18・ありがとう
気がつくと白い空間の中に立っていた
どこまでも続く果てしなくただっ広い空間
なんだかここに来たことがあるような気がする
そんなことを考えていると
ぽちゃんぽちゃん
と赤い雨が降り始めた
「待っていました」
すぐ後ろから声がして振り返るけど
誰もいない
「無茶をしましたね」
またすぐ後ろから声がしてまた振り返る
でも誰もいない
私は声の主を探すのを諦めてその場に座る
なぜだか分からないけど赤い雨がなんだかほんのり暖かくて心が落ち着く
濡れるのが全然嫌じゃない
「貴方は見ていて飽きません」
クスクスと笑う声が響く
別に面白くしようと思って生きてるわけじゃないし
あれ?なんでここに居るんだろう?
さっきまで何してたっけ?
自分が何をしていたのか何も思い出せない
「貴方は1人の少年と1人の少女の運命を変えたのです」
そう言われても何も思い出せないのでしっくり来ません
「ふふふっ貴方はただ、貴方らしく。自分が思うようにこれからも自由に生きて下さい」
漠然とそんなこと言われたって
よくわかんない
「私がいると信じて、生きることを決して諦めないで。私は世界に干渉できないの」
そう声が言い終えると激しい眠気に襲われる
「次に会える時を楽しみにしてるわ」
私は小さく蹲り、幸せな気分で眠りの世界へ引き込まれた
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変な夢。
薄目を開けて布団の中で手を伸ばす
自分の部屋の見慣れた天蓋に安心する
・・・・・ん?
じゃない!!
ガバッと起き上がろうとして身体の至る所から鋭い痛みが全身を駆け巡る
いったーーーい!!!
起き上がれず一瞬浮いた頭がまた枕に沈む
「ぅぅっ」
右手が何か掴んでる?ん?掴まれてる?
痛む背中に鞭打って頭を起こして右手を見ると赤色のモフっとした気持ちよさそうな塊が見える
ピクっとその塊は動くとムクっと起き上がる
「ふえっ」
潤んだ大きな瞳からポロッと涙が落ちる
「ヴァイスさまーーーっ」
小さな手が私の手を両手で包むようにさらにギュッと握り
ふえぇん
と可愛く声を上げながら泣き出してしまった
片目だけ長い前髪で隠れたふわっとショートがすごく似合う可愛らしい女の子
ヤバイ鼻血でそう
かわいすぎるんですけど?!
空いてる左手で口元を押さえる
惚れてまうやろーーーー!
さっきまで見ていた妙な夢で言われた言葉を思い出す
『貴方は1人の少年と1人の少女の運命を変えたのです』
夢の中では記憶がなくて分からなかったけど
私ちゃんとやり切れてた
「ルナちゃん」
思ったより声が掠れて、小さな声になってしまったことに少し驚く
「ヴァイスさまっヴァイスさまあっ」
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ルナ
5 ♀7.7 red
ソルの妹 両親を殺害されたが
ダイヤトリンド家にて保護されている
ヴァイス・デア・ダイヤトリンドと
契約を結びたいと切に願う少女
_______________
ん?
ナルシド商会所有物とか物騒な言葉は消えてて安心したけど
最後の2行なに?
もう契約とかそういうの要らないんですけど?
私にはレゼルちゃんと言う天使がもういるし?
むしろこんな可愛い子は外で、広い世界で
自由に生きてほしいんですけど?
あっレゼルちゃんにももちろん自由に生きてほしんだけども?
妙なテンションに赤面が収まらぬまま
もう一度、今度はゆっくり起き上がろうと体に力を入れて
ゆっくり、痛みに耐えながら座る
あれ?そういえば、
ルナちゃんの両手から右手をスルッと優しく抜き取り片目を隠す長い前髪をそっと掻き分ける
ビクッとしたけど抵抗することなく、ぐすっと鼻を啜りながら受け入れるルナちゃん
ソルに似た2つの赤い瞳
片目が色無眼だと聞いてたのに何でだろう?
