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自宅にあった古時計  作者: しまのうお
9/9

午前1時





「おおっ、すげぇ」

「ここです、これで別の世界に行くことができます。」

 そこは本屋だった、しかも滅茶苦茶大きめの本屋だ。入り口には眼鏡をかけた単眼の鬼がいる。

「この中におっきな本棚がありまして、そこの前で、自分の元居た町の事を思い出すと本が出てきます。そして、その本をこの方に渡すと転送されます」

 鬼がこちらに手を振ってくる。この方ってのはこの鬼でいいのか?

「それじゃあまた来てくださいね、待ってますよ」

「ああまたすぐ戻ってくる」

 中に入ったが、中には予想通り大量の本棚と本、本屋のような紙臭さも立ち込めている。

 確か本棚の前で思い出すとか言ってたな、来る前なにしてたっけ?思い出、思い出・・・うーん、足ィかなぁ・・・

 俺が思い出したのは蹴られた時の記憶、

 そんなんじゃでてこないか、はっは!

 すると、目の前には赤色に変な紋章の入った本が出てくる。

「記憶だったらなんでもいいんかい・・・」

 まあいいや、それでこれを渡せばいいと

 持って行った頃にはもうすでに紗子は家に帰ったようだ。

「彼女がいなくなってか悲しいか?そう落ち込むなすぐに会えるだろう、俺にはわかる」

 この鬼のおっさんしゃべるんだ、しかも結構いい者っぽいし、見た目じゃわからねえな。

「別に悲しくないですよ、俺にはわかるって、未来が分かるんですか?」

「俺の趣味が占いだからな、はっはっは!」

 占いが趣味って、かわいいな

「はい、これを渡せって」

「ああ」

 本を預かった鬼は本にしおりを挟み何かを唱えた。

「はい、じゃあ目つぶって」

 俺は言われるがままに目をつぶる。

「少し痛いが我慢しろよ」

「ああ、わ、ヴぇッ!」

 鬼が言った瞬間、俺のほほにでかい衝撃が起きた。

 多分、本で殴られた。






「あ、やっと戻ってこれた」

 ここに来るまでに、また長くて薄暗い道を二十分ほど歩いたので少し疲れた、あれどうにかならないもんかね?やっぱり一人で暗い道を歩くのは怖い。

 今俺は古時計のある部屋の前に来ている。向こうに何時間いたかわからないけど、わかる限りでは三時間ほどだろう。

「あれ待てよ、てことは二時間俺サボってたってこと?」

 もしそうなら花林にぶん殴られるぞ

「ソーキ!あんた四十分もどこ行ってたのよ!全部私にやらせて!」

 般若の形相でずんずんとこちらに向かってくる鬼、ではなく花林、その後ろには麗香ちゃんもついてきている。

「いや違うんだ花林、ちょっと異世界に行ってたんだ」

「はぁ?何言ってんのよ、今から寝かしてあげるから、寝言はそこで言いなさい!ソーキのおかげで私は腕がパンパンよ」

 花林が田舎の娘らしい健康的な手で俺の胸倉をつかむ、くるじいぃ

「麗香ちゃんたすけてぇ・・・」

「おにいちゃん、れいかもさみしかったんだよ?」

「麗香ぢゃんもって?」

「あ、ちょっと麗香ちゃん!」

「かりんおねえちゃんも、「おにいちゃんきゅうにいなくなってしんぱいだ」っていってたから」

「麗香ちゃんそれは言わないで!」

 ほほぅ、花林が俺のことえお心配してたとな、花林もツンデレさんだな。

「なにニヤニヤしてんのよ!」

「ギョエっ」

 花林さん、恥ずかしいからってお腹殴らないで・・・

「まあ、今の一発で許してあげる。もうすぐ昼ご飯だから居間に来てね」

「あっ、わかった・・・」

 中間の町に早く行きたいのが、ちょっとご飯食うくらいいいよね?





