の逸材・・・



「今日、これ狩ったら魔法教えてくれるって言っただろ?早くやろうぜ!」




幸い、彼にはユーリという守りたい人がいる

警戒心の強い彼女と一緒にいる限り、裏社会に飲み込まれるような事にはならないと思うが


何があるか分からないからな

備えておく事は大切だ



「引っかかれたりもしてないのだな?アーディは爪に毒があるぞ」



「遅かったから全然っ、無傷。やろーぜ!」



「その前にきちんと処理を行ってからだ。血抜き、魔石取り、角がある魔獣は角取りが基本だと言ったはずだが?」


「あっ、角・・・」




短剣を腰から抜き、スパッと2本切り落とす



「これでいいだろ?」



デレクの使ってる短剣は決して良いものでは無い、普通の鉄で出来たむしろ粗悪品と言えるような物だ

そんな刃でCランクのアーディの角をいとも簡単に切り落としてしまう彼に深いため息が零れる


手から刃物へ魔力を送り、無意識に刃を強化しているのだ



「普通はどんな魔獣でも、根元から落とすんだ。そのように角を切るのは良くないと言ったはずだが?」



「分かってるけど、早く出来る方を選んだだけだろ?根元付近から切り落とせば価値は変わらないってギルドの人間が言ってたじゃねぇか」



確かにその通りだが・・・はぁ

常識を叩き込むほうが、今のデレクには必要かもしれないな



私のように特級冒険者ともなれば違和感はないが、7歳の少年が、面倒臭いからという理由だけで角に刃を入れるのはおかしいのだと後ほど言っておこう・・・

普通は君みたいに切れないのだ、と



「わかった、では魔力を扱う練習をしようか。魔法はイメージが全てだ、大事なのは自分の出来る限界を知ること、そしてどれだけ正確に魔力がどう働くのかをイメージするかだ」




私は右手の手のひらを広げ、火の玉を作り、火の玉の形を鳥に変える

鳥がデレクの周りを羽ばたき私の肩に止まる



「獣人は魔力の制御が難しいと聞いたことがあるからな。まずは好きな形に炎を変える事から始めてみよう」



「わかった!」



デレクはぱっと手のひらを開き、私のように火の玉を作る


じーっと火の玉を見つめるデレク


・・・ダメだな



「デレク、その玉を上に飛ばせ」



「何でだよ?まだなんにもなってねぇぞ?」



デレクの魔力がどんどん火の玉へと注がれていく



「今すぐにだ」




「チッ」




舌打ちすると真上に向かってデレクは火の玉を投げた

デレクの隣へ素早く移動して炎の盾を頭上に作る




ドゴーーーン




小さな炎に多すぎる魔力が注がれ、大きな炎を産み、熱風が吹き抜ける


「すっげえ!もう俺強い魔法使えるじゃん!」


空を見上げ、興奮してデレクが笑う


「馬鹿者!あれはただの魔力崩壊だ、魔法なんかじゃない。小さな魔法に不釣り合いな魔力を注ぐと起こるただの事故、隣にユーリが立って一緒に戦うことを考えてみろ。放った魔力がどう作用するか分からないんだぞ?もっと慎重にやりなさい」




