31・白い丸
「だぁかぁらぁ!違ぇっつってんだろ?手からじゃなくて弓から矢に魔力を乗せんだよ」
「その感覚が分からないんですよ!」
豆が潰れ血が滲む手のひら、指に力を入れて弓を目いっぱい引く
ヒュンっ
ドッ
遠く離れた木と木の間の的に刺さる
けど真ん中には当たらない
「貴族語ー。腕立て50ー」
「うぎゃぁ!!もう!」
冒険者になった日から今日で5日目
私はレーンに弓を教わっている
かなーりのスパルタで
ようやく的に当たるようにはなったけど、全然真ん中には当たらない
レーンが言うには私は魔力を上手くコントロール出来ていないみたいでそのコツを掴めば好きなところに当てられるようになるらしい
どんな風に?どうイメージして?と聞いても全然教えてくれない
“数打って、自分で見つけなきゃいけねぇんだ。自分の色を考えて弓を打て”
とそれしか教えてくれない
それに、貴族語を話せば腕立て伏せ50回というルール
私はどうしても一日に何度も言ってしまうので
うでがぱんっぱんだ
あの日、武器屋を覗いて連射出来る小ぶりな薄灰色のボウガンを店の隅っこで見つけた
使ったことは無いけど、私にも扱えそうだなとレーンに聞いてみたら
弓が扱えない奴には無理だと、一蹴された
そんでもって金額も1万7千ポルドで、どうせ買うことは出来なかったんだけど
ずっと気になってる
弓がある程度扱えるようになったら店員さんに一度話を聞きたいと思ってる
「・・・48・・・49っ・・・50!」
腕立て伏せ50回を終え、そのまま地面に転がって息を整える
とりあえず続けて50回は出来るけど腕に疲れが溜まるのは避けられない
気持ちいい風が吹く森の中
私はまだ一度も依頼を受けていない
ドゴーン
と少し離れたところで爆発音が聞こえてきた
「向こうは今日も派手にやってんな」
ここにいるのは私とレーンだけ
ソルとは別行動
ソルを1晩かけて説得して別々に稽古を付けてもらってる
ソルはベディヴィアさんに、私はレーンさんに
ルティーナさんは子供達に会いに貴族街へ行っていて
デュードさんは‘’君の言った通り、僕はグリーンとマゼンタだった!戦い方を変えなければ!”と、連日宿屋に引きこもって本と睨めっこしている
ヒュンっと弓を放つ音が聞こえて、私は木の上へ瞬間移動する
私がいた地面に弓矢がドスっと刺さった
「上出来」
「上出来・・・じゃない!それやめてくだ・・・やめてほしい!」
「はい、言いかけたー腕立て25」
「今のはセーフにして欲しかった!」
ブウブウ文句を言いながらも瞬間移動で木から降りて腕立て伏せをまた始める
時々、レーンはこうやって弓を打ってくる
本人曰く、森にいる時はいつなんどきも油断するなという事らしいけど
実際この5日間で腕や足に7回も弓矢が刺さってる
その度にクソまずいポーションを飲まされ痛みと不味さに悶絶してる
でも弓を打たれて、痛い思いをする事で自分の周りをすごく見るようになった
もし打たれたらここに飛ぼうとか、ここにいけば当たらないかな?
と自然に考えるようになってる
空間把握能力が格段に上がってると嫌でも分かるから
強く文句が言えない
戦えるように鍛えてくれって
私から頼んだしね
「後は、弓に魔力が乗れば・・・なぁ」
今日もフードを深く被り、遠く離れた的を見つめるレーンがボソッと呟く
目を閉じると弓を引く
弓に緑色の光が微かに見えた
その光が弓を伝って矢に流れていく
ヒュンっ
弓が目には見えないスピードで飛んでいく
矢が森の中へ吸い込まれるように消えるとツカツカと私の元に歩いてくる
20、21っ
22っ
私の背にレーンの膝が乗る
「おっおも・・・い」
「重くしてんだ」
2…3、にじゅう・・・し!
ラストー!!!
「っ25!!ぐぇぇ」
最後の3回鬼キツかったあ
「よし、じゃあもう少しであっちから怒ったアーディが走ってくるから出来るだけ頭狙って仕留めろ。もうじき日も暮れるし、それ狩ったら帰るぞ」
えっ?!
