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魔界悪童が過ごす人間界での学校生活~【全年齢版】  作者: アニッキーブラッザー


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第29話 舎弟

「カイはあれから帰ってこないか。しかし、散々な目に合ったな、ハルトくん」

「レオンくん大丈夫?」


 休み時間。

 ケガを負ったハルトを心配そうに勇者の一味が覗き込む。ハルトは舌打ちしながら答える。


「くそ、何であんなガラの悪い女が退学になんねーんだ? 俺は中学時代にオウダの胸ぐら掴んだだけで停学期間が伸びたんだぞ」

「あはは、懐かしいね。あの時の君は、ほんとーに困ったさんだったからね」


 痛む体を摩りながらハルトは今朝の出来事にイラついていた。

 女とはいえ、あれほどの武を兼ね備えた者が好き放題暴力を振るうなど普通は許されない。

 だが、それでも今朝のことが問題になっていないことは明らかに何かがおかしいとハルトはふてくされる。


「まあ、そう言うな。カイ殿もあれで色々とあったのだ。殿方の広い心で許してやれぬか?」


 朝の騒ぎを聞いて上級生のクラスから駆けつけたアンシアは、ハルトを苦笑しながら宥めようとする。

 だが、ハルトのイラつきは止まらない。


「こんだけ蹴られて広い心もクソもねえだろうが! 見ろ、青アザだらけだぞ! 内蔵もイッてるぞ!」

「うむ、確かにカイ殿もやりすぎだな」

「だろ! 大体あんな不良は学校来ても勉強もロクにしねーんだ。育ちも悪いに決まってら。さっさと退学にでもすりゃーいいんだよ」


 ブツクサ文句を言うハルト。だが、そこでアスラたちは言いにくそうに言う。


「あのね、バカハルト。カイって実は、頭はメチャクチャ良いのよ」

「な、なにィ!」

「ハジャ殿には敵わぬが、カイ殿は毎回テストでは学年トップクラスだ。家も古くから国の政治にかかわる由緒正しい家系なのだぞ」


 意外な事実に、ハルトは驚いて椅子から転げ落ちた。


「私も聞いたことある。桐生家って人間界では有名だもんね」

「ああ。僕の家とも古くからの付き合いがる。あれで彼女は本当にお嬢様なんだ。だからこそ学園も少々のことは目を瞑っている」


 どうやら本当のことらしい。

 さり気にハジャが自分の家も普通ではないようなことを呟いたが、今は無視する。


「かー、マジでふざけてやがる。学校のクセに成績と生徒の家柄を重視しやがって。学校ならもっと生徒の内面を重視しろよ。ああいう暴力バカはさっさと退学にしろよ」

「すまぬ、そうなると君も即退学だと思うのだが」

「要するにテストをしっかりとやってるし、家もお金持ちだから悪さしても平気ってか? あー、やだやだ、親の権力や成績でしか人を見ない人間社会は」


 ハルトは少しガッカリした気がした。女のクセに生意気だが、度胸はある。それに随分と野心に猛った者だとは思った。しかし蓋を開ければこんなものか。そんな気持ちでハルトはカイに興味が失せた気がした。

 だが、そんなハルトの気持を悟ったかのように、ハジャはいきなり否定する。


「そうではないよ、ハルトくん」

「あん?」

「むしろ、だからこそカイはああまで頑なに世の流れから反発しようとしているのかもね。自然の流れなど受け入れず、良いも悪いも自分の道は自分で決めたい。そんなところだろう」