「隣にユーリが居たら・・・・・・あぶねぇ・・な」




しゅんっと分かりやすくデレクが落ち込む



「火の玉を作る前に、まずはイメージするんだ。炎をどのような形にし、どのように動かしたいのか・・・。今まで火を作る時はどうしてたんだ?」



「それは・・・こうやって」



デレクは人差し指と親指で丸を作ると、息をふぅっと吹き込んだ

丸を作った先に吐き出した息が炎となって現れる



変わった炎の作り方だな



「そのやり方はどのように身に付けた?」



「・・・父さんがこうやってたのを小せえ頃見てた。イメージして、とかよくわかんねぇ」



「大きさを変えるのは?」



「息を吐く強さを変えるだけ、強く吹けばでかくなる」



指で作った丸にフッ!と強く吐くとボォッと大きな炎がでた


「それ以外の魔法は教わらなかったのか?」



「父さんも母さんも小せぇ時に居なくなったから、特に何も」



そうか、小さい時に見た父親の魔法の使い方を体の動きと連動させることで火を作る魔法が()()()()()()とイメージが固定されてしまっているのかもしれない

それに大人を頼ろうとしない性格は幼少期に両親が帰ってこなかったトラウマも関係しているのかもしれないな・・・

7歳以下で両親を失った子供が生きるのは過酷だったはずだ



「ではイメージをするのはやめて、私をよく見ていろ」



無理に聞き出す様なことはせず

私は人差し指を立て、小さな炎を作る


「1本だと炎は小さい」


次は2本、中指も立てると当時に少し炎を大きくする


「本数を増やすほど、炎は大きくなる」



3本、4本と、指を立て徐々に炎を大きくしていき、最後は手のひらの上に顔位の火の玉を浮かべる



「よく見たな?」



「うん」


「もう一度やるから一緒に同じことを、復唱しながらやってくれ」


「1本だと炎は小さい」


「1本だと・・・炎は小さい」



デレクは真剣な顔で私の指を見ながら同じ動きをし、復唱する


デレクの指の先には私よりはまだまだ大きいが炎が浮かぶ


「デレク、1本だと炎は小さいんだぞ」


「1本だと・・・炎は小さい」



ぐぐぐっと火が小さくなっていく


やはり、頭で考えるだけなのが良くなかったのだな

ちゃんと私と同じことをやろうとしている事が伝わってくる

見本が目の前にあり、手の動きに合わせているから

考えやすいはずだ


炎が小さくなったのを確認して本数を増やす


「本数を増やすほど、炎は大きくなる」



「本数を増やすほど・・・」



デレクが指をもう1本立てると途端に大きな炎へと変わる



「ぐわっコレすげぇ難しい!!」



数日はこれを続ける必要がありそうだな


彼の過去を変える事は出来ない

ならば私は少しでも生きやすいよう教えるだけだ

口は悪いが、数日一緒に過ごせば分かる

ユーリを気遣う姿、宿屋の従業員を率先して手伝ったり

離れた場所で転んだ子供を見かければ駆け寄り、黙って手を差し出す


デレクは不器用だが、心が優しい




「炎が私と同じ動きが出来るようになるまでは、魔法で攻撃をするようなことは考えるな。目をつぶっても出来るようになったら次の段階へ移ろう」




「次の段階ってどんな事すんだ?」



うむ、私は人に魔法を教えた事がないからな

獣人は身体強化や魔力を纏った戦い方が基本だと聞いたことがあるが、魔力のコントロールが出来るのであれば魔法で攻撃する手段を持つのは悪い事ではないはずだ

本人も意欲があり、希望しているし・・・



「基本の攻撃魔法ファイアボール・・・辺りだろうな」



いつも通り、動作も何もなしでやろうとして

デレクには動きがあった方がいいのか、と考え直す


その辺にころがってる岩へ指を指す


「ファイアボール」



そう唱えてから小さな火の玉を打ち出した



ころがってる岩に焦げ後ができる



「こんな感じだな」


これなら指の数を増やして火の大きさを調節するイメージが使いやすいだろう

指の数でファイアボールの炎の強さを調整すれば良いだけだからな



「すげぇっ」


キラキラとした目で私を見つめるデレク


「こうやってイメージを作り、身体に魔力を放つ感覚を覚えさせる。そうすれば指を立てなくても、声に出さなくても頭で考えるだけでレッドの魔法が使えるようになると思うぞ」