「ごちそうさま」

 今日出てきたのはアジの開きに白ご飯、みそ汁、安定の和食で美味しかった。

「ソーキはこの後用事ある?」

「ああ、最近アルバイト始めてな、この後働きに行くところだ」

 俺はさっきあったことを包み隠さず花林に話す。しかし、

「そっか・・・ソーキは大変な目にあったんだね、ちょとよこになろっか」

 案の定さっきと同様に信じてもらえない。

「いや、だから何度も言うけどほんとなんだって」

「そっか・・・」

 このやり取りも話してるときに何度も繰り返したしもうあきた、花林に信じてもらうのはあきらめよう。

「もう時間だし、俺行ってくるから」

「はいはい、散歩ね、行ってらっしゃい、夜ご飯までには帰ってきてね」

 めちゃくちゃ優しい口での見送りを背中で受けながら、俺は中間の町に向かった。





 『花林』


「ソーキの散歩に私もついていこっと」

 ソーキは異世界に行ってるとか頭の悪いことを言ていたがそんなはずない、はず。どうせ私をからかうために言った嘘だと思う。

「どこに行った?」

 家の敷地から出ようと思えば、草むらを抜けていく以外では、絶対に坂道を降りていかなければだめだけど、坂道にはいない。

 一つおかしな点があった、仕事場の扉を閉めたはずだが開いている。

「お爺ちゃんかな?でもお爺ちゃんは水泳に行ったはずだし」

 扉を閉めに行ったら奥からドアを開ける音がした。

「え、何の音、動物?」

 まさかソーキがこっちに来たとか・・・

 走って見に行ったがソーキはいなく、お爺ちゃんから入るなって言われている部屋しかなかった。

「まさかここに居るとか、そんなはず・・・えい!」

 お爺ちゃんの約束をやぶり部屋を開けてしまう。中には柱時計が一つ

「なんだろこの時計・・・不思議」

 私は約束をやぶった罪悪感を感じながら、時計に触った・・・

 イギリスのことわざ、好奇心は猫も殺す・・・



 初仕事。



「ん、後ろから音が・・・」

 入口の扉が開いた音がした気がする。

「気のせいか、えっと、たしか中間の町はどこ行くにも寄るんだけ?」

 俺は適当に針をいじりドアを閉める、そしてすぐ出る。

 出たのはまたもや暗い道のり、

「あ~またここ通らなきゃならねえのか、いやだな~」

 しかし、愚痴ってても仕方がないので、でも愚痴りながら俺は歩き始めた。





「あ、ようやく来ましたね」

 俺が出た扉の先に紗子が待っていた。

「ここに出てくるのが分かってたのか?」

「ええ、たいていの人はこの商店街の道の真ん中に出てきますので」

 それなら俺が初めて来たときもここだったのか、ここに来てから一日もたっていないがなれたもんだ。最初は慌てまくったが懐かしい、

「さあ、シマノさんが呼んでいますので早速行きましょう」

「ああ分かった、でもその前に一つ、どんな仕事をやらされるかわからないか?」

「さあ、シマノさんの考えていることはわからないですね」

 怖いなあ、あいつの事だから何をやらせるかわからない、墓掘らせるとか平気でやらせそうだ。

「そう身構えなくても大丈夫ですよ、シマノさんは本当は優しいので」

 うーん、純粋であろう紗子がそう言うのなら間違いないだろう。

 



