26・2本角のビットラ
両手には真っ赤な血
ドクン、ドクンと心臓がうるさい
まだ温かくて
少しトロッとした感覚が気持ち悪い
濃い血の匂いが鼻につく
私の手の中で
今、命が消えた
その感覚が・・・
「ごっごめん、無理!!」
「あーっユーリ!吐くなよ!」
私は綺麗な川へ胃の中の物を吐き出す
でも今日はほとんど食べてないから胃液ばっかり
川辺で私とソルは大型犬ぐらいの
大きなビットラの解体をしていた
この辺の森は全体的に黄色い植物が多くて、ビットラもピンクではなくオレンジっぽい毛色をしている
2人で歩みを進め続け
5日目ソルがこぼした一言
「あったけえもんが食いてぇな」
ひたすら進む事ばかりを優先して街などにもよらず
人を避け、人に出会わないように
誰にも見られないように
木の実や木になってる果物っぽいものをメインに食べながら
進んでた
私もそろそろペース落としていいと思ってたし
火起こして何か温かいの食べよ
って言った・・・
言ったけど!!
ソルが任せろ!
と最初に狩った小さなビットラは料理にはならなかった
血にまみれたそのまんまで、毛も皮も付いたままの
木に刺さった残虐な丸焼き・・・焼死体だった
私は食べるのを断固拒否!
昨夜ソルは1人でむしゃむしゃ食べてた
次は私が解体するから生きたまま捕まえて!
と言ったものの
初めて獣を〆る
という経験は思ったよりえぐかった
「吐くぐらいなら俺に任せればいいのに」
「デレクにはもう料理を任せないって決めたの」
川で口と手をすすいでソルのそばに行く
2日程言い合った末、私は前の世界の友達の名前を少しもじって
“ユーリ”
ソルは
“デレク”
プティはプティ
常にお互いその名前で呼び合うことに決めた
「とりあえず血は抜かなきゃダメだから、逆さまにして切り口まで川につけれる?」
うぅ、可哀想・・・
首から血がダラダラと流れ落ちてる、角が3つでは無く2つ付いたおっきいうさぎ
今まで見かけたどのビットラよりも大きいし
角が2本なのは初めて見た
しばらくプティには兎になるのはやめてって言おう・・・
美味しく食べるから許して下さい
心の中で手を合わせる
獣を捌いたこともないし、テレビとかで見たうろ覚えの知識しかないけど
皮さえ剥けたらどうにか肉として見れそう
・・・いや、気合いで肉として見る
血抜きの後に内蔵とればいいよね?
その後皮を剥ぐんだっけ
わかんないけどとりあえず〆たらすぐ血抜き
それは間違いないはず
肉にさえなってしまえば後は主婦の知恵でどうにでも出来る
ソルのあれは料理じゃないって
認めさせてやるんだから
「ぴっ」
すっかり私の頭の上が定位置になったプティが首まで降りてきて蛇の姿になって首に巻き付きながら興味深そうに枝に吊るされたビットラを見てる
プティは何も食べなくても生きていけるみたいで
まだ何かを食べてるのは見たことが無い
様々な私の知ってる生き物の形にはなるけど、いつも口は無い
大きさは変えられないみたいで象とか、大きい生き物の形になるとミニチュアサイズですんごく可愛い
「血が抜けるまで、私その辺歩いてこよっかな」
まだ胃が気持ち悪いし
1回リフレッシュしたいかな
「あっ時間できたらやりてぇ事あったんだった。ちょっとこっち来て座って」
なんだろ?
吊るされたビットラを見たくなくて背を向けて座る
「じっとしてろよ?プティも1回膝に降りててくれ」
シャキン
えっ刃物が擦れる音が
「なっ何を」
「うごくなよ?」
ピシッと肩に力を入れる
ヒュヒュっ
数回風が吹いた
パラパラと髪が舞う
「もーいいぜ、ガタガタで気になってたんだ」
ハサミで適当に切ったガタガタな髪を整えてくれたらしい
いや、だからって
「怖かったし!後ろからシャキーンは!!」
振り返ると短剣を両手に握ってるソル
普通に切ってよね、怖いから!
