20・side ソル〜葛藤〜
「これは僕がやる!」
「おーれーが!頼まれたんだよ!離しやがれ」
あの日から2週間が経ち
アレクシスと俺は毎日バチバチ火花を散らしていた
弓を片しといてくれと言われただけでも
俺が俺がとお互いに競う
ヴァン
元いヴァイスは時が止まったように傷もそのままに眠ったまま
まだ、目を覚まさない
ルナはレゼルさんに弟子入りする!
と張り切って言葉遣いを直そうと奮闘しながら
お手伝いを楽しそうにして過ごしてる
弱かった身体が嘘だったかのように走り回れるようになり
怪我も傷跡ひとつなく綺麗に治った
耳だけは治すことが出来ず、ひとつになってしまったけど
字を習い
貴族語を習い
俺たちの住む国のこと
周りの国のこと
魔法のこと
色のこと
少しずつ毎日の授業で教えて貰ってる
座ってやる授業が終わったら
俺とアレクシスは剣術、武術、弓術、体術、様々な戦闘訓練をランスロット様に直接教えて貰ってる
普通ではありえない待遇
怖い
出て行けと言われる雰囲気は無い
でも・・・
怖くて聞けない
何故ここまで優しくして貰えるのか
温かくて腹いっぱいに食えるご飯も
俺にはすぎる動きやすくて触り心地のいい服も
寝る為に与えられた広い部屋も
ふかふかで気持ちのよすぎるベッドも
幸せすぎて
また壊れて失う日が来る事が怖い
ヴァイスが眠りに着いたのは俺のせいだ
俺なんかと友達になってしまったから
ヴァイスは怪我をし、命を失いそうになった
俺は
俺が許せない
授業道具をアレクシスと取り合いながら片付け
夕食前の自由時間
「なあ、ソルお前いつも終わったら何をしてるんだ?」
走りだそうとした俺を呼び止める
「疲れたから飯まで寝んだよ」
言葉を吐き捨て
庭の奥へ走った
アレクシスは嫌いじゃねぇ
ルナを助けてくれたし
寧ろ感謝してっけど
住む世界が違いすぎる
俺の事はいつか忘れる
「おっちゃーん」
庭の端っこ、庭師のおっちゃんが住む家の隣の倉庫を覗き込む
「来たなガキんちょ!今日はこいつを表のブルーの薔薇の所に運んどいてくれるか?」
「ん。」
借りてるふくを汚さぬよう脱いでおっちゃんが俺に出してくれた汚れても大丈夫なおっちゃんのお古にその場でサッと着替え
肥料の袋を担いで運ぶ
ガタイのいいおっちゃんの服はデカいけど紐でくくればどうにか着れる
濃いグリーンの髪を後ろで結び髭を伸ばしてるおっちゃんの小屋は俺の部屋の窓から見える位置にある
いつ見ても忙しそうなおっちゃんはこのでけぇ屋敷の庭を1人で整えてるみたいだった
俺は作業してるおっちゃんに
力仕事があるならやりたい、手伝える事はねえか?