「俺、頑張る!強くなる為に」



そう言うと指を立て、炎を作り小さく小さくしていく


切り株に腰を掛け

デレクを眺めながら兄に預けている息子と娘を思い出す



私がこうやって子供に何かを教える機会が巡ってくるとは思いもしなかった



私に残された時間はもう長くない

子供達の事は心から愛している

愛してるが故に、私がこの世から消える時に

悲しみに溺れ、苦しんで欲しくは無いのだ




私の死で

幼い子供達の心を痛めたくない

涙を流して欲しくない




だから大きくなり、記憶が残り始める年になったあの子達の事はルティーナに任せている

デレクとユーリを鍛えている間、兄の家に寝泊まりしている


もう、私は子供達と逢うつもりは無い




旅に出ようと決意した2週間程前の夜

神無し(いろなし)の少女と燃えるようなレッドの獣人の子供の夢を見た

イエローとレッドが混じる木々が生い茂る森の中

この森特有の色を持った沢山のビットラと戦う姿



そして言葉が降ってきた




《彼女に会え》





たった一言

だが、神から言葉を貰うのは初めてだった



こういう夢を見たのは屋敷に閉じ込められてる少年姿のレーンを見た時以来だ


その夢を見たのは一族の呪いが我が身に現れたと知り、冒険者になろうと決意した15歳の誕生日の夜だった


しばらくデレクを眺めながら考え込んでいると


デレクが突然振り返った



ピタッと動きを止め、睨むように一点を見つめる





「どうした?」




私の言葉が聞こえていないようだ

ただ1点を見つめ石像のように動かない




「・・イス・・・」




上手く聞き取れなかったが、小さい声でデレクが何か呟く



真剣な顔で1点を見つめていた顔が一瞬で怒りに染まるとブワッと全身から魔力が炎のように溢れ出す

目にも止まらぬスピードで駆け出した



デレクが走っていったのは街の方角



「待て!」




私の声など届かぬまま走って行ってしまう




「何だ?」



取り敢えずすぐさま私も魔力を足に集め、後を追う

魔力で身体を強化して走る

翌日の身体に響くが、彼を1人にするよりは良いだろう



狩らねばならないような魔獣がいないか魔力を森の中へ巡らせる

冒険者が2組・・・強い魔獣はこの付近には居ないようだ

物凄いスピードで走ってるのがデレクだな



デレクはどうした?