「遺体を別の世界に運べ」

「ぶっ飛んだんが来たな」

「その町じゃ普通の事だ、そこは亡くなった者を別の世界に送る習慣があって、俺が毎回行ってたんだが別の仕事と被ってな、場所は紗子が分かる」

「紗子だけじゃダメなのか?」

「お前アホか紗子は女の子だぞ、しかもひ弱な女の子だ。人一人運べるわけないだろ」

 俺もそんなに力はないぞ、でも有無を言わせない謎の迫力がありそんなことは言えない、

「じゃあ、俺はもう仕事に行くから、お前たちも行って来いよ」

 そう言い残し、シマノは仕事場を出ていった。

「どこにその町はあるんだ?そもそも町の名前は何ていうんだ?」

「えーっと、たしか渓谷の町で、ここから南にずっと進んだところにあります」

「まさか歩きか?」

 ここに来るまでに二十分ほど歩いてるからそれなら結構だるい

「いや違いますよ、車で行きます。結構快適ですよ~」

 車、おそらく人力車の事だろう。ここにきてちょいちょい見ていたが楽しそうだった。早く乗りたい。

「それじゃあ私たちも行きましょうか」

「わかった」

 俺たちは家を出、町の出口?のようなところにむかった。





「おお、これが人力車か」

 初人力車、思ったより腰が痛いがなかなか異体が快適だ。

「お待たせしました!」

 料金などの手続きが終わった紗子が人力車に乗り込む、心なしか若干紗子の声も楽しそうだ。

「それじゃあ行くぜ、よっこいしょっと!」

 体のごつい牛頭の運転手がハンドル?のような部分を持ち上げる。

「おお!高い高い!!」

「ふふふ、創貴さんそんなにはしゃいじゃって」

 少し先輩面をして腹立つが、紗子の口角が少し上がっているのを俺は見逃さない。

「紗子もめっちゃ楽しそうだぞ、口元が笑ってるぞ」

「そ、そんなことありません!」

 慌てて口元を隠す紗子

「お客さんたちカップルですか?あんまり渓谷の町は観光に向かないぜ?」

「カップルじゃないです!ちょっと仕事で行くんですよ」

「そうかい、じゃあすぐに行かねえとな」

 すこし歩行スピードを速める。

 がたがたと車に揺られていると眠くなってきたな、

 しかたない、今日一日でいろんなことが起こりすぎた。眠くなって当然だ。

 俺は睡魔に身を任せ眠りにつく。





「創貴さん、創貴さん起きてください、着きましたよ」

「お、ああ、着いたか」

 目が覚めたら周りには高い山、そして渓谷、向こうには家が立ち並んでいる。

「ようこそいらっしゃいました。この度はうちのおばあちゃんの事をよろしくお願いします」

「うおああ!」

 びっくりした!急に出てくるなよ!

 俺が下りるとすぐに後ろから人影、見た目はよぼよぼののっぺらぼうの男性、どうやってしゃべってんだこれ?