「わりぃ、でも可愛くなったからいいだろ?」
あっ珍しいソルが褒めて・・・
「なあに?」
じとーっとソルを見つめる
「あーっいや、大した事じゃねぇんだけど・・・今時間あるからさ俺の服、動きやすいようにしてくれねぇ?」
ソルの服?なんだそんなこと?
「これ、デケーから動きやすいように「いいよっ脱いで」
確かに時々動きにくそうだもんね
足の裾、折り返してるだけだからたまに解けるし
ソルがマジックバッグを私に渡す
私は持ち出してた裁縫道具と裁ち鋏を出す
ツナギのリメイクはした事ないけど、動きやすくするなら上下は別にした方がいいだろうな
ツナギを貰うと早速鋏で切ろうとしたら
「あれ?これ、切れない」
特殊な素材なのかな?
縫ってある紐すら刃が入らない
「この糸を切ればいいのか?」
黒いTシャツにパンツ姿のソルがぐいっと寄る
ハッ
しっぽ!!
濃い赤のふわっふわなしっぽ!
ソルのしっぽ初めてみた!!
いつも隠してるしっぽが見えて思わずニヤける
ぶんっぶんっと大きく振ってて
まるで遊んでほしそうな大型犬みたい
ソルは、ぱぱっと犬歯で糸を切る
「別に普通に切れたぞ?」
ソルが私の視線に気付く
「みッ見んな!」
顔を真っ赤にして川に逃げる
腰ぐらいまでしかない川の中に座ってこっちをじーっとみる顔は真っ赤で、鋭く睨んでるけど
しっぽは激しく水面を叩いてる
恥ずかしいんだ!
ってかしっぽめっちゃ元気!
くっそかわいいんだけど!
だから普段見えないように服の中に隠してるの?
ヤバい
萌える
「こっち見てねぇでやれよ!」
「はーい」
時々チラチラとソルのしっぽを眺めながら
腰のところから紐を解いて上下別にして
簡単に手早く縫っていく
布を切るのはこの裁ち鋏では無理だったので
ダボッとした所を織り込んで全体的に細くして
腕やズボンの丈も切れないので折って縫い止めた
ソルにお尻の辺りだとバレないように渡して糸を切ってもらって
こっそりしっぽの出る穴も作った
あのしっぽは外に出すべき
口の悪いソルのあの感情丸出しのしっぽ、可愛すぎる
「おっもう出来てんじゃん」
一時間ちょっとぐらいかな
集中してやってプチリメイク完了
ずっと水遊びをしてたソルが髪の毛の水を絞りながら川からあがる
「デレク髪長っ」
頭までびっしょりになったソルはいつもふわっふわでボサっとしてる髪の毛が濡れてペシャンコになり、耳もハッキリ出てて
雰囲気がガラッと変わる
オールバックに前髪をかきあげる
髪型さえボサボサじゃなくて、きちんと整えたら
女の子泣かせのイケメンに育つな
ソル口悪いけど中身イケメンだし
私が持ってる服を真顔で見てるけど
しっぽがうるさい
嬉しいの?
服が出来上がって嬉しいんだね?
そんなに興味無いですって顔して
しっぽが!
超ぶんぶんいってますけど!