それに助けた時は薄かった髪の色もかなり鮮やかな赤色になっている気がする
それに傷や腫れ1つない綺麗な肌とクリクリお目目の可愛いお顔
頭からひょこっひょこっと見えたり隠れたりする右耳
腕を下ろし、長袖のネグリジェをめくって腕も見てみるけど怪我をした跡すら見えない
リアムさんすげえ
昨日の今日でこんな直せるもんなんだ?
魔法すんげえ
座ったことで見えるようになった時計もチラッと見る
まだ7時前、窓からの空を見た感じ、朝だろう
「あっそういえばヴァイスさまが起きたらベル鳴らせってお兄ちゃんが」
「まだ朝早いから、寝かせてあげて」
きっとみんな昨日はドタバタ大変だったろう
アレクは私の事探し回ったよね?ごめんっ
ソルはここまで運んでくれたのかな?重かったろうな
レゼルちゃんにも沢山心配掛けちゃった気がするし
おとーさまやおかーさまも多分大荒れだろうし
リアムさんからは雷も落ちるんだろうな
キョトンとお目目が落ちそうなほど目を開き、ぶんぶんと首を横に振る
「ヴァイスさまっずーっと!待ってたの!ぁっです!」
そう言うとぴょんっとベッドを降りてぐるっとまわり、ベルを鳴らした
ずーっとの言い方が引っかかる
ん?昨日じゃ、ないの?
あれ?
嫌な予感がする
「昨日・・・じゃないの?」
体の痛みが強いからそんなに経ってないと思うんだけど・・・
布団の中だし、怖くて見れない右足は熱を持ち今も心臓のように脈打ってる
「ほぼひと月!っです!ずっと眠ったまま起きなかったの、です!」
体から力を抜いて柔らかい枕へまた頭からぼふっとダイブする
1ヶ月?!
みんなになんて言われるか、聞かれるか
考えるだけで頭が痛い
「ルナ!起きた?!」
鍵の開く音がしないままに扉が開け放たれ
ソルの元気な声が聞こえる
「うん!ヴァイスさま起きた!」
フワッとベッドにあがり横になってる私の顔を覗き込む
「おっおはよう?」
あの時、白い枷を付けられていたソルの頭の上に見えていた文章
私自身がパニックで読む余裕がなくて読んでない
でもルナちゃんと一緒で内容が変わってるんだろう
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ソル
7 ♂5.6 red(�)
ルナの兄 両親を殺害された
ダイヤトリンド家にて保護されている
_______________
状態》発芽
_______________
アレクにもある謎のマークをソルも持ってたんだ
そんでもって最後の奴。全く意味不明なんですけど
ソルの真っ赤な瞳が揺れると
私の肩に顔を埋める
「遅せぇよ」
耳を垂らして小さく震える肩
頭にそっと手を添えてトントンと撫でながら
もう一度夢の中へ幸せな気分で落ちていった
__________
「いったぁ」
ズキっと刺さるような痛みを右足に感じて目を開ける
「おはようございます。ヴァイスお嬢様?」
「おっおはようございます」
目元の布を外したリアムさんの笑顔に少しゾッととしながら起き上がる
笑顔なのに怖いってすごい特技だよね
リアムさんの後ろにはおかーさまとおとーさまも立っていて
起き上がった私に手を伸ばし頬や頭を撫でる
リアムさんはベッドに座り私の包帯が巻かれた右足に手を添えていて、私の右足の怪我したあたりがピンクの光に包まれていた
「目を覚ましてくれて本当に良かったわ」
「あぁ」
2人の優しい瞳に目頭が熱くなる
ふと、さっき起きた時ほど背中やお腹に痛みが少なくて
スッと起き上がれたことに少し遅れてびっくりする
少しやつれたおかーさまを支えながら
「ちょっとキャロイスを横にしてくるから」
