10・side リアム
『リアム様、至急お知らせしたい事が』
耳元で光るピアスから優秀な私の騎士、テンドリウスの声が頭の中に響く
ようやく約2ヶ月の時間をかけて準備を整え、4ヶ月程前に養子に迎え入れたばかりの息子を連れて、私の新たな研究対象のヴァイスお嬢様の元へあと少し、という所なのだか・・・
私専用の広い馬車の中、そっと耳に手を当てる
「テンドリウス、珍しいですね。何がありましたか?」
『はい。先程、魔力を感じない不思議な子供を捉えたのですが。我々の視線から隠れた瞬間、忽然と姿を消してしまいました。誠に申し訳ありません』
首の後ろがゾワッと逆立つ
生きているものは木や花であろうと、必ず魔力持っている
一流の暗殺者だって自分の魔力を外に出さないなんて事は出来ない。周りの魔力に自分の魔力を隠して、分からないように散らすものなのだ
テンドリウスのように、魔力を感じる事に長けている者にとって魔力を感じないとはそこに何かあるはずなのに、何も感じないという気持ちの悪い感覚になるのだ
それに私の騎士2人はただの子供など、どれだけ油断していたとしても逃がすはずもない
私には魔力を外に出さないという非常識な事を無意識にしている子供に心当たりがある
無意識に口元がゆるむ
「お、御父様っ。な、何か・・・あったのですか?」
向かいに座り、私の様子を伺っている息子がオロオロと私を見上げている
いけないいけない、知らない物を前にすると表情筋が勝手に仕事をしてしまう・・・
「そうですね、少し気になる事ができましたので。一足先にダイヤトリンド家へ行ってまいります」
口元を隠すようにコホンと一息付き、息子へ声を掛け、再び耳に手を当てる
「テンドリウス、私は一足先に行きます。すぐ馬車へ戻り、予定通りダイヤトリンド家へ。昼過ぎには合流出来るでしょう」
『かしこまりました。すぐ戻れますので御安心下さい。リアム様、お気を付けて』
左手に付けている腕輪に右手を添え、魔力を流す
「アレクシス、私は先に行きます。テンドリウスが戻ってくるので言う通りに」
布越しに息子を見る。少し不安げだ
「彼はすぐ戻って来ます。大丈夫ですよ」
「はっはい。御父様、お気を付けて・・・」
ビクッと肩を上げてこたえる。まだまだ私が恐いようだ
私と似た眼を持つ彼を視る事ができないので何を考えているかわからない。向こうも私が何を考えてるのかわからない。まあ、まだ親子になって日も浅い、道中もほとんど話が出来なかったですし・・・
これから過ごすダイヤトリンド家での時間で溝が埋まるのを期待するしかありませんね・・・
「我、ブラックの子は望み願う。ダイヤトリンド辺境伯が本邸、ランスロット・ディー・ダイヤトリンドの書斎へ。Drop Swamp」
魔力を込めた腕輪から漆黒の魔力が液体のようにドロっと溢れて床へ零れ落ちていく
落ちた魔力は馬車の出入口の扉へと流れていき馬車の扉が漆黒の扉へと変わる
この魔法は空間を繋げる魔法で、かなりの魔力を消費するので緊急時以外は使わないが、心当たりの子供が部屋にいるか早く見に行かなくてはならない
「それでは、また後ほど」
私は立ち上がり漆黒の扉を開ける
「リアムか、どうした?ビックリしたぞ」
扉の先には腰の剣へ手を伸ばしていたランスが立っていた
「すみません、至急確認したいことが。ヴァイスお嬢様の部屋へ行きましょう」
扉を閉めると私の漆黒の魔力がふわっと飛散して、この部屋の普通の扉へと戻る
「わかった話しながら行こう。楽しそうなお前は不気味だ、ちゃんと話せ」
「話は彼女をこの眼で見てからです」
キッパリと言い放ち、扉を開けてさっさと歩みを進める
この屋敷の中心に位置する彼女の部屋は2階のど真ん中、ランスの書斎の真下だ
最も守りが堅い場所
不確定な情報しかないまま、彼を混乱させたくない
耳に手を当て、声を潜める
「テンドリウス、外観は?」
『はい、平民にしては上等な布、だが、作りは素朴な上下に帽子を深く被った濃いブルーの髪をした少年でした。瞳の色までは確認できておりません』
少年?濃いブルー?特徴は全く違うな・・・
幻術?いや、彼女は外へは魔力が出せないようだった・・・いや、そう演じているのでしょうか?