可愛すぎてソルの顔を直視出来ず片手で顔を隠しながら
ソルに黙って服を差し出す
「なんかわかんねぇけど、ムカつく」
ソルはプロメーテウムさまの様に炎に身を包むと一瞬で全身が乾いて爆発ヘアーに戻った
耳も先っぽしか見えなくなる
「す、すごいね。便利」
「この炎に見えんの魔力みたいなものらしーぜ、炎に見えるだけで本物の炎じゃねぇからユーリが触っても燃えねぇよ」
「じゃあレッドじゃなくてもそういう感じで身体から出るの?」
「獣人ならできるんじゃねぇの?獣人は細かい魔力の制御が難しいらしいから全身から出る人が多いっつってたし、先生に獣人について少し教えてもらったんだ」
服を着ながらソルが教えてくれる
先生はリアムさんの事、家の関係者の名前は出さないって2人で決めてる
「人間・・・えっと、世界で1番多い人族を基準とした時、獣人は魔力のコントロール能力に欠ける。その代わり身体能力がどの種族よりも高い、先生より力や瞬発力で言うと俺の方が高ぇんだってさ」
なんかソルはそういうもの、って深く考えてなかったけど
軽々と私を持ち上げたりバイク並の速さで走ったりは獣人の子供だからなんだ
「まあ、魔痕を考慮しない場合の話って言われたけどな『貴方が10年まじめに修行したって今の私にすら勝てませんよ』なんて言われちまった」
ズボンを履くとぽんっと見事に穴からしっぽが出た
「あ゛っ」
「ぶっふふふふっ」
思わず吹き出す
ギローっと燃える様な深い赤い瞳が私を睨む
「穴あけやがったな!」
「だって可哀想じゃん!そんなに元気なしっぽズボンの中に閉じ込めちゃうなんて」
「可哀想ってなんだよ!別の生きもんみてぇに!」
結構ガチめに顔を真っ赤にして怒るソル
しっぽもべしっべしっと自分の足を叩いてる
もうやばい!
しっぽが元気すぎて!
笑いが止まらない
良くズボンの中で今まで大人しくしてたよね!ホント!
隠すなんて勿体ない!
可愛すぎっ!!
「今すぐ縫え!!」
「あっ!私そろそろ解体しなきゃ」
さっと立ち上がって吊るされたビットラの所へ行く
膝からプティもシュルっと首に登ってくる
今日は蛇がお気に入りみたい
ソルもマジックバッグを掴んで腰につけ短剣をベルトに挟む
べしっべしっと
しっぽが足を叩く音に笑いながらビットラの前に立つと
私から笑顔が消えていく
嫌だな
また吐かないようにしなきゃ
でも、グロいんだよね
シンプルに
「はぁ、ったく・・・言えよ、俺がやるから」
まだ怒ったままの顔で私を追いやってソルがしゃがんで短剣をくるっと回してパシッと掴む
「で、でも私が」
「また吐かれたくねーし。でも何すっか俺わかんねえから、そこで指示出せ、あと穴縫えよ?」
「わかった、ありがとう。解体が終わってから縫うね?じゃあ、胸の真ん中から下まで切って欲しい。臓器を傷付けないように深く刃を入れないで慎重に
ザシュッ
ビシャッ
「・・・わりぃ。でもユーリ言う順番が逆「ごめん。黙って」
私が言い終わる前に勢い良く、深く刃を突き立て
一思いに切り開いた
なんだか分からない体液を2人して顔から浴びる
首にくっついてるプティも浴びてる
ソルはトラウマ製造機ですか?
虫の次は内蔵シャワー?
もう二度とソルには肉裁かせない!
大雑把なソルに料理任せないって決めてたのに!
私のバカバカ馬鹿!
気持ち悪かろーが、なんだろーが私がやる!
臭いし!ドロっとするし!
顔はちょびっとぴりぴりするし!!
穴も絶対縫ってあげない!!
私は静かに怒りながら川の中に入って凄い勢いで
訳分からない体液をこすって洗い流す
信じられない!!
思い切り良すぎでしょ!!