と聞いてから
空いた時間を見つけてはおっちゃんを手伝ってる
10袋目を運び終え、次を運ぼうとしゃがむ
「あっガキんちょ。ちょっとこっち来い」
素直について行くとおっちゃんが家に入ってく
まだ入ったことのないおっちゃんの家
肥料の匂いのする俺が入っていいのか、扉の前で一瞬迷う
「ほら、こっち来いって」
扉を抜けると木でできたテーブルに椅子が4つ
奥に暖炉、暖炉を挟むように扉が1つと階段が、
ここではあまり過ごさないのだろう
ものはほとんどなく、綺麗だった
「ちょっと座って待ってろ」
そう言って扉の向こうへ行く
何だか香ばしい、いい匂いが扉の先から部屋に流れ込んでくる
座って待ってろと言われたけど
俺今汚れてるし・・・
外へ繋がる扉の前から動かない
「一緒に食べよう」
おっちゃんが持ってきたトレーを机に置く
木の皿に乗った何かが練り込まれてるパンと木のコップに入った薄いイエローの液体
パンは香ばしく、イエローの液体からは甘い香りがする
「いや、でも・・・」
「ちゃんと話をした事が無いだろう?」
いつもはキリッと仕事をしてるおっちゃんの目が優しく弧を描く
「わっわりぃよ・・・です。おっ僕、上手く話せねぇです。貴族語」
「そのまんまでいい、貴族語なんか要らないぞ」
ほら、と机をポンポンと叩かれる
静かに椅子に座る
「名前はなんだ?」
そう言いながらおっちゃんは俺に濡れ布巾を渡す
俺はその布巾でしっかり手を拭く
何か食べる前に手を清潔にするのもこの屋敷に来て身につき始めた習慣の一つだ
「ソル」
きっと俺の言葉は悪いし、変なこと言って嫌われたくねぇ
簡単にしか言葉を返さないように意識する
聞かれたことだけ答えよう
おっちゃんはパンを2つ俺の前に置いた皿に置き、液体が入ったコップも置くと俺の向かい側に座る
おっちゃんはパンを取り1口サイズにちぎると口の中へ放り投げる
視線でお前も食え、と促され俺も真似をしてパンをちぎって1口、口に運ぶ
カリッとした表面に甘酸っぱいマゼンタ色の果実
親方が投げ込んでたパンとは全くの別物で甘みが強く中は柔らかい
うまっ!!!
1口にちぎることをやめてばくっとかぶりつく
うんまあっ!!
ここでのご飯はスープが中心だ
野菜や肉の入った様々な味のスープに
もっと固く中身が詰まったしっかりとしたパンを浸して柔らかくしながら食べるのが普通だった
それでも俺とルナには凄いご馳走でご飯は俺達の毎日の楽しみでもある
これは食堂で使用人達と一緒に食べてるパンとは全くの別物で
主役と言えるこのパンは衝撃的だった
目を輝かせながら
あっという間にひとつたいらげ皿の上のもう1つへ手がのびる
くくくっ
と笑う声でハッとして手を膝の上にサッと引っ込める
やべぇ
美味くてついガッついちまった
ここはお屋敷で働くおっちゃんの家
もっと綺麗に食べなきゃ
「ここは俺の家だ。俺がいいっつってんだからなんにも気にするな。ほら、それも飲んでみろ」
頷いて木のコップを手に取り飲む
爽やかな甘みにさっぱりとした柑橘系の果物の味
くど過ぎない甘さがたまらない
一口だけ飲むつもりがごくっごくっと勢いよく飲んでしまう
うまい!うまい!うまいっ!
こんな飲み物が世界にはあるのか!
耳が興奮して立ってることにも気付かず
「うんめぇっ」
思わず声が漏れ出た
「ガハハハハハッそうか!うめぇか!ガッハハハハッ」
デケェ声で一瞬ビクッと飛び上がる
おっちゃんがこんな笑ってんの初めて見た
おっちゃんは豪快に笑いながら席を立つとまた扉の奥へ行って山盛りのパンと木でできた大きい筒のような入れ物をテーブルへ持ってきた
「俺が作ったんだどんどん食え!」
俺は皿に乗ったパンをバクバク食う
うんめーぇ!
この中のマゼンタの実はなんなんだ!