 どこか遠くを見つめ、達観したかのような瞳でハジャはハルトに言う。

 そこに一体どんな気持ちが籠っているのかは、今のハルトには分からない。

 むしろ、何急に言ってんだよコイツは的な目でハルトは首を傾げた。


「ふふ、分からないなら今はいい。それに僕たちがあまり絡むとカイも余計に機嫌を悪くするだけだからね。ただ……」

「ただ?」

「意外と似た者同士かもしれないよ、ハルトとカイは」


 そんなことは無いとすぐに否定するハルトだったが、何故かアスラやセンフィアたちも苦笑しながら納得したように頷いていた。

 何だか分かっていないのは自分だけだというのがムカつくハルトだった。


「それよりも……」


 そこでハルトは視線をズラす。


「オメーら、何か用かよ」


 そこに居たのは、三人の男子生徒。

 ハルトには見覚えのある三人だ。

 当然だ。昨日、体育館の前でハルトが会った、この学校の不良たちだ。

 結局、ハジャたちとの喧嘩で存在そのものを忘れていたが。


「君たちは、隣のクラスの……」

「鈴木、高橋、田中、あんたたちどうしたのよ、怖い顔して。って、バカハルトの知り合い?」

「レオンくん、いつの間に」

「何用か? 喧嘩ではないだろうな?」


 まさか喧嘩か? ありえない話ではない。服装の乱れや、茶髪にピアスなどこの学校でもヤンキーに近い格好をしている三人組とハルトだ。

 ちょっとしたことがきっかけで喧嘩に発展してもおかしくはない。

 ハジャたちに少し緊張が走る。

 だが、三人の顔を見て、ハルトがニタリと笑った。


「オメーらか。スズキとか、人間界の日本で多い名前ってことで海堂さんたちから聞いたことあるが、どんだけテキトーなんだよ」


 明らかに見下したようにからかうハルト。だが、三人は顔色を変えず真剣な表情のまま。

 三人は真剣な眼差しで教室に入り、そして一斉に土下座した。


「「「レオン・ハルトくん、俺たちを舎弟にしてくれ!」」」


 は?


「「「はあ?」」」


 一同の声が揃った。だが、三人は真剣そのものだった。


「俺たちはあんたのロックぶりに惚れやした! 人間も魔族も関係ねえ! あんたこそ、男だ!」

「まさかあなたが、あの伝説のニトロクルセイダーズの皇帝ハルトとは知らなかったっす!」

「昨日は悪かった。これからは心入れ替える! 勇者にも世界にも恐れを抱かねえあんたについてく!」


 未だにハルトもハジャたちも反応に困った。

 鈴木、高橋、田中の三人は子供のように目をキラキラさせた瞳になっていた。


「あんたたちの武勇伝はいくらでも聞いてやす! あの伝説の最強不良・海堂さんと伝説と呼べる死闘を人魔界で繰り広げて、最終的にレインボーブリッジを崩壊させたとか!」

「昨日、その海堂さんたちが助太刀に現れたのはマジ興奮したっす!」

「この学校はあんたのような気合の入った男が仕切るべきだ! 勇者も白皇守備隊も関係ない!」


 ハジャたちは呆れを通り越して驚いた。そんなセリフを勇者一味本人の目の前で叫ぶこと。

 そして、


「って、ちょっと待ちなさい……あの橋を落としたのってあんたたちだったの! あれ、誰が壊したか分からなくて、一時は魔界からのテロなんじゃないかとか、言いがかりだとか、あれですっごい空気悪くなったときあったんだからね!」

「ハルトくん。君という男は……」

「レオンくん、それはまずいよ~」

「鈴木、高橋、田中。お前たちも少しは相手を見て舎弟になったほうがいいぞ?」


 お前たちの手に終える相手ではない。簡単に舎弟になると言うべきでないと注意するが、三人の意志は変わらない。

 するとハルトは、


「めんどくせえけど、舎弟になりたいってことは俺の仲間になりたいってことか?」

「「「うす! ぜってー、最強ニトロの名を汚さぬよう死に物狂いでついていく!」」」

「ふ~ん」


 めんどくさそうに聞き返すと、三人は同時に深く頷いた。

 三人に対してハルトはただジッと三人の目を見て何かを伺っている様子。

 そして、ある程度の間を置いて、


「まっ、いいけどよ」

「「「はあ?」」」

「「「マジすか!」」」


 アッサリ承諾したハルト。余計に混乱するハジャたち。狂喜乱舞する三人。

 そして、


「って、ちょっと待ちな!」

「カイ!」

「黙って聞いてりゃ~、クソ魔族。あんた聞き捨てならない話ししてんじゃないか」


 明らかに怒った顔のカイが教室に戻ってきた。


「なんだよお前」

「うるせえ、何だよは私のセリフだよ! あんた、さっき私が組もうって言って断ったくせに、何でアッサリこいつらと組むんだよ!」

「ん~? 気が合いそうだからだ」

「……は、はあ? こんな喧嘩も大したことなさそうな奴らがかい?」


 カイがハルトを誘っていたということにも驚きだが、カイの疑問はハジャたちも同じだった。

 何故、こうもアッサリとハルトは承諾したのか。


「くはははは、お前は何か勘違いしてんじゃねえのか?」

「な、なんだと?」

「不良ってのはな。別に仲間は喧嘩を基準で選んだりなんかしねーんだよ。気が合うかどうか。それだけさ」


 気が合うかどうか? 彼らは会話を僅かしか交わしていないはず。それでどうしてお互いの気が合うことが分かるのか? 

 それは、


「こいつらは、昨日授業をサボって体育館の外から汗ばむ女たちを覗いていた」

「そ、それがなんだっつーんだよ」

「……そう、俺も中坊時代に覗いていた!」


 理解し合えたのは男としての本能だった。


「俺も授業サボっては水泳の時間にオウダのスク水姿を目に焼き付けたもんだ」

「「「ハルトさんもすか!」」」

「レオンくん、そんなことしてたの!」


 あまりにも馬鹿げた理由にカイは言葉を失い、ハジャたちも机に頭を打ち付けた。


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