17・窓辺の亡霊
上手く考えられない思考の中
『手練だ』
と言ってたアレクの言葉が浮かんだ
手に木箱の破片を掴みマルドに向かって投げ、ズレたフードをまた深く被って見えてしまった身体をもう一度透明にする
「ど、どこから入って来たんだ!あの子供は!また見えなくなったぞ!」
「潰せマルド!さっ旦那様マルドに任せやしょう!」
ナルシドとマルロドが背を向け扉にむかう
その2人の後ろに瞬間移動する
視界に写ってる先へは考えなくても飛べる
まだ整わない呼吸で2人の後を追おうとする
2人のせいで飛びたい扉の先が見えない
胸も背中も痛いっ
1度落ち着いて、部屋に戻って
リアムさんとおとーさまにお願いしよう
なんなら一緒にここに飛んでもいいし
アレクも探さな
「バレバレだっつの!」
フードを掴まれすごい力で引っ張られると
身体が簡単に宙に浮かび
地面に背中から思い切り叩きつけられる
「がはッゴホッ」
激しく背中を打ち付けたからまた呼吸が乱れて息が吸えない
苦しい
どこもかしこも痛い
「本当にただのガキじゃねぇか」
ドッ
と私のお腹を踏みつけると楽しむように体重を掛けて私の頭へ手を伸ばす
ゴホッゴホッとむせる私は抵抗も虚しく
帽子を簡単に毟り取られる
前の世界でも経験したことの無い
遠慮も躊躇いもない圧倒的な暴力に
私はただ涙を流す7歳の小さな子供なんだと
ただただ抗えない大人の男の力に恐怖する
長い真っ白の綺麗な髪が地面にパサりと広がる
「ヒューっっ!おいナルシドの親方!旦那!こっち来いよ!このガキすげぇ宝もんだぜ」
涙が止まらない
勝手に流れ落ちる
でも助けてくれなんて絶対に言わない
怖いなんて叫ばない
怖い
助けて
本当は
誰でもいいから助けてと泣いて叫びたい
「はっ!はなし・・・て!」
はっはっ
と小さく息を吸いながら私を踏む足を手で殴るけどビクともしない
むしろまたググッと体重を掛けてくる
がっは
はぁっ
「おいおい暴れんなよ、潰れちまうぞ?腹ん中が」
ニヤニヤと心から楽しんでる様子のマルドの目が私から逸れない
「なっ何故!!神無し子?!しかも女の子じゃないか!!」
マルロドとナルシドは少し離れたところで私の姿を見ると
ナルシドが手を合わせ光の玉を部屋の中に作りだす
部屋が凄く明るくなりよく見えるようになった
「これ、潰すにゃ勿体ねぇだろ?」
「ああっなんて事だ!こんな事が起こるとは!」
マルロドの顔が気持ち悪い程笑顔になり輝く
「今この国の中央では神無しの殺処分を禁ずる法案が可決されようとしているのです!その前に奴隷や人形にするべく闇市場で価値が沸騰しているのです!!ただでさえ少なく稀少な神無し!ほとんどが男で生まれる中、これは女子じゃないか!!もしももう7の日を迎えていてここまで上物ならそれたった1つで隣国で伯爵位が簡単に買えるかもしれません!」
ハアっハアっと興奮しながら私に近づいてくる
恐ろしい言葉を当たり前のように吐くこの男は悪魔だろうか
奴隷や人形・・・
この世界の神無しは殺されるか
殺されるよりも惨い生き方しか許されないの?