おとーさまとおかーさまは視界からそそくさといなくなる
ん?なんだかあっさりだな
そんなことを考えていると
「私はそこの2人の子供を見ました」
リアムさんが笑顔のまま私の後ろの方へ視線を移す
リアムさんの視線を追いかけ後ろを見ると、すぐ側ベッドの上にルナちゃん、勉強椅子をベッドの脇においてソルとアレクが並び
皆緊張した表情で俯いていた
あっ怒られるやつだコレ
子供達の表情を見て生唾を飲み込む
「もう一度言います。私はそこの2人を視ました」
視ましたと強調すると私も流石に気付く
記憶の事だろう
「ごめんなさい」
俯きペコっと頭を下げれるだけ下げる
怒られるのは分かってたし何度だって謝る
でも後悔はしてない
「・・・なぜ、私やランスロットを頼らなかったのですか?」
てっきりガミガミと怒られると思ってた私は
以外な言葉に視線をリアムさんへ戻す
するとずっと笑顔だったリアムさんは真剣な表情に変わっていた
「御父様っそれは」
「ええ、私は眠らせていたでしょう。あの場でヴァイスを止める方法は眠らせる事だけだったと今でも考えは変わりません。」
「でもそれじゃ間に合わなかった」
素直に思った事を口にする
「それは結果論です。あの時あの場で私を説得すると言う選択肢が無かったことを怒っているのです。子供だけで危険に自ら飛び込み、誰も死ななかったのは奇跡としか言い様がありません」
キッパリと言い切るリアムさんの言葉は正しくて
重くわたしに突き刺さる
「ヴァイスはこの家の者達誰一人、自分を大切に思い、守っている家族にすら頼る事無く突き進んだ結果がこの有り様だと言うことを正しく理解して欲しいです」
はぁぁ
と大きなため息と共に一度視線を私の刺された怪我へ移す
「正直、身体の怪我はまだいい、でも貴方自身の魔力が枯渇し、そこにいるソルが抱き抱える貴方を見つけた時はいつ死んでもおかしくない状態でした」
死んでもおかしくないくらい弱ってたのか私・・・
「ごめんなさい・・・」
「・・・。私はルナを置いて消えた貴方たちのことを手当をしながらランスロットに話し、ルナはガドラ・ナルシドに連れていかれる兄の姿を見ていたので私はそこに向かうだろうとすぐナルシド商会へランスロットと共に向かう事にしました」
「捕まえましたか?」
あんな残酷な事をしていたんだから
捕まってると信じたい
「ええ。しかしマールバラ元子爵と雇われていたマルドは現在も逃亡中です」
元子爵、という言葉で粛清された事は伝わってきた
「叩かずとも黒い噂のあった商会にその持ち主であったマールバラ元子爵。元々もうしばらくしたら一斉捜査が入る予定だったのですぐ騎士と共に乗り込めたのです。貴方達が到着する前に踏み込めると思っていましたので、正直貴方をみくびっていたようです」
一通り治療が終わったのか足から大きな痛みが無くなると
ピンクの光が収まった
「ヴァイス、貴方は死にかけていました。一時眠っていた時のように魔法を受け付けない状態で。血は流れ、魔力がどんどん枯れていく貴方を私もどうする事もできず・・・呼吸も浅く、弱くなっていました」
ルナちゃんがぎゅっと私の手を握る
「その子、ルナが貴方の命を繋ぎ止めたのです」
え?とびっくりしてルナちゃんを見る
「何故か分からないけどどうしてもあたしも行かなきゃって、たくさんお願いして連れてってもらったの・・・馬車で待ってたんだけどじっとしてられなくて、手を握らせてってお願いしたの」
「信じらんねーと思うけど、ルナが手を握った途端どんどん目も髪も綺麗なレッドに染まったんだ」
ソルがニカッと笑いながらルナちゃんの頭を撫でる
私が、ルナちゃんの色を変えてしまった?