「どうもこんにちは、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、さあさあこちらに」

 男性の言われるがままについていくと大きな家が見えてきた。

「今回はシマノさんじゃないんだね」

「はい、シマノさんは今日別の用事があってですね」

 少し残念そうな顔(表情はわからないけど)をする。

「俺も頑張るんで任せてください」

「はっはっは、頼もしいね」

 家の中に入り扉を開けるとそこには一枚の布団、その周りに五人の男性と女性、女性二人は泣きそうな声で遺体に語り掛けている。

「お母さん、よくたえたね」

「創貴さん私たちも手を合わせましょう」

「あ、ああわかった」

 俺も紗子に言われるがままに手を合わせに行く。

 遺体は体の先端部分が青紫色に変色し、皮膚には生気を感じられない、

「じゃあ、私たちの仕事を始めますか、すみません棺桶に入れてもらってもいいですか?」

「ああ、ちょっと待ってってな」

 男性が取り出したのは背中に背負える棺桶

「俺も手伝いますね」

「頼もしいね、その調子でお願いするよ」

 冷たい、氷ほどではないがそのように感じるほどに冷たく、遺体は死後硬直で硬かった。

「紗子、用意ができたから行こうか」

 う、思ったより重い、遺体だから軽いなんて思ってたけど棺桶が敵だったわ。

「はい、わかりました」

「それじゃあ、おばあちゃんの事よろしくね」

「しっかりと運びますので、任せてください!」

 元気だなあ、俺はこの先運べるか不安でしかない

「いってらっしゃい、きをつけてね」

 俺たちは家を出て、目的地は知らんけど目的地に向かった。





「これからどこに行くんだ?」

「ただひたすらにこの扉の向こうを歩くんです」

「歩く・・・」

 これを持って歩くのか・・・

「大丈夫ですよ、休憩もはさみますし、なにより、結構楽しいと思いますので」

「そうか、ならいいんだが」

「ここです、つきましたよ」

 これまたでっかい門が来たな、普通の民家ほどのでかさはあるぞ。

「この門を、えいっ、って押すと門の下にある小さな門が開くんです」

「子のでかいのは開かないのか?」

「ええ、こんなにおおきいの開けるわけなじゃないですか」

 俺も試しにやってみるか

「よいしょっと」

 ほんとに開いたよ、下が、HUNTER×HUNTERのあれじゃん。

「どうしたんですか?ささ、早く行きましょう」

「ああ、すまんな」

 開けると道、また道か、この世界に自動車はよこい





「今日はここまでにしましょうか、けっこう歩いて疲れましたし」

「ああ、わかった」

 今日だけで17キロほど話歩いただろう、日頃ダラダラしている俺からすれば結構な距離だ。

 もうくたくた、足が棒になっちまう。

 俺たちが休憩場所に選んだのは大きな赤色の木下だ、テントも何も持っていていないのでおそらくこの木に寄り添って寝ることとなるな

「そういえば、ごはんとか持ってきていたのか」

 俺は棺桶を持つから何も持ってきていない、手ぶらだ、

「ふっふっふ、ちゃんとわすれずにもってきましたよ」

 なにやら背負っていたカバンからゴソゴソと何かを取り出す仕草、

「ジャジャーン、缶詰です!」

 ジャジャーンって効果音使うやつ初めて見たわ、そんなことより

「おお!よくやった、さすが紗子だ。ほんと頼りになる!」

「えへへ〜そうでしょう、そうでしょう!」

 いそいそと缶詰を開ける紗子、その中から出てきたものとは…

「うわぁ、きっしょ…」

 中から出てきたのはピンク色のデメキン?の煮物のようなものなのだが、時折プルプル震えている。

「何か言いましたか?」

 さすがに持ってきてもらったののだから手をつけないのはまずいよな…

「す、スゴーイ美味しそうダ!」

「で・す・よ・ね!私缶詰大好きなんです!」

 これがこの世界の缶詰・・・日頃の食卓がきになるな・・・

「この缶詰はすごいことに、一つで大人がお腹いっぱいになるんですよ!」

 大きさは普通の缶詰ほど、これが異世界の産物か、素直に感心する

 目の前では早速さ紗子が、もぐもぐと口に放り込んでいる。その姿を見るとこっちまで余計お腹が減ってくるだろ

「じゃあ俺も、いただきます」

 少しためらいながらも口に入れる。

 ああ、普通に煮物だこれ、しかも花林には劣るが結構なクオリティ、これは異世界でもはやるは、



 プチプチププチプチ!!



「うばぇ!なんか食感が急にプチプチした!」

「あ、それあたりですね羨ましいです」

 くそ!途中までは最高だったのに、このプチプチ俺、苦手だわ!

「もしかして卵苦手でした?それじゃあ私のと交換しましょう。私卵大好きなんですよね〜」

 交換?それって間接キスにならないか?俺は別に、いやむしろ嬉しいが

「もらいますね」

 俺がモヤモヤしていると缶詰を素早く受け取る紗子、どうやら全く気にしていないご様子

 この後はなにもなくご飯を食べ終え、しかし、俺はモンモンしながらディナーは幕を下ろした。





「ごちそうさまです。やっぱり缶詰は最高ですね!」

「ごちそうさん・・・ふぁあ〜ぁ、飯食ったら急に眠気が…」

 かなり歩いたし、お腹いっぱいだからか眠い、

「それじゃあ私たちも寝ますか」

 またもや鞄をゴソゴソと漁り始め、取り出したものは、

「布団です!」

 確かに若干寒い気がする、これを見越してもってきているとは、さすが何度もきているだけはある。

 その後、さこの持ってきた水筒水で口をゆすぎ布団にすぐさま入った。

「それじゃあおやすみなさい、明日も頑張りましょう」

「ああ、おやすみ」

 会話はそこで途切れたが体感で五分後、

「創貴さんまだ起きていますか?」

「おお、おきてるよ」

 突然紗子が話しかけてくる。

「少しおしゃべり、まあ、ほとんど独り言みたいなのですが喋らせてください」

「どうぞ、俺でよかったらなんでも」

 少し間を置き、一度息を吸い話し始める。

「私が親を探しているって言いましたの覚えています?」

「もちろん覚えている」

「そのことについてなのですが、私と創貴さんって似すぎていませんか?私は尻尾も角も生えていず、体も大きくない、創貴さんも同じです。それで、もしかしたら創貴さんと私って同じ種族なんじゃないかって」

「・・・」

 もちろん俺も最初はそう思った。しかし、俺はここに来て気づいたことがある。それは、種族の多さだ、この世界の中でも様々な種族が存在する。別世界も含めればそれこそ星の数ほどあるだろう、それを踏まえるとこの結論になる。