彼のこんな必死な様子を見たのは、初めて会った時にユーリに血をかけようとしていた時以来か


だが、ユーリはレーンと一緒に居るはず

彼が付いていて命の危険があるようには思わないのだが・・・


ん?この魔力は


「ベディヴィア!」




「レーン!ユーリはどこだ!」



ユーリの魔力を森の中に感じない

私の走るスピードに合わせレーンが私の上を風に乗って飛ぶ


レーンが1人でここにいるのは何故だ



「俺が怒らせた、そうしたら瞬間移動で先に帰ったんだ。デレクは何故走ってるんだ?」




「分からん。ユーリに何かあったのかもしれん」




すると空から魔力の塊が2つ飛んでくるあれはデュードの魔力

その2つの魔力の光は真っ直ぐ私とレーンに飛んできて目の前で弾ける


伝達魔法だ



『ユーリがいきなり部屋の机の上に瞬間移動して現れ、気を失っている!大至急来てくれ!プティが色の無い欠片のようなものを取り込んでいる』



さあっと頭から血の気が引く



「ベディヴィア!俺は先に行く!」





レーンはそう叫ぶとグリーンとイエローの光を放って消える



私も全身に魔力を纏い、全力で森を駆け抜けた





森を抜けると門で派手に炎があがり、デレクの魔力が暴れているのを感じる


数少ないS級パーティの我らは列に並ぶ必要がないが、デレクだけでは列をすっ飛ばして門を通してもらえるわけが無い



「邪魔だ!俺は行かなきゃいけねぇんだよ!」




デレクの身体から溢れた魔力が炎となって周りに散る




私は魔石をバッグから出す



『特級冒険者のベディヴィアだ。もうすぐ門へ着く、そのレッドの少年と共に門を通らせてもらう、私が着くまでしばし待たれよ』




そう念じて魔力を魔石に注ぐと光となって門番のザッシュの元へ飛ばす

列の横を猛スピードで走りながらデレクが放った炎を私の魔力で上塗りし、鎮火させる




閉じられた門の前に着くとすぐに魔力を炎のように纏わせたデレクの腕を掴む




「落ち着けデレク」




腕を掴んだ瞬間、彼の魔力がブワッと身体に流れ込んでくる



「うるせぇ!!ベディヴィアも邪魔するなら俺はっ!」




キッと俺を睨むと更に魔力が腕から流れ込んでくる

私は自分の魔力で彼の流れ込んでくる魔力を押し返していく


「そんな状態では街の中へ入れてやれん、落ち着け。ユーリは宿屋でデュードが一緒だ、レーンも今頃部屋に着いているはずだ」



「でっでも!嫌な感じが無くなってねぇ!()()がこの街にあるんだ!」




彼の魔力の勢いが弱まった、動揺したその隙を着いて今度は私が彼に魔力を流す


ビクッと彼の肩が上がる

私の腕を振り払おうとするが、私が手を離す事は無い



「このまま私が魔力を流せば気分が悪くなり、身体に力が入らなくなるぞ。そんな状態でユーリの所へ行くか?それとも一度落ち着いて自分の足で歩いて行くのか、決めなさい」



「お、おさめ方が・・・分かんねぇ」



ギリィッと歯を食いしばり、冷や汗が頬を伝うデレク

身体から溢れ出す魔力が足元の草を燃やす



「怒りや戸惑い、乱れた感情を落ち着かせるんだ。楽しい事、嬉しい事を思い出せ」



門の向こうから光が私に向かって飛んでくる

閉められた門を通り抜け、私の前で弾ける




『ユーリは無事だ、怪我もしていない。ただ気を失っていて状況が分からない、プティが取り込んでいたのは隷属の腕輪に間違いなさそうだ』



「ユーリは無事だそうだ、怪我もしていない。これで落ち着けるか?」



嫌な予感が的中してしまった

デレクの言う嫌な感じ、()()、とは忌まわしき首輪と腕輪のことなのだろう


私はこの目で見たことは無いが、嫌な気を放っていると聞いたことがある



デレクの表情がホッと、柔らかくなる

すると身体から溢れていた魔力が収まっていく


それを見て私も魔力を流すのを止める

腕はしっかりと掴んだままだ



「べ、ベディヴィアの旦那・・・」



門番数人が槍をこちらに向けたまま

恐る恐るザッシュが私に声をかける



「先程伝達した通りだ。門を開けろ」



「はっはい!!ほら!門を開けるんだ」




開いた瞬間飛び出そうとするデレクを止め、背中にデレクの腕を回す



「私と共に行けぬと言うなら、身体の動きを制限するぞ」



デレクを掴む腕に少し力を込める



「クソッ!!じゃあ急いでくれよ!俺はすぐにでもユーリの所へいきたいんだ!!」



またブワッと魔力が身体から溢れる



私はため息を深く吐き出す



仕方がない・・・か

門番の視線もある、ここで彼が暴れていたのは列に並んでいた大勢の人間が見ている

特級冒険者としてやりたい放題しているデレクを諌めなければならない


私の手から逃れようとじたばた暴れるデレクの足を払い地面へ組み伏せる

膝でデレクの腕を押さえ、バッグから魔力封じの紐を取り出す



「ガハッ。・・・グッ、ベッ・・・ベディヴィア?!」




両腕を背中で縛り片腕で荷物のように脇に抱える




「騒がせてしまった事、大変申し訳ない。もし、今回の件で怪我をした人がいれば冒険者ギルドに届け出てくれ。見届け人として私が責任を取ろう。ザッシュこの場を頼んだ」



大きな声で周囲に聞こえるように言い放つと私はデレクを抱えて門を通る


そのまま歩いて宿屋へ向かう



「離せよ!なあ!!この紐も解けよ!力が出せねぇ!」




「ダメだ。感情が高ぶるだけで周りに火を撒き散らすような状態なんだぞ、それに大人しく歩けないだろう」



「うるせぇ!やっぱり離れるべきじゃ無かったんだ!ユーリに説得されるまま別々に訓練なんてしたからこんな事に!クソッ離せよ!」



「違うな、我々はいつだって君達から目を離していなかった。今回何が起きたのかは分からないが、ユーリの判断ミスだろう。瞬間移動でレーンのそばを離れたようだ」



建物と建物の間に入り、デレクを降ろし頭を掴み、私としっかり目を合わせる




「それにお前もだ、‘’できるだけ目立たず静かに暮らす為の力を私達に下さい”と言って来たのはお前達だ!なのに後先考えず、門で己の魔力を感情のままに撒き散らし、悪目立ちした!後にどのように思われ、扱われるか考えていなかっただろう!」



デレクの目が大きく見開く



「す、少しでも早くユーリの所へ行きたかっただけだ!」



「それならば何も言わず掛け出すのではなく、立場も力もある私に言うべきだ!自分がただのガキだと言うことをちゃんと理解しろ!お前はその辺の冒険者よりは強い、だがお前より強い奴なんて山程居る!自惚れるな!実際1人では列に並ばず門を通る事だって出来なかっただろう!」



見開かれた燃えるような瞳がぐらっと揺れる



「君達2人は身元を隠したいのだろう?私が冒険者ギルドでわざと目立ったのは身元を疑われないようにする為だ、獣人という特徴を隠しているのもお前の毛先をジェルで黒くしてるのも、今のお前を印象付ける為だ。人族は視覚で見えるほど身体から魔力を放出させたりしない、お前の軽率な行動で今後自分達が動きずらくなるんだぞ?ずる賢くなれ、考える事を全てユーリに委ねるな!大人を、私を、利用してやるぐらいに思え!」



