プロローグ
⚠️本作品はガールズラブ表現を含みます。苦手な方はブラウザバックをお願い致します。それでも構わないという方は、このままどうぞ。
「わ、ここかぁ!」
今年の春、新社会人になり上京したばかりの彼女、月詠結は今日から住むことになるシェアハウスを見つけてはしゃいだ声をあげた。どこか西洋を思わせる小洒落た外見、それでいて周りの雰囲気からも浮いていないデザイン。都内のキラキラした空気感をさりげなく取り入れたオシャレな家は、結の気持ちを一瞬にして高めさせた。
「ここに住めるなんて夢みたい!」
そんな結の様子は周囲からかなり浮いていたが、周りをスタスタと忙しく歩き去る人達は目にも留めておらず、それを良いことに結は暫くうっとりと外見を眺めていた。だが、それも束の間。
「…そこのお嬢さん?」
遠慮がちに後ろから掛けられた声にぴくりと肩を揺らす。恐る恐る結が振り返ると、そこにはほんの少し眉を寄せている、しかしかなり整った表情の青年が立っていた。
「このシェアハウスに何か御用ですか?」
「…あっ、すみません!わたし、月詠です。あの、今日からここに住むことになっていて…今日、こちらに引っ越してきたんです!」
慌てて弁解するようにそう言葉を紡ぐ。すると青年は納得のいったように頷いた。
「あなたがそうでしたか。今日新しい人が入るという話は聞いてます。ここの外見が随分気に入ってもらえたようで…嬉しいです」
「わたし、デザイン関係の仕事をしているんです。だから、尚更……」
照れたように微笑む結を見て、一度目を丸くした青年はにこりと笑みを浮かべた。
「そうだったんですね。…僕は柊木翔です。ここで立ち話も何ですし、良ければ中に入りませんか?他の人達も新しい人が来ると聞いて楽しみにしてたんですよ」
人当たりのいい柊木に促されるまま、結は玄関ホールに足を踏み入れた。ありとあらゆるデザインが結の目には新鮮に映り、きょろきょろと辺りを見回しながら歩く。すると2階に上がった後、柊木がひとつの扉の前で足を止めた。
「ここがあなたの部屋になります。荷物を置いたら是非、下のリビングに来てください」
「わかりました、ご丁寧にありがとうございます!」
「いえ。では先にリビングに降りています」
ぺこり、丁寧にお辞儀をひとつ残して柊木はスタスタと階段を降りていった。直通で2階まで登った為にあまり意識していなかったが、恐らく共同のリビングだと思われる場所からは何やら楽しそうな明るい声が聞こえてくる。
「早く行こっと!」
結は与えられた部屋の扉を大きく開いて、中に荷物を勢いよく放り込んだ。