痛いからなのか
苦しいからなのか
怖いからなのか
悔しいからなのか
なんで涙が出てるのかすら分からなくなる
「もちろん俺にも分け前くれるんだろう?」
はっとしたマルロドは話過ぎたとマルドの顔を睨む
「貴方は既に大金を貰ってるでしょう?ナルシドから」
「俺がここで足を離したら多分このガキ消えるぞ?さっきも何故か俺の後ろに現れてたぜ?どうやってかわからねぇがこの神無し、魔力出てねーくせに魔法が使えるかもしれねぇなあ?」
私の瞬間移動を知ってか知らずか
野生の勘なのか
ニヤニヤしながら私からマルロドへ視線を移す
「・・・良いでしょう。交渉は後ほど。服従の首輪と隷属の腕輪はそこのレッドに使ってしまった今、予備がありません。ナルシド、今すぐにでも取り寄せなさい」
「はい!旦那様!」
ナルシドはボテボテと走っていく
「ソルにっ何したの!」
震える声で必死に空気を取り込みながら叫ぶ
服従の首輪、隷属の腕輪
もうそのワードだけでソルに時間がなさそうで一層怖くなる
「あぁ。本来契約をした上で使えばこんな時間もかけず言いなりにできたのですがね。嵌めた者の魔力に完全に染まってしまえば、死ぬまで私の許可無く話すことすらできなくなるでしょう。一度嵌めたら二度と取れはしません。このレッドはもうあなたの知る子供では無いのですよ」
マルロドはしゃがみ私の髪を1束持ってニターッと笑う
「貴方もすぐに後を追いますから、安心してください」
近くにある顔に
私はガッと爪を立て、マルロドの顔を引っ掻いた
少し避けられたせいで2本しかつかなかったが
深く引っ掻き、血が垂れる
「っっ!このっ」
私を殴ろうと振り上げた手をマルドが止める
「顔は値段が落ちちまうぜ、旦那」
「ソル!!抵抗して!素直に受け入れちゃダメ!」
さっき受け入れろと話しかけてた
ルナちゃんを殺されたくなければって
その後にあの白い枷は染まり始めた
身体は動かなくても聞こえるかもしれない
ちょっとでもいい時間をっ
少しだけ整った呼吸で精一杯声を張り上げる
「ルナは助けた!!こんな奴らの声に従っちゃダメ!!」
「なっ」
マルロドはばっ、と立ち上がりソルの側へいくとクソッ!と嘆き私の元へ戻ってきて太ももをガッと本気で踏んできた
「いっっ」
痛い!!
「ガハハっマルロドの旦那もいい性格してんな!ガハハっ」
私の足をぐりぐりと力を込めて踏む
痛みで叫びたいのを必死に歯を食いしばって堪える
「このっこのっ!また無駄に時間が伸びたじゃないですか!お前の名前はなんだ?歳は?なぜその年まで生きていられたんだ!全部吐け!さもなくば足を1本にしてやる!」
より一層力が加わりもう痛みで声を我慢できない
骨から肉がねじり取られるような感覚に
声にならない叫び声が喉から飛び出す
そんな中、上を見上げ、チッとマルドは舌打ちした
するといきなりふっとお腹に乗ってた足と太ももに乗っていた足が消えて呼吸がぐっとしやすくなっ
ザクッ
踏まれていた太ももに鋭い痛みが走って
叫び声を上げる
「旦那ァ。俺はここまでみてぇだ、さっきの話はなしだ。地面に貼り付けときゃ逃げらんねえだろーよ、じゃあな」
踏まれていたお腹の足が消えたのでとりあえず起き上がって右の太ももを見ると大きな剣が太ももを貫通し深く地面に刺さっていた
いたい
いたい
いたい
いたい
いたい
両手で太ももの付け根を必死に押さえる
どうすればいいい?
頭の中は完全にパニック一色だった
マルドは扉の方ではなく部屋の奥の方へ消えていくのを目の端で確認する
何が何だか分からないマルロドはマルドの消えていった方向を暫く見つめてハッとして私を見る
「あの噂・・・平民にしては身体が、髪が、綺麗すぎる・・・そんな、まさか・・・」
さっきまでの威勢はどこへやら
顔がみるみる青ざめていく
「お、お前は窓辺の亡霊・・・?」
激しく襲ってくる痛みに私は唸りながら
マルロドの言葉の意味もわからないままにただただ睨み続ける
マルロドは踵を返し扉へ一目散に走り去って行った
ずっと光ってたナルシドの光の玉もいきなり消え、蝋燭1本の暗い部屋に戻る
フーッフーッ
と息を整えて太ももに刺さった大きな剣に手をかける
せっかく誰もいなくなったのにこのまま地面に貼り付けられててもしょうがない
時間も無い
ちょっと蹴られただけ
ちょっと背中を打っただけ
ちょっとお腹と太もも踏まれただけ
ちょっと剣が刺さってるだけ
大丈夫!ルナちゃんの方が痛かった!