人の話は最後まで聞けって
がしっ
「わっ」
手を思っきり捕まれ水の中へ引きずり込まれた
ぷはっ
ビックリしながらソルを見る
「森の音が消えた」
そう言うと私の頭をゴシゴシ激しく洗う
「ちょっ痛っ」
「コレ匂いがやべえ!取れねぇ!ビットラにこんな匂いのある内蔵無かったはずだぜ?」
焦るソルを見て私も焦りだす
プティもこすってパッと見は綺麗になったけど
何?なんでそんなに焦って・・・
森の音が消えたって・・・
ソルも川に頭まで沈んで水中でゴシゴシ自分の頭を洗う
「ぷはっやべぇ、まだクセェ!!」
ぐっとソルに引き寄せられる
「俺が飛べっつったら思っきし上に飛べ、空高く、何回も」
耳元で小さい声で言われる
左手で私のお腹に手を回し、右手に短剣を構える
「プティも服ん中隠れてろよ」
ただ、美味しくお肉食べたかっただけなんだけど
遠くからドドドっと音が近付いてくる
何かがこっちにむかってきてる?
「飛べ!」
ソルの腕をギュッと掴み空を見上げて何度か瞬間移動する
4回ぐらい上に飛んで下を見ると
オレンジ色の小さい生き物が私達がいた場所に雪崩のように走り込んで川が見えなくなるほど一面をオレンジに染めた
「ビットラ?!なんでこんなに!」
「もう少し高く!」
落下に逆らってまたうえを見上げ空へ瞬間移動する
スカイダイビングのように落ちながらソルがキョロキョロと周りを見渡す
「あっち!あの丘の上!多分こいつら匂いに寄ってきたんだ!このまま空中を飛んで行けそうか?!」
かなり遠く、小さく見える丘を指さす
「やってみる!」
一気に飛ぶには目的地が遠く、小さくて良く見えないから何度も瞬間移動する
空中を移動するのははじめてで
いくら視線の先だったら直ぐに飛べる私でも
目に止めるような物が何も無い空中、しかも体制も安定してなくて瞬間移動するのが難しい
ソルは空中で器用に体制を変えながら短剣を腰の鞘に収めて両手で私を抱える
何とか丘までたどり着くとゴロゴロと地面に転がる
サッと立ち上がってソルが丘の上からオレンジ色の動く塊を見る
「チッまだこっちに向かってる」
だいぶ離れたのにまだ追っかけてくるの?!
視線を私に戻したソルが叫ぶ
「ユーリ!立つな!」
その声で立とうとしていた足の力を抜いてしゃがむ
すぐ上をオレンジの塊が飛び越えていく
ソルのすぐ隣に瞬間移動してソルの服を掴んでまた上へ瞬間移動する
「やべえ、この辺の奴らも寄ってきてる!キリがねぇ!」
また何度か上に飛んで下を見ると私達がいた丘ももう数十匹のビットラがいて私達を見上げてる
「俺らの匂いが消えねぇと、いつまでも追っかけられる!」
ソルが空中でまた器用に私を引き寄せ抱き抱える
私はバッグに手を突っ込んで
頭に浮かぶリストになんでもいいから匂いのするものを探す
「もっと高く!」
地面が狭る
2つ同時になんて器用にできない!
バッグから手を抜いて
また数回上に飛んでバッグに手を突っ込む
集中力が途切れるからしんどい
酒瓶をバッグから取り出してソルにぶっかけ、自分にも頭からかける
紺色のインクのような濃い藍色にに髪も服も染まる
強いアルコール臭が鼻にくる
「どうかな?!」
「わかんねぇ!どっか降りてみよう!」
また何度か空中を飛んで、丘から離れた周りが開けた大きな木のそばに降りる
たくさん慣れない空中での瞬間移動で集中力が切れてくる
私が握ってる酒瓶をソルが掴み、私の顔にぶっかける
「ちょっ。言ってよ!少し飲んじゃったじゃん!」
けほっけほっとむせる
赤ワインのような味してるけどテキーラとかウォッカのような強いアルコールを感じる
子供の身体じゃ酔いなんてすぐ回るに決まってる
「デレク!飲んじゃダメだよ!」
もう既に頭からかぶってるソル
行動が早いし、思い切りも良すぎでしょ
「数は減ったけど、まだ来てる」
森を見渡しながらチッと舌打ちしながらソルは考え込む
「このまま私の力で移動し続けるのは?」
「ここから移動し続けても移動した先にもビットラはいる、どの森にも大体いるっぽいし、匂いもすぐに消せそうにねぇし」
私はソルに近づいてまたバッグに手を突っ込み、二本、三本とどんどんさっきの酒瓶を出していく
「とりあえずココ開けてて周りに燃え移りそうにないし!木の周りぐるってこれ撒いて火つけよ!少しは考える時間稼げるんじゃないかな?」
「わかった!」
私とソルで急いで酒を地面に撒く
一升瓶のような形の酒瓶は一気に中身が出てこなくて上手く均一に撒けない
「俺がやるからマジックバッグで使えそうなもん探せ!」
マジックバッグを私に投げると
酒瓶の上の細くなってるところを短剣でスパッと切り落としてすごい速さで走りながら撒いていく
木の根元まで飛んで
マジックバッグに手を突っ込む
匂いが消せるもの!服を着替える?