私が打ってたのは動かない的だよ!
いきなり暴れてる生き物狙うの!?
「ほら、構えねぇと来るぞ?」
そう言うとレーンは空中へフワッと浮かび上がりこの場に私だけが残される
腕立て伏せで腕が張ってるのに!スパルタめっ!!
フゥっ
と息を吐いて弓に手を伸ばし、矢を引く
どどどっどどどっ
と地面を蹴るような音が聞こえてくる
アーディとやらがどんな生き物かすら知らない
遠目に草木が揺れ、茶色に近い濃いオレンジいろの体毛がみえた
その獣は立ち止まり、相手を探しているようだ
頭、頭を狙う
指先に力が入る
ギラッと鹿のような立派な2本の角を持った三つ目の獣と目が合った
ヒュンっ
矢が真っ直ぐその目に向かって飛んでいく
ポテッ
え?
おでこに当たった
当たったのに刺さらなかった
え?いみわかんないんだけど?少しぐらいは刺さるもんなんじゃないの?
私のこの5日間なんだったの?
「バグォォォォオオオオッ」
ビクッとその声に身体が恐怖する
顔と上半身は熊っぽくて、角と下半身が鹿のよう、物凄い勢いで私に向かって走ってくる
おっ落ち着け!
もう一本っ!まだ距離はある、弓を構え、矢を引く
でもまた刺さらなかったら?
いや、そんなこと考えちゃダメ
今は集中して・・・
どどどどっどどどっ
え。でかくね?
3メートルはある・・・いや、もっと?
近くの草むらまで来ると大きく口を開けた
その口の中へ矢を放つ
ヒュンッ
バシッ
地面に叩きつけられた矢
え。むりむりむり!!
「バグァッ」
すぐ目の前まで迫ったアーディという獣は手を振り上げる
私は咄嗟に木の上へ瞬間移動する
バチバチバチッ
私が立っていた場所に手を振り下ろすと電気がバチバチッと地面に走り4本の爪痕と黒い焦げ後が地面に出来る
当たったら感電して動けなくなって死ぬやつじゃん!!
ばっと空中のレーンを見上げる
レーンはつまらなさそうにくあ〜と欠伸をした
助けに入る気すらなさそう
私が怪我をしたって魔法やポーションで直せばいいくらいに思ってるに違いない
でも私は痛い思いなんてしたくない
心の準備も何もなく、いきなり実戦とか本当にムカつくけど
私を最短で強くしてくれてるんだ
そう信じてる
いや、そう信じるしかない
「バグォォォォオオオオ」
一際大きな声で吠えると空気がパチパチッと弾けるような音を立てる
アーディと視線がぶつかるとがぱっと口を開け、ビュンっと何か飛んできて足に巻きついた
ヤバっ
ビリビリと電気が流れてくる
いったい!!
熊と鹿合体しててベロがくそ長いとかどんな生き物なのよ!
気持ち悪いなあ!
足が痺れて感覚が無くなってくる
「ぴいっ」
マントのポケットからするっと抜け出し私の左手に巻き付いたプティ
「だめっマントに、隠れててっ!」
足から流れ込んでくる電気が強くなった
グダっと身体から力が抜け地面に落ちる
いたーっ!ヤバイヤバイ!
ビリビリと痺れる身体、背中から落ち、鈍い痛みが背中と左肩に走る
どすっどすっと余裕の表情でアーディが近付いてくる
「ぴっ!」
腕に巻きついたままドラゴンの姿になると炎をアーディに浴びせる
わっ凄い!前も1度見たけどやっぱりプティは炎が吐けるん
ガシュッ
左腕に痛みが走るのと同時に目の前でプティが吹っ飛ばされた
プティは離れた所にある木にぶつかり、ドラゴンの姿からドロっと形を変え、壁に投げつけられたゼリーのようにボトリと地面に落ちる
「プティ!!」
考えるよりも先にプティの元へ瞬間移動する
両手で包むようにそっとプティに触れる
左腕から血がどばどばと流れ落ち、プティにも少しかかってしまうけどそんな事どうだっていい
死んでないよね?
ねぇ?
プティ大丈夫だよね?