謎の思考と掛け声で気持ちを落ち着かせ、痛みも全て一度無視して剣を一気に引き抜く
あああぁああぁぁぁあっ
刺された穴からどくっどくっと血が流れ溢れる
フーッフーッ
と手負いの獣のような唸り声を出しながら床に転がったまま視線をソルに向け、ソルの隣へ瞬間移動する
今度こそこいつを外す
今すぐはずす!
何故か分からない
あいつは一度嵌めたら二度と取れないと言ってた
でも私なら外せる気がした
それが白い枷だったからかもしれない
ソルの手首に張り付く少しだけ赤く染った白い枷
うつ伏せから足を庇いながらどうにか座り
ソルと枷の間に指を無理やり滑り込ませ
力を振り絞ると枷が白い光に包まれる
どっと身体から何かが抜け落ちるような感覚
パキンッ
左手の枷が割れると右手の枷も光った後に割れ、地面に転がる
すうっと大きく息を吸い込んだソルの表情が少し柔らかくなる
あとは首輪
ズズっと足を引き摺りながら頭へ寄る
いたい
いたい
痛い
痛い
イタイっ
ドクドクと刺された場所が心臓にでもなったような感覚はある
でも死んでしまうかもと考える余裕はなかった
ただ目の前のソルを早く救わなければ、と
両親を殺され、妹とたった2人
搾取され続けたこの子の人生
たったの6歳なのに
これ以上何もこの子から奪わせてたまるもんか
首輪とソルの間にも指をねじ込み力を込める
これが壊れたら
もうどうなったっていい
パキンッ
首輪も白い光を放った後、割れ地面に落ちる
するとまたどっ、と何かが身体から抜け出た
吐き気と共に視界が霞み、色を失っていく
私はソルの命と心と家族を守れただけで満足
もの凄かった悪寒がスッと無くなり、第五感様の警告も消えた
がばッ
ドッ
飛び起きたソルは私をつきとばし立ち上がって走りだした所で足の鎖がピンと張り派手にすっ転ぶ
私は起き上がる気力もなくそのまま地面に転がる
「ゔゔゔゔっ」
そっかソルは私が神無しなの知らないんだった
獣らしく低い体制で足の鎖を外しながら私を威嚇する
ぐわんぐわんと頭が揺れてないのに視界が歪む
「そる、るなちゃん、お屋敷に、いるから」
さっきまで叫んでたからか、安心したからか?
弱々しい声しか出ない
私はもう立つ力もなさそう
このまま冷たい地面に寝転がってたい
頬が冷たくて気持ちいい
目を開けてるのも辛くなってきた
ピンと耳が立つソル
鎖が解けて地面に落ちた音がする
燃える瞳がまんまるく大きく開かれ私をじっと見つめる
「森を、ひたすら、進んだ先へ早く行「ヴァ、ン?」
耳をピンと立てたソルががばっと私の元に駆け寄る
「うわあ!匂いがヴァンだ!声も!わりぃ!一瞬分かんなくて!何があった?!なあ!なんでこんなっ」
そう言いながら来ていた服を素早く脱ぎ、ぎゅっと私の足に押し当てサッとキツめに結ぶ
「いぃっつぅ」
待って待って、ちゃんと伝えたいの
意識が飛びそうなのに!
ぐわっと凄い勢いで喋らないでよ!
お屋敷に行けって
逃げろって言いたいのに
「私はいい、からっ早く逃「なんにも良くない!女の子は怪我しちゃいけねえって教えてくれる奴いなかったのかよ!!つか女だったのかよ!」
ガルルッ
と唸り、歯を立てながら怒鳴ると私よりほんのちょっと大きいだけのソルは私を簡単に抱き上げる
なんの涙だか分からなかった涙
感情のままに溢れ出す
この涙は分かる、なんの涙か
「そるぅぅ」
良かった
なんにも変わらない私の知ってる
そのままのソルだ
奴隷でも人形でも無い
間に合った
ただただ嬉しい
抵抗してくれてありがとう
「ダメだ寝るな!」
走ってるのか風があたって気持ちいい
涙だけが重たい瞼を押し広げ頬を伝って落ちて行く
「俺まだ言いたい事言ってねえ!」
トットットッ
とソル特有の軽い足音と風きり音が聞こえる
「邪魔だ退け!」
ボワっと炎の上がる音が遠く、小さく聞こえる
あったかい・・・
私は意識を手放した
ちょっとでもいいぢゃん!続き気になる・・・かも!
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