ダメだ、私達顔面からあの液体かぶってるし
水で擦っても取れなかった
石鹸とかあればいいけど、それらしきものも無い
「ぴいっ!」
首元でプティが鳴く
パッと顔をあげると森から2匹のビットラがこっちに向かってくる
頭に付いてる三本の角を低く構えてそのまま突っ込んでくる
木の上を見上げて上に瞬間移動する
バキバキッと
2匹とも木の幹に刺さる
普段ビットラは無謀に突っ込んでくるような生き物じゃない
前の世界の兎の様に、どちらかと言うと普段隠れてて人が近づくと逃げていく生き物
なんでこんなに追っかけてくるの?
しかも馬鹿みたいに木に刺さってる
温厚で警戒心が高い生き物の行動とは思えない
私達一体何を浴びちゃったの??
考えてるとソルが短剣で木に刺さった2匹の首元をスパッと切る
血が飛び散りソルを汚す
「お腹はもう切っちゃダメだよ!」
「分かってる!」
地面を蹴って、幹もぽんっと蹴ると私の高さまで軽々と上がってくる
なんか身のこなしが軽くてカッコイイ
ソルは目を閉じて耳を澄ます
「まだ来てんな、後ろの方から3、もうすぐ見えるはず」
たったっと枝を飛んで後ろの方にソルが行く
「さっきみたいにできるか?炎は囲まれたら使おう」
「わかった!やる!」
私が戦えないからソルに頼るしかない
ここ無事に乗り切ったら弓かなんか飛ぶ武器練習しよう
瞬間移動で降りて木の幹のそばに立つ
草むらから3匹飛び出してきてまた頭を低く構えて角を突き立て突っ込んでくる
ギリギリまで待って木の枝へ瞬間移動する
バキバキバキッ
と見事に3匹とも角が木に刺さる
「次右側っ!2匹!」
木から飛び降りながら首元を確実に切っていくソルが叫ぶ
ソルから視線を外して
また地面に降りる
何度も繰り返し30匹を軽く超えた頃
ソルが片手でOKのような仕草をとって火を吹いた
私達のいる木を炎が囲む
ハアッハァッ
と息を荒らげながら木に刺さってジタバタ暴れる最後のビットラの喉を切る
それを見て私は血まみれのソルのそばに瞬間移動する
「移動する?私まだまだ飛べるよ」
適当に布をマジックバッグから出して返り血で真っ赤な顔を拭ってあげる
「いやッこのまま粘ろうぜ、ハァッ、今っ炎の周りに9。新しく迫ってくる足音はねぇ。ハァッ、でもそろそろ木にさせねぇし」
呼吸を整えながらソルは布を受け取って短剣の血を拭き取る
木の幹は30匹以上刺さっててぐるっと木を1周回ってる
さっきも木では無く死体に刺さってすぐ抜けた個体もいたし、確かにもう安全に無力化は厳しそう
私は木に刺さったビットラが引き抜けないかグッと掴んで引っ張ってみる
「わっ」
首の切り口が広がって血が飛び散って顔にかかる
あ。切ってたの首だった
脆くなってて当然か
どうしよう
ソルには安全に戦って欲しいのに
私が戦えたら良かったのに
ソルが素振りとか筋トレ頑張ってる横で一体何してたんだろ
いつだって森の中は安全じゃなかったのに
第五感様に頼って危険を避けて進んでも
ハプニングはいつだって突然やって来る
ソルが獣人で大人と変わらない力や速さがあっても
たった7歳の少年で、私も7歳のなんの力もない少女という事実は何も変わらないのに