「俺と全く同じなだけかもしれないだろ、そう都合のいい話はないんじゃないのか?」

 これは決して紗子と同じなのが嫌なわけで否定しているわけじゃない、ただ俺がそう思うだけだ。

「それもそうですよね、すみません変なこと言っちゃって」

「構わないよ、なんか悪いな否定してしまって」

「そうか〜そりゃそうですよね、」

 紗子は一人で納得している。その表情は暗くて俺には知る由もなかった。





「さあ、今日も元気にいきましょう!」

「さこは朝から元気だな・・・」

 基本的に俺は朝に弱く、昨日に疲労も合わさってより一層眠い・・・

 俺は眠たい目をこすりながら、昨日も背負っていたでかい棺桶をせおい、おそらく長いであろう道のりを今日も歩きはじめた

「ええ、もうすぐです目的地ですから、そりゃ張り切りますよ」

 もうすぐなんかよ・・・心の中で語ってた俺がピエロみたいじゃん・・・

 そこからは黙々と喋りながら歩いて行った





「ここが目的地か」

「結構探しましたね」

 あはは、と笑っているが顔が引きつっており「結構」の部分をより一層強調している。俺もかなり歩いて笑えん、多分昨日より歩いた。寝たい、

目の前には木に木の扉、見た目がかなり同化しており見えずらい

「てか、何度も来てるんじゃなかったのか」

「ぎくっ、そ、それは」

 言いにくそうにもじもじしている。

 誰にでも失敗はあるから別に責めてるわけではない、せいぜい、「この子マヌケだなぁ」って心の中で思うくらいだ。

「最後に来たのが三年前であまろ覚えてなくて、すみません物覚え悪くて」

「いやさこは悪くない、俺は五秒前のことを忘れてたり・・・ってお前なんで嬉しそうなんだよ」

 俺の恥ずかしくはないが、恥ずかしいエピソードを聴いて急に笑顔になる紗子、

「いや、シマノさんは忘れっぽくなくて、私と同じ人がいるのが嬉しくてですね」

「俺は嬉しくないよ」

 と言いつつやはり少し嬉しい部分もある。俺もよく「物覚えが悪いって」花林に怒られてたからな、

 それを察したのか紗子はなにも言わない。

「それじゃあ入りましょうか」

「ああそうだな」

 そして俺は二つ目の世界に足を踏み入れた。





 俺たちは町の入り口に降り、そこは砂の世界だった。

 眼に映るものは全て砂や岩でできており(もちろん家も)、住人は全員フードのようなものをかぶっている。

それより、何よりの特徴は・・・

「うわぁ!さむ!」

「寒いです」

 砂漠なのに冷蔵庫のように寒い!

 俺はもちろん、さこも夏用の服で来ているから余計に寒い!

「さこエモン、何か秘密道具を持ってるか!?」

「こんなこともあろうかと…じゃじゃ〜ん」

取り出したのはせる時に使った布団、しかし、いつものジャジャーンではないぞ、少し弱いじゃじゃ~んだ!

「ないのか?」

「はい・・・前回来たとき防寒具はシマノさんが持ってきてくださってたので忘れてました」

「でもナイス、何もないよりいい!」

 何も持ってきていない俺に攻める資格はない

 しかしここで問題発生、布団は一つしかない

 寝るときはほぼ使わなかった布団だが、くるまるとなれば話は別、どうあがいても密着する形となる。

「さあ、早く来てください、冷たい風が入ってきますよ」」

 はや!!俺が悩んでる間に、もうすでにくるまっていやがる!

「お、おう」

 ここで引くとなんだか点綴的な童貞みたいで癪だから平静を装う。

 ああいい香りだぁ、女の子特有の甘い香りが鼻の鼻腔をくすぐりドキドキ、隣を見ればきれいな赤髪があり日頃の手入れを感じさせてドキドキ、動くたびに服越しだが体がこすり合わさりドキドキ、ドキドキパラダイスや、これ。

 これ以上歩いたら心臓が持たん、何か対抗策は!周りからもリア充死ねのオーラを感じざる負えない、花林がいたら殴られそうだ、顔を・・・

「きゃッ!」

「ヴッ!」

 クッッソくだらないことを考えていると紗子が転倒、もちろん布団を共有している俺も一緒に、

「いたた・・大丈夫か?」

 こういうのは転倒した隙におっぱいもんじゃっても怒られないかな?