いや、どんどん綺麗な赤にって事は私はルナちゃんにあった白い色を吸い取ってしまったという事なのか?
「その子が手を握り赤く染まりきると貴方の減り続けていた魔力が回復し始め、26日眠り続けた後の今日、目を覚ましたのです」
運命の巡り合わせなのか
神様のイタズラか
私がルナちゃんを助けていなければ
ルナちゃんが色無眼じゃ無ければ
私は死んでいた
私が神無しだったからソルに嵌められた枷を壊せた
私がいなければ2人とも死ぬか
死ぬよりも辛い生き方をする所だった
そして何より私が抜け出してソルに会っていなければ
ソルもルナちゃんも助けられなかった
「リアムさん、ごめんなさい。何度でも謝ります。私がこっそり抜け出して森に遊びに出ていた事も、ソルと出会った事も、そもそも魔法が使えるって事を素直に話していたら何か変わってたかもしれない。怪我をしないで2人を助けられた道もあったかもしれない」
リアムさんからアレクへ視線を移す
「アレクもごめんなさい、私の我儘で怖い思いもさせちゃった。アレクはただ、私が突っ走るのを助けてくれただけなのに。アレクが冷静だったおかげで私もルナちゃんも助かったと思うの、ありがとう!寝てる間に沢山怒られたよね?ごめんなさい」
ペコッと頭を下げる
「っ!いや、僕は・・・別に・・・」
アレクはもごもごと頬を赤らめながら言い淀む
「ルナちゃん、もう少し早く見つけてあげられたら、片耳を無くす前に、見つけてあげられたらって凄く後悔してるの。ごめん、本当にごめんなさい」
ぎゅうっと抱きついてくる
「ヴァイスさま謝っちゃやだ!!あたしいっぱいありがとうって言うって!決めてたもんっ」
ぎゅっと抱き返してふわふわの髪を撫でる
可愛いぃぃぃぃ
抱きしめたまま謝っても謝りきれないソルを見る
「ソルも遅くなって本当にごめ「ばーか」
謝ろうとしたらバカって言われた
「だっ、だからごめ「謝るな!」
歯をむき出し私に謝らせてもくれない
「俺は、ヴァン・・・ヴァイスが居なかったら心が死んだ人形になってたと。そこの先生に教えて貰った」
椅子から降りて抱き合う私達のそばにくる
「俺達兄妹はあの日お前と会ってなかったら・・・ぶつかってなかったら・・・間違いなく死んでたようなもんだった」
潤んだ燃えるように赤い瞳が真っ直ぐ私を見つめる
「ありがとう」
ポロッと涙がその目から零れると
私は手を広げる
空いた隙間にソルも寄ってきて3人でぎゅっと抱きしめ合う
「ありがとう。ありがとうっ。・・・ゴメンっ」
泣きじゃくりながらソルが謝る
私も涙が溢れてきて、ルナちゃんも泣き出して
3人で肩を揺らしながらぎゅっとまた腕に力を込める
「俺のせいだっ、俺と会っちまったからっ。ヴァンが怪我してっ!俺達のせいでっ、ひっく、死にかけてっ、ごめんなざいぃっ」
そんなこと気に病まないで
私は出逢えて良かったって
助けられて良かったって
そう思ってるよ
「私が勝手にっ、やったのっ!ソルが頑張ったんだよ」
「ヴァイスさまっお兄ちゃんを、あたしをっ、ありがとうぅ」
心が優しいソルだから、私が目覚めるまできっと自分を責め続けたんだろうな
「私っ、ソルに出逢えて。本当にっ良かったって」
「ごめんっごめんっ。ありがとぉっ」
いつの間にかアレクと退室してるリアムさん
3人でありがとうとごめんなさいを繰り返し
日が高くなる頃には
3人仲良く寄り添ったまま
泣き疲れて眠っていた
ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!
って思ってもらえるようがんばりまっす!
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