望まれない続編
「いや、無理だろ」
少年は当たり前のように言い放った。
少女は、目を丸くする。
ため息を吐いた少年は言葉を続けた。
「どうやって現実世界に行くんだ。ここは空想世界だぞ」
「それは……」
「第一に、だ。作者を殺したらどうなるか。最悪の場合、この小説(世界)が消えるかもしれない」
「でも……貴方は悔しくないの? 憎らしいと思わないの?」
「はあ? 当たり前のことを聞くなよ。このチビ」
「チ、チビぃ!?」
「チビにチビって言って何が悪い。チビ」
舌を出して挑発する少年。
幼い少女は拳を震わせて、顔を赤くさせている。
「こんなことに腹が立つのか? 気も小さいやつだなぁ」
「はぁ!?」
「こんなやつが新しい相棒とか、嫌だぁ」
「こっちだってお断り! しかも、なんであんたのパートナーなの!?」
「話の内容的には、そういう流れだろ」
舌打ちをし、少女に近づく少年。
「ああ、そういえば作者を殺したいんだっけ? 俺はお前も殺したいよ」
「え?」
少年は懐に収めていた短剣を抜いて、子供の柔らかい首に突き付けた。
剣は刃を光らせ、その鋭さをものがたっている。
少女は生唾を飲む。
「この二年間がすべて無駄になった。お前が登場したってことは続編が作られたってことだ。遅かれ早かれ、俺らは物語どおりに動かされる」
「そんな……こと」
「なんだ、この世界の秘密を知る人物なのに知らないのか」
「知らない……」
「言葉も、行動も、作者の思う通りだ。たとえ、そう――……」
最後の言葉を飲み込み、少年は剣を強く握り締めた。
何かの怒りと悲しみを抑えるように、その言葉は果たして何なのか。
「……このセリフだって、作者が書いたものかもしれない」
少年の言葉を聞き、少女は俯いた。
その表情は絶望と混乱を映す。
「分かるよ。頭が狂いそうになる感覚も。この小説(世界)を書く作者への憎しみも、それを見る読者も。でも、もう遅いんだ。物語は紡がれる。決して抗うことは許されない。だから俺はお前を望まない」
「私は――」
少女は顔を上げた。
「私は作者に、一矢報いる」
少女の銀色の瞳は憎しみに満ちているに、とても美しい目で、真っ直ぐに少年を見ていた。
少年は少女を見つめる。
「俺も、俺も昔はそうだったよ」
悲しみに満ちた顔が少女を襲った。
何かを諦めた表情。それはとても見てられるものではない。
「あなたは――」
「あーーーー! カエデ! なにやってるノ!」
第三者の声。いきなりだった。
カエデ、と呼ばれたのは少女に刃を向けている、この少年のことだろう。
証拠に第三者がいる方向に首を向けている。
「ファナン……」
少年……カエデはぱつり、と第三者の名前らしきものを呟いた。