epilogue 帰宅
zzz……ふわあ、よく寝た。どうやら、無事現実世界に帰ってこれたようだな。座薬型のドームの中で、自室の白い天井が見える
ドームの中はライトグリーンでラインが軽い流線を描きながら、足元から体を元気付ける白いガスが出てきた。このドームは酸素カプセルにもなっており、ゲームで疲れた体を癒すのだ。
「……ちょっとまて、ゲームで疲れるってなんだ?」
「そんなのしりませんよぉ〜。むにゃむにゃむにゃ」
「は!? 今の誰?」
いや、そんなことより外に出なくては。僕の横を見ると、茶色い何かがあった。
どうやら、ドーム中が狭い。
「おい、早く開け!!」
僕は、ガスを中断して、ガラス扉を押し開けた。室内に、ドライアイスをぶち舞いたいような煙が立ちこめた。
振り返ってみると、中には毛むくじゃらな女性の体が。
肝を冷やした。まさか、急に女性がうちを訪ねてくるとは。急いで家をかたずけなければ。ワンルームの部屋にばらまかれた、今回の書類の束を蹴っ飛ばして、冷静にコーヒーを入れた。
冷蔵庫に映る僕の顔は、ごつっとしていた。つるっとしたあの顔も悪くはないが、いとこらしい髭面も良いだろう。ボサッとした髪の毛は、スートを着ると同時に光沢のあるシチサン分けになる優れものである。
服装はゲーム内と違って、高級のTシャツである。あくまでも高級だがTシャツ。これは譲れない。
ズズズズズッ……
「うん、おいしい。じゃなーーーい!」
思わずブラックコーヒーを飲んでしまった。
『システムを起動します』
座薬型ドームが起動した。それも勝手にだ。ライトグリーンに輝いて、中から先ほどの酸素ガスを放出。勝手にガラス扉を閉めると、女性を酸素カプセルで回復し始める。
一応、冷蔵庫のホットドックを温めたから、確認に向かった。
チン!
やはり、ドームの中には女性の体が。豊満というよりは美ボディの柔らかい曲線だ。肌は白が中心だが、体の側面を茶色い毛が覆っていた。
はたから見ると、コスプレイヤーで済むのかもしれないが、気づいたら横で寝ていたとなると話は違う。
ドームはライトグリーンに輝いた。
『システムを起動しました。ラピッグ、キャラクター生成完了』
「ふわあ〜、おはよ〜ございます〜。あ、旦那様、ご無事でしたか?」
「ご無事でしたか、だと? もう今ので誰だかだいたい予想できたんだけど」
『電気ショックで細胞を活性化します』
ビシィ! ビシィ!!
「キシィ! あ、すみません、今は人間なのに」
「畳み掛けたよいうに叫んだな、大ネズミ」
「これからしばらくお世話になろうと思いまして、あと今は人間です」
「どこにビックフットさんみたいな人間がいるんだよ」
『内臓活動正常、運動機能確認』
ビシィ! ビシィイ!!
「キシィ!! すみません、何度も驚いちゃって」
「お世話って、女版ビックフットさんとして、これから動物園にでも住むつもりか?」
「足大きくないですよ別に〜」
「見たらわかるわ、全裸で人のドームに入りやがって。もうそれ、性的な意味とかじゃなくて、コンプライアンスとかそこらへんに引っかかってくる、行為じゃねぇか」
「私は性格に言うと人間とは違うので大丈夫ですよ」
「いきなり情報を暴露しすぎだろお前」
「これから宜しくお願いします」
「……勝手にしろ」
『性格をアップデートします』
ビシィ!! ビシィ!!
「キシィ! べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからね!?」
「わかってるわい!」
「ふんっ、男ってほんっとにバカ!!」
「……コーヒー入れてくるわ」
僕は、棚からコーヒーパックを取り出して、白いマグカップに放り込んだ。しばらくすると、お湯を入れて、湯気とともに香ばしい匂いが漂う。
ワンルームの冷たいフローリングで、側面が茶色い毛の女性は、女の子座りというやつをしていた。膝を前にして、キャタピラーみたいに座る姿だ。
全裸というだけでつっこみどろ満載ではあるが、今日のところは許してやることにした。
技術的特異点。
この世界では、日常茶飯事である。
「俺の名前は、足 啓一だ。宜しくな」
「情報を登録いたしました!!」