「プ、ティ?」
「・・・ぴぃ」
弱々しい声が聞こえて少し安心する
「バグォォォォオオオオ」
後ろでアーディが吠え、またパチッパチッと空気が弾ける音がする
許さない
フラッと立ち上がり振り返りながら私は弓を引く
ウチの可愛いプティを傷付けるなんて
爆発でもしてしまえばいい
ユルサナイ
ヒュン
矢を放った瞬間、始めて身体から魔力が抜けた感覚がした
矢尻が燃え上がる炎を纏って真っ直ぐアーディへ飛んで行く
ドンッ
首に深く付き刺さる
「バグァア?」
あ、刺さった
さっきまで全然刺さる気配無かったのに
もう一本。立ち止まって混乱してる今の間に・・・
頭か、心臓の辺りを狙って・・・
グッとまた矢を引く
アーディは首に刺さった矢を抜こうと手で矢を掴んだ
バァァアンッ
アーディの首から上が消えた
え?
首から血が噴水のように吹き出す
ええ?
上からボトっとなにか降ってきて足元へゴロっと転がってきた
鹿のような立派な角を付けた熊のような顔
頭に登ってた血がすっと引いていく
え。かなりグロいんですけど
数秒遅れてアーディの身体がドサッと倒れた
放心状態でアーディの身体から血が流れて出ていくのを見つめる
ヤバ
キもチワるイ
「ユーリ、手から力を抜け」
すぐ隣でレーンの声がしてまだ矢を引いたまま構えていたことに気付く
息もしてなかったのか思っきり息を吸い込んでしまってむせる
手に持ってた弓も矢も落として
むせて吐きそうになりながら振り返ってプティを探す
あれ?いない
ゴホッゴホッとむせていると、するっと左肩にいつもの這う感覚
「ぴっぴい!!」
あっプティ元気そう
良かった、怪我してないんだろうか?
左腕を見るとプロテクターを突き破り、腕まで切り裂かれた4本の爪痕
うわぁ痛そう・・・
そう思うと急にズキズキと痛み出す
私の左腕だった
グラッと視界が揺れると同時に
グッとレーンに左手首を掴まれ引き寄せられる
いつもの激マズポーションを傷口とプティにぶっかけた
ビリビリと痺れ、激痛が走る
「いったぁっ!ねぇ、言ってからかけてよ」
プティも激しく全身を震わせ強めにぴ!ぴ!と鳴いて一緒に抗議する
「うるせぇ、早くしねぇと毒が回るんだよ」
「毒?!」
口にも瓶を突っ込まれ無理やり飲まされる
不味い
痛い
気持ち悪いし
最悪!!
右手でドンっと突き放してキッと睨む
「もう!ゴホッゴホッ言葉っ!が足りない!少しでいいから説明してからやってよ!私の事面倒くさくて嫌なのかもしれない!分かってるよ!怪我するの私だけならまだいい!でもせめて私以外の!プティや誰かが怪我するような鍛え方はやめて!」
叫ぶように言い放つ
涙が零れそう
でもレーンの前で泣きたくない
私は街を守る壁が見えるあの石へプティと一緒に飛んだ
カタカナでフローラルトシティと自分で石に刻んだ文字を撫でる
ポタっと涙が落ちた
悔しい
スパルタなのとか、矢を打ってくるとか
本当に無茶苦茶してくるけど、確実に強くなってると思う
だから悔しい
どれだけイメージして矢を放っても一度も矢に魔力が乗らなかったのに
無茶苦茶な実戦で怪我しながらだけど
出来ちゃった
グロいあの死体を思い出してまた気持ち悪くなる
口の中が不味いからバッグから水筒を出して水を飲んで地面に座り込む
手のひらを見つめて無理矢理思考を切り替えて、あの感覚を思い出す
胸から腕へ指先へ
魔力を動かす
出来る・・・
うう!尚更悔しいっ
無茶苦茶で痛くて辛い思いばっかりなのに
たった数日で少しは戦えるようになったみたい
「ごめんっ、ごめんねプティ・・・」
体操座りしてプティを包み込んで撫でる
痛かった?
私が鈍臭いから・・・
プティに怪我させちゃったと思って凄く怖かった
弱々しいあの時のプティの声が頭にこびりついて離れない
「ぴい?」
不思議そうに真っ赤な目がわたしを見つめる
その後私の左腕を見つめる
プティは蛇の形になると左腕にグルグルと巻き付く
するとプロテクターに着いていたり、服に染み込んでいた私の血液が赤い半透明なプティの体の中に浮いて消えていく
私の血を・・・食べてるの?