 昔から花林から受けているあまたの暴力のおかげで、こういう状況でもなぜか下らんことを考えてしまう。

「すみません、どいてください・・・恥ずかしい、の、で、」

「ああすまない」

 目の前に紗子の顔が正面にある、もう一度言う、紗子の顔が正面にある。もう一・・・

 紗子の唇はめっちゃきれいだった。昨日の休憩場所の木の五十倍はきれいだ、ピンク色の桃ゼリーのように透き通り、甘い香りがする、もう今すぐに食べたくなるほどにおいしそう(きれい)だ。

「こちらこそ、ごめんなさい、不注意でこけちゃって、ほんとドジですね私って・・・」

「ああ、もんだいない、むしろ感謝」

 アイドルとか、美人な人とか、そんなちゃちなもんじゃあ断じてねえ、あんな破壊力のあるものは核兵器か、花林の膝蹴りくらいだ。

「何で感謝なのですか?」

「今のは忘れて、」

 紗子の唇のせいで思考がまとまらず口が滑った。

 この後も唇に気を取られすぎて、あの宝石やゼリーのように美しい唇をストローでちゅうちゅう吸ってやりたいなど、ガ〇ジのようなことを考えていると話がまともにできなかった。

 俺って童貞臭すぎかよ・・・





「つきましたね、ここが今回の目的地です」

「圧巻だな・・・」

 下からの突風が吹き荒れる。ここは断崖絶壁の谷、底はおろか反対側さえも見えず、東尋坊がかわいく見えてしまうほどに恐ろしい、俺は膝が生まれたての小鹿のようにがくがくと笑っている。

「ここに棺桶を投げ入れて終了です」

「何で崖に入れるんだ」

「あの町の習慣ですけど、ここの崖は昔から下からの突風がすごいのでその風に乗せて魂が天に昇るのだとか、肉親や、知り合いじゃダメな理由は、昔、悲しくて遺体と一緒に身投げをした人がいるらしいからです」

「なるほど、俺たちは落ちないように気をつけなきゃな、ヴおりゃ!」

 遺体を投げ入れ終わった。落下音は聞こえない、

「私たちも帰りましょうか」

「そうだな」

 初仕事を終えた俺はすがすがしい気持ち、ではなく、慣れない習慣にどんよりとした気持ちで帰路に就いた。

「創貴さんはまだ働くのですよね?」

「ああそうだが、それがどうした」

「いえ、今回の旅が面白かったのでまた一緒に行きたいな、と」

「あ、ああ、俺もだ」

 それは俺と一緒に旅がしたいと、俺と結婚したいと、(言ってない)

「ッ~~!いッ、今のは忘れてください!」

 紗子が自分の言ったことの恥ずかしさで急に真っ赤になる。

「忘れんらんねぇよ」

「も~~!忘れてください!」

 紗子のおかげで落ち込んだ気分も回復、俺たちは笑いながら帰路に就いた。





 来た道を戻っている時、

「創貴さんって花林さんっていう幼馴染がいらっしゃるのですよね」

「いるよ、暴力的だけどいい奴だよ」

 花林や麗香ちゃんの話を俺は来る途中話してたからそのことだな、

「それがどうしたのか?」

「いや別に何かあるってわけではないのですが・・・一度お会いしたいなって思って」

「会ってもいいことないぞ」

「花林さんはきれいなのですか?」

「ああ、そうだなきれいだ」

「ふーん、そうなんですか・・・」

 ・・・

「さっきから何が聞きたいんだ?」

「いや、何でもなんですけど・・」

 紗子は何でもないと言いつつ、花林や俺の友人関係の事を根掘り葉掘りこの後も聞いてきた。


 ・・・でもこの後、すぐに会うこととなる。一方的に、



 招かざる客。



「ただいま帰りました」

「終わったぜ~」

 俺と紗子はシマノ宅に着き、報告をしにシマノを探す。

「ああ、おかえり」

 しかし、見つけたシマノはやけに暗く、表情がいかにも悩んでいる人のそれだった。

「どうしたのですか?」

「・・・」

「「?」」

 問いかけても返事が帰ってこない、

 やがてシマノは言うべきか悩んでいたことをおおきく息を吸い込み話し始める。

「二人目の被害者が出た、落ち着いて聞いてくれ」

 二人目?一人目は誰だ?なぜ悩む必要がある。

「その人は創貴、紗子に見た目が似ている、そして・・・」

 悩む。少しの間、

「特に創貴、その人はお和えの知り合いかもしれない」

「は?」

 俺の知り合い?俺は来るとき一人で来た、いや、正確にはもう一人い、

 俺はシマノにつかみかかる。最悪の事態を想定して

「どこに!?どこにいる!」

「この奥だ」

 いてもたってもいられず、扉を強く開ける。

「ッ!」

 そこには予想通り、予想以上にひどい姿の・・・



「花林・・・」



 花林がいた。

 左腕はずたずたに切り裂かれ取れかけ、腹からは腸が見えそう、いや、もう見えている。服の色はほぼ元の色をしておらず真っ赤に染められ、顔には大きな痣ができ、足の骨が飛び出ている。幸いなのが、シマノのおかげで血はこれ以上流れなくなっている。