ポロっと雫が瞳から零れる


「うるせぇっ!そんなっ俺が分かるわけ・・・ないだろ!言ってくれなきゃっ分かんねぇだろ!」



「分からないからと考える事を辞めたのはお前だ。ユーリはギルドでは戸惑っていたが、今は私の意図をわかっている。だから短時間で強化する為に別行動する事を望んだのだ、分からぬのなら聞け!考える事をやめるな」



ユーリはとても聡い子だ

冒険者登録をした夜こっそりと言ってきた



『デレクの特徴を上手く隠してくれて、ギルドで目立つ様に動いて下さりありがとうございます・・・私、ベディヴィアさん達を信じます、よろしくお願いします』




真っ直ぐな瞳

7歳らしからぬ立ち振る舞い

気の使い方


デレクの強さも異様だが、私はユーリの方が異様に思う

感情は表情に出やすいが、7歳とは思えない考え方や行動を取る

夢では色が無かった、そして本人もはっきり言葉にした訳ではないが、認めている

神無しなのに瞬間移動という見た事も聞いた事も無い特殊な魔法を使う

そして本人は気付いてないが、恐らくレッドの魔法も使うことが出来る


貴族語を違和感無く話し、不思議な料理を作る

貴族学校で習うはずの計算をスラスラとこなす


何気なく料理はどこで習ったのか?と聞いた時は


『独学!張り切って作りすぎちゃって・・・あ、えっと、頭の中で想像してレシピを組み立ててるんです・・・よ』



あははっと笑って誤魔化す彼女の手つきは驚く程手際がいい

宿屋に泊まった初日に火の出し方すら分からず、ルティーナに色々教えて貰ってた事から考えると違和感しかない

料理経験はないのに、作り方は知っているような・・・?


時々、子供なのに子供を相手に会話してない・・・

そんなおかしな感覚を時々感じるのだ



その度に神の言葉の意味を考えている


我が神、プロメーテウム様は《彼女に会え》といった

同じ神の色を色濃く受けたデレクでは無く、ユーリに会えと言ったのだ


‘’助けろ”でも、“救え”でもなく《会え》と

神の意図が分からない




基本的に2人とも素直でいい子だ


レーンが言うにはユーリはどんなキツい訓練でも多少愚痴は零すが、意味があると分かっているようで、やらないとは言わないらしい

怒らせて本質を見たいから更にキツく当たると今朝言っていた

彼女が怒って一人で行動したのはレーンにとっても予想外だったのだろう



「アレが街にあるっ・・・なんでっ」



歯をかみ締め

涙を零しながら不安そうな瞳が私を見つめる

手を離し、視線を合わせるようにデレクの前にしゃがむ


「アレ、とは隷属の腕輪か服従の首輪で間違いないか?」



少し驚いた顔でコクン

と頷く



「どこにあるか分かるか?私を連れて行くことは出来そうか?」




「で、でも・・・俺ユーリの所に

「今は眠っている、レーンもデュードも同じ部屋にいる。ユーリは安全だ。だから場所が分かるなら私は今すぐにでも確保へ向いたい。だが、デレクがどうしてもユーリをその目で見て安心したいなら宿屋に寄ってから行く。どうする?お前が決めろ」



もしもユーリが抵抗し、誰も嵌められておらず落ちているのであれば早く回収しなければ二次被害が起こる

誰かが持っていて、ユーリやデレクに付けようとしているのなら阻止しなければならない



所持しているだけで重罪となる禁忌の魔術具だ



早急に対処せねばならない



「俺、ベディヴィアを連れて行くよ」




「よく決断した。後ろを向け」



スルッと縄を解くと、デレクは頬に伝った涙を拭う



「近づく時に我々が気付いていると思わせたくない、走らず冷静に行けるか?」



「うん。その、さっきは・・・悪かった。聞いてもいいか?」



意外な言葉に私が目を丸くする



「ああ。どんな事でも聞いてくれ」



「なんでベディヴィアは俺達に良くしてくれるんだ?夢の話、ユーリから聞いたけどここまでしてくれる理由がわかんねぇ」



真剣な眼差し




「そんなの、お前がいつもやってる事と同じだ」



「俺が・・・やってる事?」



「困ってる人が居たら手を差し伸べる、ただそれだけの事だ」




「でも…俺のやってる事なんかよりも、ずっと大変な事をやってるじゃねぇか」



「私は強い、そして金も力もある。こんなのは転んだ子供に手を差し伸べるのと変わらん。もし、恩を感じるのなら己が強くなり、金と力も手に入れたその時に、周りの人間に恩を返してやれ」