「血がかかってる、気持ち悪くねぇか?」
血で汚れた布の綺麗な所を探して
ソルが私の顔を拭く
こんな時なのにソルは優しい
「ごめん、私も強くならなきゃいけなかった!デレクばっかりに大変な事させちゃって・・・私ダメだね」
「謝る言葉は嫌いだ。全部終わって、ありがとうがいい」
血まみれのソルはニカッと笑う
ソルの後ろの炎が大きく揺れた
ビットラが2匹突っ込んでくる
ソルを横に押して一緒に倒れる
私の足を角が掠めた
いたっ
ソルを掴んで木の上を見上げて一緒に飛ぶ
「炎が弱まった瞬間に突っ込んできた!また私が囮になって刺さってるのが少ない所に降りるから刺さったの確認してから飛び降
「どっか血が出てるだろ!ダメだ!」
ソルを離して木の下へ視線を向けようとすると
ソルが私を掴む
ソルが私を掴んでたら瞬間移動できない
「かすっただけ!痛くない!こんな怪我よりソルが安全に止めさせる方が大事!」
「クソッ」
私達のいる高さまで飛び上がって来たビットラをソルが蹴り飛ばす
さすがっ兎の形してる、脚力が強い
炎の向こうまでビットラが飛んでった
「とにかく私やるから!」
ソルが掴む手を振り払って私は木の下へ瞬間移動して炎の内側に入ってきた残りの1匹のビットラと視線を合わせる
フーッフーッ
と興奮してるビットラは中々飛び込んでこない
なんで?
流石にこんなに後ろに死体が刺さってると警戒した?
でも飛び込んでこないと木に刺せな
「ユーリ!来てる!」
ソルが上から飛び込んでくる
振り返るとすぐ横に頭を下げて角で私を刺そうと飛び込んでるビットラ
スローモーションに感じた
あ
胸に刺さるわ
ソルも間に合わない
今視線を動かして瞬間移動しても間に合わない距離に角がある
せめてソルがトドメを指しやすいように
このまま刺された方がいいのかも
肉壁的な?
庇ってないから肉壁じゃないか
身体から力を抜い
「ぴっ!」
プティが胸元から飛び出して凄い勢いの炎を吐く
「プティ?!」
炎に押仕上げられ浮いたビットラの角が頬を掠めて木に刺さる
後ろからソルが降ってきて木に刺さったビットラの喉を切り裂く
「あぶねぇだろーがあ!!」
ボワッと全身を炎に包むと離れてるビットラに飛び込んで行き、身体を回転させながらスパッと頭を切り落とした
わ、凄っ!
飛び出したプティも素早く私の手に絡む
「上に登ってろ!このまま俺がっ
ぱっと言葉を途中でやめて炎の向こう側、一点を見つめるソル
耳がピクピクッと動くと
強く地面を蹴り真っ直ぐ私に飛び込んで来た
えっ
凄い勢いで私に飛びかかる
一緒に炎の壁の近くまで転がる
バシャッ
私が立ってたあたりの木の幹に赤い液体が飛び散る
「コラコラ。避けちゃダメだよ」
炎の中から低い男の声がして真っ赤な液体が降ってくる
ソルがとっさにわたしに覆いかぶさり赤い液体をもろにかぶる
「デレク!」
ソルがそのまま炎の向こうへ飛び込んだ
誰かいる!
ソルそれに気付いたんだ!
どこからがまた何か飛んできて私はゴロっと転がって避ける
水風船の様に弾けてドロっとした血のような赤い液体が地面に散る
木を見上げて瞬間移動する
ソルは?!