「花林は!花林は、助かるのか!」

 遅れてやってきたシマノは目をそらすが、

「助かる、ほとんど治せる。息を吹き返すだろうな。だが、血が足りない」

「俺の血を使ってくれ、頼む!」

 しかし俺はA型、花林はB型だ、移しても意味がない。

「お前は何がただ?」

「A、だ」

「この子花林といったな、さっき調べたがこの子はBだ」

「わかってる!けど・・・」

 なんもできないのは悔しすぎるだろ!

 しかし、喉がつっかえて俺の言葉は声にはならない、

「私が!私が輸血をします」

 紗子が手を上げ申し出てくれる。

「さこぉ・・・」

 紗子のやさしさで涙が止まらない、

「紗子ならそういうと思ってた、もう準備はできているこっちに来てくれ」

 紗子とシマノは別室へ向かう。

 俺は去っていくシマノの背中を見送り問いかける。

「俺に!」

「お前にできることはない、今は黙って待っていろ」

「シマノさんその言い方はひどいですよ!」

「・・・」

 そうしてシマノ達は別室へと向かった。

 俺は・・・

「仕方ないな・・・」

 去り際にシマノは一枚の紙を落とした。自然に落とそうとしてむしろわざとらしく見えるほどに自然に落とした。

 紙にはこの家の倉庫の場所と、町の地図に赤い点が光っている。

「そうか、ありがとう」

 赤い点の話は分かった。倉庫の意味が分からんけど、俺はすぐに立ち上がり倉庫に向かった。





 目の前には黒服の男、ガタイはでかく、昨日見た患者と同じ者だろう。

「死ね!このごみクソが!」

 俺は最大限の憎悪と怒りを不意打ちで男の首にバットをたたきこんだ。

 周りの悲鳴は聞こえない、

 俺を殺るのは一千歩譲ってゆるすが、花林に手を出すのは許さん、

「・・・!」

 効いたのか男はよろめき振り返り俺をみる。

 バットは倉庫に、倉庫にはたくさんの見たことがあるおもちゃが入っておりその一つを拝借した。頭には至ってまじめに鍋をかぶっている。

 よろめいた隙に顔面に一発、腹に一発殴りこむ、死ね死ね死ね、死ね!

 男は動かずただ殴られるのみ

 いける!

「さっさと逝けや!」

 顔面にフルスイング、

 逝ったか!?

 しかし、その瞬間鉈の持ち手で腹を殴られ視界がゆがむ、

「ゴぇ!」

 死亡フラグみたいなの立てるんじゃなかった・・・

 地面に倒れ腹を抱える。

 バットを杖に立とうとしても、はじかれバットはどこかに飛んでいきもうなすすべなく、男の振り上げる鉈を見上げるのみ。

「もう、だめか」

 俺は最後の希望、生存フラグをつぶやくが意味もなく、俺の頭に振り下ろされ、なかった。

「ソーキに触るな!」

 ドコン!と俺とは比にならないほどの衝撃音が聞こえた。誰かが男の背中をバットで殴った。

「いてえ!めっちゃ!痛い!」

 その代わりに俺の左肩に直撃、冗談みたいだがホントに痛いゾ!

 そんなことより

「花林、大丈夫なのか!?」

「大丈夫なわけないでしょ!変なところ来てめっちゃ怖いのに殺されかけて、治ったと思ったらソーキは死にに行ったって聞いて、飛んできたんだから!まだ体中痛いんだけど!今の聴いて大丈夫そうに見える!?」

 叫んでいるが花林の足はがくがくで立っているのがやっとっといったところだ。

 男はそんなことお構いなしに俺を殺そうとするが、

「こっち見なさいよ!」

 ボッコンボッコンと背中を殴り続ける、嘘みたいだろ。怪我してんだぜ、それで・・・

「!」

 ついには標的を変え花林に向く。

 花林は振りかぶっている状態これではよけられない!