酸っぱいくせに甘えっ
「最近使用人達の中で噂になってるぞ」
4つめを手に持ったままイエローの水を飲んでると
おっちゃんが口を開く
「大きい壺を運んでたら、代わりに持って運んでくれただとか。食品配達のもんが荷車から荷物下ろしてたら、黙って手伝い、何も言わず走って行ったとか。洗濯物を洗濯場まで一緒に運んでくれたとか。俺以外にも色々と手を貸して回ってるみたいだな」
話の目的が分からずパンとコップを置き、じっと話を聞く
「ソル、お前さんはお客人だ」
お客人。
この屋敷のものでは無い
その言葉にテーブルの下でグッと拳を握る
「俺達はランスロット様から獣人の兄弟は娘の、ヴァイスお嬢様の恩人だと伺ってる。だから手伝いをして回ったりしなくてもいいんだ、好きなように過ごせばいいい」
「それは違う」
俺達がヴァイスの恩人なんじゃない
「ヴァイスが、俺達の恩人なんだ」
だから、
俺達がこんな待遇を受けるのは間違ってる
分かってる
いつか出ていかなければならないと
でもちゃんとあいつが目覚めて、元気だって分かるまではここに居させてもらいたい
俺なんかがちょっと手伝いをするぐらいじゃこんなデケェ恩、
返せねえのなんか
分かってる
でも何にもしないでじっとしてるなんて
俺には出来ない
少しでもここで過ごしていいって
思ってもらいたい
「ソル、俺は“お客人”とは言ったが、じゃあ同じお客様のリアム様やアレクシス様とは違う待遇なのはわかってるだろう?」
確かに
リアム先生やアレクシスは食事を使用人達と同じ食堂で食べたりはしない
部屋も俺たちとは違ってお屋敷の中心の方だ
でもそれは、俺達が行く宛てのない孤児で
貴族ではないからだろ?
「今は将来何になりたいか考える時間だ、だから手伝いして回るのはやめろ」
どんっと突き放された気がした
出て行った先で何をすればいいかなんて
俺っ今は考えらんねえよ
顔を見られないように深く俯く
出ていく日は近いのか?
せめてヴァイスが目覚めるまでは居たかったな
ルナになんて言おうか
どこで寝るかも考えねえと・・・
じわっと目が潤む
ここにいたかった
ヴァンが笑うその顔を見るまで
ありがとうと
ゴメンな
を顔を見て言うまでは・・・
・・・いや
目を見て言いてえ
俺はっ
ガタッと立ち上がり真っ直ぐおっちゃんの目を見る
「おっちゃん!俺っどうしてもヴァイスに言わなきゃなんねぇ事があるんだ!今からランスロット様の所に行って、目ぇ覚めるまでは居させてくれって頼んでくる!もっと手伝いやるし!何だってやる!だからまた来るからな!」
おっちゃんは目を丸くして俺を見る
部屋の出入口の扉に手を掛ける
あっ!
「すんげぇ美味かった!ありがとな!服いつものとこ置いとくから!」
おっちゃんは
おい!
と俺を引き留めようとしたけど俺は扉を開け駆け出した
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勢いよく出て行ったソルを引き止められなかった彼はビックリしたあと大きな声で笑う
「なんか盛大に勘違いしたまま行っちまったなガハハッ」
静かに階段から男が降りてくる
「伝えて欲しい事は何一つ伝えてくれてないじゃないかデレク」
デレクと呼ばれた男は振り返る
「口下手な俺なんかに任せるからだ、ランスロット」
少し困ったように手を頭に当てるランスロット
「ベルが鳴った時すぐ駆けつけられるようにだと分かってるんだが、レゼルの部屋の近くの廊下で寝る件も、まだ子供で身体に良くないと・・・ハァ。お前には懐いてると思ったんだけどな」
「俺が普段用事しか頼まねえで、話さないからだろ?」
ランスロットはパンを1つ手に取り頬張る
「昔っから変わらないな、これは格別に美味い」
「当たり前だ、秘伝のレシピだからな。それよりそろそろ戻らないとソルが部屋に先に着いちゃうぞ?」
「そうだな」
そのまま素早く食べるとランスロットは扉に手を掛ける
「ちゃんと自分で言えよ、分かりやすくハッキリな」
「分かってる、更に欲しくなったぞ?彼等兄妹が望むなら私はいつまでも彼等を囲うつもりだ。彼をこの国で一番の騎士に鍛えるのも面白そうだろ?」
そう笑顔で話し、扉を開けると消えるような速さで駆けて行った
1人残されたデレクはがぶっとパンを齧る
「根っこがいいあんな真っ直ぐなガキ、手放すつもりなんて微塵も無かったくせに、最初っから雇いたいって言ってやれば良かったんだ」
ガハハっと1人でまた豪快に笑った
ソルが笑顔でデレクの名前を聞いたのは
次の日の朝だった
ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!
って思ってもらえるようがんばりまっす!
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