ぐっと私の言葉を飲み込み

デレクがぷいっと顔を背けた


「・・・大人がみんなベディヴィアや先生達のようだったら良かったのに」



呟くようにデレクは言うと、建物の隙間から出て歩き出した

私も後に続き歩き出す



ユーリもデレクも意図的にだろう、人の名前や過去に繋がるような言葉を言わないようにしている

先生と呼ばれる人が居た、教育を受けていたのは文字が書ける事や剣を持たせた時の型で分かってはいたが

先生達か・・・その言葉では、流石に身元を特定出来ぬな



フローラルトシティのギルドをまとめているのは私の兄弟子フロンドだ

信頼しているので集めて欲しい情報を渡している

ユーリとデレクの事とは伏せて、不穏な噂を聞いたと誤魔化した


最近腕輪と首輪が発見されたという報告が国にあったかどうか

あったならば誰が所有している土地で起きたことか

娘が姿を消した高位の貴族は居ないか

神無し(いろなし)の少女が見かけられた街はないか



変な顔をされたが1週間ほど待てと言われている、だがこの街に腕輪が出たのならば帰りにギルドへ行き途中経過を聞かねばならないな



「ベディヴィア、近い」




ここは西の市場

ユーリが好んで足を運ぶ場所だ

空が赤く染まり、屋台は片付けを始めている



「あっち」



くいっと顎で建物と建物の隙間を指す




「ここで待ってろ。私が見てくる」





腰の剣に手をかけ、入っていく

空も陰り、この路地はだいぶ暗い


火の玉を1つ私の前に作ると奥に人影が1つ



「何者だ、名を名乗れ」



火の玉をその人影の頭上へ動かすと

門番の服を着た男が立っている


何か異変に気付き、先に駆けつけたのだろうか?