「ぴっぴぴ!」
呆気に取られてるとすっかり私の左腕は綺麗になり、ポーションで治りかけてる傷跡がハッキリ見えるようになった
プティはアルマジロのような姿になると地面に降りてコロコロ転がる
「ぴ!ぴぴぴぃっ!」
ぴょんぴょんと跳ねて、まるで
‘’私は元気だから落ち込まないで!”
って言ってるみたい
沈んでた気分が少し元気になる
「悔しいけど、レーンの鍛え方ちゃんと強くなってるんだよね・・・」
涙をふいて立ち上がる
でも、ムカついたからあのアーディとかいう熊だか鹿だか分からん生き物の処理は任せちゃうもんね
あっあと弓とかも投げてきちゃったな、それも持って帰って来てくれるよね?
少し不安になりながらも、今日はもういいやっと投げ出して
私は門に向かって歩き出した
__________
門に並ぶ列は夕方、空が赤く染まり始めるとどっと長くなる
まだ赤くなり始めてないので列も短く、門番のザッシュさんと軽く挨拶を交わす
「珍しいな1人で帰ってきたのか?」
「うん。レーンにムカついたから1人で帰ってきた」
一応私は男の子設定。街の人と話す時は特に会話に気をつけてる
「ん?その引っ掻き傷・・・アーディか?」
左手で玉にギルドカードを当てたので見えたのだろう
私の壊れた腕当てと傷跡を見てザッシュさんが目を丸くする
「うん。怒ってるアーディと戦えって、丸投げされた。頭吹っ飛ばしたけど、引っ掻かれるし、ポーションぶっかけられるし、激マズの飲まされるし。今日は本当に最悪だった」
私もつい、ぶすっと愚痴を零す
「その言い方だと1人で戦ったみたいじゃねぇか」
ガハハハッと笑い出すザッシュさん
「1人でだけど?」
首を傾げる
なんでそんなに笑うのか分かんない
おっきかったけど、弓初心者の私が殺せたんだもん
そんなに強い魔獣じゃないでしょ
それに矢、1本で頭吹っ飛んだし
じゃあねっと手を振ってまだ少し早いけど、街の西側にある市場の方にでも行こうかなと考える
今日はソル何を狩って帰って来るかなぁ〜
晩御飯の内容をぼけーっと考える
「じょ、冗談だよな?」
後ろからそんな声が聞こえてきたけど無視して歩いた
今日は意外と新発見も多かった
プティ初めての食事は私の血液という驚きもあったし
私が放った矢は矢尻に火がついていた
歩きながら、ソルが炎を作る時と同じように指をOKサインのように親指と人差し指をくっつけて軽くふぅっと息を吐いてみる
小さな炎が出た
えっ
まじで?!
昔、吹いた時は炎は出なかったのに
今は神様のおかげで赤い色が着いてるから、炎の魔法が使えるようになったって事?
あ、それで魔法のペンも使えたのかな?
矢を放つ時、漠然と魔力を乗せなきゃって考えてたけど
よく考えたら私、爆発してしまえって考えながら矢を放ったな
だから、アーディの首が弾け飛んだ・・・?
魔力を矢に乗せるイメージじゃなくて、魔法がどのように働くか考えて矢を放たないといけなかったという事?