気付けば小走りになっていた足がようやく部屋の前へ辿り着く
コンコン
「入るぞ」
扉に着いている魔石がレゼルの髪色のグリーンになっているので、部屋の中に居ることは分かっている
ランスは扉を開ける
私はすっと中へ入ると彼女の側へ大股で歩いていき、両手でしっかり肩を掴んだ
・・・幻ではなさそうです
人差し指を立ててチラッと布を捲り、レゼルと視線を合わせる
「レゼル。今日、扉は開いていませんか?」
そう聞くと、レゼルの記憶が頭に流れ込んでくる
レゼルはメイド服の裾を両手で少しあげて腰を落とし、視線を下げる
敬意を示す姿勢だ
「リアム様。本日私以外、誰へも部屋の出入りは許可しておりません」
この部屋の鍵は特殊な魔道具だ。私が彼女を守る為だけに作った世界に一つしか存在しないもの
“開閉可能型秘匿結界錠”
鍵を持つレゼルの意思がない限り、この部屋へは入る事が出来ないし、扉以外からは出ることも出来ない
この部屋は、鍵が開いていないときはこの世界に存在してない空間となる。それ故中から鍵は掛けられない
別の空間に存在している彼女の部屋へ行くにはこの部屋の扉に鍵を挿して解錠し、彼女のいる別空間とこの部屋の扉を繋げることでしか、入れないのだ
鍵が閉まっている時に、窓からこの部屋へはいっても、ただ空っぽの部屋があるだけなのだ
あの鍵に限って誤作動など起こりえない
本来ならば、この部屋にある魔力は鍵がかかってる限り外へは出れないはず。もし彼女が外へ出ていると仮定するならば・・・
ん?彼女は身体から魔力が出せない。魔導具が部屋の中に存在してる彼女の魔力を探知していないのか・・・
なら、外へ出ても鍵を持ってるレゼルには伝わらないのかもしれないな・・・
レゼルの記憶からも、今日扉を開けたのは朝飯の時のみなのは間違いないようだし、先程レゼルが鍵を開けた時には部屋に彼女はいたようだ
レゼル自身も何も知らないようですし
気になる事と言えば、よく分からない生き物の人形を沢山作っている事と鏡を欲しがっている事ぐらいでしょうか
ああ、調べる事が山のようにありそうですね
「おい、リアム。何だったんだ?」
ランスは私の肩に手を乗せる
『俺の娘に何かあったのか?部屋でヴァイスを見たら話すと言ってたろう?暗殺者が道中いたのか?早く話せ。何故、肩を掴んでいるんだ?レゼルへの質問は何だったんだ?ニヤニヤしてんの気持ち悪い。娘の危機なら俺はすぐ斬るぞ?何故・・・』
私は彼女を掴む手を離し、ランスの手をそっと払う
私は相手の魔力から考えていることが読めるのでランスは聞づらい事などこうやってわざと流し込んでくることがある
他人の魔力は気分が悪くなるので必要以上に大量に流し込んで来るランスは性格が悪い
邪眼、発動させましょうか?
「はぁ・・・。本日、私の騎士2人が、魔力を感じない子供を捕らえたのですが、一瞬のうちに逃げられてしまったのです」
顔はランスを向いたまま、布の下の瞳は彼女を捉えている
さあ、どんな反応を?
大きな色の無い瞳が少し見開き、肩がビクッと上下する
動揺・・・しましたね?
一瞬見せた動揺はすぐに隠し、口元に手を添え、ん?と考え事を始めた
「それがどうした?うちのヴァイスに関係があるのか?」
「それは後ほど詳しく話しましょう。・・・ヴァイスお嬢様」
ふっ、とできるだけ優しく見える笑顔を見せながら片膝を着いて小さな彼女に視線を合わせる
「我々は着いたばかりですので、2日程お休みを頂いてから授業の方はじめていきますね」
すると元々白く、血の気のない肌がさあっと更に青ざめていく
「あ、あのっ」
あたふたと焦る様子を見て、私は無意識に目元の布をパチンっと外していた
彼女は少しびっくりしながらも私の瞳を見つめ返す
あっ・・・外しても、彼女からは何も流れてこないんでした
言葉を聞くより記憶や思考が流れ込んできた方が楽になってしまっているのか・・・良くない癖がついてしまってるな
「早く、勉強したくてっ。明日、明後日は授業をして・・・1日お休みを挟んで、その後は3日おきにお休みを頂きたいん、です」
明日、明後日は授業がしたい・・・私が授業を始めると言った3日後は休みたいと言う・・・
3日後には何かある?いや、3日おきに何かある・・・のでしょうか?
これから2日で鍵を強化して、もう二度と勝手には出られないよう調べようと思ってましたが・・・それを読まれたのか?
いやいや、相手は7歳の子供。考えすぎ?でしょうか?
「リアム様、発言を許して頂けますでしょうか?」
レゼルが誠意を示す姿勢のまま静かに発言する
「許します」
「ヴァイスお嬢様は現在普通の子供より睡眠時間をしっかりと多めに取っておられます。弱音を吐くことなく午後には体力作りもこなしておりますし、3日に1度のお休みは今のお嬢様の体調を考えても最適かつ、復習の時間に当てることも出来ますので効率も良いかと思われます」
レゼルはヴァイスお嬢様に忠誠を誓っている・・・いや、鍵を持たせると決まった1年前に我々が誓わせた
ヴァイスお嬢様にとって最善だと思う行動しか取れない契約を交わしているのだ
「なので、明日、明後日は勉強の進め方や文字の習得、これからどのような事を学んでいくのか、という予定など基本的な事のみ簡単にご説明するとして、本格的なお勉強は4日後から開始してはどうでしょうか?」
真っ白な瞳はキラキラとレゼルを見つめている
表情がコロコロと変わる
やはりただの、7歳・・・ですか?
「では、ヴァイスお嬢様の希望通りに致しましょう」
「あっありがとうございます!私、一生懸命がんばります!」
「ランス、行きましょう」
目元の布を元に戻す
彼女は笑顔でレゼルへ駆け寄り、抱きつく
良い主従関係が出来上がっているようですね
これから、頭の硬いランスへ彼女が1人で出歩いている可能性を話さなければいけないのは少々気が重い
2人で部屋から出ると、ランスに続いて真っ直ぐ彼の書斎へ向かう
まあ、私は無駄な心配事までは彼に伝えるつもりはない
彼の不安ぐらいは、拭ってあげましょうか・・・
「貴方が、守ると決めたその全てを・・・私も守りますよ」
彼の足が一瞬止まる
こっちを向かぬまま私の肩を軽く小突いて、まっすぐ前を見て歩き出す
彼の真っ赤な耳を見つめて
私はバレないように笑った
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