この街の門番は意識が高いのだな


近くで話を聞こうと1歩踏み出す


「どこの門担当・・・」



ゾワッと背筋が凍るような感覚

これ以上近付いてはいけないと咄嗟に剣を抜き、構える





頭上の炎を大きくすると姿がはっきり見えた


口をだらしなく開き、涎をたらす

目は虚ろでどこにも焦点があっていない

ピタリと身体が止まっているのに左腕だけがぶらぶらと揺れている

その左腕は黒く焦げ、肌が爛れていて、燃やされたように見える


首には色の無い首輪



おかしい

聞いていた話と違う

首輪や腕輪は嵌められれば体内に吸収されているはずだ

それに嵌められて、魔力が馴染んでいないのであれば動けなくなると、立ち上がる事など出来ぬと聞いていたぞ


このような状態、知らぬ



「身体・・・制御・・・不・・・」





虚ろで焦点の合っていなかった瞳がぎゅるんと私を捕らえる



ボソボソと何かを話しながら身体が小刻みに揺れる始め、震え出す


「なにをするつもりだ!大人しく連行されろ」



剣を男に向けたまま左手でバッグに手を入れ魔石を3つ取り出す



『私は特級冒険者ベディヴィア、禁忌の魔術具を首に付けた男を発見。至急、結界魔法を扱える者をこの場所に向かわせてくれ』




そう念じて魔力を込め、フロンド、ここから1番近い衛兵待機所、騎士待機所へそれぞれ飛ばす




私の伝達魔法を男が目で追うと

男の目がブラックへ染まり、ブラックの光を放つ



「特級冒険者のベディヴィアですか・・・これはまた厄介な・・・」



カタコトだった男が身体を震わせたままいきなり流暢に話し始める


「その男の主、か。どこでその魔術具を手に入れた?」


すると目に見えていた色の無い首輪がすうっと身体の中へ消えていく



「なるほど、腕輪が1つ無くなって・・・面白い。この男の記憶を回収出来ないのが残念です」




男の首と右手首から色の無い炎が上がる




「待て!その男の無くなった腕輪の在処を私は知っている、興味はないか?」




少しでも時間を稼げ、この国には魔導眼をもったリアム様がいる

この男を殺させる訳にはいかない

結界で、この男を生きたまま捕えなければ


色の無い炎が小さくなる


「興味はありますが、壊れた玩具は要らないのですよ。それに、もう見当はついておりますゆえ」


小さくなった色の無い炎がいっきに大きくなり男の体を包む



「最後に1つ、可愛い貴方のパートナー・・・そろそろ様子を見に行った方がいいのでは?」




「何をっ」



ボオッ


色の無い炎が一際大きく燃え上がると

男の笑い声が響く



カランッカランっ



と首輪と腕輪が地面に落ちた

男は首輪に吸収されたようだ、何一つ残っていない

腕輪はパキンッと真っ二つに割れ、首輪はそのまま嫌な気を放つ



「食ったのか?それが・・・」




「デレク?待ってろと言っただろう」


私の背から覗くように地面に落ちた首輪を見つめている

恐怖と怒りが混ざったような鋭い眼差し


「でも、嫌な感じが増えたから、ベディヴィアの後ろで聞いてた・・・なあ、ルティーナ大丈夫だよな?」




「ルティーナはS級冒険者だ、心配するな。それに何かあれば私に伝達魔法で伝えているはずだ」



だが、あの意味深な言い回し

何かあるかもしれぬ



『ルティーナ、宿屋の部屋に来てくれ』



それだけ念じて伝達魔法を飛ばす



「デレク、これから騎士や衛兵、様々な人が集まるだろう。だから先に宿屋に戻って・・・いや、危険だな。誰か来たらこの場を引き継ごう、最初に来た奴にこの場を引き継いだら一緒に宿屋に帰るぞ。できるだけ顔を隠しておけ」



「わかった」




デレクは素直に帽子の鍔を少し下げ、口元をタートルネックを伸ばして隠す


「なあ、ベディヴィア。それ、()()()()壊さないのか?」




「壊す?確かに腕輪の方は割ているが・・・これは壊せない、封印する事も出来ない。触るだけで支配される禁忌の魔術具だ。近づくなよ」



「ちっ近づかねぇよ!あんな物!二度と触りたくねぇ・・・」



そうか、デレクは一度コレを嵌められそうに・・・ん?


“二度と触りたくねぇ”?