明日試さなきゃ
そうこう考え込んでるうちに市場に付く
私達が泊まってる宿屋の二階にはフリースペースがあり、厨房のような立派めなキッチンが付いていて、宿泊客は自由に使うことが出来るのだ
朝ごはんは宿泊費に入ってて日替わりスープとパンが食べ放題
ソルと私は晩御飯を自炊する事にした
多めに作って、余り物をお弁当にしてお昼に食べる
ベディヴィアさん達はギルドの食堂でお弁当買ったり、屋台で買ったりで自炊はしない
冒険者は街にいる間は買い食いが当たり前みたいで
自炊するのは野営の時ぐらいらしい
ソルには凄く好評だ
好きなだけおかわりできるし
お昼も多めに持たせてあげれる
時間が空けば市場をふらふらして面白い調味料や食材探し
具体的には醤油と味噌が欲しい、あとお米も探してる
こっちの主食は完全にパン
日本人としてはお米もそろそろ食べたいのが本音
見た目で何か分からなくてもお店の人に聞けばどんな味か、食感か、店によっては試食させてくれたりもするので市場を見て歩くのはすごく楽しい
「おっユーリじゃないかい!1人なんて珍しいね?今日も自炊するのかい?」
「うん!今日のおすすめの野菜どれ?」
「今日のカブはみずみずしくて美味しいよ!こっちのキューコンもおすすめさ」
こっちの世界のカブはうすい黄色い大根のような野菜で、キューコンは太くて大きいキュウリ、味もそのまんまキュウリのよう
こっちの世界の野菜は基本的にふた周りぐらい日本の野菜より大きい
ピンクや水色の野菜も普通に並んでて見てるだけでカラフルで楽しくなる
「じゃあ1つずつちょうだい」
「まいど!7と6ポルドだから・・・」
「はいっ13ポルドね」
おばちゃんのひし形のカードに自分のカードをコツンと当てる
ATMのようなスクリーンが一瞬浮かび、13ポルド金額が引かれたのを確認してカードを離す
売買をする当事者2人にのみ表示され、自分のギルドカードの金額だけ見える仕様
周りには絶対見えないらしい、初めてお金を払った時は感動した
魔法すげえハイテクじゃんって
「相変わらず計算が早いね!また寄っていきなね!」
カブとキューコンを受け取り腰のマジックバックに入れる
マジックバッグも魔法ハイテク案件で、食べ物を入れると時間が止まるようで、暖かいまま入れたものはいつまでも暖かい
そして凄いのが、腐らないってこと
作りすぎてもいつまでも入れておける
冒険者みんな作り置きしておいて、野営の時とかカバンから出せばいいのにとベディヴィアさんに言ったら
冒険者は行き当たりばったりが好きな生き物なんだ
それに、そんな事が出来るのは高ランクの冒険者が持つマジックバッグぐらいだ
と笑われてしまったっけ
その時には意味がよくわからなかったっけ
次は色んな香辛料の並ぶ屋台に来た
市場に来る度、必ず覗くお店
ここで胡椒、唐辛子、山椒、ナツメグ、ウコン、コーヒー、バニラの味をするスパイスを見つけて物凄くテンションが上がった
高いから沢山は買えないけど少しづつ買って集めてる
どれも色や見た目が前の世界と違うので味見させてもらって見つけてる感じ
沢山並ぶスパイスを分からなくならないように左から順に5つ味見させてもらい、気に入ったものを買ってる
「おっ今日は早いな?ここから5つ、だな?」
「うん!」
スパイスのおじちゃんは優しくて、子供のくせにスパイスに興味があるなんて見込みあるなお前!って気に入ってもらえてる
乾燥されたピンクの砕かれた葉っぱをひとつまみ口の中に入れる
うっわあ!!コレは!!
バージールー!!!
「おじちゃん!コレ欲しい!いくら?」
即決!!バジルが手に入るなんて!
ジェノベーゼパスタとか、ピザも作りたいなぁ
チーズはまだ見つけてないけど、どっかにはあるよね
「それはひとすくい13ポルドだな」
大さじより少し大きい木のスプーン、1ポルド日本円で約10円ぐらいだと私は思ってる
ひとすくい130円ぐらいならありじゃない?
今のところバニラが1番高くて1すくい58ポルドもした
でもいつかプリン作りたいから買ったんだよね〜
「5すくい!」
「まいど!13が5すくいだから・・・」
「65ポルド!」
「早いな〜また負けたからちょっとオマケしてやるよ」
こっちの世界の人は計算がすごく遅い
早く計算して言うとこうやって凄いねと言われておまけして貰えたりするので
どんどん暗算が早くなりそう
小さな麻袋に5すくいと少しオマケして貰えたし気分はるんるん
「おじちゃんありがと!!」
さっとお金を払って
ほかの店も覗きながらぶらぶら歩く
ハッ!あれは!
トマト!!
見た目も形もどこからどう見ても大っきいトマト!!
かぼちゃサイズのトマト!!
「おじさん!これ!この野菜なに?」
「ん?ああ、コレはマトマっつうんだ。王都で少し前に流行った果物らしいぞ。流行が終わったんでこっちの街にも流れてきたみたいだ」
へえっ王都で流行ったあとに周りの街に流れてくるんだ
しかも果物だってさ、じゃあ見た目はトマトだけどうーんと甘いのかな?