「オリャアアアアア!」

 思いっきり叫ぶも俺の体は動かない、花林のあんな姿はもう見たくない!

「ダメだよ、せっかく治したんだから、怪我されたらまた治さないといけないだろ」

 男は蹴られ体勢を崩す。

「シマノ!」

「さん付けしろ」

「創貴さん大丈夫ですか!」

 後ろには紗子、手には医療箱、まるで俺がけがするのを見越していたようだ。

「ああ、手当頼む」

「わかりました、て言ってもできるのは止血だけですが」

「この間視たおかげでお前の正体がわかったよ、無理やりにでもこれを貼っておくべきだったな」

 ポケットからはぐしゃぐしゃになったお札、この前こいつに渡していたものと一致している。

「お前は呪いだそれも質の悪い、昔、人に何かされたんだろうな、何されたか分からんけどな、これを貼ったらお前は消える。まあ、語り掛けても呪いだから意味がない」

 話はこれで終わりと言わんばかりにシマノは男の攻撃をすべてかわし歩み寄る。

「あ、あああ・・・」

 男は瞬く間に消えてゆき残ったのはお札のみ

「ああ、ようやく終わった」

 結局俺は何もできないまま勝手に走り出し、勝手に死にかけ、勝手に助けられただけだったな、俺もシマノみたいに・・・

 俺は激痛とここ数日の疲労の中、目を閉じ、眠った。



 招いた客(俺が)



「これはどういうことだ、何で俺がこんな目に」

 目を開けたらなぜか椅子に括り付けられている俺、してないとは言い切れないけど、なんか悪いことしたか?

「これは罰だ」

「だからなんでだよ」

「君の不注意で花林さん、だったけ?が危険な目にあったからだ」

 確かに、今回は何ともなかったが次はどうなるかわからない、

「悪かったな花林、俺がもっと注意していれば」

「こっちこそ・・・、いやちょっと待って、私何も悪くないよね?」

 いやそこはお互いに謝るシーンだろ、頭殴られておかしくなったのか?

「シマノ、花林にはこの世界の事言ったのか?」

「シマノさんと呼べと言ったら何回分かるんだ、言ったよ、いろいろね隠すことはもうできないから」

「まさか、世界がいっぱいあるなんて、世の中私の知らないことだらけね」

 すると奥から紗子が登場、手にはおぼんにご飯(缶詰)

「みなさーん、ご飯ができましたよ」

 次々と料理が机の上に並べられていくが、どう見ても料理の数は三人分、それに、俺は椅子に縛られ机に届かない。

「すまん、このひもほどいてもらってもいいか?」

「ダメだ」

「なんでだよ!」

「だから言っただろお前の罰だって、ご飯が食べられないこれが罰だ」

「罰が微妙!」

 しかし、おなかが減ってるからちょっとうざい!

「どうした叫んで、もっときつくしてほしいのか?」

「シマノさん早く来てください冷めますよ」

「今行く」

 シマノは食卓に着き頭目でそれを眺める俺、これ以上何か言っても意味がなさそうだ。

「じゃあ、話変わるけど、どうやってあいつの場所が分かったんだ」

「この前にあいつが来たときに、異常すぎたから目星をつけてたんだよ」

 その時にGPSみたいなのをつけてたのか、こいつほんと何でもできるな。

 その後は聞くこともなく黙々とご飯を食べてる。のを眺めていた。



「じゃあ俺たちは帰るわ」

「お邪魔しました。また来ますね」

「さよならです」

「ああ、花林は好きにしろ、創貴は働きに来いよ」

 働く・・・まだこんなことが続くと思うと憂鬱になる。

 家を出て、俺たち二人は

「創貴は帰り方わかってんの?」

「ああもちろん、まぁかせろ」

「そういえば・・いや、家に帰ってから言うことにする」

「ん?ああ、わかった」





「ついた~」

 長い間歩いていたので足がパンパン、さっさと寝よう。

「その前に、さっき言いかけてたこと、結構重要だからちゃんと聞いて」

「なんなんだ?」

「さっき、って言っても、私が行く前におじさんが来て」

 ちなみにおじさんってのは俺のお父さんの事な。

「ソーキは今日からここに住めって」

 えええ!



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