「触った事があるのか?」



「ん?」



地面に転がる首輪を見つめていた瞳が私を見上げる

数秒キョトンとして、ハッと自分の言った言葉の意味に気が付く



「あっ違ぇッ!別に触った事はな

「触った事があるのに、今支配されていない?説明しなさい」




一度直接触ってしまえば間違いなく支配される、誰であろうとだ

あれはそういう魔術具だ

どう足掻いても二度と取れないはず、だから禁忌とされ発見されれば国が厳重に保管するのだ


それに良く考えれば先程の“ちゃんと壊さないのか?”の言葉も気になる

まるで壊せる物でまだちゃんと壊れてないと知ってるような言い方だ



「いや!言い方を間違えただけだ!言い間違いだ!」



さっきの間の開き方は誤魔化せないぞデレク



「そんな言葉じゃ誤魔化せないぞ、話せ」



国が抱えてる解決できない深刻な案件のひとつだ

壊し方を知っているのなら国の為、これに苦しめられる未来の人々の為にも話してもらわねばならぬ



「伝達魔法で連絡を受けて来た!男はどこだ!」



鎧に身を包んだ騎士が3人細い路地に入って来た

ホッと胸を撫で下ろすデレク


「後で聞くからな」



小さい声で言い私の背にデレクを隠し、騎士に事情を説明する



「では対処はこちらで行おう、後日話を聞くので街から出ないよう願います」



「ああ、ではこの場を頼む。行くぞ」




騎士が2人掛りでブラックの結界魔法を掛け始めたのを目の端に捕え、すぐにその場を後にする


デレクが着いてきてるのを確認して真っ直ぐ宿屋に向かう

ユーリにも話を聞かねば



宿屋まで一言も話すこと無くたどり着く



「ベディヴィアーー!」




遠くからルティーナの声が聞こえ、振り返る



「何よあの簡易的な伝達!!心配で飛んできたわよっ!!それになんて顔してるの!」



ルティーナは私に抱き着くと、手を伸ばしペシッと軽く、眉間に寄るシワを叩く


「後ろでデレク君、怖がってるわ」



「別に、怖がってねぇ・・・」


視線を逸らしながらデレクがぼやく



事の重要性を考えると、楽観出来ない

だが、子供を怖がらせてしまったか


「悪い・・・色んな事が起きて少し混乱しているのだ。ルティーナ、来てくれて嬉しい。部屋に行って話をしよう」



中に入り、階段から1番上の階まで上がる

私の暗い表情を見てか、ルティーナは子供達がどうだったのか

明るく教えてくれる


良かった、兄の家では特に何も無かったようだ


色んな事が起きていたから

考え過ぎていたのかもしれないな


いつも通りの明るく屈託の無いルティーナに私は心の中で感謝する

私の愛する本当に素晴らしい嫁だ




突き当たりの大部屋の戸を叩く


「ベディヴィアだ。今戻った」


「ベディヴィアさん!待ってましたよ!」



凄い勢いで扉が開くと、デュードが泣きそうな顔で立っている



「ユーリ!」



デレクが部屋に駆け込むとベッドの上に座ってるユーリに駆け寄る


目を覚ましていたか

すぐにでも話が出来そうだな



「デレク、ごめん。心配かけちゃって」



ルティーナと部屋に入り扉を閉めて鍵をかける

デュードの手を掴み、耳元で指示を出す


「デュード、盗聴防止の魔法をこの部屋全体に掛けろ」




少し目を見開くと、黙って頷く

ベッドの上の2人に視線を向け・・・



ユーリが信じられないものを見るように、目を見開き私の方を見つめていたように見えた

私の視線に気付き、すぐに口元を隠しばっと下を向く


デュードに指示を出したのを不審に思わせたか?

デレクがユーリ?と背中をさする


「ご、ごめん気持ち、悪くて・・・」



気のせい・・・か?



「ルティーナ、水を1杯用意してやってくれ」


「分かった!ユーリちゃんちょっと待っててね」



たたたっと駆け出し、コップを取りに行く


「ベディヴィア、プティはこっちだ。欠片を取り込んだまま動かない」



ユーリのベッドの側へ行く

レーンが座ってる奥のベッドの上にプティが居た

色の無い小さな欠片が浮かび、しゅわしゅわと音をたてている


「俺が見た時はまだ欠片が大きかったんだが、どんどん小さくなってる。吸収していると思っていいと思う」



話す話題が尽きないな、何から話せばいいだろうか・・・



ユーリが何かデレクに耳打ちすると

デレクは立ち上がり、魔法を掛けようと呪文を唱えるデュードの側へ行く



「ベディヴィアさん、私を信じて貰えますか?」



デレクに向けていた視線をユーリに移す

青ざめた顔、それでも視線は真っ直ぐで真剣そのものだ



「私を信じろと言っておきながら、君を信じないのは紳士のする事ではない。ユーリ、嘘偽り無く話してくれるのであれば私は君の話を信じよう」


そう言いながら私はユーリの寝るベッドに腰掛ける

それとほぼ同時に、デュードが盗聴防止の魔法を部屋に掛ける

デュードの魔力の色が光となって部屋に満ちて染み込む




「レーンも、信じてくれる?」



「ベディヴィアと同じだ。嘘偽り無く話すなら、信じるぞ」




「信じてくれるなら、私の手を握って」



ユーリは私達に手を差し出す

私とレーンは一度顔を見合わせ、それぞれユーリの手を握った


「何から話すべきか・・・ユーリ、君は

「絶対に離さないで」


私の言葉を遮り、ユーリは俯いた



「ユーリちゃん、お水持ってき・・・た・・・」




カランっ

バシャ




「ルティーナ!!」


握っていたコップを落とし、床に水が撒かれる

突然倒れたルティーナに駆け寄ろうとした私の手をユーリが強く握り引き止める



ばっと振り返りユーリを睨む




「えっ!?2人がユーリの手を握ったら眠らせる合図だってデレクが!」



デュードが混乱した声を上げる


ユーリは俯いたまま私を握る手にどんどん力を込めていく




「ユーリ!何が起きているんだ!何故デュードに眠りの魔法をかけさせた!」



私はユーリの肩を掴む

俯いた彼女がゆっくり顔をあげる


ぐしゃりと歪む表情

苦しそうに弱々しい声で恐ろしい言葉を吐いた







「ルティーナさんはっ、隷属の腕輪と服従の首輪を、付けられてます」







ユーリのその言葉は

重く、私に突き刺さった






ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!

って思ってもらえるようがんばりまっす!

評価などしてもらえたら

飛び跳ねて喜びます!!

よろしくお願いします!

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