「ちょうどさっき、食べてみたいっつう客さんいて、1つ切ってるから食ってみるか?」
「うん!」
おお!断面もTheトマトだよ
「口開けな」
この世界の試食はお店の人が直接1口分口の中に放り込んでくるスタイルが一般的
買い物してる人の手が必ず綺麗という訳ではないかららしいけど、初めの頃はアーンしてもらってるみたいで恥ずかしかった、今では慣れてきたけど
スルッと口の中に入ってくる
あっまーい!
でもトマトらしい酸味もある
前の世界で言う高級トマトのお味!!おいしい!
「気に入ったようだな」
ホッと少し安心した顔をするおじさん
はっはーん
さてはさっき味見した人はトマト嫌いだったのかな?
「王都ではどう食べられてたんだ?」
「王都ではジュースやゼリーにしたり、そのまま食べてたみたいだ。どうだい?今なら3コで34ポルドだぞ」
うわっ料理に使わなかったの?もったいない!
こんなに美味しいトマト
私ならラタトゥイユとか、トマトソースパスタとか、チキンのトマト煮とか、なんぼでも料理のアイディア湧いてくるのに
つか、野菜にしては高くないか??
大体の野菜や果物は1つ10ポルド以下で買えるのに
こんもり盛られたマトマの山を見る
「もしかして、おじさん売れてないの?」
ギクっとおじさんの肩があがる
「そ、そんなことはないぞ?王都で大流行した果物だ!少々高いかもしれないが、王都気分も味わえるし、この街では私の所でしか買えないんだぞ?」
「うーん、すっごく美味しかったけど・・・高いから諦める」
離れようと顔を背けると
「まっまて!1個10ポルドでどうだ?」
顔を見せないままニヤっと笑う
「10かぁ〜もうひと声」
「ぅっ9ポルド・・・」
「1個8ポルドだったら買う」
「ぐっしょうがねぇ!8ポルドだ!」
「やったあ!じゃあさ、10個買うから70ポルドにしてよ」
「10こ!!えっと・・・ん?1個が・・・ダメだ!1個7ポルドになっちまうじゃねぇか」
「じゃあ20個買うから130ポルドは?」
「んな!?20個も?!もうほとんど全部じゃねぇか!えっと1個がいくらになるんだ?」
うーん、と頭を捻り始めるおっちゃん
ここで考えさせちゃダメだな
しれっとずっと値引きしてるのバレちゃう
「じゃあここにあるの全部買うから、150ポルドでどう?」
今日はバジルもGETしたし、相性抜群のトマトは絶対欲しい
150ポルドなくなるのは痛いけど
マジックバッグ様がいるから腐る問題はない
ゆっくり長く楽しめばいいもんね
おじさんは空を見上げる、うっすら太陽は隠れ始め、そろそろ赤く染まり始めそうだ
「わかった!乗った!マトマ全部で150ポルドだ!」
よっし!!
ギルドカードを当てて先にお金を払う
マジックバッグにカボチャサイズのトマトを1つずつ入れていく
「お前さんのマジックバッグは容量が大きいんだな?」
22個目を入れて、おじさんがほぉっとビックリしながら聞いてきた
「家族代々受け継いでるバッグだから、でも空っぽで市場来て良かったよ」
アハハっと笑って誤魔化す
レーンに言われたけど、ソルが貰ったマジックバッグは容量が相当デカいらしい。何か言われたら家族で受け継いでる物だと言えと言われた
「もう入らないからこれは手で持って帰る、おじさんまた来るね」
「まいどあり!」
26個目、最後のひとつを抱えて歩く
やっばー26個もあったよ!
150ポルドだったから・・・1個5.7ポルドぐらい?
ウハウハじゃん!めっちゃ安く買えたー!!最初3こで34だったよね?半額ぐらいじゃん
少し離れて建物のそばに行き手に持ってたマトマをマジックバッグに収める
今日お金使いすぎちゃったし、もう帰ろうかな
昨日のお肉余ってるし、晩御飯沢山作ってビックリさせちゃおうかな
どんっ
後ろから人がぶつかってきて、転びそうになる
立ち止まってたから邪魔だったかな?
「あっすみませ」
がしっと右手を掴まれる
「1人ダな。確保ユウセン、手を離ス、厳禁」
え?