ソルはどこ?!
「えっ消えた!」
今度は若い男の声、遠くから小さく聞こえたから傍には居ないはず
あの水風船みたいなのを投げてきてる人?
少なくとも2人!人がいる!
炎が小さくなっていく
撒いたお酒が燃え尽き始めたみたいだ
炎の向こうにビットラの死体が何体も転がってる
ソルっ!!
その光景をみて身体が勝手に動いた
警察に捕まった時のように後ろ手に手を組まされ膝で押さえつけられ、上半身に赤いドロっとした液体をかけられてるソルの姿
押さえつけてるフードをかぶったガタイのいい男の人
私は男のすぐ目の前に瞬間移動して
人生で1度も人を殴った事は無かったけど
迷いなく
拳を顔めがけて全力で振り抜いた
「おっ」
いきなり目の前に現れた私に男の人は油断してたからか避けることが出来ず
思っきり頬に私の拳が沈んだ
ゴキッ
と拳から変な音と鈍い痛みが腕を走り抜ける
体制が崩れた男をそのまま蹴りソルの上から退かす
「デレクっ!」
真っ赤に染まったソルを左手で掴んで飛ぼうとするけど
瞬間移動できない
なんでっ?!
踏み出そうとしたら足が上がらない
草が伸びて私の足に絡んでる!
ソルもどんどん草に覆われてく
「やっやだ!デレク!」
ソルに絡む草を毟ってく、右手も痛むけど必死に両手を使って毟る
ソルは気を失ってるのか動かない
気を失ってるだけだよね?!
「アッハッハッハッハッ!」
遠くから笑い声が響く
「ごめんなさい、ビックリさせてしまいましたよね?私達あなた達を傷付けようとした訳では無くて」
「デレク起きてっ」
聞こえてくる声を無視してソルを揺さぶる
遠くからまた何か飛んできた
足に草が絡んで避けられず
頭に当った何かは弾けて私もどす黒い、赤いドロっとした液体をかぶる
これ毒か何か?
どうしよう、ソル凄いかけられてる
動かないし
ソルがっ!!
このままじゃっ
森の中から水色のローブを羽織った女の人と深い緑のフードをかぶった男の人が姿を表し、私達に歩いてくる
「いやー参ったな!ハハハッ」
私が殴った男の人は笑いながら立ち上がる
とても大きくて、ガッチリした体の男が頬を擦りながらソルにしてたように私にも赤いドロっとした液体をドバドバとかけ続ける
腰には大きな剣、チラチラとフードの隙間から見える
訳が分からなくて怖い
これ、変な薬品か何かなの?
私まで気を失ったら
一体何をされるのだろう
「ベディヴィアさん!ちゃんと説明しないと!怖がってます!!」
「説明は後でいくらでも出来るだろう?まずは匂いを消さねえとな!ハッハッハッ」
匂いを消す?
「ったく、あなたは・・・すみません怖い思いをさせましたね。我々はシルバータウンのギルドに所属しているシルバーウインドというS級パーティです。あなた達、二本角のビットラを狩りませんでしたか?」
緑のローブの男の人が優しい声で話しかけてくる
身体から力が抜けていく
「すげえよ!ベディヴィアの顔面殴った奴、久々に見たぜ?」
すぐ後ろから声がして振り返ると弓を構えた髪の長い若い男の人がそばに立ってた
足音なんて聞こえなかったのに
そのまま弓を放つ
ヒュンッと真っ直ぐ飛んだ矢は曲がり水色の女の人の横を飛んで森の中へ消えていく
ドサッと何か倒れる音がして草むらから血が流れてくる
「まだビットラ嗅ぎつけてるぜ?」
「私達はあなた達を助けに来たのです」
そう言って私の前まで歩いてきた水色のローブの女性は
笑顔で私とソルに赤いドロっとした液体を大量にぶっかけた
ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!
って思ってもらえるようがんばりまっす!
評価などしてもらえたら
飛び跳ねて喜びます!!
よろしくお願いします!