大柄な男、髭がボーボーで門番さんの服を着てる人が私の腕を強く掴んでる
_______________
トビン
31 ♂10.27 Blue
フローラルトシティ所属:E級冒険者
西門警備担当
_______________
状態》◎、◉
_______________
何だか様子がおかしい
どこ見ているのか分からない瞳
状態の欄に丸が2つ、今まで鑑定の文字に色が着いた事はなかった
黒い文字だけだった
でもその丸はしっかりと真っ白で書かれていてすごく不気味
なんで鑑定の文字に色が??
冷や汗が出てきはじめ、悪寒で手が震える
怖い
訳が分からない
私の腕を掴んだまま建物と建物の細い隙間に入っていく
抵抗しても手を離してくれずズルズルと引きずられて奥へ奥へと歩いていく
「はっ離せ!何なんだ!」
「手を離ス、厳禁」
私を掴む男の手を蹴ったり殴ったりしていると生暖かい何かが流れ込んで来た
気持ち悪い!
何この感覚!!
流れ込んでくる生暖かい何かが魔力だと気付いた頃には身体から力が抜け、地面に膝を着いて胃の中の物を吐き出す
そんな事お構い無しにどんどん暗く、細くなる路地裏の奥へずるずると引きずられて行く
身体に流れ込んでくる魔力を押し返そうと、体内で魔力を動かしてみる、でも魔力での抵抗も出来ない
どんどん流れ込んでくる
気分が悪いっ冷や汗が頬を伝って落ちていく
数メートル先には見た事のある真っ黒い魔力を纏った扉
あそこまで引きずられてしまえば私は連れ去られてしまう
あれはブラックの魔法だ、リアムさんが一度使ってた奴
空間と空間をつなげる扉!
震える左手でOKサインを作り、男の手に向かって勢いよく息を吐き出す
男の腕が炎に包まれる
服が燃え上がり、手を焼いていく
それでも私の腕を離さない
こっちを見ることもせず、同じ言葉を繰り返し呟くだけ
気味が悪い!
まるで操られた人形のような・・・
全身を衝撃が駆け抜ける
え?
まさか・・・
あの首輪と腕輪を・・・?
「ぴぴぃ!!」
そう考えが行き着くとプティがいきなりポケットから飛び出して
私を掴む男の皮膚が爛れた手首に絡みつく
何をしても足をとめなかった男がピタリと歩みを止めた
今まで街中では一度も飛び出さなかったプティが男に飛びかかってる
すると男の焦げた手首から白い光が溢れ出す
プティはそのままするするっと男の首へと登っていく
光が収まると男の手首には見た事のある、あの白い腕輪が嵌められていた
ゾワッっと全身の毛が逆立つ感覚
恐ろしい
怖い
恐怖に感情が支配されそうになる
本能が、第5感様が、コレは危険なものだと全身に訴えかけてくる
こんなものをまた見る事になるなんて
私は右手でその白い腕輪に触れる
「外れろ!」
ソルの時と同じ感覚
ソルの時よりも多い魔力をがっつり持っていかれた
プティが男の首から離れると首も強い白い光を放つ
私を掴む男の手の力が抜けた
ばっと力を振り絞って腕を振るとやっと私は解放され、手を振った勢いのまま地面に倒れる
男の焦げた手首から白い腕輪がパキンと割れて地面に落ちると、プティも地面に降りて落ちた腕輪をスライムの身体に取り込んだ
「プティッ行く、よ!」
気持ち悪い、視界がぐらぐらする
地面で腕輪を取り込んだまま動かないプティに手を伸ばし触れた瞬間に
何とか宿屋の部屋をイメージして
私は瞬間移動した
ガダンッバキバキッ
「うわあ!!!」
上手くイメージ出来てなかったのか
宿屋の部屋の机の上に瞬間移動してしまったらしく
受身が取れず、机の上に派手に落ち、机を壊してしまった
「ゆっユーリ?!」
部屋にはデュードさんがいた
良かった。もう、大丈夫・・・かな・・・
「うわぁ!プティ何を食べてるんですか!?」
デュードさんの叫ぶ声が遠くに聞こえ始め
私は壊れた机の残骸の中、眠るように意識を手放した
ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!
って思ってもらえるようがんばりまっす!
評価などしてもらえたら
飛び跳ねて喜びます!!
よろしくお願いします!




